ダイエット停滞期にストレスを疑っても、唾液や毛髪のコルチゾールだけで原因は決められない。減量後の成人を追った研究、小児の系統的レビュー、運動前後の唾液測定を読み比べ、測る期間と体重の横ばいを分けて考える。検査の数字を食事制限の理由にしないための見方を紹介する。
体重の記録に横ばいの線が続く。仕事の締切は越えたのに、体重計の数字は動かない。「ストレスでコルチゾールが高くなって、痩せなくなったのか」と検索したくなる。だが、減量後の成人を追った研究では、毛髪コルチゾールからその後の体重や体脂肪率の変化を明確には予測できなかった。[5]
コルチゾールは、体のストレス応答に関わるホルモンである。ただし、体への作用には濃度に加えて、組織の受け取り方の個人差も関わる。[16] さらに毛髪は過去を振り返る測定に使われる一方、唾液を運動の前後で採る研究もある。同じ名前のホルモンでも、数字が答える時間の問いはそろっていない。[8][4]
停滞期をストレスだけで説明する前に、「何を、いつ測った値か」を確かめたい。眠気や食事量の問題は既存記事「ダイエット停滞期に眠いのは食事の減らしすぎ?疲れと体重の横ばいを分けて読む」に譲る。ここでは、唾液と毛髪の検査結果を今朝の体重の理由に変えてよいのかを考える。

毛髪と唾液は、同じ時間を見ているのか
毛髪コルチゾールとは、髪の中に含まれるコルチゾールの濃度である。小児・思春期の肥満を扱った系統的レビューは、頭髪を過去の状態を振り返るための試料と位置づけている。[8] 対象は小児・思春期であり、18〜39歳の女性の値と生活上のストレスの対応を直接確かめた研究ではない。 髪に含まれる値を使うのは、過去の状態を捉えるためだ。この時間の向きを知ると、毛髪の値と今日の忙しさを直結させる読み方から離れられる。
対して、男性ボクシング選手を対象とした試験では、通常の練習の前と直後に唾液を採取している。[4] 対象が男性の競技選手なので、18〜39歳の一般女性に練習前後の反応をそのまま当てはめることはできない。 これは練習を挟んでどう変わったかを比べる設計だ。過去を振り返る毛髪と、練習の前後を比べる唾液では、研究者が置いている物差しが異なる。「ストレスの数値」という短い呼び名だけで扱うと、その違いが消えてしまう。
たとえば仕事の締切が終わった日の夕方に、今の疲れと毛髪検査の結果を並べたとする。そこから「締切で上がった」と結びつけるには、検査の対象期間と仕事の経過を対応させる必要がある。これは気の持ちようの問題ではなく、比べる時点の問題だ。研究を読むときも、採取日だけでなく、その値をどの期間の体重と比べたかまで確認する。
減量後の追跡研究では、毛髪を開始時とその後に採り、体重・体脂肪率は別の間隔でも測っている。[5] 「毛髪を測った」という情報だけでは、今の体重を説明した研究か、その先の体重を予測した研究か分からない。体重計の表示には日付がある。検査結果にも、日付と比較の相手が必要なのである。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
減量後の成人では、体重変化との関連は弱かった
この問いに近いのが、NoHoW試験のデータを使った成人786人の前向き研究である。参加者は減量前の体格指数が25以上で、すでに体重を5%以上減らしていた。体格指数は体重と身長から体格を表す指標であり、この研究は減量に成功した人の維持期を追っている。[5] 対象は減量後の成人であり、18〜39歳の女性の減量途中の停滞にそのまま当てはめるには、維持期との違いを考える必要がある。
研究では毛髪コルチゾールを開始時と12か月後に測定し、体重と体脂肪率は開始時、6、12、18か月後に測定した。自宅でも18か月間、週2回以上の体重測定を行っている。[5] その場の体重と毛髪を並べるだけでなく、時間を置いて体の変化を確かめた点が、この研究の読みどころだ。
生活習慣や人口学的な要因を調整して解析すると、開始時の毛髪コルチゾールと、その後の体重変化、体脂肪率の変化、体重の変動性には関連が認められなかった。最初の12か月で毛髪コルチゾールがどう変化したかと、同じ期間の各指標との関係も同様だった。[5] 調整とは、ほかの条件による影響を統計的に考慮することである。
つまり、この対象と期間では「毛髪コルチゾールが高い人ほど、その後の体重が増える」という単純な予測は支持されなかった。[5] ストレスを感じる読者にとっては、原因の候補が消えて困る結果にも見える。だが、体重の横ばいを見て自分のホルモンを責める根拠にもならない。体重計は表示が簡潔なぶん、理由まで分かった気になりやすい。
この研究で参加者がすでに減量を達成していたことは、日常への当てはめ方にも関わる。維持できるかを調べる時期と、減量の途中で横ばいになった時期を同じと見なすと、出発点がずれる。[5] 「ダイエットの研究」という大きな看板だけで読まず、自分が気にしている経過に近いかを確認したい。体重を減らす必要があるかどうかも、人によって異なる。
また、生活習慣などを調整した解析は、条件の違いを考慮しようとした結果であって、個人の生活のすべてを再現するものではない。[5] 仕事が繁忙だったという実感と、集団で関連が見つからなかった結果は同時に成り立つ。つらさを否定するための論文ではなく、つらさから体重の原因まで一足飛びに決めないための論文として読むのである。

小さな関連があったのは、増量よりも体重の揺れ
同じ研究には、別の結果もある。最初の12か月で毛髪コルチゾールが増えた人ほど、その後の12〜18か月の体重変動がわずかに大きかった。体重のなだらかな推移からのずれを使った解析で、対数変換した毛髪コルチゾールの単位増加当たり、係数は0.02%、95%信頼区間は0.00〜0.04だった。[5]
対数変換は濃度の値を統計解析で扱うための変換である。この係数を、検査票の濃度が少し増えたら体重がそのまま同じ割合で増える、と読むことはできない。しかも結果が表しているのは、体重の増加量そのものではなく、推移からの揺れだ。[5] 横ばい、増加、上下の揺れは、似たグラフに見えても別々に考える必要がある。
通勤中に体重の折れ線を眺めていると、上向いた箇所だけが気になるかもしれない。だが、上がった後に下がる線と、全体として上がり続ける線では、答えたい問いが違う。研究で使う「変動性」は、その違いを見失わないための言葉である。今回の小さな関連も、「ストレスで減量が止まる」という表現に置き換えると意味が変わる。[5]
また、これは毛髪コルチゾールを意図的に変えて比較した実験ではない。もとのデータが試験から得られていても、この解析では自然に生じた濃度変化と体重の経過を比較している。[5] 後の変動に先立つ関連があったことと、そのホルモンが変動を引き起こしたことは区別したい。下げれば停滞が解ける、と処方箋を作る段階の結果ではない。
肥満との関連と、停滞の原因を分ける
小児・思春期を対象とした系統的レビューでは、19歳以下の肥満のある人とない人の毛髪コルチゾールを比較した観察研究9本が検討された。うち5本では肥満のある群が有意に高く、残る4本では有意差がなかった。全体として結果は一貫しておらず、測定方法や交絡要因の違いが関わる可能性が指摘されている。[8] 対象が19歳以下なので、18〜39歳の女性全体の停滞の説明へ広げることはできない。
交絡要因とは、比べたい関係に影響する別の条件である。たとえば「体格の違う群を比べた」という設計だけでは、コルチゾールが体格に先行したかは決まらない。このレビューも、コルチゾールが食欲の調節に関わる一方で、脂肪の蓄積がコルチゾールの分泌に関わるという双方向の可能性を示している。[8] 両方向の関係を考える必要がある。
成人の減量後の追跡と、小児の群間比較を並べると、結果が食い違って見える。しかし、対象の年代も、減量の経験も、比べる時間も異なる。[5][8] 同じ時点の体格との関係を調べることと、今後の体重変化を予測することは別の仕事である。「肥満と関連する」という見出しを、そのまま「私の停滞の原因」に翻訳しないことが大切だ。
この違いは、家族や友人の検査結果を参考にするときにも関わる。体格が違う人の数値を見て、自分の値ならもっと減量できるはずだと考えると、研究が比べていない競争になる。群の平均差は個人の体重の予定表ではない。小児のレビューの不一致は、単純な線引きで全員を説明する難しさを示している。[8]
数字で読むコルチゾールと体重の研究
成人786人:減量を達成した人の維持期を追った前向き解析の対象である。[5]
体重5%以上の減少:その成人研究の参加条件であり、読者への減量目標ではない。[5]
18か月:成人研究で自宅の体重測定を続けた観察期間である。[5]
係数0.02%、95%信頼区間0.00〜0.04:毛髪コルチゾールの対数値の増加と、その後の体重の揺れとの小さな関連を示す。[5]
観察研究9本中5本と4本:小児の毛髪コルチゾール比較で、有意に高かった研究と有意差がなかった研究の内訳である。[8]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2







