食欲を抑えるには自分を名前で呼ぶ?心の距離と言葉で変わることを研究で読む

食欲を抑える方法として、自分を名前で呼ぶ言葉は役立つのか。心の距離を取る実験と日常生活の調査を読み、感情の変化と空腹、食品選択の違いを整理する。効果の小ささや変化がなかった結果も確かめ、食べないための命令ではなく、食事を選ぶ前に自分の状態を言葉にする使い方を考える。

夕食の皿を並べたのに、仕事で言われた言葉が頭から離れない。「私は何が食べたいのだろう」を、「花さんは今、何を食べたいのだろう」に変えたらどうだろう。急に誰かの相談を受けたような文章になる。花さんは、ここでは自分の名前に置き換えるための例である。

自分の名前などを使って経験を振り返る方法には、感情との距離を取り、反応を和らげる研究がある。ただし、その知見をそのまま「食欲を抑える」「食べる量を減らす」という答えにはできない。感情への反応を調べた実験と、食事への効果を確かめる実験は別だからだ。[2][3][6]

この記事で考えるのは、選ぶ前に自分の状態を知る問い方である。お腹が空いて食事を必要としていることと、嫌な出来事が気にかかって食べ物へ手を伸ばしたくなることは、問いを分けて考えたい。空腹を我慢させたり、必要な食事を抜いたりするためには使わない。感情調整のメタ分析で報告された平均的な効果は小さい。名前で呼べば誰でも落ち着く、と期待を大きくしすぎないところから始めたい。[6]

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自分を名前で呼ぶと、何との距離が変わるのか

心理的な距離を取るとは、自分の経験を、その場にのみ込まれた立場だけでなく、観察する側の視点から捉え直すことである。自分の名前や一人称以外の代名詞を使うセルフトーク、つまり自分への語りかけは、その方法のひとつとして調べられてきた。名前に特別な力を想定するのではなく、自分を指す言葉の使い方を変える操作なのだ。[2][3]

Krossらは、合計585人が参加した7つの研究で、この言葉の違いを検討した。自分の名前や一人称以外の言葉を使った振り返りでは、一人称で振り返る場合より心理的な距離が生まれた。初対面での印象づくりや人前でのスピーチを扱った実験では、第三者による評価が良く、苦痛も少なかった。社会的ストレスを扱った参加者の結果を、18〜39歳の女性の食事場面にそのまま当てはめることはできない。[3]

この研究で扱われたのは、他人にどう見られるかが気になる場面である。食品の栄養や量を選ぶ場面ではない。「緊張する状況で自分への言葉を変えると、気持ちや行動に違いが生じた」というところまでを、まず受け取る。スピーチがうまくいったことを、夕食を少なくできる証明に持ち替えない。[3]

たとえば買い物の前に「私は今日もだめだった」と考えているなら、「花さんは今日、何に困っていたのだろう」と問い直す場面を想像できる。これは研究の食事用の手順ではなく、言葉の違いを日常に置いた例である。問いの対象は、自分の価値ではなく、その日に起きた出来事に置く。

ここで「花さんは我慢するべきだ」に変えても、名前を使ったという形だけは整う。しかし、何を食べるか決める前から答えを我慢に固定している。その問いは、状態を知るための問いになっていない。名前を入れる作業と、自分の話を聞く作業は区別しておきたい。

既存記事「ヨガ哲学は自分に名前で語りかけてもよい?心の距離と緊張の変化を論文で読む」が扱う緊張と言葉の問いはそちらに譲り、ここでは、食事の場面へどこまで応用できるのかを焦点にする。感情の研究を食欲の話に変える際、途中の橋を省かないことが、この問いには必要である。

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感情が和らぐ効果は、平均すると小さい

Guoによる実験研究のメタ分析は、48研究、102の効果量をまとめている。効果量とは、異なる測り方の結果を比べるために変化を共通の尺度にした値である。感情反応を弱める方向の平均はHedgesのgで−0.26、95%信頼区間は−0.36〜−0.15だった。統計的には有意だが、効果の大きさは小さいという結果である。感情調整の実験を横断した平均であり、18〜39歳の女性に絞った食欲の効果としては扱えない。[6]

この−0.26は、食欲が一定の割合で減るという数字ではない。食べる量の減少でも、体重の変化でもない。異なる研究の感情反応をまとめた値であり、「小さいが平均的には反応を弱める方向だった」と読む。数字の印象が強くても、測った対象の札を外してはいけない。[6]

また、どの距離の取り方も同じではなかった。出来事を視覚的に捉える方法と言葉で表す方法を組み合わせた場合は、視覚だけの方法や代名詞を使う方法より効果が強かった。自分の呼び方だけに注目するより、経験を外から眺め、話したり書いたりして表現する過程に注目する理由になる。[6]

ただし、これも長く書けば書くほど良いという処方ではない。比較された方法の違いを示す結果であり、毎日の食事前に文章を書く量を定める結果ではない。研究で分かった条件と、自分の生活で実行しやすい形は、別々に考える必要がある。[6]

もう少し細かく見ると、脳の電気的な反応を測った67人の実験がある。参加者は否定的な感情を起こす画像を見て、距離を取るセルフトークなどの課題に取り組んだ。セルフトークでは、感情の高まりを反映する後期陽性電位という指標が低下した一方、準備の処理を反映する別の指標は増えなかった。対象は画像課題に参加した67人で、18〜39歳の女性が食事を選ぶときにも同じ変化が起きるかは別の検証が必要だ。[2]

これは、感情調整の際に準備の負担を過度に増やさない可能性を支える結果である。ただし、頭の負担がまったくないと断定するものではない。測定された指標の範囲で述べることが大切だ。仕事帰りに考える余力がないときの工夫として関心は持てるが、疲れた日の食品選択への効果は、この画像課題では検証していない。[2]

この実験では、比較した別の捉え直し方で期待した効果が再現されず、方法同士の直接比較は行われなかった。したがって、セルフトークがあらゆる感情調整法より優れているという順位は付けられない。比較相手の結果まで読むと、「簡単だから最強」という宣伝から少し距離を取れる。[2]

実験の外では、使う場面によって結果が違う

日常生活に近い調査として、208人を2週間追い、12,966件の回答を集めた研究がある。調べたのは、自分を責めるとき、これから言うことや行うことを準備するとき、気分を良くしたいとき、自分をうれしく思うときの語りかけである。距離を取る語りかけは、自分の視点に入り込む語りかけより少なかった。日常生活を送る208人の観察であり、18〜39歳の女性に限定した関連として読み替えることはできない。[15]

距離を取る語りかけと、その時点のより良い感情との関連が見られたのは、何を言うか、何をするかを準備する場面だった。他の場面では同じ働きは示されなかった。日常での関連を追った調査であり、言葉を変えたことが気分を改善したと因果を決めることはできない。[15]

ここから食事に持ち帰るなら、「食べたあとで自分を責める儀式」より、「これから何をするか整理する問い」として考えるほうが、少なくとも準備場面という研究の文脈に近い。買い物前の問いかけは、使いどころを考えるための応用案である。[15]

具体的には、帰宅してから食事を用意するのか、駅で買って帰るのかをまだ決めていない場面がある。「花さんは今、夕食の何を決めたいのだろう」と書けば、空腹をなくすこと以外にも問いを置ける。食べる物を決めたいのか、食べる場所を決めたいのか、そもそも予定を思い出したいのか。結論を急ぐ前の整理として使うのだ。

反対に、食べ終わった皿を前にして、名前を使いながら自分を採点する必要はない。調査で良い感情との関連が見られたのは、準備の場面だったからだ。セルフトークを取り入れるなら、うまくできなかった日まで新しい課題にしない。日常で毎回使われる方法ではなかったという観察も、肩の力を抜く材料になる。[15]

日常調査の回答数を読むときにも注意点がある。12,966件という値は、同じ参加者から繰り返し集めた回答の総数であり、それだけの人数に実験したという意味ではない。日々の場面の違いを追える設計と、言葉の使い方を無作為に割り当てて比べる設計では、答えられる問いが異なる。[15]

先の585人の研究では、社会不安の傾向が効果を左右するかも検討され、報告された結果はその傾向によって変わらなかった。それでも、これは社会的ストレスの文脈での結果である。不安の強さにかかわらず食欲に働くという意味へ広げることはできない。参加者の特徴に関する結果と、対象場面の広さを混同しない。[3]

数字で読む心の距離の研究

48研究:感情調整のメタ分析がまとめた実験研究の数である。[6]

−0.26:感情反応についての平均効果量。小さい効果であり、食欲の減少率ではない。[6]

−0.36〜−0.15:その平均効果量の95%信頼区間である。[6]

67人:否定的な感情を起こす画像と脳の電気的反応を調べた実験の参加者数である。[2]

208人:日常の語りかけを2週間調べた研究の参加者数。回答件数の多さとは区別する。[15]

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