足幅を広げたスクワットでは、重りを担ぐ位置との組み合わせで股関節の寄与が変わる。若い女性のレッグプレスでは、調べた足幅の範囲で似た筋活動が見られた。背もたれの支持を効果の原因と決めつけず、ケトルベルでの練習にも使える、姿勢・重りの位置・速度の比較条件を整理する。
床に置いたケトルベルを持って脚を広げる日と、ジムの椅子に座って板を押す日。どちらも「ワイド」で行ったから、内ももへの負荷も同じだろうか。答えは、足幅だけでは同じと判定できない、である。スクワットでは足幅と重りの位置の組み合わせで脚の分担が変わり、若い女性のレッグプレスでは、調べた足幅や足先の向きによらず似た筋活動パターンが観察されている。[18][20]
比較するときは、足の間隔を見る前に、立って重りを支える動作なのか、座面や背もたれのある器具を押す動作なのかを分けたい。そのうえで、何を測った研究なのかを見る。筋肉の電気的活動、関節を回す力の要求、その後の筋肉の育ち方は、同じ指標ではない。[1][5][20]
床の柔らかさを扱う話は、既存記事「ワイドスクワットの姿勢は柔らかい床でも同じ?沈む足元と脚の力を分けて読む」に譲る。ここでの問いは、背中の支えがある器具へ移った日に、足幅という共通点をどこまで比較の手がかりにできるか、である。
既存記事「内転筋の筋トレはレッグプレスかスクワットか?筋肉の育ち方と力の違いを読む」には継続後の内転筋の変化を、「レッグプレスとスクワットの効果は同じ?立位バランスへ移る力を研究で読む」には立位への成果を、「ワイドスクワットは足裏のどこで支える?足幅と左右に集まる圧を研究で読み解く」には足裏の圧と左右差を譲る。ここでは足幅を変更した研究を、支持や重りの条件を保って読むことに絞る。

「ワイド」という名前より、比較の条件を先に見る
スクワットの動作を論じた臨床的なレビューは、調整できる条件として足幅、足の回旋、上体の位置、すねの位置、深さを挙げている。足幅は大切な条件だが、負荷を決める条件の全部ではない。見た目が似た姿勢でも、ほかの条件を変えたまま足幅だけの効果と呼ぶことはできない。[14]
たとえば、立ってしゃがむ映像と、背もたれに体を預けて足板を押す映像を並べる場面を考える。正面から見た脚の開き方を似せることはできる。しかし、比較のメモには「立位」「座位」「背中の支持あり」と別々に残す必要がある。これは背もたれによる効果の大小を決めるためではなく、違う動作を同じ条件と取り違えないための整理である。
若い女性の傾斜型レッグプレス研究は、その器具の中で足幅や足の向きを変えた比較である。バーベルスクワット研究は、バーを担いで行う動作の比較である。したがって、前者で足幅の違いが小さく見えたとしても、それを後者の足幅変更へそのまま当てはめる読み方はできない。逆方向の当てはめにも同じ注意が要る。[18][20]
ケトルベルという検索語にも、ここで立ち止まりたい。以下で取り上げるスクワット実験の中心はバーベルである。ケトルベルを持った自宅練習に使うのは、研究の重量を移植することではなく、「足幅以外の条件も確認する」という比較の考え方だ。筋活動の結果を使うときも、実験で使った器具と持ち方を一緒に確かめる。[1][18]
記録欄を作るなら、種目名の横に姿勢と重りの持ち方を書く。「ワイドで実施」のひと言では、次回の自分にも情報が足りない。レッグプレスなら背もたれや座面の設定、自宅なら重りを持つ場所も残す。比較したいのが足幅であるほど、それ以外に何を変えたかが重要になる。足の写真だけでは、背中側の条件が抜け落ちる。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
女性のレッグプレス研究では、足幅より何が見えたか
若いトレーニング経験のある女性10人を対象にした横断研究では、傾斜型レッグプレスの足先の回旋を0〜45°、足幅を骨盤幅の100〜150%という範囲で変えた。測定した筋肉は、太ももの前側の内側広筋斜走部、外側広筋、大腿直筋と、お尻の中殿筋である。内ももの筋肉を全部測った研究として読むことはできない。[20]
動作速度も比較されている。下ろす局面と押す局面をそれぞれ2秒で行う条件と、できるだけ速く押す意図の条件だ。どちらの速度条件でも、調べた足の置き方の間では似た筋活動パターンが見られ、押す局面で活動が大きかった。一方、できるだけ速く押す意図の条件では全体の筋活動が大きかった。[20]
ここでの「似ていた」は、足幅に意味がないという宣言ではない。対象は運動経験のある若い女性で、調べたのはその傾斜型レッグプレスと設定の範囲である。初めて器具に座る人や、別の構造の器具まで含めた普遍的な順位ではない。また、筋活動が似ていたことと、動きやすさが各人で同じであることも分けておきたい。[20]
測定された筋肉の中で最も活動が大きかったのは内側広筋斜走部で、続いて大腿直筋、外側広筋、中殿筋であった。内側広筋斜走部は、名前に「内側」があっても太もも前側の筋肉である。「内側が働いた」という言葉だけを見て、内ももの内転筋への特別な効果と読み替えないことが大切だ。[20]
足先を回さず骨盤幅の100%で、できるだけ速く押す意図の条件では、速度やパワーなどの運動学的な指標が最大となった。ただし、これは出力の測定結果であり、全員がその設定を選ぶべきだという処方ではない。まして、幅を広げると運動が無意味になるという結果でもない。どの指標が高かったのかを省略すると、数字だけがひとり歩きする。[20]
夕方の器具で「今日は足を広げたからきつい」と感じた場合も、押す速さを変えていないか振り返りたい。研究では足の置き方だけでなく速度条件にも違いが出ている。足幅と速度を一緒に変えた記録では、どちらが感覚の違いに関わったかを整理しにくい。足幅の話をしているつもりで、実は押し方の話になっていることがある。[20]
スクワットでは、幅と重りの位置が組になっている
バーベルスクワットでは、足幅の影響を示した実験もある。男性9人と女性9人が、重い負荷で3回行える条件を使い、バーを高く担ぐか低く担ぐか、足幅を狭くするか広くするかを組み合わせた研究だ。低く担いで広く立つ条件は、ほかの条件より全体の関節モーメントに占める股関節の寄与が大きかった。男女混合の結果であり、18〜39歳の女性だけに同じ分担が生じるかは、この比較からは判断できない。[18]
関節モーメントとは、関節のまわりに働く回転作用の大きさを表す指標である。この研究では、高く担いで狭く立つ条件で膝の寄与が大きく、太もも前外側の外側広筋の電気的活動が高く、お尻の大殿筋の活動は低かった。「広いか狭いか」だけでなく、どこに重りがあるかを含めて読む必要がある。[18]
ただし、この結果を「広く立てば必ずお尻だけに効く」と短縮してはいけない。別の実験では、男性11人と女性13人が狭い・中間・広い足幅でバーベルスクワットを行い、広い条件で股関節を伸ばす方向と外へ回す方向のモーメントが大きくなった一方、股関節を内へ寄せる方向のモーメントには足幅間の差がなかった。男女を含む結果を18〜39歳の女性へそのまま当てはめず、動作条件を読む手がかりにしたい。[11]
脚を大きく開いた姿は、いかにも内もも専用に見える。しかし、この実験で内転方向の要求が足幅とともに増えていなかった。見た目の開きと、特定方向へ力を出す要求は別に測る必要がある。内ももの張る感じだけで、その筋肉への負荷を一律に順位づけすることも避けたい。[11]
研究ごとに「ワイド」の決め方も異なる。バーベルの研究で使われる体格に対する幅と、レッグプレス研究で使われた骨盤幅に対する割合を、同じ目盛りとして扱うことはできない。生活の記録でも、単に広いと書くより、その人のどの位置を目安にしたかを残すほうが、次の比較につながる。[1][20]
さらに、バーベルを使った別の研究は、普段選んでいる足幅を調べる実験と、足幅を指定して変える実験を分けている。前者は70人、後者は20人が最大挙上重量の70%で行った。指定条件の実験では狭い足幅で大腿四頭筋の推定力が大きく、両実験では広い足幅で体の後ろ側の筋群の推定力が大きかった。対象はバーベルを挙げる人々で、18〜39歳の女性に同じ推定力の違いが生じるかは、この結果だけでは判断できない。[1]
普段の幅が違う人同士を比べることと、同じ人に幅を変えてもらうことは、比較の組み立てが異なる。レッグプレスの日と自宅の日を比べる日誌でも、器具、持ち方、幅をすべて替えたままでは、幅だけの説明にならない。研究の結果を覚える前に、何を変更した比較なのかを言葉にすると、別種目への当てはめを減らせる。[1][20]
数字で読む足幅と動作条件
女性10人:足幅と足先の向きを変えた傾斜型レッグプレス研究の対象である。[20]
骨盤幅の100〜150%:その研究で調べた足幅の範囲であり、全員への推奨値ではない。[20]
下ろす2秒・押す2秒:速度をそろえたレッグプレスの条件である。[20]
男性9人・女性9人:バーの高さと足幅を組み合わせたスクワット研究の対象である。[18]
男性11人・女性13人:股関節の方向別のモーメントを比較したスクワット研究の対象である。[11]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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