運動後の乳酸は肝臓で糖に戻る?減る速さと筋肉の燃料回復を分けて読み解く

運動後の乳酸は肝臓で糖を作る材料になる。ただし、血液中の乳酸が減ることと筋肉の燃料が戻ることは同じではない。乳酸を燃料として使う経路と糖に戻す経路を、人を対象にした試験とレビューから読み分ける。空腹か補給中かで変わる研究結果を手がかりに、運動後の回復の見方を考える。

自転車のペダルを止めたあと、脚の重さを「乳酸がたまった」と呼びたくなる。では、その乳酸が肝臓へ運ばれて糖に戻れば、使った筋肉の燃料も元通りになるのだろうか。乳酸が肝臓で糖の材料になるのは確かだが、血液中から減った量をそのまま筋肉への補給量として数えることはできない。[13][19]

乳酸には、糖へ組み直される行き先と、エネルギーを取り出すために使われる行き先がある。血液の濃度は、この使い分けの内訳まで教えてくれる数字ではない。運動後の回復を考えるには、「血液にどれだけあるか」「何に使われるか」「筋肉に何が蓄えられたか」を分ける必要がある。[13][15][19]

既存記事「有酸素運動の乳酸は脳にも使われる?疲れの物質と決める前に燃料の移動を読む」には、脳を含めた燃料の移動という問いを譲る。ここで追うのは、肝臓で糖に戻る経路と、血中乳酸の低下から筋肉の燃料回復をどこまで判断できるかという問いである。

既存記事「運動後のおにぎりは冷たい方がよい?消化されにくいでんぷんと燃料回復を読む」は、食べたでんぷんの消化と補充を扱う。ここでは食べ物の温度や消化性ではなく、体内の乳酸を糖へ戻す経路を追う。

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肝臓は乳酸を糖の材料として受け取る

糖新生とは、乳酸などの糖以外の材料からグルコース、つまりブドウ糖を作る反応である。乳酸代謝を幅広く扱うレビューは、乳酸がいったんピルビン酸という物質へ変わり、そこから糖へ作り替えられる経路を説明している。乳酸が名前を変えるだけではなく、段階を踏んだ代謝の反応である。[13]

運動中に筋肉で生まれた乳酸が肝臓へ運ばれ、糖を作る材料になる循環は、コリ回路と呼ばれる。骨格筋の乳酸の役割を扱うレビューでも、この筋肉と肝臓の受け渡しが示されている。筋肉で使われた糖の材料が、体の別の場所で再利用される仕組みとして読むと分かりやすい。[3]

ただし、「肝臓は糖を作る」と「肝臓は糖を蓄える」は別の働きだ。肝臓の糖代謝を測る方法を扱うレビューによると、食後には余った血中グルコースをグリコーゲンとして蓄え、食事由来の糖の供給が落ち着いた状態では、グリコーゲンの分解と乳酸などからの糖新生によってグルコースを供給する。グリコーゲンは糖を蓄えておく形である。[9]

ここで「糖に戻ったのだから、その分が筋肉に戻った」と先回りしないことが大切だ。肝臓が血液へ糖を供給する働きと、筋肉がグリコーゲンを作って蓄える働きは、つながっていても同じ反応ではない。運動後の筋グリコーゲン再合成を扱うレビューは、材料の由来に加え、合成や分解を調節する酵素も関わると整理している。[9][19]

肝臓の代謝を扱うレビューは、磁気共鳴画像法と磁気共鳴分光法によって、体の外から肝臓の糖代謝を調べる方法を紹介している。画像を得る方法と、物質の情報を調べる方法を使い、グリコーゲンを作る反応、分解する反応、糖新生を検討する。健康な人と糖尿病患者の肝臓を対象に、食事、絶食、運動などを介した研究に用いられている。患者の糖代謝の変化を、18〜39歳の健康な女性へそのまま当てはめることはできない。[9]

このような測定が必要になること自体、血液の数字と臓器の中の反応が同じではないことを示している。肝臓が取り込む糖と血液へ放出する糖の動きを考え、そのうえで蓄えの増減を調べる。運動後に「糖が戻る」と聞いたときも、血液へ供給されたのか、肝臓に蓄えられたのか、筋肉に蓄えられたのかを省略せずに読むとよい。[9][19]

肝臓を通る道を知ることには意味がある。しかし、経路図に矢印があることと、その矢印をどれだけの量が通るかは違う。運動後の体を読むときは、コリ回路の存在を確認したうえで、実際に調べた条件と量へ進む必要がある。[15][16]

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血液から減った乳酸は、すべて糖に戻るわけではない

乳酸からできるピルビン酸には、糖になる以外の行き先もある。酸素を使う反応を経てエネルギーを生み、二酸化炭素になる経路だ。包括的レビューは、この酸化と糖新生を乳酸利用の異なる経路として記述している。「消える」という日常語では、この違いが見えなくなる。[13]

たとえば台所から食材がなくなっても、保存容器に移したのか、料理に使ったのかは別問題である。乳酸も血液中から減ったという結果だけでは、筋肉の貯蔵燃料へ回ったと決められない。糖へ変える経路も、燃料として使う経路もあるためだ。[13]

さらに、血液中の濃度と、乳酸が出入りする速さも同じではない。運動中の試験では、乳酸が血中へ現れる速度、血中から取り除かれる速度、酸化される速度を分けて測っている。出る量と使う量がともに増えることがあり、「乳酸が多いから使えていない」という読み方は成立しない。[15]

この区別は、運動後の数値を広告や体験談で見たときにも役立つ。「乳酸が下がった」という説明を読んだら、何を測った結果なのかを確かめたい。血中濃度の低下なのか、乳酸を使う代謝の変化なのか、それとも筋肉のグリコーゲンの増加なのか。研究が別の指標として扱うものを、ひとつの「回復」に押し込めない読み方である。[15][19]

低強度の運動中に血糖と乳酸が下がる現象を扱ったレビューは、よく鍛えられた競技者では回復能力の指標になる可能性を論じている。ただし、対象は訓練された競技者であり、結論も可能性としての提示だ。18〜39歳の女性が日常的な運動を終えたときの回復指標として、そのまま当てはめることはできない。[4]

空腹で乳酸を増やす試験では糖の生産が増えた

乳酸が糖の材料になることを人で調べた試験がある。対象は運動習慣のない、空腹状態の7人だ。最大酸素摂取量の33〜34%という低強度で4時間の自転車運動を行い、最後の1時間に乳酸ナトリウム、または比較用の重炭酸ナトリウムを注入した。条件の順序を無作為にした試験である。最大酸素摂取量は、有酸素運動の能力を表す指標だ。18〜39歳の女性の短いレッスン後へ、そのまま当てはめられる条件ではない。[16]

乳酸を注入すると、血中乳酸濃度は4.4±0.6ミリモル毎リットルまで上がった。運動に伴って下がった血糖も、乳酸の注入によって低下が抑えられた。血中へ現れるグルコース全体のうち、乳酸から糖新生で作られる分の割合は、29±4%から46±4%へ増加した。研究は乳酸からの糖新生とグルコース生産の増加を報告している。[16]

血糖濃度にも具体的な変化がある。運動によって5.0±0.2から4.2±0.3ミリモル毎リットルへ下がった一方、乳酸を注入した条件では5.0±0.3ミリモル毎リットルだった。研究は、乳酸が材料として多く利用できる状況で、糖を作る能力が血糖の維持に使われたと結論している。これは血液中の糖についての結果であり、運動後の疲れの点数ではない。[16]

試験では、体内の水に重水素という目印をつけ、グルコースへその目印が入る様子から糖新生を調べている。さらに別の目印をつけたグルコースを利用し、血中へ現れる糖の速度を測った。血糖濃度を比べるだけで終わらず、糖がどのように供給されたかへ踏み込んだ設計である。糖が増えたという現象と、その材料に乳酸が使われたという説明をつなぐ部分だ。[16]

この割合の分母を間違えないようにしたい。「乳酸の46%が糖になった」という意味ではない。測っているのは、血中へ現れるグルコースに対する乳酸由来の糖の寄与である。また、糖新生によるグルコース生産が増えたという結果を、「筋肉の蓄えが46%回復した」と読むこともできない。[16]

数値に添えられた±は、この試験では平均値と標準誤差を表す。運動後の一般読者が到達すべき目標幅ではなく、実験条件で得られた値の表し方だ。乳酸を血管へ注入する操作を、飲み物や軽い運動で再現できる方法として扱わないことも必要である。[16]

この試験の面白さは、「乳酸はなくすほどよい」という単純な見方から外れる点にある。空腹の低強度運動という条件では、材料として乳酸を増やすと糖の生産も増えた。乳酸の量は、悪いものの残高ではなく、体が利用する材料の量としても読める。[16]

数字で読む乳酸と糖の行き先

7人:空腹で低強度の自転車運動をした、運動習慣のない参加者数。[16]

4時間:同じ試験の運動時間。短いレッスン後の回復試験とは条件が違う。[16]

29±4%から46±4%:血中へ現れるグルコースに占める、乳酸からの糖新生の割合の変化。[16]

7人:糖を補給しながらの持久運動で乳酸の動きを調べた、持久系の訓練を積んだ男性の人数。[15]

120分:その補給試験で行った運動時間。乳酸からの糖新生は、どちらの補給条件でもごく小さかった。[15]

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