片付けの心理的効果はどこまで言えるのか。家の案内で散らかりや未完成を多く語った妻ほど1日のコルチゾールの傾きが平らだった研究、整った部屋と散らかった部屋の3つの実験、迷いやすい人ほど散らかりに悩む調査、片付けの講座の試験を読み、溜め込み症と普通の散らかりを分けて考える。
夜11時に帰ると、玄関に通販の段ボールが3つ、ソファには畳んでいない洗濯物が積んである。見なかったことにして寝る。この景色は、心に何かをしているのだろうか。
答えの芯を先に書く。普通の家で分かっているのは、主に関連と短い実験である。共働きの夫婦60人に自分の家を案内してもらい、その言葉を数えた研究では、散らかりや家の未完成を語る言葉が多い妻ほど、1日のコルチゾール(ストレスに関わるホルモン)の傾きが平らで、1日のうちに落ち込んだ気分が増えていた[1]。平らな傾きは、健康上の悪い結果と結びつく型だとされる[1]。
ただし、散らかりは悪いことばかりではないらしい。整った部屋と散らかった部屋に人を分けた3つの実験では、整った部屋の人が健康的なおやつを選んで多く寄付し、散らかった部屋の人はより創造的だった[2]。片付けの講座を割り付けた試験として読めるのは、片付けが苦手な東京の61人の試験で、講座を足した群と足さない群の差は、調整すると有意でなかった[6]。

家の案内の言葉で、コルチゾールの1日の形が違った
出発点の研究は、少し変わった方法を取った。共働きの夫婦の60人に、自分の家を自分で案内してもらい、その話を言葉の分析の道具(Linguistic Inquiry and Word Count)にかけた[1]。数えたのは、散らかりを表す言葉、家が未完成だという感覚の言葉、休まることを表す言葉、自然を表す言葉の4種類である[1]。
統計の手法で、前の2つは「ストレスのある家」、後の2つは「回復の家」という変数にまとめられた[1]。家の案内のあとの平日3日間、ストレスのある家の点が高い妻は、コルチゾールの1日の傾きが平らだった。回復の家の点が高い妻では、傾きが急だった[1]。この結果は、結婚の満足度と神経症傾向(不安や落ち込みの感じやすさ)を調整しても変わらなかった[1]。
気分の側の結果もある。ストレスのある家の点が高い女性は、1日のうちに落ち込んだ気分が増え、回復の家の点が高い女性は、1日のうちに落ち込んだ気分が減った[1]。結果として報告されたのは、妻と女性の側である。
読むときに外せない点がある。測ったのは床の上の物の量ではなく、家を語る言葉だ。著者らの出発点も、人が家をどう語るかが、家での時間を休まるものと感じるかストレスと感じるかを映すかもしれない、というものだった[1]。散らかりが先か、疲れた気分が先かは、この研究からは決まらない。唾液でコルチゾールを測る話そのものは、同じサイトの「ストレス解消の唾液検査は何を測る?コルチゾールとコルチゾンの変換を読む」に譲る。自然の言葉と部屋の植物の話は、同じ特集の「観葉植物の空気清浄効果は本当か」の記事にある。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
整った部屋はおやつを変え、散らかった部屋は発想を変えた
部屋を人の手で変えた実験もある。2013年の論文は、整った環境は伝統と慣習のほうへ、散らかった環境は伝統と慣習を破るほうへ人を向ける、という新しい仮説を3つの実験で検証した[2]。
実験1では、散らかった部屋の参加者に比べて、整った部屋の参加者は健康的なおやつを選び、より多くのお金を寄付した[2]。実験2では、散らかった部屋の参加者のほうが、整った部屋の参加者より創造的だった[2]。実験3では、予測どおり向きが入れ替わった。整った部屋の参加者は「定番」と名づけた選択肢を好み、散らかった部屋の参加者は「新しい」と名づけた選択肢を好んだ[2]。
著者らのまとめ方が面白い。これまでの研究は、整った場所のほうが散らかった場所より良い行動を促すと示してきた。この研究が描くのは、違う環境が違う結果に向く、という含みのある話だという[2]。散らかった部屋は、だらしなさの証拠であると同時に、新しい案の温床かもしれない。片付けを「善」、散らかりを「悪」と決めつける話にはならない。

散らかりの悪い影響を強く受けていたのは、迷いやすい人だった
散らかりの定義から始める研究がある。散らかりとは物が多すぎることで、住まいの使いやすさや人とのつながりを妨げ、嫌な気分やお金の問題を招いて、暮らしの質を下げうる、と著者らは書く[5]。
この研究は、2019〜2020年の世界的な流行で家にいる時間が義務づけられ、片付けのような個人の作業に取り組む機会になったことを背景に、アメリカの成人227人(平均49.9歳)を調べた[5]。行動に移る構えか迷う構えか、押しつけへの反発の強さ、決めることの先延ばしを測り、潜在クラス分析(答えの型から人をいくつかの群に分ける手法)にかけた[5]。散らかりに悩む人は、考え方の型でいくつかの群に分かれ、迷いやすく決めにくい人は、行動に移りやすく決めやすい人より、散らかりの悪い影響を強く受けていた[5]。
著者らは、散らかりに悩む人の決める力と目標に向かう力を高めることが、予防にも介入にも役立つかもしれないと書く[5]。捨てるか残すかを決められない1枚のTシャツが、床の上の山の正体かもしれない。この研究は自己申告の答えを群に分けたもので、決めにくさが散らかりを生むのか、散らかりが決めにくさを強めるのかは分けられない。運動の終わりに片付けの手順を決めておく話は、同じサイトの「ダイエットの運動ルーティンは終わりも決める?片付けから次回へつなぐ手順」に譲る。
散らかった家は、性格だけで生まれない
散らかりを本人の性格の問題にしてしまう前に、見ておきたい研究が2つある。1つは、地域に住む高齢者の全国の標本の調査(National Social Life, Health, and Aging Project)を使った研究で、建物の傷み、散らかり、清潔さの欠け、騒音、においをまとめて「乱れた住まいの状態」として扱った[7]。所得の低い人とアフリカ系アメリカ人の高齢者で乱れた状態が多く、体と心の健康が悪い人でも多かった[7]。一方で、同居のパートナーがいる人、家の外のつながりが多い人、手を貸してくれる相手が多い人ほど、危険で有害な住まいの状態にさらされることが少なかった[7]。著者は、住まいの状態は、同居の形や人のつながりや支えが晩年の健康に影響する、見落とされてきた道筋だと述べる[7]。
もう1つは子育ての家の研究である。暮らしに余裕の少ない農村の地域の、子ども742人の母親と父親を調べた[9]。多変量のモデルで、騒音や散らかりや乱れの多い「まとまりのなさ」の領域は、母親でも父親でも、58か月の子どもと遊ぶ場面での敏感さの低い、口や手を出しすぎる関わりを予測した[9]。著者らは、慢性的にまとまりのない家のストレスが、母親の不安定な愛着の傾向を子育ての場面で表に出し、敏感さの低い関わりを強めるのかもしれないと書く[9]。
高齢者の調査では、乱れた住まいは、お金、健康、人のつながりと一緒に動いていた。片付けられないことを本人の意志の弱さだけで説明するのは、この2つの研究と合わない。
若い人と高齢者で、散らかりと居場所の感覚の結びつきが違った
散らかりと幸福感の関係について、先行研究の結果はまちまちだった、と書く研究がある[3]。この研究は、保存されていたデータを使い、65歳以上225人と64歳以下225人を一時点で比べた[3]。年齢の区分は、散らかりと「心理的な家」(家を自分の居場所と感じる感覚)の関係を有意に変えたが、心理的な家と幸福感の関係、散らかりと幸福感の関係は変えなかった[3]。散らかりは、年代によって「自分の家らしさ」への響き方が違う、と読める。
若い世代の物の減らし方を調べた研究もある。ミレニアル世代へのオンラインの質問票の調査で、物を減らす暮らし(ミニマリズム)は、満たされている感覚を通じて幸福感と結びついていた[8]。環境への意識、今の時代の美意識、自分から選ぶ簡素さ、周りの規範、物の共有が、ミニマリズムを後押しする要因として示された[8]。著者らは、散らかりを片付けると場所と時間が増え、家族や趣味の時間が増えて幸福感が高まると述べる[8]。ただしこれは質問票の答えを統計のモデルで読んだ結果で、片付けたあとの変化を追った研究ではない。
数字で読む片付けと心
- 60人: 家を案内した共働きの夫婦の人数。言葉の数とコルチゾールの傾きの結果が報告されたのは妻の側[1]。
- 3日間: 家の案内のあと、コルチゾールの傾きを追った平日の日数[1]。
- 3つ: 整った部屋と散らかった部屋を比べた実験の数。おやつ、寄付、創造性、定番と新しさの好みが分かれた[2]。
- 227人: 散らかりの悩みと決め方の型を調べたアメリカの成人。平均49.9歳[5]。
- 742人: 散らかりや騒音の多い家と、親の関わり方を調べた研究の子どもの数[9]。
- 225人と225人: 散らかりと家の居場所の感覚を比べた、65歳以上と64歳以下の人数[3]。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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