息を吸う器具で筋肉を鍛えると、歩く力や体脂肪はどう変わるのか。肥満の成人と減量手術前後の無作為化試験をたどり、吸う力、肺機能、歩行能力を分けて確かめる。睡眠時無呼吸の統合解析で見えたBMIの低下と、無呼吸の頻度には差がない結果も取り上げ、日常の呼吸法との違いを考える。
12.9%。肥満の成人に吸う抵抗をかける訓練を行った試験では、訓練後の歩行テストの成績が対照群を上回った。歩いて進める距離は、体重計には表れない運動能力の一面だ。[20]
階段の途中で足より先に息が気になると、運動を始める気持ちがしぼむことがある。そんなときの選択肢として研究されているのが、器具の抵抗に逆らって息を吸う「吸気筋トレーニング」だ。肥満の成人を対象にした研究では、自宅で取り組める訓練として歩行能力の改善が調べられている。[2]
呼吸を整える方法については「呼吸法はストレス食いを減らすか」の記事に譲る。ここで扱うのは、吸う筋肉に抵抗をかける訓練だ。吸う力、息切れ、歩ける距離、体重。それぞれを別の成績表として受け取るのが出発点になる。[2][20]

吸う力を鍛える器具は、呼吸の筋トレに使われる
吸気筋トレーニングでは、吸うときに抵抗のある器具を使う。研究では負荷を「最大吸気圧に対する割合」で設定している。最大吸気圧とは、最大限に息を吸うときに生み出せる圧力のことで、吸う筋肉の強さを評価する指標である。息を長く止める能力や、肺に入る空気の量そのものとは測り方が異なる。[1][2]
肥満の成人を対象にしたレビューは、心肺の体力を評価する際に、呼吸筋の機能も確かめる意義を述べている。肥満に伴って呼吸筋の働きが低下している場合、それが運動能力の制限に関わる可能性があるからだ。体格だけを見て「脚の筋力が足りない」と決めつけず、呼吸側の条件も調べる考え方である。[17]
器具を使った試験で大事なのは、訓練群と対照群の両方が呼吸の練習をしている場合があることだ。同じ期間、同じように器具を使っても、吸う抵抗を変えて比べる。こうすると「呼吸に注意を向けたこと」と「一定の抵抗を加えたこと」を区別しやすい。呼吸した回数だけで結果を説明する読み方から、一歩進める設計である。[2][20]
割合の土台は測定された本人の最大吸気圧である。最大の力を測り、それに対する割合から抵抗を設定するという順番になる。高負荷群と低負荷群で異なる設定を用いたことが、これらの試験の比較を成り立たせている。[2][20]
肥満と運動能力を扱うレビューでは、運動中に呼吸のために使う酸素のコストや息切れが増す一方、安静時の肺気量やガス交換の変化が運動中には和らぐ場合もあると述べている。レビューが扱うのは、安静時から運動中へ移る間の呼吸の変化である。動いているときの負担には、呼吸のための酸素消費の増加も関わっている。[18]
このレビューでは、最大酸素摂取量の絶対値は標準体重の人より低下していなくても、同じ仕事量に対する酸素の消費が増え、達成できる最大の仕事量が小さくなると整理している。体重だけから体力の優劣を決めることも、酸素を取り込む能力の数字だけで日常の動きやすさを説明することも難しい。仕事量という別の物差しを添えると、検査結果と本人の負担感のずれを考えやすくなる。[18]
もっとも、このレビューが検討したリハビリテーションの根拠は、呼吸器の病気がある人の比較を多く含む。肥満だけを理由に呼吸リハビリテーションを行ったときの結論は十分にそろっていないとした。体格が近いことに加えて、どの病気があり、どの運動を受けた人かまで合わせて読む姿勢が欠かせない。[18]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
肥満の成人では、歩く能力を調べた試験がある
Edwardsらの無作為化試験では、BMIの平均が36の成人67人を、負荷の高い群35人と、低い群32人に分けた。BMIは身長と体重から計算する体格の指標である。両群とも4週間、毎日器具を使い、最大の吸う力に対する抵抗をそれぞれ55%と10%に設定した。[2]
高い負荷の群では、吸う力が19.1 cmH2O増加した。cmH2Oは圧力を表す単位であり、体重や肺活量の単位とは違う。歩行テストで進んだ距離も高い負荷の群で有意に延びたが、低い負荷の群ではそうした変化は認められない。[2]
訓練群では、歩行成績の変化率とBMIに正の関連があった。歩行距離が有意に延びたのは高負荷群だけだった。吸う力の増加に加えて、体を移動させる課題にも変化が表れた点が、この試験の中心となる。[2]
研究者は、身体活動への参加に向けた準備として役立つ可能性を挙げている。この言葉の順序が大切だ。まず機能的な体力が改善するかを調べ、その先に活動への参加を期待している。この試験が評価したのは、訓練前後の機能的な運動能力である。[2]
買い物の途中で休む回数や、駅まで歩く余裕を気にしている人には、体重以外の指標を見ている点が参考になる。測定項目は最大の吸う力と歩行テストの成績であり、日常の活動への参加を考える前段階に位置づけられている。[2]
6週間の試験では、体組成や脂質は変わらなかった
Kuoらは肥満の成人28人を無作為に分け、吸気抵抗訓練16人と対照12人を比較した。この試験が用いた肥満の条件はBMIが27を超えることであり、前の試験と同じ体格の集団を集めたわけではない。台湾の肥満基準を採用した対象であり、この集団に対して6週間の介入を行った結果が報告されている。[20]
訓練は6週間で、週3日、1日2回、1回30呼吸という設計だった。抵抗は訓練群で最大吸気圧の55%、対照群で10%とした。両群の回数をそろえ、抵抗の違いを比較している。訓練前と訓練後に持久力、肺機能、血中脂質を測定した。研究では負荷を段階的に設定するプログラムを用いている。[20]
訓練後の最大吸気圧は訓練群で対照群より49.6%高かった。一方、努力して吐き出せる空気の量や、吐き始めの空気の出方などの肺機能には群間差がなかった。6分間歩行テストの成績も、訓練後には対照群より12.9%高かった。[20]
この試験では、体組成と血中脂質に対する効果も認められていない。肺機能の群間比較には、努力して吐ける総量、その最初の1秒間に吐いた量、両者の比が含まれる。歩行成績と吸う力に差が出た一方、これらの呼出の指標や代謝に関わる指標は変わらなかった。[20]
この結果には、体重とは別の面で得られた成果もある。研究は耐久的な運動能力を評価し、その改善を認めている。減量の成績と、動作を続ける能力の成績を分けることで、体重の変化だけでは拾えない成果を評価できる。論文の結論でも、持久的な運動能力と吸気筋力の改善が挙げられている。[20]
評価の目的も、器具の設定に劣らず重要だ。肥満の人の検査を扱うレビューでは、有酸素運動の検査から得られる変数と、呼吸筋の機能の評価を併せて議論している。息が続かないと感じた人の出発点を、体重だけの問題に絞らず、心肺や筋肉の働きまで含めて捉えるためである。検査の名称が増えるのは、成果を大きく見せるためではなく、どこに制限があるかを分けるためだ。[17]
たとえば、器具を使うのは続けられても、移動で感じる負担が変わらない場合、吸う力の数値だけで成功とも失敗とも決めにくい。研究で歩行テストも行っていた点を思い出し、目的とする動作に近い評価を併せて確かめたい。呼吸筋の成績から実生活への橋渡しを考えるときには、筋力と機能の両方を測った設計が参考になる。[2]
数字で読む吸気筋トレーニング
4週間:肥満の成人に、抵抗の異なる器具を毎日使ってもらった試験の期間。[2]
55%と10%:6週間の試験で比較した、最大吸気圧に対する負荷の割合。[20]
28%と47%:減量手術後の最大吸気圧の低下率。術前訓練群と通常ケア群の比較。[4]
0.50:手術患者の統合解析で示された、術後肺合併症の相対リスク。[13]
−1.48:睡眠時無呼吸の統合解析で示された、BMI変化の群間平均差。[12]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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