ヘルスリテラシーは体重とどう関わるのか。読む力の測り方、体重と運動の関連、自己申告と歩数のずれ、日本の職場の1年、読む力に合わせた2年の指導の試験を論文で確かめる。知識が足りないから太るという見方を疑い、説明の受け取り方から見直す具体を、読者の数字で考える。
健診の結果の紙を、台所のテーブルに広げる。腹囲と中性脂肪の欄の横に小さな矢印が並び、裏面には細かい字で暮らしの注意が続く。読み終えるころには、湯のみのお茶が冷めている。
「正しい知識さえあれば、痩せられる」。ダイエットの広告にも健康の番組にも、この言い回しはよく出てくる。情報はいくらでもあるのだから、あとは本人次第だ、という含みを連れて。
ヘルスリテラシーとは、健康の情報を読み、理解し、使う力を指す。この力が低い人に体重の多い人が多い、という報告は確かに多い[4]。ところが説明の仕方を読む力に合わせて作った2年の試験では、減り方に読む力の差が出なかった[1]。人を知識で分ける言い回しと論文の答えは、同じ場所に立っていない。

読む力は、何で測られているのか
イングランドの高齢者の研究は、読む力を薬のラベルの読み取りで測った[6]。52〜79歳の4,345人に4問を解いてもらい、全問正解なら高い、3問なら中くらい、2問以下なら低いとする。高い人が72%、中くらいが18%、低い人が10%だった[6]。問われているのは難しい医学の知識ではなく、手元の薬の説明を読んで分かるかどうかである。薬局の袋に入った紙を帰り道に読み返す、あの作業が研究の物差しになっている。
日本の職場の研究は、47項目の質問票の日本語版を使った[15]。手術を受けた人の研究は、読む力に加えて健康に関わる計算の力も測っている[9]。ヘルスニューメラシーと呼ばれる、数字を扱う力である。食品の表示を100gあたりから1袋あたりへ直す、体重の増減を割合に直す。暮らしの中で、この力は案外よく使われている。オーストラリアのリハビリの研究は、また別の二つの検査を用いた[20]。同じ「ヘルスリテラシー」の語の下に、ラベルの読解、質問票、計算、短い検査が同居している。
では体重の話に合った物差しはあるのか。肥満の分野では、読む力は変えられる要因として注目されてきた[7]。肥満のある人の読む力の測り方を整理したスコーピングレビュー(研究の範囲を地図のように整理する論文)は、12本、15,393人分の論文を調べた[7]。測る道具はいくつもあるが、肥満に関わる三つの領域、すなわち心理の知識、栄養の知識、身体活動の知識をまとめて測った研究は無かった[7]。著者らは肥満に特化した尺度が要ると結論している[7]。栄養の表示は読めるが気持ちの波を扱う知識は薄い、運動の本は読むが食事は勘に頼る、という人は珍しくないだろう。この記事で「読む力」と書くときも、一本の物差しがあるわけではないと思っていてほしい。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
読む力と体重は、多くの研究で同じ向きを指す
2005年から2017年の論文を集めた系統的レビュー(決めた手順で論文を集めて評価する研究)は、22本のうち17本で、読む力の低さと高いBMI、過体重、肥満の関連を認めた[4]。関連は成人より子どもで一貫しているという[4]。2000年から2020年の文献を集めた別のレビューは、725件の候補から子ども4本、親子7本、成人28本の計39本を取り上げ、読む力が肥満の管理とBMIを決める、という強い言葉を使う[8]。学校の授業に読む力の教育を組み込むことも提案している[8]。
だが後者に入っているのは横断研究だけである[8]。横断研究は一時点の写真なので、読む力が先か体重が先かも、ほかの条件が両方を動かしたのかも区別できない。ある試験の論文は冒頭で、所得の低さと読む力の低さが並んで健康の結果の悪さと結びつくと書く[1]。読む力の低さだけを取り出して体重の原因と呼ぶには、写真の枚数が多いだけでは足りない。
所得や学歴そのものと体重の話は「収入・学歴と体重の結びつき ブラジルの男女で逆を向いた生涯の社会経済状況」の記事に、店頭の表示の話は「パッケージの栄養表示で買い物は変わるのか 信号の色と警告マーク、星の数を比べた試験」の記事に譲る。ここで見るのは、情報を読んで使う力そのものである。

「動いている」という答えと、活動計の答え
地域で暮らす平均55歳以上の人を対象に、13本の論文のうち5本を統合したメタ分析(複数の研究の結果を統計でまとめる方法)がある[12]。読む力が不十分な人は十分な人に比べ、週5日以上の身体活動を報告する見込みが38%低かった。オッズ比は0.62、95%信頼区間は0.55〜0.77である[12]。ところが活動計を使った研究は2本だけで、そちらの1日の歩数には有意な差が無かった。標準化平均差は−0.15、95%信頼区間は−0.30〜0.01である[12]。
報告された活動と測られた歩数で、差の見え方が違っていた[12]。本数が少なく、理由もこの論文からは分からない。それでも、質問に「動いている」と答えられるかどうかと、実際に足が動いたかどうかは別の測り方である、という教訓は残る。読む力の研究には、質問票で読む力を測り、質問票で活動を測るものが混じる。質問票どうしの差を、そのまま暮らしの差と読まないほうがいい。著者らは、読む力を高めて高齢者が健康の判断をしやすくすることで活動を育てられる可能性を挙げている[12]。これは今後の話で、試した結果ではない。
時間を長く見た研究もある。先のイングランドの研究を2004/2005年から2012/2013年まで8年追うと、毎週の中強度以上の活動を5回の調査すべてで続けていた人は、読む力の高い人で59%、低い人で33%だった[6]。社会的な条件、体の健康、記憶などの認知をそろえて計算した、低い人と比べた調整オッズ比は1.37(95%信頼区間1.04〜1.80)である[6]。記憶力や言葉の流暢さとも弱い関連があり、読む力だけが働いているとは言えない[6]。
日本の職場の6,060人は、どちらの向きにも動いた
日本の農村部の企業で、18〜64歳の従業員6,060人を1年追った研究がある。開始時に運動習慣があった人は18.6%で、2019年と2020年の両方で運動していた人は14.1%、両方ともしていなかった人は74.6%だった[15]。毎日1時間以上動いている人は開始時に39.9%で、両年とも動いていた人は29.1%、両年ともそうでなかった人は49.4%である[15]。読む力の高い組は、運動を続ける人の割合が低い組より高かった[15]。ここまでは予想どおりである。
おもしろいのは次の一行だ。読む力の高い組は、運動をやめる方向にも、始める方向にも、どちらにも動きやすい傾向があった[15]。著者らは、読む力を高めることが働く世代の活動を良くすると示唆している[15]。読む力は、人を運動に縛りつける力というより、暮らしの変化に合わせて動く身軽さに近いのかもしれない。もっともこれは私の読みで、論文は理由を示していない。1年の観察でもある。
リハビリの参加者の64%に代謝症候群、知っていたのはその2%
メルボルンの地域のリハビリに通う193人の横断研究では、123人、つまり64%に代謝症候群(メタボリックシンドローム)があった[20]。そのうち自分で知っていたのは3人、2%である[20]。代謝症候群のある人は読む力の検査の点が低く、活動計で測った1日の歩数は1,311歩(95%信頼区間375〜2,246)少なかった[20]。一方、食品の摂取頻度の質問票で見た食事には差が見られなかった[20]。読む力の研究は運動に比べて食事の証拠が薄く、成人の日常で読む力と食事の質を比べた数字は、集めた論文の中に乏しかった。
ここで、知らないのは本人の落ち度だ、と読むのは筋が違う。参加者はさまざまな不調でリハビリに来た人で、代謝症候群の治療のために集まった人たちとは違う[20]。著者らが求めているのは、医療の側が暮らしまで含めて見る、広い対応である[20]。読む力の話は、読む側だけの話で終わらない。
数字で読むヘルスリテラシー
22本のうち17本:系統的レビューの対象の研究のうち、読む力の低さと高いBMI、過体重、肥満の関連を認めた本数[4]。
0.62:読む力が不十分な高齢者が週5日以上の身体活動を報告する見込みを、十分な高齢者と比べたオッズ比。歩数の差とは別の結果である[12]。
59%と33%:順に読む力の高い人、低い人のうち、毎週の中強度以上の活動を5回の調査すべてで続けていた人の割合[6]。
14.1%:日本の従業員のうち、2019年と2020年の両方で運動していた人の割合[15]。
2%:代謝症候群があった123人のうち、自分でそれを知っていた人の割合[20]。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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