スマホの減量アプリを使った試験では、3か月で1〜3kgの差が出た例がある。一方、18本の試験を集めた系統的レビューは、12か月以降ではっきりした利点を示さなかった。差を分けた使い続けた日数、人の支援との組み合わせ、体重以外に動いた行動を、数字で確かめる。
短い試験ではよく効き、長い目で束ねると差が見えにくくなる。スマホの減量アプリの研究は、この食い違いを抱えたまま進んできた。日本の会社員141人を2つに分け、片方にだけ食事と運動、気分、睡眠を記録して助言を返すアプリを3か月使ってもらった試験では、使った群の体重が平均2.4kg、使わなかった群が0.7kg減った[12]。条件をそろえて比べた差は1.60kgだった[12]。
一方で、こうした試験を18本集めた系統的レビューは、まったく違う調子の結論を出していた。手に入る証拠は限られており、過体重や肥満の若者と大人にとって、スマホのアプリがはっきり役に立つとは示せない、というものだ[5]。
どちらかが間違っているわけではない。測った時期が違い、比べた相手が違い、アプリの中身が違う。この食い違いをほどくと、アプリを入れる前に決めておくべきことが見えてくる。アプリに期待してよい仕事と、アプリには頼めない仕事の境目である。

3か月前後の試験では、1kg弱から3kgの差が出ている
まず短い試験から見る。ドイツのミュンヘン周辺で、BMIが30〜40の大人168人を集めた無作為化比較試験がある[1]。無作為化比較試験とは、参加者をくじ引きのように偶然で群に分け、条件の違いだけを比べる方法だ。参加者の64.3%が女性で、平均年齢は46.8歳、平均BMIは34.2だった[1]。
片方の群は最初から12週間、食事や運動などを組み合わせたアプリのプログラムを使い、もう片方は12週間待ってから同じものを使った[1]。12週間後、最後まで続けた人の解析で、すぐ使った群は3.2kg、待った群は0.4kg減った[1]。群の差は−2.9kg(95%信頼区間−3.8〜−1.9)で、すぐ使った群のうち続けた人は、24週の時点でも減った体重を保っていた[1]。著者らは、この減量を「中程度」と表現している[1]。
日本の試験では、冒頭の会社員の試験のほかに、特定健診と保健指導に合わせて作られたアプリを、40〜69歳の過体重・肥満で高血圧のある男性78人で試したものがある[8]。体重、歩数、血圧を記録し、チャットの形で健康の情報を返す仕組みで、試験の継続率は95%(78人中74人)だった[8]。体重の変化の中央値は群によって−0.4kgと−1.1kgで、差は1kgに満たないが、統計的には意味のある差だった[8]。著者らは、控えめだが有意な減量と結論した[8]。
別の試験は、市販の記録アプリの使い方を3通りに分けて比べた[19]。BMIが25〜45の大人105人を、体重と食事を最初から両方記録する群、4週目までは体重だけを記録して後から食事を足す群、食事だけを記録する群に分けた[19]。全員に、12週で体重の5%を減らす目標、個別のカロリーの目標、アプリ内の通知が与えられた[19]。3か月の体重変化は−2.8kg、−2.7kg、−2.4kgで、記録の順番による差はなかった[19]。
並べると、3か月前後の試験で、アプリを使った群と比較の群の差は、1kg弱から3kg近くまでの幅に収まる[1][8][12]。体重計の目盛りで言えば、気づける大きさの差である。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
試験を集めると「はっきりした利点」は示されない
では、なぜ冒頭の系統的レビューは慎重だったのか。このレビューは医療の根拠を評価する国際的な共同計画の手順に沿って行われ、18本の試験、合計2,703人を集めた[5]。対象は過体重や肥満の若者と大人で、行動を変える工夫を2つ以上組み込んだアプリを、3か月以上の追跡で評価した試験だけを選んでいる[5]。介入の期間は2〜24か月だった[5]。
このレビューが重く見たのは、6か月以上、とくに12か月以上の結果である[5]。12か月の時点で、アプリを、ほとんど何もしない比較(短い健康の助言、配布物、食事日記、減量と関係のないアプリ、順番待ちなど)と比べると、体重の差は−2.5kgだった[5]。数字だけ見ると先の短期試験と変わらない。ところが95%信頼区間は−6.8〜1.7kgで、増える側までまたがっていた[5]。3試験・1,044人の統合で、証拠の確からしさは「低い」と判定され、「差はほとんどないかもしれない」と表現された[5]。
信頼区間は、推定の幅を表す。幅が0をまたぐとき、差がない可能性を否定できない。24か月の時点では、1試験・245人で体重の差は0.7kg(95%信頼区間−1.2〜2.6)で、こちらも「ほとんど差がない」とされた[5]。BMIの変化は12か月で−0.1(95%信頼区間−0.4〜0.3)だった[5]。
意外なことに、12か月の時点で、中くらい以上の強さの身体活動はアプリの群で週に28.9分少なかった(95%信頼区間−85.9〜28、1試験650人)[5]。運動を応援するはずのアプリの群で、運動の時間が増えたという確かな結果は出ていない。
2型糖尿病のある人に絞ったメタ分析は、もう少し好意的だ。14本の試験・2,129人を集め、アプリを使った介入で体重は−0.84kg(95%信頼区間−1.51〜−0.17)、腹囲は−1.35cm(同−2.16〜−0.55)減った[10]。ただしBMIの差は−0.08で、はっきりしなかった[10]。減量は肥満のある人や、アプリにほかの行動支援を組み合わせた試験でより大きかった[10]。そして、アプリの機能の違いや介入の期間によって、減量の大きさは変わらなかった[10]。画面の機能を足しても、体重計の目盛りがそれに応じて動くとは限らないということだ。
短い試験の数kgの差と、長いまとめの「はっきりしない」は、同じ地図の別の場所を指している。ここで見た数字では、3か月の時点では差が見えやすく、1年、2年と時間がたつと幅が広がり、差が薄れる。系統的レビューの著者らは、アプリの機能、内容、構成のばらつきが大きく、直接比べることも効果を評価することも難しいと書いている[5]。そのうえで、進行中の試験が34本あり、新しい証拠が出てくると見込んでいる[5]。
差を運んでいるのは、使い続けた日数
短期でも差がつく試験と、つかない試験を分けるものは何か。手がかりは「どれだけ使い続けたか」にある。
減量アプリの食事の写真の機能を調べた後ろ向きの研究は、BMI25以上の18〜65歳のうち、写真の機能を使った9,871人と使わなかった113,916人を比べた[11]。写真を使った人の減量率は0.14%大きく、アプリを使った期間は3.5日長く、食事を記録した日は6.1日多かった[11]。ところが、使った期間か記録した日数を統計的にそろえると、写真の機能の効果は消えた[11]。写真が効いたのではなく、写真を使う人が長く、多く記録していた、という読み方になる。
ミュンヘンの試験でも、アプリに費やした時間が長いほど体重が減るという関連が出ている(β−0.10、95%信頼区間−0.18〜−0.01)[1]。日本の男性の試験では、アプリの群で毎日の体重測定、歩数計の装着、血圧の測定を続けた割合が、比較の群より高かった[8]。アプリが何かを教えたというより、毎日の測る手を止めなかったことが、群の差に重なって見える。
逆側の数字もある。記録の順番を比べた試験では、1週間に食事を記録した日数の中央値が、群によって1.9日、5.3日、2.9日だった[19]。体重の記録は週に4.8日と5.1日で、食事より続いていた[19]。参加者の84%が女性で、平均年齢は42.7歳、平均BMIは31.9だった[19]。1か月目の測定に来たのは84%、3か月目は76%で、試験の途中でも人は少しずつ抜けていく[19]。食事を毎日書き続ける人は、試験に参加するほど意欲のある集団の中でも多くない。
それでもこの試験の著者らは、記録の順番にかかわらず、個別の目標と市販のアプリで臨床的に意味のある減量が得られたとし、手厚さを抑えた方法を求める人の選択肢になりうると結論している[19]。毎日完璧に書けなくても、減量の差は出ていた。
ただし、使い続けた人が痩せたという関連は、試験の中の観察である。長く使える人は、もともと生活に余裕があったり、意欲が高かったりするかもしれない。使い続けることが原因なのか、痩せていく人が使い続けるのか、この形の分析だけでは決められない。それでも、アプリの効き目を考えるときに「入れたかどうか」より「何日開いたか」を見る理由にはなる。
数字で読むスマホの減量アプリ
−1.60kg:日本の会社員141人が3か月アプリを使った試験の群間差で、95%信頼区間は−2.83〜−0.38だった。[12]
−2.9kg:BMI30〜40の168人の12週の群間差で、最後まで続けた人の解析だった。[1]
−2.5kg:12か月の時点で3試験1,044人を統合した差で、幅は−6.8〜1.7kgと0をまたいだ。[5]
−0.84kg:2型糖尿病のある人の14試験2,129人を統合した体重の差。[10]
0.14%:写真の機能を使った人の上乗せの減量率で、使った日数をそろえると消えた。[11]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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