胸の筋トレで押す動作を頭の中で予習すると、筋力は伸びるのか。ベンチプレスの比較試験、競技者の練習中断期、実技の一部を想像に置き換えた研究を読み分ける。胸で差が出なかった結果も取り上げ、胸を大きくすることとの違い、休憩中の使い方、日々の記録で確かめたい点を考える。
ベンチに座り、次に押す動きを頭の中でなぞる。持ち手を握るところまでは浮かぶのに、その先は「うまく押せた自分」の静止画になる。胸の筋トレで、こんな予習は役に立つのだろうか。
答えは、実技に添える候補にはなるが、胸のプレスへの上乗せ効果はまだ確実でない、である。実際にベンチプレスとレッグプレスを行い、休憩中の想像練習を追加した比較試験では、脚の最大筋力に群間差があった一方、胸のプレスの最大筋力と反復回数には差が認められなかった。[16]
「筋トレで胸を大きくする」と検索して来た人には、もうひとつ線引きが要る。ここで紹介するプレス研究の結果は、押す力や反復の成績である。その数字を胸の大きさが変わる割合として使うことはできない。[4][15][16] 想像の中では重りをいくらでも増やせる。実際の記録は、それとは別のノートにつけたい。

動作を思い浮かべる練習は、成功を願うことと違う
運動イメージの研究で行うのは、対象となる動作や筋収縮を頭の中で再現する練習である。胸と脚のプレスを調べた試験では、参加者は休憩中に、それぞれの運動に対応する収縮を視覚的に思い浮かべ、感覚としても感じるよう求められた。[16] 観客席から自分の成功を見るような映像だけでなく、力を出している側の感覚も練習の対象だった。
これは、次は絶対に成功する、と自分に言い聞かせる話とは区別したい。研究が比較しているのは、どんな課題をどこに組み込んだかである。休憩時間に動作を想像する群と、中立的な課題を行う群を比べれば、実技そのものをそろえたうえで追加練習の違いを問える。[16] 気分が上向いたという感想だけで、筋力が上乗せされたとは判定しない。
たとえば練習の合間に、教わった押す動作のどこが思い出せるかを確かめる。持ち手の動きは浮かぶが、自分の腕の動きは曖昧なら、その曖昧さを次に質問する材料にする。これは研究の効果量を再現する処方ではなく、動作を想像する課題を日常の練習へ取り入れるための一例だ。
既存記事「筋トレの胸は前回の動画を見てから押す?成功の映像と次の自信を分ける振り返り」には、動画を見ることと自信の話を譲る。ここでは映像を見返す方法ではなく、自分で動作を思い浮かべる練習と、実際に測った筋力の関係に絞る。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
胸のプレスでは、足しても差が出なかった試験がある
まず押さえたいのは、胸に直接関わる比較である。Lebonらの試験では、想像練習を行う群が9人、対照群が10人で、両群が同じベンチプレスとレッグプレスを行った。想像練習群だけが休憩中に対応する収縮を思い浮かべ、対照群は中立的な課題を行った。[16] 「何も運動しない人」と競った研究ではない。18〜39歳の女性だけを対象にした比較として扱わず、同じ実技に想像を追加する設計と、その胸の結果に注目したい。
測ったのは最大随意収縮、つまり自分の意思で最大限に力を出したときの成績と、試験前の最大随意収縮の80%に相当する重量を使った最大反復回数だった。どちらの群も実際のトレーニングによって筋力が向上したが、ベンチプレスでは最大筋力にも反復回数にも群間差が認められなかった。[16] 想像練習群だけが強くなった、と読んではいけない。
一方、レッグプレスの最大随意収縮は想像練習群で有意に高くなった。脚の反復回数に関する群との交互作用は、統計的に明確な差には達しなかった。[16] 同じ参加者が行った同じ試験の中でも、部位と評価項目で答えが分かれている。脚に良かったから胸にも同じだけ良い、という近道は使えない。
この結果は、想像練習に一切の用途がないことを証明するものでもない。ただ、胸の筋力への上乗せを期待して休憩時間をすべて頭の中の練習に使う前に、直接の比較では差が出ていない事実を知っておきたい。[16] 胸を押す練習を続ける理由と、追加課題を採用する理由は、別々に説明できるほうがよい。
数字の見方にも注意が要る。両群とも改善したという結果と、両群の改善に差があったという結果は違う。自分の記録が伸びたとしても、実技を続けた影響と想像練習の影響を、個人の練習帳だけで切り分けることは難しい。だからこそ、同じ実技を行う相手と比較したこの設計が、上乗せの問いに役立つのである。[16]

練習が途切れた競技者では、別の結果が出ている
Dello Iaconoらのランダム化比較試験は、男性プロバスケットボール選手30人を対象に、競技の練習が制限された時期の想像練習を調べた。平均年齢は26.1歳で、想像練習の内容が異なる群と対照群へ割り付けている。[4] 普段から競技と筋力トレーニングに接している集団の研究であり、18〜39歳の女性に改善率をそのまま当てはめることはできない。
期間は6週間だった。全群が週2回の高強度走を行い、想像練習群はそれに加えて週3回、上肢と下肢の抵抗運動を頭の中で練習した。想像する負荷は、最大挙上重量の85%に相当するものか、パワーを発揮しやすい負荷のいずれかだった。[4] 体をまったく動かさず、ソファで過ごす条件とは異なる。
スクワットとベンチプレスの最大筋力やパワー、跳躍と投てきなどを測ると、想像練習群では身体パフォーマンスが約2〜9%改善し、対照群では低下した。さらに、重い負荷を想像した群は最大筋力の評価で、パワー向けの負荷を想像した群は下肢パワーの評価で、相対的に良い反応を示した。[4] 想像する内容によっても、得意な評価項目が違ったのである。
この約2〜9%は、複数の身体パフォーマンスの変化をまとめた範囲だ。ベンチプレスだけが必ずその範囲で伸びる、まして胸の大きさがその割合で増える、という数字ではない。[4] 研究の対象と測定項目を外して数字だけを取り出すと、魅力的な広告にはなっても、練習を決める手がかりとしては弱くなる。
通常の実技に何かを足す場合と、普段の練習が途切れたときに能力を保とうとする場合では、比較の土台が異なる。胸のプレスで差が出なかった試験と、この競技者の試験は、互いを消し合う関係ではない。[4][16] 仕事が立て込み練習予定が崩れた日にも関心を持てる研究だが、競技経験の異なる人へ改善率をそのまま配ることはできない。
実技の一部を置き換える研究は、条件ごと読む
実技に想像を追加するだけでなく、実技の一部を想像に置き換えた研究もある。Reiserらは、標準化された4週間の筋力トレーニングを先に行ったあと、実際の最大収縮と想像上の最大収縮の割合を変えた群を比較した。対象の課題にはベンチプレス、レッグプレス、腕を伸ばす運動、かかとを上げる運動が含まれていた。[15] この条件で練習した参加者の結果を、18〜39歳の女性の日常的な胸の筋トレへそのまま当てはめることはできない。
実験の練習は計12回で、実際に力を出す場合も想像する場合も、最大の等尺性収縮を課題にした。等尺性とは、ここでは動きを伴う反復ではなく、静的に力を出す形式を指す。想像の割合を25%、50%、75%とした群と、実技だけの群、筋力トレーニングをしない対照条件を比べている。[15] 普段のベンチプレスの回数を、そのまま同じ割合で削る指示ではない。
想像を組み合わせた群の最大随意収縮の増加は3.0〜4.2%で、実技だけの群の5.1%よりやや小さく、対照条件の−0.2%より有意に大きかった。練習終了から1週間後、実技群は開始時から計9.4%の増加に達した一方、想像を組み合わせた群は追加の伸びを示さず、それまでの効果を維持した。[15] 終了直後だけを見るか、その後も見るかで評価が変わる。
この研究で押さえておきたいのは、参加者が実技の準備をしてから想像への置換に進んだ点である。未経験の動作を頭の中だけで作り上げる条件とは違う。[15] 初めて胸のプレスを教わる場面なら、まず実技の説明を受け、自分がどの動作を再現しようとしているのかを確認する。そのうえで、思い出せない部分を質問として残す使い方が考えられる。
また、実技群と想像併用群の差を読む際には、直後の増加率だけで優劣を固定しないことだ。終了後の測定でも実技群に追加の伸びが見られたという結果は、評価する時点まで含めて練習効果を見る必要を示す。[15] 今日の押しやすさと、練習期間を通じた成績は、同じ時間幅の話ではない。
数字で読む想像練習とプレス
19人:同じ実技に想像練習を足した比較。胸の最大筋力と反復回数には群間差なし。[16]
30人:練習中断期の男性プロ選手を調べたランダム化比較試験の対象人数。[4]
6週間:競技者の試験期間。想像練習は週3回で、全群に高強度走もあった。[4]
3.0〜4.2%:実技の一部を想像に置き換えた群の最大随意収縮の増加。[15]
5.1%:同じ置換研究で、実技だけを行った群の終了直後の増加。[15]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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