生理中にアイスや氷が食べたくなるのはなぜか。氷を無性にかじりたくなる「氷食」は鉄不足と結びつく症状として知られ、月経の出血は女性の鉄不足の主な原因の一つだ。献血者の調査、43研究のメタ分析、鉄で消えた報告と、鉄の入れ方で差が出なかった試験を、対象ごとに読む。
生理の3日目、夜11時。冷凍庫を開けて、製氷皿の氷を一つ口に入れる。かじる。もう一つ。気づけば皿が半分空いている。甘いアイスではない。ただの氷が、なぜかやめられない。
研究で調べられているのは、甘いアイスより「氷そのもの」をかじりたくなるほうで、氷食(パゴファジア)と呼ばれる[7]。氷食は、食べ物でない物を食べたくなる異食(ピカ)の一つの形で、鉄不足によって起こり、鉄を補う治療で扱われると、2025年の総説は書く[7]。成人の鉄不足を扱った2025年の総説は、鉄不足の最も多い原因の一つに月経などの出血を挙げ、鉄不足の人に出うる症状に異食(40〜50%)を数えている[8]。
つまり、研究でたどれるのは、「生理中だから氷が欲しい」という筋より、生理で失う鉄が積み重なって鉄が足りなくなり、その症状の一つとして氷を欲しがる、という筋である。氷が欲しいことだけで鉄不足かどうかは決まらず、決めるのは血液検査だ[8]。鉄の足りない献血者を調べた研究では、異食を訴えた人は、鉄の足りている人の4%に対して11%で、いちばん多かったのが氷だった[5]。甘い物が欲しくなる生理前の食欲は別の話で、同じサイトの「生理前の食欲は甘い物だけに向く?空腹と味への欲求が食い違う場面を研究で読む」に譲る。

夏の氷と「かじらずにいられない氷」は違う
まず言葉をそろえる。異食は、食べ物でない物を強く欲しがって食べることで、土を食べる土食、生のでんぷんを食べるでんぷん食、そして氷を食べる氷食が含まれる[2]。氷食は、強迫的に氷を食べる、あるいは氷をかじることと定義される[7]。
医学の診断の基準では、さらに条件がつく。アメリカ精神医学会の診断の手引き(DSM-5)は、異食を、栄養や食べ物としての価値のない物を食べ続けることとし、少なくとも1か月途切れず続き、その年齢の発達にそぐわないことを求める[16]。真夏の午後にかき氷を食べることや、熱のある日に氷を口に含むことは、ここには入らない。
同じ総説は、食べ物でない物を食べる行動の一部は、西洋以外の文化では広く受け入れられた習慣であり、すべての異食を病的とみなすべきではないとも書く[16]。土を食べる行動には、文化に根ざした形もあるとされる[6]。だからこそ、研究の数字を読むときは、どの国の誰を調べたかが大事になる。この記事で扱うのは、そのうち氷と鉄の話である。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
鉄が足りないと、なぜ氷なのか
鉄不足と異食が結びつくことは、昔から知られてきた。異食を鉄不足の表れとして扱った2016年の総説は、異食は鉄不足としばしば結びつくが、その病態の仕組みは分かっていないと書く[6]。そのうえで、異食には形が分かれ、鉄不足が直接引き起こすもの(おそらく脳のいくつかの部位の鉄の不足による)と、土食を中心とする、より文化に根ざしたものがあると整理している[6]。
脳の側からの説明もある。2022年の総説は、異食と鉄欠乏性貧血の強い結びつきが、ドーパミンという神経の伝達物質の働きが乱れているという仮説に信ぴょう性を与えると書く[16]。異食を、食べ物への渇望に似た一種の依存として捉える考えも、今後の研究の課題として示されている[16]。
いちばん具体的なのが、氷の冷たさそのものに注目した2025年の総説である[7]。口に冷たい刺激を当てると、脳の中大脳動脈を流れる血液の速さが上がり、末梢の血圧が上がり、心拍が遅くなることが、いくつかの研究で示されている[7]。ある研究では、鉄の足りない人は注意の検査の成績が低く、氷を食べると、ぬるい水を飲んだ人に比べて反応の速さが良くなったという[7]。この効果は脳と心臓への血流が増えたためとされ、著者らは、氷食は脳の血流を高めるか、脳により多くの酸素を届けることで注意を助けているのかもしれないと述べる[7]。
ただし、これは仮説の段階で、著者らも、人と動物で冷たい物を摂ることの神経と行動への影響をもっと調べるべきだとしている[7]。2010年の総説は、異食の原因の候補として、文化の期待、心理的なストレス、空腹、胃の不調、鉄・亜鉛・カルシウムの不足、毒や病原体から身を守る働きを並べ、限られた資料の範囲では、多くの種類の異食の原因として身を守る仮説がいちばん支持されるとした[1]。そのうえで、氷食は鉄不足のときに起こりうることを示す証拠もある、と書いている[1]。氷食は、異食の中でも鉄との縁が特に語られてきた形だと言える。

月経と鉄不足の数字
では、鉄不足はどれくらいありふれているのか。2025年の総説によると、体の鉄の蓄えが少ない状態(貧血の有無を問わない絶対的な鉄不足)は世界で約20億人、アメリカの成人の14%に見られ、鉄欠乏性貧血は世界で約12億人に及ぶ[8]。高所得国では、妊娠していない生殖年齢の女性の約38%が貧血のない鉄不足、約13%が鉄欠乏性貧血である[8]。
原因として最も多いのは、月経や消化管からの出血、鉄の吸収の悪さ、食事からの鉄の不足、そして妊娠だ[8]。女性の鉄不足を扱った2022年の総説も、途上国では鉄の摂取の少なさと寄生虫の感染が多いのに対し、高所得の地域では、量が多いなど異常な子宮からの出血と妊娠が典型的な原因だと書く[12]。生理と氷が結びつくとすれば、この道を通ってである。
症状は人によって違う。貧血のない鉄不足でも鉄欠乏性貧血でも、症状がまったくない人もいれば、だるさ、いらだち、気分の落ち込み、集中しにくさ、むずむず脚症候群(32〜40%)、異食(40〜50%)、息切れ、ふらつき、運動のしにくさが出る人もいる[8]。その割合は、年齢、持病、鉄不足の重さと進み方で変わるという[8]。異食の欄を裏返せば、鉄が足りなくても異食の出ない人が、半分かそれ以上いることになる。
この総説は、貧血のある人と、だるさや異食やむずむず脚症候群といった鉄不足の症状のある人には鉄不足の検査が適応になり、月経の量が多い人などには検査を考えるべきだとしている[8]。診断には、体の鉄の蓄えを映すフェリチンや、トランスフェリン飽和度という血液検査の値が要る[8]。
献血者の調査では、鉄の減った人に異食が多く、いちばん多いのが氷だった
日常に近い人たちを調べた研究がある。2013年の研究は、39か月にわたり、指先の採血でヘモグロビンが12.5g/dL未満で献血を見送られた1,236人と、見送られなかった対照の400人に、健康の確認と血液の検査を行った[5]。異食とむずむず脚症候群は、直接の質問で尋ねた[5]。
異食を訴えたのは、鉄が減っているか足りない献血者の11%で、鉄の足りている献血者では4%だった[5]。いちばん多かったのは氷食で、しばしば並外れて強いものだった[5]。女性であること、若いこと、赤血球の大きさの指標(平均赤血球容積)や、トランスフェリン飽和度が低いことが、異食と強く関連していた[5]。
この研究では、見送られた献血者と、対照のうち鉄の足りない人に、鉄の錠剤が渡された[5]。異食のあった人は、鉄を飲み始めて5〜8日目までに、食べ物でない物を食べたい気持ちがはっきり減ったと答え、10〜14日目までに症状が消えた[5]。むずむず脚症候群は、鉄の減った人の16%、鉄の足りている人の11%で、改善には少なくとも4〜6週間の鉄が要り、この集団では鉄不足との強い結びつきはないとされた[5]。著者らは、氷食についての質問が、献血者の鉄不足を見つけるのに役立つかもしれないとまとめている[5]。
異食の話は2週間ほどで変わったのに、脚の話には1か月以上かかった。同じ鉄不足の症状でも、戻る速さが違う。
数字で読む氷食と鉄
- 11%と4%: 鉄が減っているか足りない献血者と、鉄の足りている献血者で、異食を訴えた人の割合。氷食が最多[5]。
- 10〜14日: 鉄を飲み始めた献血者で、異食の症状が消えるまでの日数[5]。
- 40〜50%: 鉄不足の人に出うる症状として、総説が異食に挙げる割合。年齢や重さで変わる[8]。
- 約38%: 高所得国の、妊娠していない生殖年齢の女性で、貧血のない鉄不足の割合[8]。
- 2.35倍: 43研究を集めたメタ分析で、異食のある人の貧血のオッズ[2]。
- 22.5%: 異食と口の健康の系統的レビューで、氷食を扱っていた論文の割合(89本中20本)[9]。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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