チョコを食べたくなる心理、マグネシウム不足説と生理前の欲求を実験と調査で読む

チョコを食べたくなるのは何不足か。カカオの薬理成分をカプセルで入れても欲求はほとんど収まらず、閉経前後の女性の調査でも生理前の欲求はホルモンだけでは説明しにくかった。頭の中の映像でふくらむという説、15分の早歩き、欲しさと食べる量のずれまで読む。

夜11時、コンビニへ向かう前から、もう銀紙の手触りと甘い匂いが頭の中にある。チョコが欲しくなる夜の正体を、実験はずいぶん細かく調べてきた。

「何不足か」と検索した人に、先に答える。マグネシウムが足りない体が薬を飲むようにチョコを求める、という説は1999年の総説に可能性の1つとして出てくる[24]。ただ同じ総説が主な要因に挙げるのは、脂肪、砂糖、食感、香りというおいしさのほうだ[24]。チョコを欲しがる人にカカオの薬理成分をカプセルで渡した実験では、欲求はほとんど収まらなかった[23]。マグネシウムの量を測った実験ではないが、成分が足りないという説明は苦しくなる。

生理前の欲求も、ホルモンだけでは説明しにくい。閉経前と閉経後の女性を比べた調査で、欲求の減りは13.4%にとどまり、ホルモンだけが原因なら予測される38%に遠く及ばなかった[21]。ほかの説明の候補には、高カロリーのものを控えることへの反動[22]や、育った文化がある[25]。どちらも調査からの読みで、確かめられた原因ではない。体の硬さとマグネシウムの話は「体が硬いのはマグネシウム不足?筋肉の緊張と前屈の記録を同じにしない読み方」に譲る。

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カカオの薬理成分をカプセルで入れても、欲求はほとんど収まらなかった

チョコの欲求を満たしているのは成分なのか、味なのか。1994年の実験は、北米で最も多い欲求であるチョコを題材に、これを正面から分けた[23]。欲しくなった瞬間に、チョコバー、同じカロリーのホワイトチョコ(カカオの薬理成分を含まない)、同じ薬理成分を含むココアのカプセル、プラセボ、何もしない、のいずれかの条件を割り当てる[23]。

カプセル、プラセボ、何もしない条件は、ほとんど効果がなかった[23]。ホワイトチョコは欲求を部分的に鎮め、そこにカカオの薬理成分をすべて足しても変わらなかった[23]。著者たちの結論は、チョコの欲求を満たすことに薬理作用の役割は認められない、というものだ[23]。さらに、甘さ、食感、カロリーとは別に、香りの役割も示唆されている[23]。

この実験はマグネシウムの量を測ったものではない。それでも、カカオの薬理成分を入れて欲求がほとんど収まらないなら、足りない成分を求めているという説明は分が悪い。

1999年の総説は、もう少し幅をとる。欲求は本物であり、おいしさが主な要因だとしたうえで、カカオに含まれる活性成分や、気分に関わる神経伝達物質、月ごとのホルモンの揺れも含めた組み合わせになるだろうと書く[24]。薬理の要素を否定する実験と、組み合わせで見る総説。どちらも味や香りを重く見る点は同じである。

味が中心なら、甘味を消せば欲求も減るのか。舌の甘味の受容体を一時的にふさぐギムネマという植物の成分で試した試験がある[4]。甘党を自認する健康な32人では、これを含むミントを好きなときに使った期間は、砂糖への欲求がプラセボの基準より28%低く、チョコをもっと食べたい気持ちも下がった[2]。ところが健康な58人を2組に分けた14日間の試験では、初日の直後こそチョコバーの量に差がついたが、15日目には2.77本と2.78本で並んだ[4]。答えは揃っていない。サプリを勧める話でもない。

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生理前の欲求は、ホルモンが主な原因とは言いにくい

アメリカの女性の約半数がチョコの欲求をもち、そのうち約半数が月経の始まる頃に欲しくなると答える[21]。定期的な欲求があるのは約45%という報告もある[22]。1999年の総説は、欲求がホルモンの変化とともに揺れることから、ホルモンとの関係を示唆するとしていた[24]。

これを確かめる賢い方法がある。閉経前の女性と閉経後の女性を比べるのだ[21]。同じ人を追ったのではなく、同じ大学の卒業生への調査である[21]。生理の頃にだけ欲しくなる人の割合から計算すると、ホルモンが直接の原因なら、閉経後に欲求は38%減るはずである[21]。調べると、閉経後の側で欲求のある人の割合の減りは13.4%だった[21]。減ってはいるが予測には遠く、著者たちは女性ホルモンは生理前の欲求の主な原因ではないとみる[21]。

文化の差はさらに大きい。チョコを欲しがるアメリカとスペインの女性に、いつ欲しくなるかを自由に書いてもらうと、生理の頃と答えたのはアメリカで40%、スペインで4%だった[25]。直接尋ねても60%と24%である[25]。ほかの時間帯は、スペインでは食後と勉強中、アメリカでは夜が多く、男女の差ではなく国の差だった[25]。著者たちは、欲求は体の仕組みより文化に由来すると読む[25]。日本の数字ではないので、そのまま持ち込むことはできない。ただ、生理前にはチョコ、という筋書きそのものを文化の中で覚えている可能性は、頭に置いてよい。

誰が生理前に欲しがるのかを調べた研究もある。97人の女性のうち、生理に結びついた欲求があると答えた28.9%は、食事を抑える構えが強く、食べる量の調節の柔軟さが低く、チョコを食べたあとの罪悪感が強かった[22]。これは質問紙での関連で、原因までは決まらない。著者たちは、周期で揺れる体重を気にして高カロリーのものを控えることへの反動として欲求を見る可能性を挙げる[22]。生理周期と食欲はダイエットの科学特集が、生理前の不調と運動は「PMSと生理前の運動は効くのか イライラとだるさの試験を数字で正直に読む」が先に扱っている。

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欲求を起こす実験の手順は、我慢と目の前のチョコ

控えることの反動、という読みは、実験室の手順と重なる。研究者がチョコの欲求を起こしたいとき、何をするか。女子大学生の実験で使われたのは、24時間チョコを断ってもらい、課題のあいだ目の前にチョコを置く、という手順だった[16]。これで欲求はきちんと起きた[16]。

つまり、断つことと目の前に置くことの組み合わせは、欲求を鎮める方法ではなく、欲求を起こす実験の材料である。断つことだけの効き目を分けた手順ではないが、チョコを我慢している週にチョコのことばかり考えるのは、意志の弱さというより、研究者が用意する条件に近づいている状態なのかもしれない。女子大学生たちには24時間で足りた。

欲求は頭の中の映像でふくらむ、という説明

チョコへの強い欲求は、57本の論文を見渡した総説で、強く、割り込んできて、抑えがたい欲求と定義されている[17]。その説明として多くの実験が検証しているのが「精緻化侵入理論」で、欲求は2段階で進むと考える[5]。まず、ふとチョコのことが頭に割り込む。次に、その考えが鮮やかな映像としてふくらみ、作業記憶(いま頭の中で使っている作業台)を占領する[3]。

この説が正しければ、作業台を別の映像でふさげば欲求は弱まるはずだ。女性90人ずつの2つの実験で、欲求を起こしたあとに見た目、音、匂いのどれかを想像してもらうと、見た目と匂いの課題は音の課題より欲求を下げた[20]。実際にチョコを断たせて見せつける形に変えた96人の実験でも、同じ結果になった[20]。音では足りない。チョコの欲求と競り合うのは、同じ見た目と匂いの席に座るものらしい。

もう1つの手は、考えそのものから距離をとることだ。108人を3組に分け、目の前のチョコの皿を見ながら音声を聞いてもらった試験では、考えや感情を一歩引いて眺める組は、ぼんやり考える対照組より、2分の音声のあとも4分の音声のあとも欲求が低かった[3]。2週間の練習を比べた別の試験でも、自分と考えを切り離す技術がいちばん有効だった[13]。

数字で読むチョコの欲求

  • 38%と13.4%: ホルモンだけが原因なら閉経後に減るはずの割合と、閉経前後の女性を比べた調査で見られた減り[21]
  • 40%と4%: チョコを欲しがる女性のうち、生理の頃に欲しくなると自由回答で答えた割合。アメリカとスペインの差[25]
  • 28.9%: 97人のうち生理に結びついた欲求を報告した割合[22]
  • 24時間: 欲求を起こす実験でチョコを断った長さ[16]
  • 15分: 欲求を下げた早歩きの長さ。10分後の測定まで休んだ日より低かった[12]

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宮川涼 Founder

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