握力と寿命の相関はなぜ出る?14万人と50万人の追跡で読む、5kg弱いときの数字の意味

握力と寿命の相関はなぜ出るのか。17か国14万人と英国50万人の追跡では、握力が5kg低いごとに全死亡のハザード比は1.16〜1.20だった。障害のある65〜101歳の女性で病気や炎症では説明しきれなかった研究、転倒によるけがや骨折と関連しなかった結果、左右差、鍛えて変わるのかまで読む。

5kg。握力がこれだけ低いごとに、死亡のリスクの比(ハザード比)は、17か国の14万人近い追跡で1.16、英国の50万人の追跡で女性1.20、男性1.16になる[1][2]。国も参加者も違う研究で、数字はよく似ている。

相関が出るのは確かだ。では、なぜ出るのか。答えの芯を先に書く。研究者たちは手の力そのものより、握力を全身の筋力の目印として読んでいて[4][6]、同じ年齢の人の間では老いの進み具合を暦の年齢より多く映すという報告もある[5]。ただ、それで全部が説明できたわけではない。病気や炎症や栄養を統計で調整しても消えなかった研究がある[4]。

そして、いちばん聞きたいはずの問いには、まだ答えがない。握力を鍛えると死亡が減るのか。14万人の研究の著者らは、筋力の改善が死亡を減らすかどうかは今後確かめるべきことだと書いている[1]。握力の測り方や鍛え方は、店のサイトの「30代女性の握力は続けて測ってよい?試行間の休みを別の休憩と混同しない」や「ケトルベルの腹筋運動で手が先に疲れるとき、握力とお腹の成績を分ける記録」に譲る。ここでは数字の読み方だけを書く。

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14万人、50万人、そして広島の4,912人

最初の研究は2015年のものである。17か国の35〜70歳を含む世帯から参加者を集め、解析に入った139,691人を中央値で4.0年追った。この間に3,379人(2%)が亡くなった。調整後のハザード比は、握力が5kg低いごとに、全死亡で1.16(95%信頼区間1.13〜1.20)だった。心血管の死亡は1.17、それ以外の死亡も1.17、心筋梗塞は1.07、脳卒中は1.09である[1]。

次は2018年の英国の研究で、40〜69歳の502,293人(54%が女性)を平均7.1年追った。解析対象のうち13,322人(2.7%)が亡くなっている。5kg低いごとのハザード比は、全死亡で女性1.20、男性1.16。呼吸器の病気による死亡は女性1.31、男性1.24と大きく、乳がんの死亡も1.24だった。前立腺がんには有意な関連がなかった[2]。

日本にもある。広島の成人健康調査の4,912人(男性1,695人、女性3,217人、開始時に35〜74歳)は、1970〜72年に握力を測り、1999年末まで死亡を追われた。外因を除く全死亡の相対リスクは、握力が5kg高いごとに男性0.89、女性0.87。男性を握力の順に5つに分けて真ん中の群と比べると、最も強い群は35〜54歳で0.52、55〜64歳で0.72、65〜74歳で0.67だった[6]。

読むときの注意を1つ書く。1.16倍は「死ぬ確率が16ポイント上がる」という意味ではない。14万人の研究で、中央値4年の追跡の間に亡くなったのは全体の2%である[1]。比は、この規模の割合に掛かる。そして対象はいずれも主に35歳以上の人で[1][2][6]、20代の握力についてこの数字をそのまま当てることはできない。

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14万人では血圧より強い予測、50万人では血圧を含む点数への上乗せが0.013

血圧より強い。14万人の研究は、握力が全死亡と心血管の死亡を収縮期血圧より強く予測したと報告している[1]。数字だけ見ると、握力計が血圧計を追い越したように読める。

ところが50万人の研究で別の角度から測ると、印象が少し変わる。年齢、性別、糖尿病の診断、体格指数、収縮期血圧、喫煙からなる、診察室で使えるリスクの点数がある。ここに握力を足すと、予測の当たりやすさを示すC指数は、全死亡で0.013、心血管の死亡で0.012、心血管の病気の発症で0.009良くなった[2]。

改善はある。しかし0.013という数字は、すでにある情報の上に乗る分はそれくらいだということでもある。私の読みでは、握力は強い目印だが、年齢や喫煙などが語っていることと重なる部分が大きいのだろう。50万人の研究の著者らも、リスクの点数やふるい分けに使えるかは今後の研究が必要だと書いている[2]。

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14万人の追跡では、転倒によるけがと骨折との関連は出なかった

14万人の研究には、見過ごされがちな結果がある。

握力と、転倒によるけが、骨折、糖尿病の発症、肺炎や慢性閉塞性肺疾患による入院の間には、有意な関連がなかった[1]。

意外な話である。手の力が弱い人は手すりをつかめず、転びやすく骨も折りやすい、と想像しそうなものだ。しかしこの研究の数字では、そうなっていない。死亡は予測するのに、転倒によるけがは予測しない。

もう1つ奇妙なのが、がんだ。高所得国では、握力が5kg低いごとのがんのリスクの比は0.916で、握力が低いほどむしろ低い方向を向いた。中所得国と低所得国ではこの関連は見られなかった[1]。一方で英国の研究では、がんによる死亡は5kg低いごとに女性1.17、男性1.10と高くなっている[2]。2つの研究が見ているものは、発症のリスクと死亡という点で同じではない。がんになることと、がんで亡くなることは、握力に対して違う動きをしているのかもしれない。これは推測である。

これも推測だが、ここまでの結果を並べると、握力の数字が映しているのは、手で何かをつかむ能力そのものではなさそうだ。もしそうなら、転倒によるけがとの関連がもっと出ていていい。

なぜ相関が出るのか、説明の候補を順に試す

では何を映しているのか。候補は3つある。

全身の筋力の目印である。 広島の研究も、次に述べる米国の研究も、握力を全身の筋力を見積もる簡単な測定として扱っている[4][6]。手を測っているようで、全身の代わりに手で測っている、という見方である。

老いの進み具合の目印である。 2003年の英国の研究は、64〜74歳の717人で、握力と老いの目印との関連を、暦の年齢と比べた。男性では年齢と有意に関連した目印が7つ、握力は10。女性では年齢が3つ、握力は6だった。同じ時点で測った比較で、年齢の幅が狭い集団の中では、握力のほうが暦の年齢より多くの目印と結びついていた[5]。

病気の結果である。 病気で弱った人は握力も下がり、亡くなりやすい、という説明だ。実際、腹部の大きな手術の前後を調べた2026年のメタ分析(17本、計2,213人)では、6週間以内に筋肉量が減り、主に握力で測った筋力も有意に落ちていた[12]。この方向の因果は確かにあるだろう。

この3つ目を正面から試したのが、2003年の米国の研究である。中等度から重度の障害がある65〜101歳の女性919人を5年追い、336人が亡くなった。握力を3群に分けると、心血管の死亡の調整前の相対リスクは、最も弱い群で最も強い群の3.21倍。年齢、人種、身長、体重で調整すると2.17に下がった。ところが、そこからさらに、複数の病気、運動不足、喫煙、炎症の指標(インターロイキン6とC反応性たんぱく)、血清アルブミン、意図しない体重減少、抑うつ症状で調整しても、数字はほとんど変わらなかった[4]。

著者らの結論は明快だ。死亡の背景にある慢性の病気や、炎症、栄養状態、不使用、抑うつでは、この関連を説明できなかった。握力は、病気から筋力低下へ至る道とは別の仕組みで死亡を予測している可能性がある、という[4]。もちろん、対象は障害のある高齢の女性で、がんの死亡とは関連しなかった研究でもある[4]。これをそのまま働く世代に広げることはできない。

広島の研究にも似た手がかりがある。握力を測ってから20年以上たっても、5kg高いごとの相対リスクは0.92で残っていた[6]。その時の病気で弱っていただけなら、20年後まで影響が残るのは説明しにくい。これは私の読みで、著者らが述べたことではない。

数字で読む握力と寿命

  • 1.16:17か国139,691人で、握力が5kg低いごとの全死亡のハザード比[1]
  • 1.20:英国の女性で、同じく5kg低いごとの全死亡のハザード比。男性は1.16[2]
  • 0.87:広島の女性で、握力が5kg高いごとの全死亡(外因を除く)の相対リスク。男性は0.89[6]
  • 0.013:リスクの点数に握力を足したときのC指数の改善(全死亡)[2]
  • 16kg:英国の研究が女性の筋力低下の定義に使った値。男性は26kg[2]
  • 919人:病気や炎症で調整しても関連が残った、障害のある高齢女性の人数[4]

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宮川涼 Founder

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