スクワット後にテストステロンが上がれば、筋トレが効いた証拠になるのか。唾液を測る研究のメタ分析を軸に、採取時刻、血液と筋肉内の反応、その日の挙上成績と長期の変化を読み分ける。男性中心の実験を女性の日常へそのまま当てはめず、数字に振り回されない見方を考える。
スクワットを終え、太ももに力が残るうちに、今日の運動が効いたか気になる。「テストステロンが増える」という説明を見て、今日の運動にも合格の印が欲しくなる。だが、唾液のホルモン値だけで、その日のスクワットの効果を採点することはできない。男性の運動研究をまとめたメタ分析では、測る時刻と研究の組み立てが結果を大きく左右していた。[10]
運動直後に変わる濃度、その日を通じた濃度の動き、続けた末の筋肉や筋力は、別々の問いである。血液中のテストステロンが上がらなくても筋肉内の反応が変わった実験や、継続運動で除脂肪量が増えてもテストステロンは変わらなかった試験がある。[7][15]
隣接する「HIITのテストステロンは長く高まる?直後の変動と普段の濃度を分けて読む」には持続時間の問いを譲り、ここでは測定の読み方に絞る。唾液、血液、筋肉という測る場所と、運動前後のどこを切り取ったかを確かめる。その順で読むと、「上がった」という短い言葉の中身が見えてくる。[7][10]

唾液の上昇は、何を測った結果なのか
テストステロンは、運動に伴う同化状態、つまり体の組織をつくる側の状態を考える際に研究されるホルモンである。ただし、その指標として唾液を使う研究にも測定上の課題がある。唾液は採取しやすいため研究が増えたが、採りやすさと結果の解釈の容易さは同じではない。[10]
男性の急性運動反応を扱ったメタ分析は、検索で見つかった933件から21研究を選んだ。運動終了後30分以内に唾液のテストステロンとコルチゾールを測った研究が対象である。コルチゾールも運動に応じて変わるホルモンとして、濃度と両者の比率が検討された。ここで扱うのは短い時間幅の反応であり、翌月のスクワット成績ではない。男性の結果から18〜39歳の女性の反応量をそのまま予測することはできない。[10]
筋力トレーニングに相当する抵抗運動では、唾液テストステロンの標準化平均差は1.061だった。標準化平均差とは、研究間で比較しやすい尺度にそろえた差である。濃度が1.061倍になったという意味でも、筋力が同じだけ伸びるという意味でもない。効果量という数字を見たら、まず単位と測った対象を読む必要がある。[10]
しかも、採用された研究全体では無作為化比較試験が2件、対照のない試験が18件、対照試験が1件だった。抵抗運動の研究も主に対照のない試験であり、著者らは急性反応に関する根拠を弱いと評価した。メタ分析という名前だけで結論を強く受け取ると、その中に入った研究の構成を見落とす。[10]
運動前後の差だけでは、運動をしなかった場合にも起きる変化と区別しにくい。そこで対照条件が意味を持つ。ジム帰りに見た投稿が「運動後に増えた」と書いていたら、休んだ場合との比較なのかを確かめたい。このメタ分析でも、研究方法の違いによって結果が変わっていた。[10]
さらに、テストステロンとコルチゾールの比率は、抵抗運動で標準化平均差0.027だった。テストステロン単独の値と、別のホルモンとの釣り合いを示す値は異なる動きをしている。単独の上昇だけを切り抜いて、体全体が一方向へ変わったと説明するのは急ぎ過ぎである。[10]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
時計をそろえて、運動による差を読む
測る時間には、時計の時刻と、運動からどれだけ経過したかという別の軸がある。メタ分析では、基準の試料を運動直前に採るか、24時間前に採るかによっても効果量が異なった。比較の出発点を変えるだけで、運動後の数字の見え方が変わるのである。[10]
たとえば、出勤前に測った値と、仕事のあとにスクワットをして測った値を並べる場面を考える。その差を全部スクワットの手柄にすることはできない。男性の血液中のテストステロンには、一般に朝が高く夕方が低い日内の動きがあるとされ、唾液の研究でも日中の経過を追う設計が用いられている。[16]
筋トレ経験のある男性10人が参加した無作為化クロスオーバー試験では、同じ人が運動する日と運動しない日の両方を経験した。朝6時15分に唾液を採り、その直後から運動を始め、夜22時まで採取を続けた。種目は10種類で、それぞれ最大10回反復できる負荷を3セット行う設計だった。18〜39歳の女性にも同じ日内変化が起こるかは、この男性の比較では検証していない。[16]
この試験で、唾液テストステロンの運動条件と休息条件に有意差があったのは、運動途中に当たる朝7時の低下だった。それ以外には有意差がなく、起きている16時間の日内パターンは抵抗運動によって変わらなかった。この男性の試験では、朝の運動による曲線全体の上昇は認められなかった。[16]
別の無作為化比較試験では、若い男性の筋トレ愛好者20人を運動群と対照群に分けた。運動群は午後に週3回、3週間の抵抗運動を行い、介入前後には日中の唾液を2時間ごとに採取した。運動の瞬間だけでなく、生活時間の中の曲線を見ようとした試験である。対象が男性の筋トレ愛好者なので、18〜39歳の女性の日常の運動へ結果を移す際は対象の違いが残る。[3]
運動セッション中の17時30分には、運動群で38.4%の増加、対照群で−0.02%という差があった。一方、全体としては起きている16時間の唾液テストステロンの日内分泌に目立った影響はなかった。ある時点に差があることと、その日の濃度がずっと高いことは両立しない場合がある。[3]
この結果から、朝の運動は無意味、午後なら必ず有利、といった時刻のランキングをつくる必要はない。試験が答えたのは日内の唾液ホルモンの動きである。通える時間帯を決める話と、研究用の採取時刻をそろえる話は分けて考えたい。時計は測定条件であって、運動の表彰台ではない。[3][16]
血液の数字と筋肉の反応も、同じものではない
唾液の研究を読んだあとに血液の研究へ移ると、同じテストステロンという名前だけで結果をつなぎたくなる。しかし、唾液を測った結果と血清、つまり血液から得る成分を測った結果は、まず別々の測定として読むべきである。測定場所も採取時刻も違う実験を並べても、それだけで両者の一致度は決まらない。[7][10]
抵抗運動経験のある男性を対象とした無作為化クロスオーバー試験では、下半身だけの運動と、上半身も加えた運動が比較された。血液と筋肉の試料を調べ、血清の総テストステロンと遊離テストステロン、筋肉内のテストステロンなどを追跡した。総量を見る指標と遊離分を見る指標まで、分けて測った実験である。18〜39歳の女性でも同じ筋肉内反応になるかを確かめた実験ではない。[7]
どちらの運動でも、血清の総量と遊離分、筋肉内のテストステロンなどには、基準値からの有意な変化がなかった。一方、上半身を加えた条件では、ホルモンを受け取るアンドロゲン受容体に関わる反応が変化した。受容体が遺伝情報を担うDNAに結合する指標は、運動後3時間と24時間に増加していた。[7]
これは、血液の濃度だけを見て筋肉内の出来事をすべて代表させられない例である。ただし、受容体に関する指標が増えたことを、そのまま長期の筋肥大の量へ読み替えることもできない。血液の濃度、筋肉内の反応、最終的な成果は、研究の中でも別の測定項目として置かれている。[7]
逆方向の結果もある。運動習慣のない男性18人を無作為に運動群と対照群に分けた試験では、スクワットなどの下半身運動を48時間おきに計3回実施した。運動後には血清テストステロンが上がり、続く運動回では筋肉内の受容体の発現なども増加した。ホルモンと筋肉内の指標に有意な相関も認められた。運動未経験の男性の結果であり、18〜39歳の女性の反応の大きさには直接置き換えられない。[20]
血液の上昇を伴う実験と、上昇を伴わず筋肉内の指標が動く実験がある。この違いを消して「ホルモンは無関係」とも「上がるほど必ず効く」とも言えない。参加者の経験、運動内容、採取の時間幅を残して読むことが、食い違う結果を扱う出発点になる。[7][20]
血液の試験では、採る時刻も細かく設定されていた。運動後30分、1時間、2時間にも血液を採り、筋肉は3時間と24時間に調べている。血液と筋肉を異なる時点で調べている点も、読み分けの手掛かりになる。「運動後」という言葉を見つけたら、そのあとに続く時間まで読みたい。[7]
下半身運動を繰り返した別の試験も、血液は運動の直前、直後、30分後に採り、筋肉は各運動回の48時間後に調べていた。濃度の短い動きと、その後に測る組織の指標を組み合わせた設計である。検査結果が並んでいても、すべてが同時に起きた変化だと読む必要はない。[20]
数字で読む唾液と採取の条件
21研究:男性の急性運動反応を扱ったメタ分析の採用数である。[10]
30分以内:同メタ分析で対象とした運動後の唾液採取の時間幅である。[10]
1.061:抵抗運動後の唾液テストステロンの標準化平均差。濃度の倍率ではない。[10]
16時間:朝の抵抗運動試験で、日内の唾液分泌パターンが変わらなかった観察時間である。[16]
3時間と24時間:血清テストステロンが上がらない条件でも、筋肉内の受容体のDNA結合が増えた時点である。[7]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2






