産後は授乳しているのに基礎代謝の表示が変わらない。そんな疑問を、母乳を作るエネルギー、食事から補う量、安静時の消費に分けて考える。授乳期のレビューと産後女性の推定式の検証から、体組成計の数字の読み方や研究ごとの違い、食べ物で代謝を上げようとする前に確認したいことを整理する。
授乳を終え、自分の朝食に手を伸ばす。その前に体組成計に乗ったら、基礎代謝の表示は妊娠前とあまり変わらない。「母乳でエネルギーを使うはずなのに」と首をかしげる場面である。だが、授乳のための追加の必要量と、基礎代謝という数字は、そのまま置き換えられない。[3][6]
完全母乳で育てる女性の追加の必要エネルギーを扱ったレビューでは、母乳を作る費用が見積もられている。一方、授乳中に基礎代謝が必ず上がるとは限らず、食後の消費と基礎代謝で異なる結果を述べたレビューもある。母乳に使うエネルギーがあることと、安静時の数値が高くなることは、分けて読む必要がある。[3][6][8]
既存記事「産後ダイエットは授乳回数で必要量が決まる?母乳量とエネルギーの違いを読む」では授乳量と必要量の関係を扱う。ここで考えるのは、産後の「基礎代謝を上げる」という目標が何を指すのか、そして画面に出る消費の数字をどこまで生活に使えるのか、という問いである。

母乳に渡すエネルギーは、基礎代謝の増加と同じではない
産後の消費を読む際は、安静時に使う分と、活動や授乳を含む必要量を分けるところから始めたい。人の必要エネルギーを扱うレビューでも、安静時消費を出発点に、活動と妊娠・授乳の追加需要を組み合わせている。安静時の値だけを高くすることと、授乳期の需要を満たすことは、目標が異なる。[10]
産後の論文では、安静にしているときのエネルギー消費を指す「安静時エネルギー消費」も使われる。さらに、生活の活動を含む必要量を考える際には、安静時の数字だけで話を終えない。人の必要エネルギーを扱ったレビューでは、成人の安静時消費に活動の係数を掛け、妊娠・授乳の追加分は別に組み立てる枠組みが示されている。米国の集団を想定して全年齢を扱うレビューであり、18〜39歳の女性個人への必要量は体格や活動、授乳状況に応じて考える必要がある。[10]
この区別を、家計の項目に置き換えてみる。家全体の出費が増えたとしても、家賃以外の出費が増えた場合もある。授乳のエネルギーを考える場合も、何に使われ、何を合計した数字なのかを確かめることが先である。授乳による追加の必要量を、そのまま「基礎代謝がこれだけ上がった」と読み替えると、費目が入れ替わってしまう。[3][10]
母乳を作るための見積もりには、母乳の量、母乳に含まれるエネルギー、作る際の効率が関わる。さらに食事からどれだけ追加して補うかを考えるときには、母体の組織から動員されるエネルギーも関係する。母乳に含まれて外へ渡る分、作るための費用、食べ物から補う分は、それぞれ異なる位置の数字である。[3]
したがって、体組成計の表示が変わらなくても、それだけで授乳の追加需要がないとは判断できない。逆に表示が増えた場合も、その差をすべて母乳づくりの費用と見なすことはできない。授乳期の必要量は、安静時消費だけを読むより広い枠組みで見積もられている。[3][10][15]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
完全母乳の必要量は、計算の前提まで読む
健康な妊婦と授乳婦のデータを整理した、メタ分析を含むButteとKingのレビューでは、完全母乳の授乳に要するエネルギー費用を日あたり2.62 MJと推定した。その計算に使った平均母乳量は日あたり749 g、母乳のエネルギー密度は1 gあたり2.8 kJ、エネルギー効率は0.80であった。[3]
MJとkJはエネルギーの単位である。ここで大事なのは、日あたり2.62 MJが安静時代謝の実測増加量ではなく、母乳量などから組み立てた授乳の費用だという点だ。完全母乳という条件を外し、産後の女性すべてに同じ数字を貼る読み方も避けたい。[3]
同じレビューは、栄養状態が良好な女性では、組織から日あたり0.72 MJ程度のエネルギーを動員することで、その費用の一部をまかなえるとしている。その場合、妊娠も授乳もしていないときに対する正味の追加必要量は日あたり1.9 MJとなる。授乳に使う総費用と、食事で追加する正味の量が違うのは、このような組み立てによる。[3]
「体から補える」という説明を、食事を抜く理由に変えてはいけない。この見積もりには栄養状態という条件がある。研究の集団で成り立つ計算を、食事が整わない日や、個別の健康状態を問わず使える許可証にすることはできない。自分に必要な食事量について不安がある場合は、医師に相談するための材料として数字を使うのがよい。[3]
Deweyの授乳期のレビューでは、完全母乳の女性の追加需要は約670 kcal/日、緩やかな体重減少を織り込むと正味の追加量は約500 kcal/日とされる。前のレビューと見積もりは同一ではない。だが、どちらも授乳の費用と食事からの正味の追加量を区別している。研究を読む際には、数字の大小を比べる前に、何を差し引いた値かを読む必要がある。[6][3]
ここに挙げた値は、体重を減らすための目標でも、毎日ぴったり上乗せする献立の指示でもない。完全母乳の追加需要を説明するレビューの推定である。買い物袋の中身を決める場面では、平均値を知ることと、自分の食事を調整することの間に、個別の状態を確かめる段階が入る。[3][6]
基礎代謝と食後の消費では、違う結果もある
授乳中は体が省エネルギーになって、必要量の増加を帳消しにするのだろうか。Deweyのレビューは、授乳中の基礎代謝や食事によって生じる熱産生について、エネルギーを節約する適応を支持する証拠は乏しいとする。一方、産後早期には身体活動が減る可能性を挙げている。授乳の負担が増えた分だけ、日全体の消費が単純に積み上がると決めない理由になる。[6]
食事によって生じる熱産生とは、食後に増えるエネルギー消費を考える項目である。授乳女性の食後の熱産生を扱った別のレビューでは、授乳中に上がるのは食後の代謝で、基礎代謝ではないと述べられている。さらに、その増加は母乳の窒素濃度と正の相関を示したとされる。[8]
この結果を「食べれば食べるほど基礎代謝が上がる」と読むのは誤りである。食後の消費と基礎代謝は同じ項目ではない。また、窒素濃度との相関は、一緒に変動した関係を指す。特定の食べ物で窒素濃度を変えれば消費が増える、という因果の手順を示したものではない。[8]
両レビューの表現には違いがある。一方は省エネルギーへの適応を支持する証拠の乏しさを述べ、他方は食後の上昇と基礎代謝の非上昇を述べる。問いが違うため、同じ結論として一括りにはできない。少なくとも、「授乳中は基礎代謝が一律に大きく上がる」という説明には、この区別が抜けている。[6][8]
夜の授乳のあと、じっと座っていた時間を思い出して「今日は動けなかった」と感じることがあるかもしれない。その日の活動量と、授乳の必要量と、基礎代謝の表示は別々に考えられる。活動が少ないという理由だけで授乳の費用まで消えるわけではなく、授乳しているという理由だけで活動量が多いことにもならない。[3][6]
研究同士を比べるときにも、まず測定の項目をそろえたい。基礎代謝が上がったかという問いと、食後に余分に使う分が変わったかという問いとでは、答えに使う結果が違う。さらに、日全体の必要量を考えるなら活動の扱いも入る。見出しに「代謝」とあっても、その後の数字が指す項目を確かめたい。[6][8][10]
たとえば、授乳期の追加需要を読んだあとに、体組成計の安静時の値へそのまま足すとする。それを自分の食事の総量だと考えれば、活動を含む必要量の組み立てが抜けてしまう。逆に、すでに授乳の追加分を含む見積もりへ再び同じ分を足せば、同じ費用を重ねて数えることになる。数字をメモするときに「安静時」「活動を含む」「授乳の追加分」と言葉も添えるのは、この混同を避けるためである。[3][10]
計算が細かいほど個人への答えに近い、とも限らない。母乳の平均量を使う見積もりは、集団としての需要を理解する助けになる一方、その平均が自分の今日の量とは区別する必要がある。まず数値の役割を決め、それから自分の生活へ戻す順番にしたい。[3]
数字で読む授乳と安静時消費
平均母乳量749 g/日:完全母乳のエネルギー費用を見積もる際の前提である。[3]
授乳の費用2.62 MJ/日:母乳づくりの推定費用を示し、基礎代謝の上昇量を指さない。[3]
正味の追加量1.9 MJ/日:栄養状態が良好な女性で組織からの動員を織り込んだ見積もりである。[3]
完全母乳の女性40人:体組成分析による推定値と複数の予測式を比べた予備研究が対象とした人数だ。[15]
平均83%:産後の検証研究で、ある予測式が実測値の±10%以内に入った女性の割合である。[18]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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