FGF21は脂肪の代謝に関わるのに、肥満や脂肪肝の人で血中濃度が高い。肝臓からのシグナルをめぐるこの逆説を、人の食事・運動・減量研究で確かめる。糖やアルコールの好みとの関連、類似薬の開発と動物研究の距離を整理し、ホルモンの増減だけで減量の成否を判断しない読み方を示す。
脂肪の代謝に関わるFGF21は、肥満の人ほど血中濃度が高い。正常体重から肥満までの人を調べた研究では、体格指数のBMIと濃度に正の相関があった。脂肪肝の人でも高かったという、名前から期待する「痩せのシグナル」とは単純に重ならない結果である。[8]
さらに、体重が減った人で濃度が変わらない場合もある。減量に成功したのにホルモンの数字が動かない。それは失敗の印なのか。この食い違いを理解するには、体内の濃度を測る話と、薬として働きかける話を分けておくとよい。[12][4]

FGF21の働きと、血液中の量は別の問いだ
FGF21は線維芽細胞増殖因子21と呼ばれる物質で、肝臓から分泌されるホルモンとして研究されている。ホルモンは臓器の間で情報を伝える役割を持ち、この物質については、糖やアルコールを含む栄養への反応、食べ物の好みとの関係が検討されている。[3]
体の中で何をするかという問いには、動物に投与する実験、受け手となる組織を調べる実験、人の血液を測る研究など、異なる入口がある。FGF21の受容体に作用する薬のレビューでは、肥満マウスで褐色脂肪の熱産生やアディポネクチンの分泌に関わる作用が整理されている。褐色脂肪は熱を生み出す脂肪組織であり、ここでの説明はマウスの代謝作用についてのものだ。[4]
一方、人の血液にどれくらい含まれるかを測る研究は、その人の状態と濃度がどう重なるかを見る。働きが期待される物質だから、健康な人ほど必ず濃度が高いとは限らない。FGF21と肥満を扱ったレビューも、代謝への有益な薬理作用と、肥満で血中濃度が高くなる現象の両方を扱っている。[1]
FGF21を扱ったレビューは、この物質を代謝上のストレスに反応するシグナルとして位置づける。エネルギー消費を増やすFGF21と、食物摂取を抑えるGDF15という別の物質を取り上げ、肥満時の血中濃度上昇と薬理作用を整理した。さらに、ミトコンドリアの働きを遺伝的に変えたマウスで、食事による肥満への抵抗性にこれらの信号が関わるという研究も扱っている。[1]
肝臓から出た信号を受け取る側にも仕組みがある。糖とアルコールへの食欲を扱うレビューでは、FGF21自身の遺伝的な違いに加え、補助受容体βKlothoの違いと、週単位の菓子や飲酒の摂取パターンとの関連が紹介されている。作られる量だけでなく、信号の伝わり方も研究の対象なのだ。[3]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
肥満と脂肪肝で高い値は、痩せやすさを表さない
Dushayらは、正常体重から肥満までの人について空腹時の血中FGF21を測り、体格指数であるBMIとの関係を調べた。さらに、非アルコール性脂肪肝や、炎症を伴う非アルコール性脂肪肝炎の人で、血液と肝臓内の遺伝子の働きを評価した。BMIと血中FGF21には正の相関があった。体格が大きい人ほど、濃度も高い傾向だったのである。[8]
脂肪肝では、肝臓内でFGF21を作るための情報であるメッセンジャーRNAの発現が高く、血中濃度の上昇と対応していた。脂肪肝炎では血中濃度は高かったが、このRNAの発現は増えていなかった。血液中の数字だけで肝臓内の状態をすべて説明できるわけでもない。[8]
この研究は、FGF21が脂肪肝の指標になり得ると結論している。正常体重から肥満までの空腹時採血と、脂肪肝・脂肪肝炎の血液および肝臓の評価を組み合わせた設計だった。血中濃度と肝臓内での産生に関わる情報の両方を調べたことで、脂肪肝と脂肪肝炎の反応の違いも捉えている。[8]
より最近の観察研究では、減量手術を受ける重度肥満の患者923人を対象に、生検で確認された代謝機能障害に伴う脂肪性肝疾患と、複数の臓器間シグナルが調べられた。対照と比べ、患者ではFGF21などが高く、FGF21とアディポネクチンの関係の乱れが、進行した肝臓病変と関連していた。[10]
この研究ではFGF21、ガレクチン3、イリシン、レプチンが高い一方、FGF19、コリン、トリメチルアミンは低かった。臓器間で情報を伝える物質をまとめて測り、それぞれの動きを比較している。ネットワーク解析では、年齢、性別、体格によって物質同士の関係が変わる、個人差のある構造が示された。アディポネクチン自体の減量との関係は「アディポネクチンは減量で増えるか 脂肪細胞が出す物質と運動後の血中濃度」の記事に譲る。[10]

食べずに増やす、糖で増やすという近道はあるか
FGF21と食事の話では、どの動物を調べたかが結論を左右する。糖やアルコールへの反応を扱うレビューでは、マウスで低たんぱく食、ケトン食、果糖、アルコールなどによって産生が誘導されることが紹介されている。人でも糖や急性の飲酒で増えるという知見はあるが、人への応用は、人で得られた結果に照らして考える。[3]
Dushayらの人の実験には、16時間または72時間の絶食と、その後の食事、別の群での12日間のケトン食が含まれていた。短い絶食やケトン食ではFGF21は変わらず、長い絶食では低下が見られたものの統計的に明確ではなかった。動物での上昇を根拠に、食事を長く抜く方法を勧める結果にはなっていない。[8]
食後の反応にも、組み合わせの影響がある。健康な成人27人が参加した無作為化二重盲検クロスオーバー食事試験では、同じ参加者が条件を変えた飲み物を摂り、食後の反応が比較された。アルコールにたんぱく質を加えると、アルコールだけの場合に比べてFGF21の分泌反応が強く抑えられた。ビタミンAのレチノールを加えても、同様の影響は見つからなかった。[11]
比較した飲み物は、アルコール、アルコールとたんぱく質、アルコールとレチノール、レチノールだけの組み合わせだった。参加者にも試験担当者にも条件が分からない二重盲検で、順序を変えて同じ人の反応を比較した。測定対象にはFGF21に加え、血糖、インスリン、エタノール、酢酸が含まれる。食後に栄養がどう処理されるかを、複数の血中成分から捉える設計である。[11]
レチノールだけの飲み物にはFGF21の反応がなく、アルコールにレチノールを加えた場合はアルコール単独と同じような反応だった。たんぱく質との組み合わせで見られた強い抑制と対照的な結果である。研究者は、たんぱく質が食事によるFGF21分泌を抑える方向に働くことを結論に挙げている。[11]
数字で読むFGF21
−5.9kg:継続的なエネルギー制限群の12か月の体重変化。標準偏差は4.5kgだった。[12]
−4.9kg:制限する週としない週を交互にした群の体重変化。標準偏差は3.4kgだった。[12]
−27%:閉経後女性の持久的運動群で見られた血中FGF21の変化。総脂肪量の変化は−5.3%だった。[18]
−5.2%:持久的運動と筋力運動を組み合わせた群の総脂肪量の変化。FGF21の低下はこの群では認められなかった。[18]
糖の好みとの関連は、人の減量を保証するか
甘いものへの好みは、FGF21をめぐる興味深い研究領域である。Søbergらはデンマークの集団でFGF21の遺伝子領域の違いを調べ、特定の遺伝的な違いと菓子の摂取増加との関連を見つけた。別の臨床研究では、ショ糖を口から摂ると血中FGF21が急に増え、空腹時の値は甘味を好まない人で高かった。[14]
遺伝子の解析に参加したのは、デンマークのInter99集団の6,514人だった。調べたFGF21領域のrs838133という遺伝的な違いは、菓子の摂取増加と統計的に有意に関連していた。飲酒の増加や毎日の喫煙とも関連が報告されたが、菓子との関連とは統計上の位置づけが異なる。食べ物の選択を、代謝と行動の両面から調べた研究である。[14]
人で時間を追っても、単純な筋書きにならない例がある。重度肥満で減量手術を受ける40人を調べた研究では、手術前と6か月後に、食前・食後の血中FGF21、甘い食品の摂取、甘味の快さ、甘味への敏感さが評価された。手術前には濃度と甘いジュースの快さの評価に負の関連があったが、術後の濃度変化が甘い食品の摂取や好みの変化を媒介するという結果は得られなかった。[13]
参加者40人のうち35人は女性で、BMIは35以上だった。受けた手術の内訳は胃バイパス術30人、スリーブ状胃切除術10人である。手術前の空腹時と食後のFGF21は、高濃度の砂糖を加えたジュースの好ましさと負の関連を示した。一方、6か月後の空腹時・食後の濃度は手術前から有意には変わらなかった。[13]
甘味の評価には、砂糖を加えたリンゴジュースと、感じた好ましさを線の上で示す視覚的な尺度が使われた。実際の摂取はビュッフェ形式の食事で測り、甘味への敏感さも調べている。術前から術後へのFGF21の個人別の変化は、これらの摂取、好ましさ、敏感さの変化のどれとも有意に関連しなかった。血液と食行動を時間を追って同時に評価した点が、この研究の特徴だ。[13]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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