大胸筋の筋トレで何セット行うか迷うとき、同じ回数でも限界までの余力はそろわない。「あと何回できる」という予想はどれほど当たるのか。ベンチプレスの研究を中心に、予想と実際の誤差、練習による変化、速度を使う方法、追い込みと疲労の違いを読み、記録の見方を考える。
ベンチから起き上がり、胸の筋トレの記録に予定どおりの回数を書く。ところが、終えた直後の感想は「まだできた気もする」。予定表の丸印は付いたが、胸を押す動作にどれだけ余力が残ったかは別の問いである。
大胸筋の筋トレは何セット必要か。その判断の前に、各セットをどこで止めたかを見たい。ベンチプレスでは「あと何回できる」という予想が比較的正確だった研究がある一方、練習を重ねても精度が改善しなかった研究もある。[5][11][15] 目標回数を決める方法と、残せる回数を見積もる方法は併用できるが、予定を達成したことだけで余力まで確定はしない。
既存記事「女性の筋トレは残り回数を知らないときつい?終わりの予想と力の出方を読む」には、終点を知らされることの論点を譲る。ここで扱うのは終了の予告ではなく、自分が申告した余力と、実際に続けられた回数との差である。重さを自分で選ぶ問いとも分け、予想の確かさを中心に読む。

回数の予定と、残せる回数は別の情報である
残せる反復回数を表すのが、余力回数とも呼ばれるRIRである。限界まであと何回反復できるかを見積もり、筋トレの強さを調整するために使われる。[5] 「きつい」という感想を、その動作を続けられる回数に置き換えた物差しと考えると理解しやすい。予定の残り回数を答えるのではなく、今ここからの能力を答える点が要所になる。
研究では、その予想を口にしたあとも動作を続け、持ち上げられなくなるまでの実際の回数と照合する方法が用いられている。[7][11] たとえば「あと2回」という申告そのものと、本当に残っていた回数を区別して測る。[7] 本人が自信を持って答えたかではなく、予想がどの程度外れたかを見る設計である。
この物差しを使う意義を整理したスコーピングレビュー、つまり研究領域を幅広く整理するレビューでは、31研究、計855人が検討された。参加者は主に成人男性であった。余力回数を指定し、その目標に合うように負荷を調整する使い方が多く、運動の強さを処方・調整する方法として実用性があると整理されている。[5] 18〜39歳の女性にそのまま当てはめられるかは未確定で、とくに初心者の精度は別に確かめる必要がある。
レビューでは、予想は動作の限界に近いところで行うほど正確になる傾向も示されている。[5] ただし、これは精度が高くなる条件の話である。日常の筋トレで毎回限界まで続けるべきだ、という指示に読み替えることはできない。測り方の検証と、続けやすい運動の組み方には違う判断が必要になる。
回数だけの記録では、予定に従って止めたのか、動作を続けられず止めたのかが後から分からなくなる。そこで、回数に加えて「余力の予想」と「終了した理由」を言葉で添えると、記録の意味を整理しやすい。これは記事からの記録上の提案であり、回数の申告を実測値に変える方法ではない。スマホの欄が増えても、筋肉の中を直接見られるようにはならない。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
ベンチプレスで予想はどれくらい当たったか
筋トレ経験のある男女各12人、計24人を調べた研究では、バーベルのベンチプレスを、最大挙上重量の75%で実施した。最大挙上重量とは、その動作で最大限持ち上げられる重量を指す。参加者は動作中に「あと1回」または「あと3回」と判断したところで申告し、その後も限界まで続けた。[11] 予想を確かめる相手は、その人自身の実際の反復だった。18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、経験者を調べた結果である点を踏まえる必要がある。
全セット・全測定日を合わせた結果、方向を含む誤差の平均は−0.17回、標準偏差は1.00回であった。誤差の大きさを表す絶対誤差は平均0.65回、標準偏差0.78回だった。[11] この条件では比較的正確であったと読めるが、平均値だけで全員の申告がぴたりと当たったと考えるのは早い。人による違いや測定ごとのずれを含む数字である。
誤差の「方向」と「大きさ」は分ける必要がある。余力を多めに見積もった場合と少なめに見積もった場合を平均すると、互いに打ち消して小さな値になりうる。外れた回数の大きさを見る絶対誤差も併記するのはそのためである。この研究が両方を示している点は、予想の信頼性を読むうえで役立つ。[11]
この研究では、予想の精度と性別、筋トレ経験年数、相対的なベンチプレス筋力との関連を示す証拠は見つからなかった。[11] 「女性だから余力を読めない」「重いものを持てる人なら必ず正確」といった決め付けにはつながらない。ただし、経験のある人を調べた結果であり、初心者の女性が同じ精度で予想できるかは、この比較からは判断できない。
また、この結果では、あと1回とあと3回という予想の間や、セット・測定日の間について、±1回を同等とみなす範囲で精度の同等性が示された。[11] レビューで示された「限界に近いほど正確になりやすい」という全体傾向と、この限定された比較は両立する。[5][11] 近い範囲同士を比べた研究と、幅広い条件を集めた研究では、見ている幅が違うからである。
練習すれば、予想のずれは縮まるのか
予想を練習可能な技能として扱った研究もある。若年成人13人と高齢成人13人が、6週間で6回の測定・練習を行った。ベンチプレスとレッグプレスを最大挙上重量の75〜85%で行い、あと4回、あと2回と思った時点を申告したあと、限界まで続けた。[7] 若年群には女性9人、高齢群には女性7人が含まれていた。[7] 18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、男女と年齢群を含む小規模な比較である点に留意したい。
平均絶対誤差は初回から最終回にかけて最大2.3回減少し、年齢群による有意な違いや、練習に伴う変化の群間差は認められなかった。[7] この小規模な反復測定研究では、若い人だけに限らず予想の改善が見られたのである。ただし、最大2.3回とは、どの人も同じだけ改善したという数字ではない。全員の上達を約束する値として使わないことが大切だ。
一方、経験のある男性9人が、慣らし期間のあとに週3回、6週間ベンチプレスを行った研究では、絶対誤差の有意な改善はなかった。各回の最終セットであと4回とあと1回を申告し、その後も限界まで反復した試験である。[15] 18〜39歳の女性にそのまま当てはめられるかは、この男性経験者の試験では確かめられていない。時間とともに余力を少なめに見積もる傾向は強くなったが、それは外れの大きさが小さくなったことを意味しなかった。[15]
経験のある男性19人を無作為に分けた別の試験でも、6週間の練習後に予想誤差は改善せず、群間差もなかった。ここでは最大挙上重量の85%を使い、反復の途中に短い休息を入れる方法と、通常のセット構成を比べていた。[4] 18〜39歳の女性にそのまま当てはめられるかは未確定であり、女性初心者の練習効果は分けて考えたい。この男性経験者の比較では、疲れ方を変えても予想の改善には結び付かなかった。
改善した研究を選んで「慣れれば解決」と言い切ることも、改善しなかった研究から「練習には意味がない」と決めることも避けたい。対象、負荷、申告する余力、練習の組み方が違い、研究結果もそろっていない。[4][7][15] 日常の記録では、同じ運動を続けた期間と、予想の確かさを別々に見る姿勢が役立つ。運動歴の長さは、予想の採点表そのものではない。
研究の結果を自分の予定に移すときは、上達の有無だけでなく、何をもって上達としたかも確かめたい。若年・高齢成人の研究は平均絶対誤差の減少を示し、経験男性の研究は、誤差の方向が変わっても絶対誤差は有意に改善しなかったと報告している。[7][15] どちらも「予想が変わった」とだけ書けば同じに見えるが、実際には違う変化を測っている。自信が増すこと、控えめに答えること、当たりやすくなることを混ぜないための区別である。
さらに、反復間の休息を入れた群では、通常のセット群より余力の申告が大きく、序盤のきつさの評価が低かったが、練習後の予想誤差は改善しなかった。[4] その場で「余裕がある」と感じる条件を作ることと、その感覚を正確な回数に翻訳できることは違う。前回より楽に終えられた日も、楽だったという感想はそのまま残し、読みが正確になった証拠に格上げしないほうが記録の用途は明確になる。
ただし、こうした検証を日常のたびに再現する必要はない。予想を予想として残しておけば、指導を受ける際に「どこで終えるつもりだったか」を伝える材料になる。答えを言えなかった日は、分からなかったと残してよい。見積もりの方法を扱うレビューも、性別や運動経験、種目などの影響を今後さらに検討する必要を挙げている。[5] 記録の空欄を、根拠のない確信で埋める必要はない。
数字で読む余力の予想
31研究・855人:余力回数の使い方を整理したレビュー。対象は主に成人男性である。[5]
0.65回:経験のある男女のベンチプレスで得られた平均絶対誤差。標準偏差は0.78回である。[11]
最大2.3回:若年・高齢成人の反復測定でみられた、平均絶対誤差の減少幅である。[7]
6週間:経験男性の練習研究では、この期間を経ても絶対誤差が有意には改善しなかった。[15]
25%:限界まで行った条件での運動後の挙上速度低下。余力を残す条件と比べるための疲労指標である。[19]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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