クライミングの消費エネルギーと指の負担 体脂肪を測った8週間の登り方

クライミングでは、前腕で体を支える力と消費エネルギーの関係が運動の読みどころになる。競技者の体格を比較した系統的レビューと、19人が参加したトップロープ式の8週間の試験を紹介。心拍数、体脂肪の測定、指への負担、糖質とたんぱく質の摂り方から、登る運動と体重の関係をたどる。

壁の手がかりに指を掛け、次の足の置き場を探す。ボルダリングで体を締めたいと思うと、上級者の細い体にも目が向く。競技者の体格を比べた研究と、実際に登る練習を続けた試験が、この運動と体組成の関係を調べている。[2][8]

実際に登る練習を続けて体組成を測った試験はある。ロープを上方から確保するトップロープ式で、練習の頻度と強度を決めて行ったものだ。運動前後に体脂肪だけでなく体力も測っている。[2]

壁の手がかりを握り、体を支え、次の動きを探す。この運動を体重の話だけで説明すると、指が繰り返し力を出すことや、疲れから回復することが抜け落ちる。生理学のレビューが描いているのは、軽さだけで完結しない登る体の姿である。[4]

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競技者の細さは、初心者の減量予測とは違う

体組成とは、体重の中身を脂肪やそれ以外の組織などに分けて捉える見方である。Ginsztらの系統的レビューは、体重や体脂肪、筋力・持久力などを扱った研究を集め、登る能力の違う競技者と、クライミングをしない人を比較した。競技者では対照者より体重と体脂肪が少なく、競技者の中でも上級者ほどそれらが少ないという結果だった。一方で、指を曲げて保持する特定の握り方での最大筋力や、体重に対する指の筋力、握力、力を出し続ける能力にも違いがあった。「軽い」という特徴だけを抜き出すと、この比較の半分しか見ていないことになる。[8]

レビューの検索対象は2000年1月から2021年10月までに発表された論文で、PubMedとScopusという論文データベースを用いている。比較に含めた体組成の項目は、体重、体格指数、体脂肪、脂肪以外の筋肉の量、骨密度だった。身長や、両腕を広げた長さと身長の関係も調べている。腕の長さを表すこの指標では、分析した研究のいずれにも競技者の群間差は見られなかった。[8]

指の筋力では、指を半分曲げて保持する握り方で発揮する最大の力を比較している。この値は最上級の競技者で、その次の水準の競技者より有意に高かった。また、力をどれだけの時間出し続けたかを組み合わせた指標や、懸垂も持久力の評価対象になっている。体重と体脂肪の比較に、こうした上肢の能力の測定が組み合わさったレビューなのである。[8]

対象の種目はリード、スピード、ボルダリングで、著者らはそれぞれ身体的努力の性質が異なると述べている。競技者と対照者の違い、最上級とそれ以外の競技者の違いという、比較する相手の軸もある。体組成と筋力・持久力を並べる構成は、登る能力を複数の面から捉えようとする研究の問いを示している。[8]

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体脂肪を測った試験は、トップロープ式だった

Arasらは、運動習慣の乏しい健康な成人を対象に、クライミングのトレーニングを行う群と、運動しない対照群に無作為に分けた。参加者は合計19人である。練習はトップロープ式で、1日60分、週3日、8週間。強度は最大心拍数の70%に設定し、毎回心拍計で管理した。練習群はほかの正式な運動プログラムには参加しなかった。つまり、単に好きなときに壁を登った人を後から集めた比較ではなく、運動内容を決めて前後を測った小規模な試験である。[2]

結果には体脂肪率16.3%、体脂肪量18.4%という前後の変化に関する値が記され、統計的な差が報告された。体脂肪率の検定はP<0.01、体脂肪量はP<0.05である。P値は、ここでは前後の差を統計的に評価した結果を表す。最大酸素摂取量という、運動中に酸素を取り込む能力の指標には5.54%の変化があり、こちらもP<0.01だった。筋力と筋持久力にも改善が報告されている。[2]

測定は運動前と運動後に行われ、筋力・筋持久力には毎秒60度と120度という動作速度の条件が用いられた。体脂肪の割合、脂肪の重さ、酸素を取り込む能力、力を出す能力を、それぞれ別の測定で追っている。著者らが結論に置いたのは、座りがちな成人の体力を維持・改善する活動としての可能性である。[2]

研究の読み方で押さえたいのは、試験条件と観察結果の違いだ。体脂肪の16.3%と18.4%は、終了時の値や減少したポイント数、個人の減量kg数へ置き換えられない。トップロープ式の小規模試験、競技者の体格比較、過去の傷害を尋ねた調査は、それぞれ問いと対象が異なる。以下の登攀時間や左右の負荷比も測定された値であり、初心者に割り付けた安全な練習量ではない。[2][5][6][7][8]

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心拍の高さを、そのまま消費カロリーに変えない

Gilesらの生理学レビューによると、クライミングには、筋肉の長さを大きく変えずに力を出す「等尺性収縮」が繰り返される特徴がある。壁で静止しているように見えても、前腕は保持する仕事をしている。一般の人との差も、握る力を一度測るだけでは見え方が変わる。絶対的な握力では競技者と一般集団の差は小さかった一方、体重に対する力で表すと、最高水準の競技者の値は高かった。また、握る・緩めるを繰り返す測定では競技者の持久力が優れていたが、握り続ける測定では同じ違いは現れなかった。何を測った「強さ」なのかが大切になる。[4]

同じレビューでは、難度が上がるほど、登る距離あたりの酸素摂取量、エネルギー消費、心拍数が増すことが述べられている。ただし、心拍数の上昇は酸素摂取量の上昇に比べて不釣り合いに大きかった。手首の画面に高い心拍数が出たとき、その高さだけを根拠に別の運動と同じ消費量だと決めつけるのは慎重でありたい。前腕で支える運動の特徴を含めて解釈する必要がある。また、登る合間の回復については、軽く活動する回復方法のほうが回復の速さに優れたと紹介されている。登っている時間だけを長くする発想から、力を戻しながら繰り返す発想へ目を移す材料になる。[4]

Gilesらは、登る角度が増すにつれて血中乳酸が増え、握力と握り続ける持久力の低下にも関連したと述べている。腕や肩の筋力と持久力は、上半身への要求が大きい難しい登りで有利に働く可能性がある。柔軟性については、成功を決める要因としては特定されていなかった一方、登る動作に特有の柔軟性には価値があり得ると整理している。全身の柔らかさという一言より、どの動作に必要な能力かに目を向けた記述である。[4]

等尺性の握力運動に対する血圧の反応も取り上げられている。競技者ではクライミングをしない人よりその反応が小さく、代謝産物の蓄積が少ないため、筋肉から循環への反射を刺激しにくい可能性が示されている。心拍数と酸素摂取量の関係には、こうした筋肉の代謝に関わる反射も考察されていた。レビューの結論は、生理的な能力と心理的な要因が複雑に関わって登る能力を形作るというものだった。[4]

難しい壁の測定値を、滞在時間全体へ掛けない

Wattsのレビューは、高い難度で登る人の生理学に焦点を当てたものだ。典型的な登攀の所要時間として2〜7分、登っている間の平均酸素摂取量として体重1kgあたり毎分20〜25mLという値を紹介している。対象は主として、難度の尺度で5.11/6c以上の登攀を扱った研究だった。さらに、登り終えた後も酸素摂取量が高い状態が続き、血中乳酸も高い状態が残ることが述べられている。壁を離れた瞬間に体の反応が終わるわけでも、施設にいる間ずっと同じ負荷がかかるわけでもない。[5]

同レビューに登場する競技者の最大酸素摂取量は、典型的には体重1kgあたり毎分52〜55mLだった。一方、登っている最中の平均は前述の20〜25mLで、30mLを超えるピークも報告されている。最大限に取り込める酸素の量と、実際の登りで使う量を、測定場面に応じて記述している。持続して登る間の酸素摂取量は一定の水準に達する傾向があり、登り終えた後の回復中にも高い状態が続いた。[5]

血中乳酸は登攀中に蓄積し、登り終えてから20分を超えて高い状態が続くという報告もある。厳しい登りでは、握力そのものよりも握り続ける持久力が大きく低下した。壁を離れた後にも反応が残ることと、瞬間的に握る力と繰り返し保持する力の違いが、このレビューの活動モデルを形作っている。[5]

高水準のトレーニングに必要な要素として挙がるのは、有酸素性の能力、特定の筋力と持久力、短時間に大きな力を出す能力である。さらに、非常に短い力の発揮に関わるエネルギー系と、酸素に頼らず糖を使うエネルギー系の出力・容量、腕と脚を動かす一定の可動範囲も含まれている。登りの2〜7分という長さの中に、こうした複数の要素が重なる。[5]

数字で読むクライミング

19人:体組成と体力を測った、成人の無作為化比較試験に参加した人数。[2]

5.54%:トップロープ式の試験で報告された最大酸素摂取量の前後の変化である。[2]

2〜7分:高い難度の登攀を扱うレビューに記された、典型的な登りに要した時間を示す。[5]

4.2件/1,000時間:一般のクライマーの質問票調査で報告された傷害の発生率である。[6]

5対1:左右の手への負荷を映像で調べた研究の、負荷時間と解放時間の比である。[7]

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宮川涼 Founder

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