キックボクササイズ(パンチとキックの動作を音楽に合わせて行う、対人接触のない有酸素運動)は、「きつい」「汗をかく」という体感の強さから、消費カロリーについて大きな数字が語られがちな種目です。ところが、呼気ガスを直接測った研究は少なく、1990年代から2000年代の小規模な実験がいまだに主要な根拠です。
ここでは、フィットネスとしてのボクシング・キックボクシングの運動強度を実測した研究と、比較のために競技の試合を測った研究を並べて読みます。結論を先に述べると、接触のないキックボクササイズは実測で最大心拍数の85〜93%、最大酸素摂取量の70%前後、約7.6 METs、1分あたり10 kcal前後に相当する高強度の有酸素運動である。ただし、それは1時間で600〜700 kcal程度であり、「1レッスンで1 kg痩せる」は生理学的に成立しない——これが現時点で言える範囲です。
強度を表す4つの数字
研究で使われる指標を先に整理します。%HRmaxは最大心拍数に対する割合、%VO2maxは最大酸素摂取量(体が取り込める酸素の上限)に対する割合です。METs(メッツ)は安静時の何倍の酸素を使っているかを示す倍率で、6.0を超えると「高強度」に分類されます。kcalは酸素摂取量から換算した消費エネルギーです。
心拍は胸のベルトや腕時計で測れますが、酸素摂取量はマスクをつけて呼気を分析する必要があります。この測りやすさの差が、後述する信頼性の差になります。
フィットネスボクシングの実測値
テンポを変えた2分間の試行
最もよく引用されるのが、ニューメキシコ大学の Kravitz らによる実験です。
Kravitz L, Greene L, Burkett Z, Wongsathikun J. Cardiovascular response to punching tempo. Journal of Strength and Conditioning Research. 2003;17(1):104–108.
訓練経験のある18名(男性12名・女性6名、平均22.0歳)が、0.34 kgのグローブをつけ、毎分60から120拍まで6段階のテンポで2分間ずつパンチを打ちました。酸素摂取量は26.83〜29.75 mL/kg/分(最大酸素摂取量の67.7〜72.5%)、心拍数は167.4〜182.2拍/分(最大心拍数の85〜93%)、消費エネルギーは1分あたり9.8〜11.2 kcalでした。
60分の練習セッション
南アフリカの Bellinger らは、接触のないボクシング練習に慣れた健康な男性8名に、実験室で60分間のセッションを行わせ、呼気ガスを連続測定しました。消費エネルギーは2519〜3079 kJ、平均2821±190 kJ(約674 kcal)で、著者らはこれを「トレッドミルで60分に約9 km走るのと同じ量」と表現しています。
なお、同じ参加者がスタジオで行ったセッションでは、8名中7名で心拍数が実験室より低くなりました。著者らは実験室での「1対1の監督」が強度を押し上げた可能性を挙げています。集団クラスでは、この実験値より低くなると考えるのが自然です。
間接熱量計で測ったVRボクシング
より新しい測定として、カナダの Craig らがVR(仮想現実)フィットネスゲームのボクシングモードを間接熱量計(呼気から酸素消費を測る装置)で測っています。パンチ動作を音楽に合わせて続ける構成は、キックボクササイズに近い運動様式です。
Craig TV, Rhodes RE, Sui W. Examining and Comparing the Energy Expenditure of Two Modes of a Virtual Reality Fitness Game (Supernatural): Indirect Calorimetry Study. JMIR Serious Games. 2024;12:e53999.
活動的な若年者23名(女性12名・男性11名、平均25.42歳)で、ボクシングモードは平均7.6 METs、酸素摂取量は27.61 mL/kg/分、平均心拍143.29拍/分でした。約17分(16.91分)の消費エネルギーは159.76 kcalです。著者らは6.0 METsを超えることから「高強度」に分類しています。
| 研究 | 対象 | 運動 | %HRmax | %VO2max | 消費エネルギー |
|---|---|---|---|---|---|
| Kravitz 2003 | 18名(男12・女6) | パンチ2分×6テンポ | 85〜93% | 67.7〜72.5% | 9.8〜11.2 kcal/分 |
| Bellinger 1997 | 男性8名 | 60分の練習 | — | — | 約674 kcal/60分 |
| Craig 2024 | 23名(女12・男11) | VRボクシング約17分 | — | 7.6 METs | 159.76 kcal |
| Arseneau 2011 | 男性ボクサー9名 | サンドバッグ 60〜180拍/分 | 67.5〜83.0% | 39.8〜61.7% | — |
テンポと技術で強度はどう変わるか
Kravitz らの実験で興味深いのは、テンポを毎分60拍から120拍に上げても酸素摂取量には有意差がなかった点です。有意に上がったのは心拍数・換気量・主観的なきつさでした。つまり速く打つほど「心臓と呼吸は忙しくなり、きつく感じる」が、「使うエネルギーはほぼ同じ」だったのです。音楽のテンポは体感強度を変えますが、消費カロリーを比例して増やすわけではありません。
一方、サンドバッグ相手では話が変わります。
Arseneau E, Mekary S, Léger LA. VO2 requirements of boxing exercises. Journal of Strength and Conditioning Research. 2011;25(2):348–359.
男性アマチュアボクサー9名(平均22.0歳)で、サンドバッグ打ちの酸素摂取量は毎分60拍で24.7、120拍で30.4、180拍で38.3 mL/kg/分と、テンポに応じて上がりました。対人のスパーリング(43.4)やミット打ち(41.1)に比べると、ゆっくりのバッグ打ちは半分近い強度です。相手がいない動作は、自分で強度を決められる分、低くもなりやすいということです。
技術レベルの影響も無視できません。Craig らの参加者は全員がVRフィットネス未経験で、著者らは慣れの度合いで消費エネルギーがばらついた可能性を限界として挙げています。動作を覚える段階では力の入れ方が定まらず、同じクラスでも人によって強度が大きく違います。
運動処方の基準と比べる
Garber CE, Blissmer B, Deschenes MR, et al. Quantity and quality of exercise for developing and maintaining cardiorespiratory, musculoskeletal, and neuromotor fitness in apparently healthy adults: guidance for prescribing exercise. Medicine and Science in Sports and Exercise. 2011;43(7):1334–1359.
米国スポーツ医学会(ACSM)の指針は、成人に中強度の有酸素運動を週150分以上、または高強度を週75分以上、あるいは合計で週500〜1000 MET・分を推奨しています。実測された7.6 METsが45分のクラスで維持されるなら1回で342 MET・分、Craig らが測った約17分なら129 MET・分に相当します。45分のクラス2回分で、この指針の下限(500 MET・分)に届く計算です。
ただし、この計算は「クラス全体で7.6 METsが続く」という仮定に立っています。実測は2分間や17分間の連続動作であり、説明や休憩を含む45〜60分のクラスの平均値ではありません。Bellinger らの60分のデータでも、集団のスタジオでは実験室より心拍が下がっています。
接触のないクラスと競技の試合はどう違うか
比較のために、競技者の試合を測った研究を見ます。
El-Ashker S, Chaabene H, Negra Y, Prieske O, Granacher U. Cardio-Respiratory Endurance Responses Following a Simulated 3 × 3 Minutes Amateur Boxing Contest in Elite Level Boxers. Sports. 2018;6(4):119.
エリート男性ボクサー11名(平均21.4歳)の3分3ラウンドの模擬試合では、各ラウンド後の酸素摂取量が最大値の92〜101%、ピーク心拍が最大の90〜92%に達しました。Bružas らの10名の実戦では、心拍は第1・2ラウンドで最大の93%超、第3ラウンドで97%超、試合後の血中乳酸は15 mmol/Lを超え、エネルギー供給の73%が有酸素、19%と8%が無酸素系でした。Rydzik らが国際大会のK1ルールの試合で測ったエリートキックボクサー15名(平均23.9歳)では、心拍は各ラウンド後に178.2、182.1、185.0拍/分と上がり続け、乳酸は14.6 mmol/Lに達して20分の休息後も安静値に戻りませんでした。
| 区分 | %HRmax | %VO2max | 血中乳酸 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 接触なし・フィットネス | 85〜93% | 67.7〜72.5% | — | Kravitz 2003 |
| サンドバッグ(ゆっくり〜速い) | 67.5〜83.0% | 39.8〜61.7% | — | Arseneau 2011 |
| 模擬試合 3分×3 | 90〜92% | 92〜101% | — | El-Ashker 2018 |
| 実戦 3分×3 | 93〜97%超 | 89%(推定) | 15 mmol/L超 | Bružas 2023 |
| K1 国際大会 | — | — | 14.6 mmol/L | Rydzik 2021 |
心拍だけ見ると両者の差は小さく見えますが、酸素摂取量と乳酸は明らかに違います。試合は最大酸素摂取量に達し、無酸素系を大きく動員する「ほぼ限界」の運動であり、接触のないクラスは最大の7割前後で有酸素系が主体の運動です。「格闘家の練習と同じ強度」という説明は、競技のデータをフィットネスに横滑りさせたものです。
「1レッスンで1 kg痩せる」が成立しない理由
Hall KD. What is the required energy deficit per unit weight loss? International Journal of Obesity. 2008;32(3):573–576.
体重1 kgを減らすのに必要なエネルギー不足は、経験則で32.2 MJ(約7,700 kcal)とされます。Bellinger らの1時間セッションの約674 kcalで割ると、脂肪1 kgに相当するのは約11回分です。しかも Hall の解析によれば、この経験則は体脂肪の少ない人では必要量を過大に見積もる一方、減量が進むほど除脂肪量(筋肉など)の減少が増えるため、「1回で1 kgの脂肪」は数字の桁からして起こりえません。
では、クラスの後に体重計が1 kg軽くなるのはなぜか。それは汗による水分です。ACSMの水分補給の指針(Sawka ら)は、体重の2%を超える水分喪失を避けるよう求め、運動前後の体重差から個人の発汗量を見積もる方法を示しています。運動直後の体重減少は、この指針が「補うべき欠損」として扱う量であり、脂肪ではありません。
心拍計の数字をどこまで信じるか
Craig らは、間接熱量計と同時に腕時計・腰の加速度計・VRヘッドセットの消費カロリー表示を比べています。ボクシングモードの熱量計159.76 kcalに対し、加速度計は56.03%、ヘッドセットは63.75%と有意に低く、腕時計は112.34%で差は有意ではありませんでした。機器によって半分から1割増しまで幅があるのが実態です。
心拍と酸素摂取の関係そのものも、打撃動作では崩れます。El-Ashker らの模擬試合では、酸素摂取量はトレッドミルの最大値と差がなかったのに、ピーク心拍はトレッドミルの最大心拍と有意に異なりました(効果量1.60〜3.00)。Kravitz らでも、テンポが上がると心拍だけが上がり酸素摂取は変わりませんでした。腕を高く保ち、力を込め、興奮を伴う運動では、心拍がエネルギー消費を実際より高く見せます。
測定の制約も大きい。Arseneau らは「顔面へのパンチがあるためガスマスクをつけられない」として、運動直後の測定から酸素摂取量を推定する方法を開発しました。Rydzik らの国際大会では審判が試合中の胸ベルト装着を認めず、各ラウンド直後にベルトをつけて測っています。de Lira らも心拍からの推定値です。競技の数値は推定が多いことを踏まえて読む必要があります。
研究の限界
- 人数が少ない。ここで挙げた実測研究は8名から23名です。
- 若く、訓練された参加者に偏る。平均年齢は21〜25歳で、Bellinger ら・El-Ashker ら・Bružas ら・Arseneau らは男性のみです。女性を含むのは Kravitz ら(6名)、Craig ら(12名)、de Lira ら(4名)にとどまります。中高年や運動習慣のない人の数値は、事実上ありません。
- 短い試行の外挿。Kravitz らは2分間、Craig らは約17分の連続動作です。45〜60分のクラスに当てはめるには、休憩や説明の時間で平均が下がる前提が要ります。
- 有害事象が報告されていない。ここで挙げた研究はいずれも、けがや体調不良の発生を系統的に記録していません。安全性はこの文献群からは言えません。
- 2006年の学会抄録に依存した数値が流通している。女性のキックボクササイズを直接測った報告は学会抄録の段階にとどまり、査読論文として再現されていないため、本稿ではその数値を使っていません。
医師に相談すべき人
ACSMの指針は、冠動脈疾患の兆候や症状について事前に確認し、強度と量を段階的に上げることが運動のリスクを減らすとしています。全員に運動負荷試験を課すことは推奨していませんが、臨床的に必要な場合には医療専門職への相談と検査が有用だと述べています。
実測が示す通り、キックボクササイズは最大心拍の85〜93%に達する高強度の運動です。心疾患・高血圧の治療中の方、胸の痛みや動悸・息切れが運動で出る方、妊娠中の方、関節や腰に痛みのある方は、始める前に医師に相談してください。運動中に胸痛・めまい・強い息苦しさが出た場合は、その場で中止してください。
出典
- Kravitz L, Greene L, Burkett Z, Wongsathikun J. Cardiovascular response to punching tempo. Journal of Strength and Conditioning Research. 2003;17(1):104–108.
- Bellinger B, St Clair Gibson A, Oelofse A, Oelofse R, Lambert M. Energy expenditure of a noncontact boxing training session compared with submaximal treadmill running. Medicine and Science in Sports and Exercise. 1997;29(12):1653–1656.
- Craig TV, Rhodes RE, Sui W. Examining and Comparing the Energy Expenditure of Two Modes of a Virtual Reality Fitness Game (Supernatural): Indirect Calorimetry Study. JMIR Serious Games. 2024;12:e53999.
- Arseneau E, Mekary S, Léger LA. VO2 requirements of boxing exercises. Journal of Strength and Conditioning Research. 2011;25(2):348–359.
- Garber CE, Blissmer B, Deschenes MR, et al. American College of Sports Medicine position stand. Quantity and quality of exercise for developing and maintaining cardiorespiratory, musculoskeletal, and neuromotor fitness in apparently healthy adults: guidance for prescribing exercise. Medicine and Science in Sports and Exercise. 2011;43(7):1334–1359.
- El-Ashker S, Chaabene H, Negra Y, Prieske O, Granacher U. Cardio-Respiratory Endurance Responses Following a Simulated 3 × 3 Minutes Amateur Boxing Contest in Elite Level Boxers. Sports. 2018;6(4):119.
- Bružas V, Venckūnas T, Kamandulis S, Sniečkus A, Mockus P, Stasiulis A. Metabolic and physiological demands of 3×3-min-round boxing fights in highly trained amateur boxers. Journal of Sports Medicine and Physical Fitness. 2023;63(5):623–629.
- Rydzik Ł, Maciejczyk M, Czarny W, Kędra A, Ambroży T. Physiological Responses and Bout Analysis in Elite Kickboxers During International K1 Competitions. Frontiers in Physiology. 2021;12:691028.
- de Lira CAB, Peixinho-Pena LF, Vancini RL, et al. Heart rate response during a simulated Olympic boxing match is predominantly above ventilatory threshold 2: a cross sectional study. Open Access Journal of Sports Medicine. 2013;4:175–182.
- Hall KD. What is the required energy deficit per unit weight loss? International Journal of Obesity. 2008;32(3):573–576.
- Sawka MN, Burke LM, Eichner ER, Maughan RJ, Montain SJ, Stachenfeld NS; American College of Sports Medicine. American College of Sports Medicine position stand. Exercise and fluid replacement. Medicine and Science in Sports and Exercise. 2007;39(2):377–390.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。心疾患や高血圧の治療中の方、運動で胸の痛み・動悸・強い息切れが出る方、妊娠中の方、関節や腰に痛みのある方は、高強度の運動を始める前に医療機関にご相談ください。

