双極性障害のある人の体重増加は、薬の作用だけでは説明しきれない。肥満との関連を束ねたメタ分析、代謝症候群の割合の開き、オランザピンの解析、定期的な測定で見つかった異常、条件を満たす試験が無かったレビューを読み、主治医に聞くべきことを整理する。
「薬太りだから、しかたがない」。診察の帰り道に、増えた体重を思い出して、そう自分に言い聞かせる人がいる。
この言葉は間違いとは言い切れないが、双極性障害の体重の話を一語に縮めすぎている。45の研究を読んだレビューは、体重増加の危険因子として、体重が増えやすい薬のほかに、むちゃ食いの併存、うつの回数、炭水化物の摂りすぎ、運動の少なさを挙げた[19]。薬は大きな要因の候補ではあるが、全部ではない[14]。
言葉が狭いと、見る数字も狭くなる。体重だけを気にしていると、腹囲や血糖や血圧の変化を見落とす。逆に、暮らしの努力だけの話にすると、増えた責任を本人に押しつけることになる。どちらの読み方も、論文の中身とは合わない。なお、処方を決めるのは主治医であり、この記事は薬の変更も中止も勧めない。

肥満との関連はあるが、どちらが先かは分かっていない
双極性障害は、気分、認知、行動の極端な変化を特徴とする病気で、世界で約6,000万人に影響するとされる。コクランの系統的レビューの背景説明によると、治療を求めて受診した人の約68%が過体重か肥満である[9]。一般の集団より過体重や肥満の危険が高いらしいことは、20年以上前のレビューでも指摘されていた[19]。
数字でまとめたのが、Zhaoらのメタ分析だ。9本の横断研究、双極性障害の12,259人とそうでない615,490人を統合すると、肥満と双極性障害の関連はオッズ比1.77(95%信頼区間1.40〜2.23)だった[8]。オッズ比は2つの群の起こりやすさを比で表す数字で、1なら関連なしを意味する。横断研究は、ある一時点の状態を切り取る調査のことである。
大切なのは、著者ら自身が書いている限界である。前向きに追った研究を含まないため、肥満が双極性障害の危険を高めたのか、その逆なのかは決められない[8]。肥満の人に双極性障害が多いという数字を、「太ると発症する」と読むことも、「発症すると必ず太る」と読むことも、この研究からはできない。
それでも体重が問題にされる理由は、体の病気にある。肥満は糖尿病、高血圧、代謝症候群、心血管の病気につながりうると、臨床の側でも認識されている。心血管の病気は双極性障害の人の早すぎる死の主な原因で、一般の集団より10年以上早く起きるとされる[9]。体重の話は、見た目の話である前に、心臓と血管の話として論文に出てくる。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
代謝症候群の割合は、研究によって2割から6割台まで
体重の次の物差しが代謝症候群である。血圧、血糖、HDLコレステロール、中性脂肪、腹囲を組み合わせて判定する[13]。どれか1つの数字を見るより危険の重なりを見る考え方で、双極性障害の人では心血管への影響が懸念されている[14]。
同じ人を追った記録がある。59人を平均62.1か月、およそ5年追った研究では、基準を満たす人の割合が54.2%から66.1%へ上がった[4]。2回の評価とも、最も多い異常は腹囲の増加だった。2番目に多い異常は、最初は中性脂肪だったが、追跡のときには空腹時血糖に入れ替わった[4]。巻尺の数字は先頭のまま、その下の順位が入れ替わった。ベルトの穴やスカートの留め具で気づくのも、この数字である。
若い人を調べた研究では割合は低いが、安心できる数字とは言えない。平均20.8歳の162人を調べた研究では19.8%で、著者らは一般の集団の少なくとも2倍と評価し、発症の早い人の治療にも、代謝の危険因子への取り組みを組み込むよう求めている[13]。
国際的な総説は、一般の集団と同程度という報告から約2倍という報告まで、推定に幅があるとしたうえで、危険の高さは12か国で報告されていると述べる。代謝症候群が重なる人では、病状が複雑で、治療への反応が思わしくなく、経過も好ましくないことと関連するという[20]。ここも関連の話で、どちらが原因かまでは言っていない。
2割と6割台の開きには、年齢、通う場所、判定の基準、追跡の長さの違いが混ざっている。同じ物差しで測った数字ではないので、どれか1つを「双極性障害の人の割合」として覚えないほうがよい。

オランザピンの解析で見えた、増え方の時間の形
薬の影響を具体的な数字で示す報告として、オランザピンの解析を1つ読む。急性の躁状態の双極I型の人を対象に、3週間の無作為化試験に続けて、最長1年の非盲検の継続投与が続いたデータである。非盲検とは、本人も医師も薬を知っている形を指す。113人が平均28.6週飲み、BMI(体格指数)は平均28.8から31.0へ、増加は7.9%だった[6]。もともと高めだったBMIが、肥満の範囲に入った形である。最初の3週間のBMIの変化は最終的な増加を予測したが、その関連の強さは、最初の数字だけで先が決まるほどのものではない[6]。病気の経過が長い人や物質使用の経験がある人は、増え方が中央値より小さい側に入りやすかった[6]。
症状が回復した40人のBMIの増加は11.9%で、回復しなかった73人の5.3%より大きかった[6]。服用期間も順に44.7週と19.7週で、回復した人のほうが長かった。著者らは、回復と体重増加の関連は長く服用した結果だろうと見ている。BMIの増加が中央値を超えた人では、超えなかった人より血圧、脈拍、空腹時でない血糖の上昇も大きく、コレステロールの値が新たに240mg/dL以上になる頻度は3.6倍だった[6]。体重の変化は、体重だけの話で終わらない。
この解析は1つの薬の、病気の経過が長くBMIがもともと高い人たちの記録である[6]。薬を良し悪しで並べる材料にはならない。薬ごとの話は、この特集の「リチウムを飲む人の体重増加 双極性障害の長期治療で何が起きているか」と、「抗精神病薬による体重増加に食事と運動はどこまで効くか 治療を続けるための支援」に譲る。
気分の波と暮らしも、同じ表に載っている
平均20.8歳の研究に戻る。代謝症候群は、直前の6か月のうち、うつ症状が基準を満たした週の割合や、抗うつ薬を使った週の割合と関連していた。躁の症状や、抗うつ薬以外の薬とは関連がなかった[13]。一時点の測定と振り返りを組み合わせた研究なので、うつが代謝を悪くしたとも、その逆とも言えない。
非系統的なレビューは、代謝症候群が多い背景として、向精神薬の副作用を大きな要因の候補に挙げつつ、不健康な生活習慣、神経内分泌や免疫・炎症の共通の異常、遺伝的な弱さも役割を持ちうるとする。因果の全体像はまだ不確かだとも書く[14]。導入で触れたレビューでも、むちゃ食いの併存は、うつの回数と並ぶ危険因子として扱われている[19]。食べ方が止まらなくなることは、気合いの項目としては載っていない。
1,600人を2回の調査で約3年追った全国調査(National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditions)では、肥満のある506人は、ない1,094人に比べて、新しい体の病気が報告されやすかった。年齢などの属性を調整した後でもオッズ比は2.32(95%信頼区間1.63〜3.30)で、関節炎でも1.64だった。心筋梗塞の発生は肥満のある人で2倍だったが、この差は統計的に有意ではなかった[16]。
どの研究も、本人の意志の強さを測ったものではない。病気、薬、暮らしが同じ表に並んでいるということは、体重の増加を1人の努力の不足に戻せないということでもある。
数字で読む双極性障害と体重
82.1%:9本の横断研究を統合したメタ分析で、研究の間のばらつきを示す指標の値。オッズ比1.77は、結果の開きが大きい研究を束ねた数字である。[8]
56.5%と46.9%:平均20.8歳の162人の研究で、代謝症候群の基準の中で多かった2つの割合。順にHDLコレステロールの低さ、腹部の肥満。[13]
0.32:オランザピンの解析で、最初の3週間のBMIの変化と最終的なBMIの増加の順位相関係数。関連はあるが、強いとは言いにくい大きさである。[6]
17.5%と3.6%:同じ解析で、血清コレステロールの値が平均で上がった率。順に、BMIの増加が中央値を超えた人、超えなかった人。人の割合ではなく値そのものの変化である。[6]
1.81と6.98:約3年の全国調査で、肥満のある人の、ない人に対するオッズ比。順に新たな高血圧、医師に診断された糖尿病。糖尿病は2回目の調査でだけ尋ねられた。[16]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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