満月の夜に眠れないのはなぜ?電気のある街でも眠りが短くなった研究と、苦情が出る日のずれ

満月の夜に眠れないのは気のせいか。手首の活動計では満月の前の夜に眠りが短くなった。ところが月のせいにする声が増えるのは満月の後の1週間だった。852人の睡眠検査と1,815人の調査から、月の影響の範囲と思い込みの形、新月の話まで読み分ける。

夜2時、「満月 眠れない」と打ち込む前に、今夜の月を確かめた人へ。先に日付の話をする。眠りが短くなるのは満月の当夜というより、その前の夜々である。

手首の活動計を使った2021年の研究は、電気のないアルゼンチンの先住民トバ/コムの集落からアメリカの都市部まで、暮らしの違う人々の眠りを調べ、満月の前の夜は寝つきが遅く、眠りが短いことを示した[16]。スウェーデンの852人の睡眠検査でも、月が満ちていく期間の眠りは欠けていく期間より短かった[18]。気のせいと片づけるには、測定の裏付けがある。

ただし話はそこで終わらない。月のせいで眠れないという声がいちばん増えるのは、満月の後の1週間だった[11]。別々の研究だが、測った眠りの差は満月の前に、本人の苦情は満月の後に出る。カレンダーの上で、両者は反対側に立っている。このずれが、この話でいちばん面白いところだ。

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測ると短くなるのは、満月の「前」

2021年の研究の仕組みはこうだ。満月に向かう時期には、日が暮れたあとの数時間に月明かりがある。こうした夜は、眠り始めが遅く、眠りが短くなる[16]。著者らは、人工の明かりが無かった時代には、月明かりが夜の活動をうながし、眠りを抑えていたのだろうと考えている[16]。

スウェーデンの論文は、この「時間帯」を別の言葉で説明している。月が満ちていく期間は、月が南中する時刻が正午から真夜中へとずれていき、欠けていく期間は夜の早い時間から正午へずれる[18]。つまり同じように明るい月でも、夜のどこに出ているかが違う。月の光の量だけで夜を語れない理由がここにある。

比べ方も見ておく。このスウェーデンの研究は22〜81歳の852人に一晩だけ睡眠検査を行い、満ちていく期間と欠けていく期間の人を比べた横断研究である[18]。睡眠の乱れなどの交絡を調整しても関連は残ったが、同じ人を追ったわけではないので、著者らも因果については断定できないと書く[18]。一方の2021年の研究は手首の活動計で、暮らしの条件が違う集団を比べている[16]。活動計はふだんの暮らしのまま測れ、睡眠検査は眠りそのものを細かく見られる。測り方の違う2本が同じ方向を指している点に、一定の重みがある。

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電気のある街でも、消えなかった

時系列で読むと、この分野の揺れがよくわかる。1999年の論文は、満月が心を乱すという信念を、睡眠不足で説明しようとした。人工の明かりが無かった時代には月明かりが眠りを削っていたが、近代の照明がその影響を弱めた、特に都市部で、という仮説である[8]。著者らはこの仮説を、検証にも反証にも開かれたものとして書いた[8]。2008年の総説は、人の生物学が月の周期に制御されている確かな証拠は無いと書いた[9]。

そこに2021年の研究が来る。電気のない暮らしだけでなく、電気のある集落にも、アメリカの都市部にも、月の周期と眠りの時刻の同調が見られた[16]。照明が月の影響を弱めたという1999年の見立てに照らすと、都市部でも同調が消えていなかった点が目を引く。著者らは、人工の明かりへの接し方が、月明かりの古い影響をなぞっているのかもしれないと書く[16]。

動物の時計を調べた総説は、人の睡眠や心の健康への月の影響の報告には議論が残るとしたうえで、人工の明かりによる光の汚染が研究のあいだの食い違いに関わるかもしれないと指摘している[5]。街の明かりは、研究の交絡要因でもある。立川駅北口の夜は明るい。あの光の下で月がどこまで眠りに届くのかは、まだ誰にも言えない。結論はまだ動いていて、否定も肯定も、ここ数十年で入れ替わってきた。

月の話をする前に、主役を確かめておく。2008年の総説は、起きる時刻と眠る時刻の好みの多くは、日光を合図にする体内の仕組みで決まると書く[9]。目覚まし時計は活動のリズムを動かせても、24時間の生理にはほとんど直接効かないという[9]。夜の主役が月だとしても、一日の主役は太陽である。

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新月でも短くなるのか

「満月 新月 眠れない」と両方を打つ人もいる。新月の側の話は、もっと割れている。2026年の論文は、健康な人の眠りは満月と新月の両方が近づく時期に短くなり、寝つきも遅くなるという観察を前提に置いている[13]。一方でスウェーデンの852人の比較では、新月の翌日から満月までの期間のほうが、満月の翌日から新月までの期間より眠りが短かった[18]。同じ「新月の前」が、論文によって違う扱いを受けている。

2026年の論文の観察どおり新月が近づく時期にも眠りが短くなるのなら、その時期の月は暗くなっていく一方なので、月明かりだけでは説明がつきにくい[13]。ただし先のスウェーデンの比較は、この観察と合っていない[18]。ここはまだ決着していない。

検査で差が出たのは男性、月のせいにするのは女性に多い

もう一つのずれがある。スウェーデンの852人では、睡眠時間の差のほかに、男性でだけ睡眠効率が低く、寝入ってからの目覚めが長かった(男性はそれぞれP<0.001、P=0.010、女性はP=0.748、P=0.890)[18]。著者らは、月の周期の睡眠への影響は男性でより目立つと書いている[18]。

ところが、月のせいで眠れないと答える人は女性に多く、年齢とともに増える[11]。測定で差が出やすいのは男性で、月を責めるのは女性に多い。もちろん別々の研究で、片方は一晩の検査、もう片方はオンライン調査なので、直接つなげることはできない。言えるのは、この2本で差の出た集団と月を挙げる人の多い集団が同じではなかった、というところまでだ。

女性の体と月を結ぶ話は根強い。光と月経周期の研究をまとめた2023年の総説は、関係を示す証拠はあるものの、その形は太陽光か月光か夜の電灯かという光の種類と時間帯によるようだと書く[4]。性別や月経周期の時期が光への敏感さに影響する可能性はあるが、まったく影響が無いかもしれないとも認めている[4]。女性が長く研究から外されてきたので、証拠が足りないという事情もある[4]。

はっきりしているのは個人差のほうだ。人の体内時計はわずか30ルクスの光にも反応し、その敏感さには大きな個人差があるという[4]。同じ部屋で同じ月の夜を過ごしても、眠れない人と眠れる人がいて不思議はない。月を責める人を思い込みの一言で片づけないほうがいいのは、このためである。

月は、騒音より多く責められている

月を責める側の数字を見る。睡眠についての16項目のオンライン調査に答えた1,815人のうち、環境の要因で最も多く挙がったのが月で36%、次が外の気温31%、室内の騒音26%、悪天候22%だった[11]。この調査の中では、月は室内の物音より悪者にされている。オンライン調査なので、世間全体の割合とは限らない。

個人の要因で最も多いのは考えごとで、73%だった[11]。しかし考えごとは、月を責めるかどうかの予測にはならなかった[11]。月を責めやすさと結びついていたのは、天気のせいで眠れないと言うこと、月の満ち欠けを追っていること、年齢、性別である[11]。著者は、月の影響の実感には、原因の帰属や予期の働きが少なくとも一部関わるのだろうと結論している[11]。月の満ち欠けを追っている人ほど月を挙げやすい。ただし相関なので、追うから責めるのか、気になるから追うのかは分からない。

苦情が満月の後に来る理由を、この調査は断定していない。ただ順番としては、満月を見上げたあとで、このところの寝不足に説明がつく、と考えると筋が通る。これは私の推測である。

数字で読む月と眠り

  • 29.53日:月の満ち欠けの周期の長さ[18]
  • 852人:一晩の睡眠検査で月の時期を比べた人数。22〜81歳[18]
  • 36%:1,815人の調査で月を睡眠の妨げに挙げた割合。環境の要因で最多[11]
  • 73%:同じ調査で考えごとを挙げた割合。月を責めるかどうかとは別物だった[11]
  • 1.34倍:片頭痛の見込みの、周期の山と谷の比。事後の解析で98人[12]
  • 98.3%:飼育下のテナガザルの睡眠効率の平均。測定は52夜[20]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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