太る原因は糖質かカロリーか 炭水化物・インスリン説とエネルギー収支説の論争

糖質がインスリンを通じて脂肪をため込ませるのか、食べ過ぎが先なのか。二つの説の主張の違いを整理し、糖質を減らすと消費エネルギーが増えるかを確かめた試験と再解析、遺伝子を使った因果の推定、子どもを追った研究まで、いま言えることと決着していない点を論文で読む。

2016年に報告された試験では、過体重か肥満の男性17人が代謝病棟に入り、食べるエネルギーの量を変えないまま、炭水化物の多い食事から、糖質を大きく減らして脂質に置き換えたケトン食へ切り替えた。[9] 体が使うエネルギーは1日に57〜151kcalほど増えた。ところが体脂肪の減り方は、ケトン食に替えてからむしろ遅くなった。[9]

2018年に報告された試験は、別の答えを出した。減量を終えた164人を、炭水化物の割合が違う3つの食事に分けて20週続けると、炭水化物を20%にした食事では、1日の消費エネルギーの変化が、60%の食事を209kcal上回った。[8] 著者らは、この結果は炭水化物・インスリン説と一致すると書いた。[8]

糖質を減らすと、体の燃やす量は増えるのか。同じ問いに、一方は「増えるがわずかで、脂肪は早く減らない」と答え、もう一方は「はっきり増える」と答えた。食い違いの奥には、太る原因をめぐる二つの説の、長い論争がある。二つの説の主張、試験が確かめたこと、まだ決まっていないことを順に追う。低糖質と低脂肪のどちらで痩せるかという実際の比べ方は「糖質制限か脂質制限か、長期比較試験で読む体重差と続けられる食事の選び方」に譲り、理論の争いに絞る。

糖質がため込ませるのか、食べ過ぎが先なのか

炭水化物・インスリン説の出発点は、加工されて血糖を上げやすい炭水化物を多く食べるようになったことにある。それがホルモンの変化を通じて脂肪組織にエネルギーをため込ませ、空腹を強め、消費エネルギーを下げる、と考える。[1] 中心にいるのはインスリンだ。インスリンがエネルギーの行き先を脂肪としての貯蔵に振り向け、代謝の盛んな組織で燃やされる分を減らす。その結果、細胞の側は飢えた状態にあると受け取り、空腹と食欲が増し、代謝が抑えられる、という筋書きである。[2]

この説の要は、原因と結果の向きにある。脂肪にためこまれた分を埋め合わせるために食べ過ぎる、つまり太る過程が食べ過ぎを呼ぶ、という逆向きの矢印である。[10]

エネルギー収支説の側は、食べ過ぎ、つまり摂取が消費を上回ることを肥満の主な原因とみる。[10] ただし、意志の弱さの話ではない。この説で体重を調節する主な臓器は脳で、ホルモンや代謝、神経の信号を使い、ほとんど意識しないところで、体の必要と周りの環境に合わせて食べる量を決めている、とされる。[6] 肥満が増えた理由として、この説は、安く手軽でエネルギーが高く、脂肪と砂糖の多い超加工食品を挙げる。[10]

エネルギー収支説の研究者らは、もう一つ大事な区別を付けている。摂取と消費の差が体に残るという「エネルギー収支の原理」は物理の法則で、なぜ太るのかについてはどちらの説にも味方しない。[6] それに対して「エネルギー収支説」は、生物学に基づく肥満の理論の一つである。[6] 二つを混ぜて描くのは、相手の説の戯画と比べる誤った二択だ、とこの研究者らは反論した。[6]

論争の両側には、筆頭著者として同じ名前が何度も出てくる。炭水化物・インスリン説の側のLudwig、エネルギー収支説の側のHallである。[1][2][6][10] 論文の題も「カロリーの出入りを超えて」が両陣営で重なっていて、言葉の上でも張り合っている。[1][6]

初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。

体験レッスンを予約体験専用 03-6665-0898LINE

同じカロリーで糖質を脂質に替えると、何が起きたか

炭水化物・インスリン説が正しければ、食べるエネルギーを同じにしたまま炭水化物を脂質に置き換えるだけで、消費エネルギーが増え、脂肪がよく燃え、体脂肪が減るはずだ。[9] 「カロリーはカロリー」とする見方なら、消費にも体脂肪にも生理的に大きな差は出ないはずである。[9] 冒頭の2016年の試験は、この二つの予測を比べた。

白い台の上に置かれた、表面に焼き色の模様がついた楕円形のパン1個
白い台の上に置かれた、表面に焼き色の模様がついた楕円形のパン1個
写真: DryPot / CC BY 2.5 / Wikimedia Commons

男性17人は、炭水化物の多い基準の食事を4週食べたあと、たんぱく質の量を固定したまま、同じエネルギーのケトン食を4週食べた。[9] 毎週2日続けて、部屋ごと呼吸を測る代謝の部屋で過ごし、体組成はエックス線を使う方法で調べた。[9] 各期間の後半2週の消費エネルギーは、目印を付けた水を飲み、その抜け方から日々の消費を割り出す二重標識水法でも測っている。[9]

ケトン食の期間には、代謝の部屋で測った消費が1日57kcal、眠っている間の消費が89kcal増えた。[9] 吐く息の二酸化炭素と吸った酸素の比である呼吸商は0.111下がり、燃やす燃料が脂肪の側へ動いたことを示した。[9] 二重標識水法の消費は151kcal増えた(P=0.03)。[9] ここまでは説の予測どおりに見える。

ところが体脂肪の減り方は、ケトン食に入ってから遅くなった。[9] 代わりに、たんぱく質を使う量が増え、脂肪以外の組織が減っていた。[9] 試験の全体を通じて、参加者は1日およそ300kcalの不足の状態で体重も体脂肪も減り続けていた。[9] 著者らは、同じエネルギーのケトン食では体脂肪の減りは速くならず、消費の増え方は最新の測定技術で見分けられる限界に近い小ささだったと結論した。[9]

Hallは2017年の総説で、入院して食事を厳密に管理した2つの試験の結果が、炭水化物・インスリン説の重要な予測を支持しなかったとし、説の大事な部分は実験で否定されたと書いた。[2] 説は単純すぎる、というのがその評価である。[2]

減量の後の20週と、29の試験の再解析

炭水化物・インスリン説の側は、こうした食事を管理する試験は、説を確かめるには厳密さも期間も足りないと反論する。[1] そのうえで、最も長い部類の試験では、血糖を上げにくい食事が低脂肪の食事より代謝の上で有利な傾向にある、と述べている。[1] その主張に沿うのが、冒頭の2018年の試験だ。

この試験は、アメリカの2つの施設で、18〜65歳でBMI(体格の指数)が25以上の164人を対象に行われた。[8] まず導入の食事で体重を12%(前後2%の範囲)減らし、そのあと炭水化物を60%(54人)、40%(53人)、20%(57人)にした3つの食事のどれかにくじで分けて、20週続けた。[8] たんぱく質の量はそろえ、減った体重が2kgの範囲で保たれるように、食べるエネルギーの量を調整した。[8]

解析に入った162人を、守れたかどうかに関わらず割り付けどおりに数えた主な解析では、炭水化物の割合が10%下がるごとに、1日の消費エネルギーが52kcal(95%信頼区間23〜82)増える直線の関係が見られた。[8] 炭水化物60%の食事と比べた消費の増え方は、40%の食事で91kcal(−29〜210)、20%の食事で209kcal(91〜326)だった。[8] 目標どおり体重を保てた120人に絞ると、差はそれぞれ131kcalと278kcalに広がった。[8]

さらに、減量の前に測った、糖を飲んで30分後のインスリンの値で参加者を3つに分けると、最も高い3分の1の人では、20%と60%の食事の差が主な解析で308kcal、絞った解析で478kcalだった。[8] 代謝に関わるホルモンのうち、グレリンは炭水化物20%の食事で60%の食事より低く、レプチンも絞った解析では低かった。[8] 著者らは、炭水化物を下げることは減量後の体重維持の時期に消費エネルギーを増やし、とくにインスリン分泌の多い人で肥満の治療を助けるかもしれないと結論した。[8]

試験ごとに食い違う結果を、期間の長さで説明しようとしたのが、2021年のメタ分析の再解析である。[18] 炭水化物の多い食事と少ない食事を、摂取エネルギーか体重をそろえて比べた29の試験、617人を集めた。[18] 試験の長さは1日から140日までで、中央値はわずか4日だった。[18]

結果は、期間で割れた。2.5週より短い23の試験では、炭水化物の少ない食事で1日の消費が50.0kcal減っていた(95%信頼区間−77.4〜−22.6)。[18] 長い6つの試験では、逆に135.4kcal増えていた(72.0〜198.7)。[18] 著者らは、炭水化物の少ない食事は消費を一時的に下げ、およそ2.5週を過ぎるとより大きく増やすと結論し、長い試験の大切さを強調した。[18] 体が少ない炭水化物に慣れるには2〜3週かかるかもしれない、というのがこの解析の出発点の仮説だった。[18]

ただし、この再解析で試験どうしの結果のばらつきを表す値は90.9%で、以前の解析の32.2%より大きかった。[18] 長い試験は6つしかない。

冒頭の二つの試験を並べ直すと、食い違いの形が変わって見える。2016年の試験のケトン食の期間は4週で、2.5週の線引きでは長い側にあたり、消費も151kcal増えていた。[9] 2018年の試験は体重を2kgの範囲で保つ設計で、体脂肪が早く減るかはもともと問いの外にある。[8] 二つは、消費が増える向きではほぼそろう。違うのは増え方の大きさと、脂肪の減りまで確かめたのが2016年の試験だけだという点である。

数字で読む糖質と消費エネルギー

  • 151kcal:同じエネルギーのケトン食で、二重標識水法の1日の消費が増えた量。著者らは測定の限界に近い小ささとした。[9]
  • 209kcal:減量後の20週で、炭水化物20%の食事の1日の消費の変化が、60%の食事を上回った量。95%信頼区間は91〜326kcal。[8]
  • 308kcal:減量前のインスリン分泌が最も高い3分の1の人で、同じ二つの食事の差。[8]
  • −50.0kcalと135.4kcal:短い23試験と長い6試験で、炭水化物の少ない食事が1日の消費を動かした向きと大きさ。[18]
  • 4日:29試験の長さの中央値。長い試験は6つだけだった。[18]

初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。

体験レッスンを予約体験専用 03-6665-0898LINE

💬 ご質問がある場合はこちらからどうぞ

オンザショアのチャットで質問する(24時間受付)

レッスン内容・料金・体験のご予約など、気になることをお気軽にお尋ねください。

author avatar
宮川涼 Founder

1

2

関連記事

ご体験予約