甲状腺の治療後に増える体重の中身 バセドウ病で戻る除脂肪量と筋力の変化

バセドウ病などの甲状腺機能亢進症の治療後には、体重が増える経過がある。安静時の消費エネルギー、脂肪と除脂肪量の回復、治療中の筋力トレーニングを人の研究で確かめる。体重増加をすべて脂肪と決めつけず、検査値と体の働きを合わせて見るための考え方を紹介する。

筋肉の周径の合計が92.6cmから97.1cmへ増え、筋力も改善した。薬物治療中に筋力トレーニングを加えた小規模試験では、そんな回復とともに体重も増えていた。治療中の増量には、体の働きが戻る経過も含まれる。[5]

甲状腺機能亢進症は、意図しない体重減少を起こすことのある病気である。治療後には安静時の消費エネルギーが下がり、体重の中身にも変化が起きる。脂肪に目が向きやすいが、失われていた除脂肪量が戻る経過も人の研究で観察されている。[9][18][3]

「増えた」という結果を急いで食べ過ぎの判定に使わず、何が、どの段階で増えたのかを見る。バセドウ病を含む甲状腺機能亢進症の治療と体重については、その順序が役に立つ。[3][5]

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治療前の軽い体重を、そのまま目標にしてよいか

甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰につくられる状態である。バセドウ病は、その代表的な原因となる自己免疫の病気だ。自分の体の組織に向かう免疫の働きが関わり、甲状腺を刺激する受容体への抗体などを用いて診断される。すべての甲状腺機能亢進症がバセドウ病というわけではなく、原因を区別して治療が選ばれる。[9][10]

ここで、ホルモンの量と体重を結びつける言葉を整理しておきたい。甲状腺を調節する信号である甲状腺刺激ホルモンは、検査表ではTSHと表記される。明らかな甲状腺機能亢進症では、TSHが抑えられ、T3または遊離T4という甲状腺ホルモンの濃度が高くなる。TSHが低くてもT3と遊離T4が正常範囲にある「潜在性」の状態とは区別する。[9]

症状には動悸、暑さへの弱さ、不眠、不安、下痢、意図しない体重減少などがある。別の臨床レビューでは筋力低下も挙げられている。つまり、治療前に体が軽かったことと、体の働きが十分だったことは重ならない場合がある。筋力低下を伴っていた時期の体重が、本人の記憶では「いちばん軽かった頃」として残ることもある。[9][10]

未治療の甲状腺機能亢進症には、不整脈、心不全、骨粗鬆症、妊娠への悪影響などの問題がある。レビューは死亡率の上昇との関連も報告している。体重が減るという一面から、ホルモンが多い状態を好ましい代謝と見なすことはできない。治療の判断で重いのは、体重の軽さだけでなく、こうした全身への影響である。[9]

このため、治療後の増量を見たときには、どこから戻ってきた体重なのかを考える余地がある。発症中に減っていた成分の回復と、脂肪の増加は同時に起こりうる。治療を受けた人の体組成を測る研究は、合計の増減を成分ごとに示している。[2][3]

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消費エネルギーが下がっても、増える量までは決まらない

安静にしていても使われるエネルギーを、安静時エネルギー消費という。甲状腺機能亢進症の治療前後を追った前向きコホート研究では、明らかな機能亢進症の患者18人について、治療前、甲状腺機能が正常に戻ったとき、さらに正常な状態が続いた後の測定が行われた。[18]

脂肪を除いた体の量、すなわち除脂肪量で補正した消費は、機能亢進時の42±6.7から、正常化時の33±4.4 kcal/日/除脂肪量kgへ低下した。低下幅は21%である。正常化から3か月後も、同じ補正方法で消費が低い状態が続いた。体重の分母をそろえても、治療の段階によって消費に差が出たわけだ。[18]

ただし、この数字を自分の食事量にそのまま掛け算してはいけない。測られたのは除脂肪量当たりの安静時消費であり、普段の活動や食事を含む個人の生活全体を、そのまま表した数字とは違う。さらに、この研究では機能亢進時の安静時消費から、その後の体重の戻りや体組成の変化を説明できなかった。消費が下がるという知見だけで、個人が何kg増えるかは決まらない。[18]

この研究がもう一つ測ったのは、寒さにさらされた際に消費が増える反応である。18人のうち14人で、穏やかな寒さに2時間さらされる前後の消費を比較したが、治療前後の差は有意でなかった。皮膚温は8か所で測られ、暖かい環境では機能亢進時に高かった一方、体の中心部の温度には変化がなかった。安静時消費の低下に対し、寒冷刺激による熱産生は変わらないという結果だった。[18]

戻る体重の中には、脂肪以外も含まれる

バセドウ病の患者80人と比較対象のボランティア18人を調べた研究では、放射性ヨウ素治療の前と3か月後に、甲状腺機能と体組成を測った。体組成には、X線を使って脂肪量や除脂肪量、骨のミネラル量を推定する方法が用いられた。体重の合計を測るだけでは見えない変化を調べる設計である。[3]

治療後の患者は、機能亢進が悪化した群、改善した群、正常になった群、機能低下になった群に分けて解析された。正常になった群では全身の除脂肪量などが増えた。一方、機能亢進が悪化した群では全身の除脂肪量が減った。治療を受けたという共通点があっても、その後の甲状腺の状態によって経過が違っていた。[3]

研究者は、治療後の早い時期には脂肪量や骨のミネラル量よりも除脂肪量の補充が先行すると結論している。ただし、除脂肪量は筋肉だけを指す言葉ではなく、全身の脂肪以外の成分を含む。測定結果では、脂肪量、除脂肪量、骨のミネラル量が別々に示されている。[3]

別の前向き対照コホート研究は、結節性の甲状腺腫による潜在性甲状腺機能亢進症の患者29人を扱った。放射性ヨウ素治療を受けた17人と、治療を遅らせた12人を比べ、12か月後の体組成を調べている。全体としては、脂肪量の増加傾向を除き、明らかな経時変化は認められなかった。[2]

ところが65歳を超える人に絞ると、治療群で体重は64.1から66.9kg、脂肪量は26.1から27.8kg、除脂肪量は36.3から37.4kgへ増えた。研究者は、この体重増加に脂肪と除脂肪量の両方が含まれる点を指摘した。参加者全体の平均年齢は69.5歳で、女性が75.9%を占めた。[2]

両研究に共通するのは、「治療後に増えた」という一つの表現の中に、複数の成分が含まれることだ。一方は明らかな機能亢進症を含むバセドウ病の短期経過、他方は高齢者が中心の潜在性機能亢進症の経過を見ている。短期の回復を捉える測定と、高齢者の脂肪・除脂肪量の双方の変化を捉える測定が、それぞれの経過を示している。[2][3]

体のどの部位が変わったかにも、時間の差がある。バセドウ病の研究では、除脂肪量の回復は上半身から始まり、脂肪量の回復が最初に見られた部位は頭部だったと報告されている。正常化した群では頭部の脂肪量と、頭部、右腕、体幹、全身の除脂肪量が有意に増えた。[3]

機能低下になった群では、全身の体脂肪率が低下する一方でBMIは増えていた。脂肪の重さそのものと、体全体に占める脂肪の割合も異なる指標である。体脂肪率は全体に占める割合なので、除脂肪量を含む全体の変化にも左右される。同じ人の変化でも、指標を替えれば増加と低下が同時に記載されることがある。[3]

数字で読む甲状腺治療後の変化

42→33 kcal/日/除脂肪量kg:18人の前向き研究で、機能亢進時から正常化時へ下がった補正後の安静時消費。低下幅は21%。[18]

36.3→37.4kg:潜在性機能亢進症の研究のうち、65歳超の治療群で増えた除脂肪量。[2]

26.1→27.8kg:同じ高齢者の解析で増えた脂肪量。増量には両成分が含まれた。[2]

21.6%対42.4%:最初から手術の群と、放射性ヨウ素治療後に手術した群で、最終追跡時にBMI区分が上がった割合。無作為比較ではない。[4]

92.6→97.1cm:薬物治療に筋トレを加えた7人で増えた筋肉の周径の合計。体重も増え、筋力と筋持久力も改善した。[5]

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宮川涼 Founder

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