肩こり対策の科学 第1回 肩こりの正体を知る、固さだけでは読めない肩の痛み

肩を触ると固いのに、休んでもすっきりしない。その肩こりを、僧帽筋の硬さ、筋力、仕事中の負担、ストレスから読み解く。病院職員やオフィスワーカーを調べた論文を手がかりに、分かっていることと未解明なことを整理し、姿勢を固めず休憩を挟む工夫と、運動を始める前の安全の注意を示す。

仕事を終えて肩に手を当てると、首の付け根が固い。重い物を運んだ日でもないのに、なぜここだけがつらいのか。

今日の入口は、肩を固めたまま仕事を続けず、作業の区切りに休憩を置くことだ。職場の首肩の問題を扱う文献レビューでは、作業環境の調整と1時間ごとの休憩が予防策の候補として挙げられている。[1] まずは負担が続く時間を見直し、運動の選び方につなげたい。

肩こり対策は、固さ・筋力・仕事の条件を一緒に見る。筋肉の硬さを測った研究と、筋力や仕事の条件を調べた研究を重ねると、肩こりの見取り図はもう少し広くなる。[2][4][6][13]

この記事は連載『肩こり対策の科学』全10回の第1回。次回:肩こり対策の科学 第2回 本命は首と肩の筋トレ オフィスワーカーの試験を読む

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肩こりを、首・肩甲骨・胸側のまとまりで見る

日本の病院職員を調べた論文は、肩こりを首と肩まわりの特定の原因に限定されない痛みや不快感として扱っている。[6] 「肩こり」は日常で共有しやすい言葉だが、研究では、症状の質問と身体の測定を組み合わせ、痛みや不快感のある人にどんな特徴があるかを調べる。

この横断研究、つまり同じ時点で症状と身体や生活の特徴を調べる研究では、病院職員359人のうち約75%に何らかの肩こりがあった。[6] 調査の範囲は、この病院に勤める職員である。医療にかかわる職場でも肩こりは珍しくなかった、という対象の分かる数字として受け取るのがよい。

筋肉の側から読むときの主役が、僧帽筋である。首から肩、背中にかけて広がる筋肉で、その上部の痛み、こわばり、張りを特徴とする状態が、仕事に関連した僧帽筋痛として研究されている。[11] この論文は僧帽筋上部に対象を絞り、長く静止した作業や反復作業とのかかわりを検討している。[11]

職場の筋肉のバランスを扱う文献レビューでは、僧帽筋上部だけでなく、首と肩甲骨を結ぶ肩甲挙筋、胸側の大胸筋・小胸筋の張りも取り上げられている。一方、首の前側の深い所で首を曲げる筋肉や、僧帽筋の中央・下部の弱さを組み合わせた説明もある。[1] 肩の上だけを見るのではなく、首、肩甲骨、胸側を含むまとまりとして考えるための見方だ。

レビューで扱う前に出た頭、丸まった肩、肩甲骨の動きの乱れは、首や肩の筋肉のバランスと結びつけて論じられている。対策の提案にも、胸側などの張った筋肉を伸ばすことと、弱い筋肉を鍛えることの両方が含まれる。[1] そこで日常の点検も、肩の上をもむことに集中するより、画面やキーボードの位置、休憩、運動の時間まで視野を広げる。まず仕事の環境から手を付けられる点が、この見取り図の使いどころだ。

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固さを測ると、痛みとは別の顔が見える

「触ると固い」という感覚を、研究では機器で確かめる。女性オフィスワーカーを対象にした横断研究では、中等度の仕事関連の首の症状がある16人と、症状のない16人を比較した。年齢や仕事の性質・時間などを合わせ、座っているときの頭の位置、筋肉まわりの組織の硬さ、押されたときに痛みを感じる境目を測っている。[4]

症状のある群は、頭の位置を表す角度が8.3%小さく、僧帽筋上部の筋・筋膜組織の硬さは11.3%高かった。[4] 筋膜は筋肉を包む組織である。この結果は、痛みを訴える群で機器上の硬さも高いという関係を示している。気のせいという扱いではなく、測定できる身体の特徴として観察された点に意味がある。

ところが、押されたときに痛みを感じる境目には、群間の有意差がなかった。[4] 有意差とは、偶然のばらつきだけでは説明しにくい差という意味である。硬さと、押された刺激への反応では、比較の結果が分かれた。「固いほど必ず押すと痛い」という読み方は、この結果には合わない。

日本の病院職員の研究でも、重い肩こりのある人と肩こりのない人を条件が近くなるように選び、13組を比較している。超音波で調べた僧帽筋は重い症状のある側の群で硬かったが、手足や体幹の筋肉量には明らかな差がなかった。[6] 肩の局所の硬さと、全身にどれほど筋肉があるかは別の測定であり、混同しないことが大切だ。

肩を触ることは自分の変化を知るきっかけになる。ただし、その手触りだけを対策の成績表にすると、研究が区別したものを再び混ぜてしまう。休憩や運動を試す際には、固さの感覚に加えて、仕事中のつらさや動きづらさも言葉にしておきたい。硬さと痛みを分けて扱った研究を、日常の観察に下ろす工夫である。[4][6]

軽い仕事でも、負担が続くことを見逃さない

若い働き手40人を2.5年間追ったコホート研究、つまり時間を追って変化を調べる研究では、仕事中の僧帽筋の活動を測り、その後の首肩の痛みとの関連を検討している。対象は美容師15人、電気工事の仕事をする人14人、学生5人、その他の仕事の人6人だった。[10][10]

測定に使った筋電図は、筋肉の電気的な活動を記録する方法である。この研究では、基準となる最大活動の0.5%を超える活動が4分を超えて続く場合を「持続する活動」と定義した。その時間が勤務時間の50〜100%を占める群は、0〜29%の群より、首肩の痛みの率が約3倍高かった。[10] 大きな力を出す瞬間だけでなく、活動が途切れず続く時間に注目した研究なのだ。

関連は筋電図の測定と同じ時期から、その後6か月以内で特に強かった。[10] 仕事を始めて間もない若い人たちで、勤務中の活動を1日測り、首肩の痛みを追跡期間中に7回尋ねた研究である。[10] 作業の強さだけでなく、筋活動がどのくらい途切れず続いたかを、時間を追った症状と照らし合わせた点に特徴がある。

オフィスワーカーの首の痛みの発症要因をまとめた系統的レビュー・メタ分析も、仕事の変化の少なさに注目している。対象は20本の論文で、10件の前向きコホート研究と2件の無作為化比較試験の結果を含む。作業内容の変化が少ないことに関連した相対リスクは1.27だった。[13] 相対リスクは比較する群どうしの発症割合の比であり、群どうしの関連の大きさを読む指標である。

腕を置く位置だけを直すより、同じ作業がどこまで続くかも点検したい、というのがこれらを読んだ実践上の提案だ。[10][13] 入力、資料の確認、打ち合わせなど、仕事に区切りを作れる場所を探す。肩に同じ使い方を続けさせている時間を見つけ、別の作業や休憩を置ける区切りを選ぶのである。

数字で読む肩こりの見取り図

  • 病院職員359人の約75%に何らかの肩こり。その病院での横断研究の値である。[6]
  • 女性オフィスワーカー32人の比較で、症状のある群の僧帽筋上部の硬さは11.3%高かった。[4]
  • 若い働き手40人を2.5年追った研究で、持続する筋活動が多い群の首肩の痛みの率は約3倍だった。[10]
  • 首の痛みの発症要因をまとめたレビューでは、作業の変化が少ないことの相対リスクは1.27だった。[13]

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