猫にも前足の好みはあるが、右か左かだけでは読み切れない。ごはんを取る課題、玩具への手伸ばし、姿勢を変えた実験を比べ、好みの方向と強さを分けて読む。性別や避妊去勢との関係、問題解決や気質を調べた研究にも触れながら、家庭で観察するときに決めつけないための見方を考える。
器の向こうに転がったごはんへ、猫が前足を伸ばす。今は左だった。昨日は右だった気もする。そんな小さな動きにも、個体ごとの偏りは見つかっている。猫にも、人の利き手に似た前足の好みがある。左右の偏りが明瞭でない猫もいる。[2][3]
猫の利き足を見分けるなら、「どちらを使ったか」と「どの程度そちらへ偏ったか」を分けて見るのが出発点である。食べ物を取る実験では、左右の好みがはっきりした猫と、偏りがはっきりしない猫がいた。姿勢を難しくしても好みが変わらなかった研究もある。[2][3]
では、ごはんと玩具ではどうか。家庭で行った研究では両方の課題で全体として右寄りだった一方、別の実験では左寄りの猫が右寄りより多かった。食卓の横の前足を、人間の右利きと同じ割合だと思わずに眺めると、問いが少し面白くなる。[3][4]

猫の利き足は「右か左か」と「偏りの強さ」で読む
ここで扱う利き足とは、主として何かへ伸ばす前足の使用の好みである。歩行の速さや、後ろ足で蹴る力を測った話ではない。研究では食べ物に届くための動作などから、どちら側を選ぶか、その選択がどの程度偏るかを調べている。[2][3] 足という名前に引かれて、人がボールを蹴る足の話と重ねないことが大切である。
人の蹴る足と支える足は、既存記事「利き足の割合と調べ方、ボールを蹴る足と支える軸足の違いを研究で読む」に譲る。ここでは猫が対象へ前足を伸ばす場面に絞る。同じ「利き足」という検索語でも、何をさせて確かめるかによって、読んでいる行動が異なる。
研究でいう方向は、右を多く使うか左を多く使うかという区別だ。強さは、どちら側であれ、選択がどの程度はっきりしているかを指す。猫の問題解決を調べた研究も、この方向と強さを別々に測っている。[2] 右という答えだけを知っても、ほぼ右ばかりなのか、左右を使いながら右が多めなのかは伝わらない。
日常の観察でいえば、メモに「右」とだけ書くより、何を取ろうとしたかも添えると、あとで違う場面を混ぜずに済む。玩具へ触れた記録と、ごはんを取り出した記録を同じ箱へ放り込まない、という読み方である。これは家庭で正式な判定をする手順ではなく、研究の問いを取り違えないための整理だ。
姿勢を比較した実験は、この区別を数字で見せてくれる。対象は猫28匹で、食べ物を取り出す課題を行った。猫の前足を調べた動物実験であり、18〜39歳の女性の利き手や運動能力へ、そのまま当てはめることはできない。個体ごとに見ると約40%が左、約30%が右、約30%が明瞭な左右差を示さない群だった。[3] つまり、実験参加の猫を並べた時点で、「全員に右か左の札を付ける」という前提から外れている。
ここで約30%を、両足が同じ巧さの猫と読み替えるのは早い。この実験が分類したのは、課題中に使う側の偏りである。左右それぞれの筋力や動作の精密さを同じ物差しで比べた割合ではない。[3] 選び方の偏りが小さいことと、能力が等しいことは、違う問いとして残しておきたい。
さらに、この割合は猫全体を代表する国勢調査のような数字ではない。対象と課題が定まった実験の内訳である。[3] 自宅の猫が左を使ったときに「少数派だ」と驚く前に、何と比べて少数なのかを確かめる必要がある。利き足の申告書を猫から受け取る代わりに、人が用意した動作から使用の偏りを読み取っている。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
姿勢が難しくても、前足の好みは変わらなかった
その28匹の実験では、プラスチックの箱から食べ物を取り出させた。箱を異なる高さに取り付け、座るか立つかの安定した姿勢と、垂直面につかまる不安定な姿勢を比較した。単に違う日に同じことをしたのではなく、姿勢への要求を変えた実験である。[3]
結果は、姿勢の難しさと前足の選択が同じ方向には動かなかった。不安定な姿勢のほうが課題として有意に難しかったが、前足の好みの方向にも強さにも、その姿勢条件による違いは見つからなかった。[3] やりにくければ利き側が強く出る、あるいは反対側へ持ち替える、と単純には言えない結果だ。
この点は、「難しい動きのときこそ本当の利き足が分かる」という想像を立ち止まらせる。少なくともこの比較では、課題の難しさを増やしても、選ぶ側の偏りは変化しなかった。[3] 苦労している様子が目立つことと、左右差が大きくなることは別だったのである。
家庭では、ごはんへ手を伸ばす猫の姿勢もいろいろに見える。正面に座っているのか、体を横へ向けているのか、眺める側には目に入りやすい違いがある。ただ、その場の印象だけで「体をひねったから左になった」と原因を決めないほうがよい。姿勢の効果を問う研究は、条件を分けて比べたうえで判断している。[3]
また、研究で好みが変わらなかったことを、どんな動作でも同じ前足を使う証拠に広げない。この結果が扱ったのは、姿勢の異なる食べ物の取り出しである。[3] 階段の最初の一歩、寝起きに伸ばす足、何かを押す前足まで、同じ結論を渡す必要はない。具体的な動作名を残すほど、研究の答えは鮮明になる。
別の研究でも、個体の好みの安定性が報告されている。猫41匹に、ふたを開けて食べ物を得る新しい課題を行わせたところ、前足の好みは安定し、使った課題に依存しなかった。[2] 違う課題なら必ず好みが変わる、という説明も合わない。猫の左右差は気まぐれ、と片付けるには、一定の好みを示す実験結果がある。[2][3]
ただし、安定していたという言葉は、将来にわたる永久保証ではない。その実験で比較した課題の中での結果として読めばよい。[2] 家庭の観察でも、「この動作では左を使う様子が続いた」と書くほうが、「この猫は一生左利きだ」と宣言するより、見たものに近い。短いメモでも、動作を添えれば言い過ぎを防げる。
ごはんと玩具の比較では、全体として右寄りだった
家庭での測定を取り入れた研究では、飼い主が性別や避妊去勢の状態などを質問票に記入し、食べ物へ伸ばす課題と玩具へ伸ばす課題を行った。対象は犬272匹、猫137匹で、全体として両方の課題で右前足を好む結果だった。[4] 猫の数字として読むべきなのは137匹であり、犬の数を足して猫の大規模研究にしてはいけない。
この結果と、先ほどの約40%が左だった実験は、同じ数字にはならない。[3][4] だからといって、片方を誤りとして消す理由にはならない。対象も測定の場面も異なる研究から、猫全体の左右の比率をひとつに決めるのは難しい。ここで確かなのは、個体の前足使用を測る研究があり、その集団でどちら寄りだったかの結果は一致しない、という位置までである。[3][4]
見方をもう少し分けよう。「その猫に偏りがあるか」は個体の問いで、「集団で右と左のどちらが多いか」は集団の問いだ。左寄りの猫と右寄りの猫がいることと、集団として同じ側へ偏ることは同義ではない。姿勢比較の研究は個体ごとの偏りを示し、家庭の研究は全体の右寄りも報告した。[3][4] この段階を飛ばすと、自宅の猫の話から猫という動物全体の話へ、いつの間にかすり替わる。
食べ物と玩具の比較があるからといって、どちらかを家庭用の正解テストに選べるわけでもない。この研究が示したのは、実施した課題での使用傾向である。[4] ごはんには手を出すが玩具には興味を示さない場面なら、玩具を使わなかったことまで左右の答えに変換しなくてよい。観察できなかった動作を、左右差がないという記録にしないための配慮である。
家庭で行う課題には、飼い主が測定に参加するという特徴もある。[4] 実験室だけでなく暮らしの中でも調べられている点は身近だが、数字を比べるときには実施方法まで残したい。猫の頭数だけで結果の優劣を決めるのでなく、何を対象に前足を出したのか、誰が記録したのかを一緒に読むと、研究同士の違いを見失いにくい。
数字で読む猫の前足の好み
28匹:安定した姿勢と不安定な姿勢で、食べ物の取り出しを比較した対象数。[3]
約40%・30%・30%:その実験で左寄り、右寄り、明瞭な偏りがない猫の内訳。[3]
137匹:家庭で食べ物と玩具へ伸ばす課題を行った研究の猫の数。犬とは分けて読む。[4]
41匹:ふたを開ける課題で、前足の好みと問題解決との関係を調べた猫の数。[2]
各30匹:気質との関連を調べた研究が集めた、左寄り・右寄り・偏りのない猫の数。自然な割合を表す数字ではない。[17]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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