ストレス解消に歌うならオンラインでもそろう?通信の遅れと一体感を分けて読む

ストレス解消に友人とオンラインで歌いたいのに、声がずれて落ち着かない。低遅延の仮想空間を使った歌唱研究から、参加しやすさと対面と同じ効果を区別する。合唱の比較試験や歌が緊張を生む実験も読み、音の一致、つながり、気分を別々に確かめるための選び方を考える。

画面の向こうで友人が歌い始める。こちらも同じ出だしを歌ったつもりなのに、声が追いかけっこになる。顔を見られるのはうれしいのに、歌い出しだけがどうにも合わない。楽しいはずの時間に、誰が先走ったのかという反省会が始まる。そんな場面では、まず歌の上手さを採点する前に、どんな方法で一緒に歌おうとしているかを確かめたい。

オンラインで歌う場を作ることは可能である。脊髄損傷のある人を対象にした開発研究では、音声の遅れを小さくした仮想現実の仕組みが、治療的な集団歌唱の実施方法として受け入れられた。この結果を18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、対象を変えた効果の検証が必要である。[2]

声がそろうこと、仲間とつながること、終わった後に気分が軽くなることは、別々に確かめる必要がある。既存記事「ストレス発散に歌うなら一人でもよい?合唱で加わるつながりと気分の違いを読む」に参加人数の問いを譲り、ここでは離れた場所から参加する際の条件に絞る。「睡眠不足でイライラする日は声まで厳しい?表情の読み違いと反応の遅れを分ける」が扱う相手の反応の解釈とも分け、通信を介した歌唱の選び方を考える。

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通信の遅れと、気持ちの距離を別の欄に置く

まず、遅れという言葉を整理する。この記事でいう通信の遅れは、相手の声をこちらで受け取るまでの時間差を指す。一方、研究で使われる潜時という言葉には、音を聞いた後に生じる脳の反応までの時間も含まれる。合唱の比較試験で短くなった神経反応の潜時を、通話の音が早く届くようになったという意味に読み替えてはいけない。[2][11]

画面の中に友人がいることと、その声を使って同時に歌えることも同じではない。オンライン歌唱の開発研究が採用したのは、低遅延音声を備えた専用の仮想現実アプリである。研究がその方式を選んだ事実は、オンラインというひとくくりの名称では参加条件を説明しきれないことを示す。普段の通話と専用の音声環境を、同じものとして期待するのは避けたい。[2]

ここから日常の選択に落とすなら、「同じ時間に集まりたい」のか、「互いの声を聞きながらそろえたい」のかを先に言葉にするとよい。これは治療効果の処方ではなく、期待している体験を確かめるための整理である。顔を見て近況を話す時間を求めているなら、合唱としての完成度だけでその集まりを評価する必要はない。

逆に、相手の歌声と自分の歌声を重ねたいなら、主催者に音声の扱いを確認する意味がある。参加者同士の声を互いに聞く方式なのか、進行役の声を聞いて各自が歌う方式なのか。どちらを予定しているか分からないまま参加すると、「一緒に歌う」という同じ案内から違う体験を想像してしまう。専用の低遅延方式を調べた研究も、まず実施方法そのものを開発し、使えるかを検討する段階から始めている。[2]

帰宅後の小さな楽しみに、通信の成績表まで持ち込む必要はない。ただ、音が合わないと感じた瞬間に、自分のリズム感や友人の熱意のせいにするのは早い。研究で検討されたオンライン歌唱には専用の仕組みが使われた。この条件を思い出せば、歌い手の努力だけで解決する話として片づけずに済む。[2]

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低遅延の仮想空間で確かめたのは、まず使えるか

Tamplinらの研究は、脊髄損傷の入院リハビリテーションを受ける患者計12人とともに、オンラインで音楽療法を届ける方法を段階的に開発したものである。18〜39歳の女性の日常的な気分転換にそのまま当てはめるには、患者の参加支援との目的の違いを考える必要がある。最初の段階では6人が異なる仮想現実のヘッドセットを試し、機器やオンライン歌唱の経験について短い聞き取りに答えた。その結果を使って、低遅延音声の専用アプリが開発された。[2]

次の段階では、別の6人がその仕組みを試し、対面や遠隔会議の選択肢と比べて、受け入れやすさや実施可能性が検討された。機器への満足や使いやすさ、心理社会的な影響を尋ねる質問票と、体験の聞き取りが用いられた。歌った後にストレスがどれだけ下がるかだけを測った研究ではなく、参加のための道具として成立するかを複数の角度から調べた研究である。[2]

聞き取りでは、仮想現実が肯定的な体験だったこと、別の場所へ移ったような没入感があったこと、人前で歌う際のためらいが小さくなったことがテーマとして挙がった。一方で、相手を理解するための社会的な手がかりが減る可能性も挙げられた。距離を越えて参加できる利点と、相手の様子を受け取る難しさは、同じ仕組みの中に並んでいた。[2]

この組み合わせは、気分転換の場を探す際にも参考になる。目の前の人に見られる感じが苦手な人にとって、参加のためらいが小さいという感想は気になる結果だろう。しかし、表情や反応を細かく受け取りたい人には、手がかりが減る可能性のほうが大切かもしれない。研究でも両方が挙がった以上、「画面越しなら誰でも気楽」と結論するのは適切でない。[2]

対象にも目を向けたい。外出や移動の難しさがある脊髄損傷の人にとって、自宅から集団に参加できる選択肢には意味がある。研究はその人たちへの治療的歌唱の届け方を検討したのであり、仕事帰りの健康な成人全般に同じ満足や効果を約束するものではない。参加経路を開くことの価値と、別の読者への効果の保証は分けて読む必要がある。[2]

質問票の結果も、測った対象を付けて読むと誤解しにくい。支援機器への満足度の平均は4.4、システムの使いやすさの尺度の平均は53だった。心理社会的な影響をみる尺度では、有能感が1.5、適応性が2、自尊感情が1.5と、平均が正の値だった。これらは異なる尺度の得点であり、数字だけを横に並べて満足度の順位を作るものではない。ストレスが同じ割合で減ったという意味でもない。[2]

参加した人の言葉と質問票を併せて読むことにも意味がある。機器が使いやすかったかという問いだけでは、人前で歌うためらいや、相手の様子の受け取り方まで語れない。聞き取りに肯定的な体験と社会的な手がかりの減少が並んだことは、集団への参加を単独の点数だけで判断しない理由になる。自分の体験を振り返る際も、操作に困らなかったことと、人と会えた感じがしたことを別の文章で書いてみたい。[2]

研究者も、オンラインと対面を比べる今後の非劣性研究が必要だとしている。非劣性研究とは、比較する方法に対して、あらかじめ定めた範囲を超えて劣らないかを確かめる研究である。ここでの到達点は受け入れやすく実施可能だったことであり、対面の代わりとして同程度の成果が得られるという判定まで済んだわけではない。[2]

合唱で変わった脳の反応と、群間差のなかった気分

歌う活動の評価では、何を成果にしたかによって見え方が変わる。Hennessyらは、音楽訓練の経験がなく、自覚的な聞こえの低下がある50〜65歳の成人を、合唱群と比較群に無作為に分けた。18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、年齢と聞こえの状態が異なる点に注意が必要である。期間は12週間で、雑音の中の音声の聞き取りや、音に対する脳の反応、心の状態が調べられた。[11]

合唱群は毎週2時間の集団歌唱と1時間の自宅での発声練習を行った。比較群は毎週3時間の音楽鑑賞に加え、コンサートへの参加や参加者同士のオンライン交流を行った。歌う人と何もせず過ごす人を比べた構成ではない。音楽を聴くことや交流もある条件と比べて、合唱にどのような違いがあるかを見た試験である。[11]

結果では、心の状態を数量化した指標と、行動として測った雑音下の音声聞き取り能力に、介入前後の群間差は見られなかった。一方、合唱群では音に対する脳の電気的な反応である聴覚誘発電位の一部に変化があった。受動的に聞く条件での反応の振幅増大や、能動的な条件での反応潜時の短縮などである。[11]

したがって、「脳の反応に変化があったから、気分も良くなったはず」とつなぐことはできない。神経の指標は神経の指標として読む。今回の試験で気分の群間差が見られなかった点は、歌う活動の価値を一律に否定する結果ではないが、合唱なら気分が改善すると当然視する読み方には歯止めをかける。[11]

これはオンライン歌唱を選ぶ際にも必要な区別である。低遅延の仕組みが使えたという研究と、対面の合唱で聴覚の神経反応が変わったという研究を組み合わせても、「オンラインで声がそろえばストレスが減る」という結論にはならない。対象、方法、測定した成果が異なるからだ。使いやすさの話を、効果の大きさの話に昇格させないことが大切である。[2][11]

数字で読むオンライン歌唱の研究

12人:脊髄損傷の入院患者とオンライン音楽療法の方法を検討した開発研究の参加者数である。[2]

6人ずつ:機器を試す段階と、開発後の方式を評価する段階は、異なる参加者で行われた。[2]

50〜65歳:合唱の無作為化比較試験の対象年齢であり、若い成人全般の結果とは分ける必要がある。[11]

12週間:合唱と音楽鑑賞などを比較した期間であり、通話で少し歌った直後の効果を示す数字ではない。[11]

週2時間と1時間:合唱群の集団歌唱と自宅練習の時間であり、ストレス解消に必要な標準時間ではない。[11]

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宮川涼 Founder

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