ハムストリングを育てたいのにスクワットでは前ももばかり気になる。継続後の筋肉の厚さ・体積を調べた研究と、女性の筋活動を測った研究から、その違いを読む。ワイドにすれば十分なのか、直後の張りは成長なのかを整理し、スクワットを残す目的と、別の種目を検討する際の判断材料を示す。
スクワットのセットを終え、記録帳に回数を書く。前ももには確かな疲れがあるのに、育てたかった裏ももは静かだ。「もっと足を開けばよいのか」。足幅を変える前に、その回数で何を育てたいのかを確かめたい。
答えの芯は、前ももの成長と裏ももの成長を分けて評価することだ。男性を対象にスクワットを続けた比較試験では、前ももの厚さには対照群との差があった一方、ハムストリングの厚さの変化は群間で同程度だった。18〜39歳の女性に同じ成長差が生じるかは、この男性の試験だけでは判断できない。前ももの成果を、そのまま裏ももの成果として数えないことが出発点になる。[11]
既存記事「ハムストリングの内側は筋トレで均等に育つ?筋肉ごとの成長率とメニューを読む」には内側の筋肉同士の違いを譲る。ここで考えるのは、脚のメニューをスクワットだけで済ませてよいかという問いだ。研究を読むときは、動作中に働いたことと、続けて大きくなったことを別の欄に置く必要がある。[8][11]
関節ごとの種目選びは「ハムストリングの筋トレは脚を曲げるだけ?女性が知りたい股関節を動かす意味」に、伸ばしたときの張りは「ハムストリングのストレッチで足首を起こすと何が張る?タオルを引く前に読む」に譲る。ここではスクワットを続けた際の前後の成長差を軸に読む。

スクワットで前ももが育っても裏ももは別である
平均年齢21.1歳の男性38人を対象とした介入前後の比較研究では、スクワットを21回のセッションにわたって行い、運動しない対照群と比較した。トレーニング群は、限界まで行える回数が3〜5回、13〜15回、23〜25回となる条件に分かれ、いずれも4セット実施した。重い条件から反復の多い条件までを比べた設計である。18〜39歳の女性への適用には、性別や負荷条件の違いを考慮する必要がある。[11]
結果は、どのトレーニング群でも大腿四頭筋、つまりこの研究で測定した前ももの筋肉の厚さの増加が対照群より大きかった。一方、ハムストリングの厚さの変化は対照群を含めて同程度だった。「脚の筋トレをした」という一括りでは、測った部位による差が消えてしまう。[11]
この結果は、スクワットが脚の運動として無意味だという話ではない。同じ試験の中で、前ももには対照群との差が現れているからだ。裏ももの成長を目的にしたときに、前ももで得られた結果を代わりの証拠にできない、という意味である。種目の名前に合格か不合格を付けるより、何を変えたくて採用するかを先に決めたい。[11]
この試験を読む際の限界は、対象・負荷・測定部位が限定される点にある。男性の結果から18〜39歳の女性の自重スクワットの成果まで決めることはできない。「自分は別のやり方だから裏ももも育つはず」とも結論を飛ばさず、研究と自分の条件を照らし合わせたい。[11]
記録帳にはスクワットの回数しか書いていなくても、目的は分けられる。立ち上がる動作の練習として残したいのか、前ももの筋肉の変化を見たいのか、それとも裏ももの大きさを変えたいのか。少なくともこの試験は、最後の目的をスクワットの実施回数だけで達成扱いにすることには慎重であるべきだと示唆する。[11]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
振動を足した試験でも成長した場所は一様ではない
別の無作為化比較試験では、普段あまり運動をしない18〜30歳の男性43人を調べた。全員が週2回の上半身運動を行い、そのうちの群は振動装置上でのスクワットを追加した。期間は10週間で、筋肉の体積を磁気共鳴画像で測定している。超音波で厚さを見る試験とは測り方も違う。18〜39歳の女性に同じ体積変化が起きるかは、男性の振動装置を使った結果からは判断できない。[1]
10週間後、前ももの広筋群の体積は、振動の方式が異なるスクワット群でそれぞれ4.15%、4.81%増え、対照群の変化は−1.22%だった。この前ももの増加は対照群より有意に大きかった。一方、ハムストリングでは、一方の振動群で5週間後に体積が1.85%減少し、もう一方の群の同時点の1.73%減少は有意ではなかった。[1]
大切なのは時点を混ぜないことだ。前ももの数字は10週間後、ここで挙げた裏ももの数字は5週間後の結果である。これらを差し引いて「前後の成長差は何%」と計算する読み方は適切ではない。また振動装置を使う条件なので、普通の床で行うスクワットの効果量としてそのまま引用することもできない。[1]
この試験では内転筋の一つである大内転筋も、各スクワット群の開始時点からは体積が増えたが、対照群との差は有意ではなかった。「始める前より増えた」と「運動しない群より増えた」は別の判定だ。前もも、裏もも、内側をまとめて「太ももが成長」と書くと、その大事な違いが見えなくなる。[1]
なお、この研究では爆発的な動きに関する機能の有意な改善も認められなかった。体積が増えた部位があったからといって、跳ぶなどの能力まで同じように向上したとはいえない。筋肉の大きさと運動の成績を分ける点でも、脚全体の「効いた」を少し細かくする価値がある。[1]

女性の筋活動は種目選びの手掛かりまでとする
「女性でも裏ももは使われているのか」という疑問には、トレーニング経験のある女性13人を対象にした比較研究が参考になる。平均年齢は28.9歳で、推定10回最大の重さを用い、バックスクワットとバーベルのヒップスラストを比較した。後者は股関節を持ち上げる種目である。測ったのは運動中の表面筋電図、筋肉の電気的な活動だ。[8]
裏ももの筋肉である大腿二頭筋の平均筋活動は、研究内の基準に対してヒップスラスト40.8%、スクワット14.9%で、ヒップスラストのほうが有意に大きかった。大腿二頭筋のピーク活動もヒップスラストのほうが大きい。一方、前ももの外側広筋では平均値にもピーク値にも有意差がなかった。[8]
ここで40.8%を筋肉の増加率として読んではいけない。これは動作中の筋活動を表す値であって、何週間か後の筋肉の大きさではない。スクワットでも大腿二頭筋の活動が測られており、「活動する」と「大きく育つ」は同じ問いではないことも分かる。数値が高い種目を、そのまま筋肥大の優勝者にするのは早い。[8]
この研究の著者らも、活動の増大が筋力や筋肥大、運動能力の向上と結び付くかは継続的なトレーニング研究が必要だとしている。女性で直接測った結果という強みはあるが、その強みは測定していない成果まで広げられる通行証ではない。ヒップスラストを検討する手掛かりにはなっても、スクワットから替えれば裏ももが必ず育つという約束にはならない。[8]
負荷の条件にも目を向けたい。推定10回最大とは、その程度の反復で限界となる重さを想定した比較である。動画で見た軽い動作と研究の数字を並べるなら、この条件の違いが残る。自分のメニューを相談するときも、種目名だけでなく重さや反復の様子を伝えると、何を比較しているかが明確になる。[8]
直後の厚さと継続後の成長を読み違えない
経験の長い若い男性14人が参加した実験では、バックスクワットの各セット前にハムストリングを伸ばす条件と、伸ばさない条件を比べた。参加者の筋力トレーニング経験は約7.5年である。超音波による筋肉の厚さと筋活動、総トレーニング量などを運動前後に調べた、急性の反応を扱う研究だ。18〜39歳の女性、とくに筋トレ初心者に同じ反応が生じるかは別に確かめる必要がある。[5]
結果として、セット前にハムストリングを伸ばす方法では、大腿二頭筋の厚さを直後に増やし、スクワットの運動成績を損なわなかったと報告された。これを「スクワットの前に伸ばせば長期的に裏ももが育つ」と読み替えることはできない。実験の焦点は、そのセッションの前後で何が起きたかである。[5]
先の継続試験と、この直後の厚さの研究は矛盾として処理する必要はない。片方はセッションを重ねた後の比較、もう片方は運動直後の反応を見ている。測定に同じ「厚さ」という言葉が出てきても、いつ測ったかによって答える質問が違う。トレーニング直後の写真だけで、継続後の成果を先取りしないことだ。[5][11]
帰り道に裏ももが張ると、その日の選択が正しかったと思いたくなる。その感覚をメモすることと、筋肉の成長を確認したと言うことは分けてよい。直後の変化には直後の変化としての意味がある。ただ、長く続けたときの種目選びを決めるなら、同じ時間軸の研究を優先する必要がある。[5][11]
数字で読むスクワットと裏ももの研究
男性38人・21セッション:前ももの厚さは対照群より増え、ハムストリングの変化は群間で同程度だった。[11]
男性43人・10週間:振動付きスクワット群の広筋群体積は4.15%、4.81%増加した。[1]
女性13人:大腿二頭筋の平均筋活動はヒップスラスト40.8%、スクワット14.9%だった。成長率ではない。[8]
男性14人:セット前のストレッチで調べたのは、運動直後の筋厚などの反応だった。[5]
男性13人:膝を伸ばす種目とハムストリングカールで、最も高い筋活動水準67〜79%が観測された。[10]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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