食欲を抑えるなら筋トレと有酸素運動のどちら?空腹感と食事量が違う研究の答え

筋トレの帰りは空腹なのに、走った直後は食べたくない。その違いだけで食欲を抑える運動は選べるのか。比較レビューと介入試験をもとに、直後と継続後、食欲ホルモンと空腹感、実際の食事量を分けて読む。女性と男性、健康状態で異なる研究の対象も確かめ、日常での運動の選び方を考える。

最後のスクワットを終え、片づけをしているうちに夕食が待ち遠しくなる。一方、走った直後には食べ物に手が伸びない日もある。「食欲を抑えたいなら、筋トレより有酸素運動を選ぶべきか」。同じ体を動かす時間でも、終わった後の空腹は気になる。

研究の答えは、有酸素運動のほうが食欲を抑える可能性はあるが、筋トレとの勝敗を確定できる段階ではない、である。筋トレにも直後の食欲を抑える方向の反応があり、続けたら必ず食べる量が増えるとも示されていない。比較研究を整理したレビューは、この両方を報告している。[10]

そして、空腹を感じることと、実際の食事量が増えることは別だ。筋トレを続けて空腹感が増しても総摂取エネルギーは変わらなかった試験があり、ホルモンが変化しても食欲や食事量は変わらなかった試験もある。[4][14] 運動を食欲の消去ボタンとして選ぶ前に、このずれを見ておきたい。

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筋トレより有酸素運動が有利、はどこまで言えるか

筋トレと有酸素運動を直接比べたいとき、出発点になるのが、筋トレ単独の研究とほかの運動との比較を集めたスコーピングレビューである。これは研究の全体像や調べられている範囲を整理する形式のレビューで、ここでは単回の運動を扱う17研究と、継続的な運動を扱う9研究が取り上げられた。[10]

単回の筋トレでは、運動しない条件に比べて食欲の抑制に向かう反応がみられる一方、有酸素運動にはそれ以上に食欲を抑える可能性があるとされた。続けた場合も、有酸素運動や筋トレとの併用のほうが、筋トレ単独より食欲抑制に向かいやすい可能性が示された。筋トレの強度やほかの運動との比較は、今後の検証課題として残った。[10]

この比較の限界は、運動条件と対象者をそろえて読める範囲にある。レビューには筋トレの量、強度、使う筋肉、運動形式などが異なる研究が含まれている。有酸素運動に有利な方向が見えても、「食欲を抑えるには有酸素運動が最適」と順位を確定するには飛躍がある。[10]

たとえば検索で知りたいのが、仕事帰りの筋トレを散歩に替えるべきかという問いなら、レビューの運動形式の比較を、そのまま自分の帰宅経路の比較にはできない。ここで見えるのは研究群の方向であり、自分の夕食がどれだけ変わるかという予報ではない。[10] 種目名だけで結論を急がず、何を測った結果なのかまで読む必要がある。

既存記事「有酸素運動でお腹が空くのは強度次第?直後の食欲と一日の食事量を分けて読む」には有酸素運動の強度の話を譲り、ここでは筋トレを比較の中心に置く。同じ「食欲」という言葉の中に、気持ち、血液の値、食べた量が混ざっていないかを確かめるのが今回の問いである。

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ホルモンが動いても、食卓の量は動かないことがある

このずれがよく見えるのが、乳がん治療歴のある閉経前の女性16人を対象にした無作為化クロスオーバー試験である。同じ参加者が単回の筋トレをする条件と、座って過ごす条件の両方を経験した。参加者は日常の身体活動が少なく、平均年齢は46歳であった。治療歴と年齢が異なるため、健康な18〜39歳の女性へそのまま当てはめることはできない。[14]

条件をそろえた朝食の35分後に筋トレまたは座位の時間を設け、朝食から180分後に、好きな量を取れる形式の食事を用意した。研究者はその間の食欲の自己評価に加え、グレリンとペプチドYYという食欲に関わるホルモンを測った。[14] 気持ちを尋ねるだけでなく、血液と食事にも別々の窓を開けた設計である。

筋トレ条件では、朝食から120分後と180分後のグレリンが低く、90分後と120分後のペプチドYYが高かった。しかし、時間全体でまとめたホルモンの指標には条件差がなく、食欲の自己評価にも食事の摂取エネルギーにも差はなかった。[14] この試験の結果は、特定時点のホルモン変化と、食事量に差がないことの併存である。

変化の大きさを見ると、筋トレ条件のグレリンは座位条件より、朝食から120分後に85±39 pg/mL、180分後に114±43 pg/mL低かった。ペプチドYYは90分後に21±10 pg/mL、120分後に14±7 pg/mL高かった。[14] これは血液中の濃度の差である。食べる量の差や、空腹が何割弱くなったかを表す数字ではない。濃度の変化に具体的な値が付いていても、その単位を飛び越えて食事への効果を大きく見せてはいけない。

また、測定の時計は朝食を起点にしている。朝食後の同じ経過時間で運動条件と座位条件を比べるからこそ、特定時点の差を検討できる。[14] 自分の記憶にある「運動直後は食欲がなかった」という場面とは、時刻の取り方も観察の仕方も異なる。朝食後に行われた試験を、夕食を取らずに夜遅く行う筋トレへ、そのまま移しかえることはできない。結果を生活に近づけるときほど、いつ食べ、いつ運動した研究なのかが意味を持つ。

この結果を「筋トレで食欲ホルモンを整えれば食べすぎを防げる」と紹介すると、研究で起きなかったことまで足してしまう。ホルモンが抑制方向に動いたという説明と、本人が食べたくなくなったという説明は、別々に証明される必要がある。この試験では前者の一時的な変化と、後者の差がないことが並んだ。[14]

対象者の背景も外せない。乳がんの治療歴や女性ホルモンを抑える状況に関わる問いであり、健康な若年女性全体の反応を代表させる試験ではない。[14] 女性の研究であるという理由だけで、自分と同じ条件だと思わないほうがよい。性別の一致は、研究対象を確かめる作業の入口にすぎない。

運動の帰り道に「今日は空腹が弱い」と感じたとしても、それは血中ホルモンを測ったことにはならない。逆に、空腹を感じてもホルモンの変化がなかったとは判定できない。研究で測定を分けているのだから、日常でも体感と体内の推測をひと続きの事実にしない。その区別が、ホルモンという言葉に期待を盛りすぎないための助けになる。[14]

続けた筋トレで空腹が増しても、食事量は増えなかった

直後の反応から少し視野を広げると、筋トレを8週間続けた試験がある。肥満ではなく筋トレ未経験の男性を、毎回全身を鍛える20人と、上半身と下半身を交互に鍛える15人に分け、無作為に割り付けて比較した。どちらも連日を避けて週3回行い、全体のセット数をそろえている。男性の筋トレ初心者を対象とした比較なので、18〜39歳の女性でも同じ変化が起きるかは別に検証する必要がある。[4]

結果は、どちらの群でも空腹時の空腹感が増し、満腹感が下がった。食後には脂っこいものを食べたい欲求も増えた。一方で、総摂取エネルギーと脂肪量は変わらず、除脂肪量は増えた。[4] 除脂肪量は体脂肪を除いた体の量であり、ここでは筋トレの身体的な変化と食欲の反応が同時に調べられている。

この試験が教えるのは、空腹の自己評価を、そのまま食べる量の増加に置き換えないことだ。「以前よりお腹が空く」と「以前より多く食べた」は、似た報告に見えても同じ測定ではない。実際、参加者には食欲を強める方向の変化が起きたのに、摂取エネルギーが増える結果にはならなかった。[4]

また、全身を毎回鍛える方式なら食欲が抑えられる、部位を分けると食べたくなる、といった選び分けもこの結果からは支持されない。両群で空腹感の増加が起きており、食欲を抑えるための分割法の勝者は示されていない。[4] トレーニング表の組み方と食欲の制御を、ひとつの工夫で解決しようとしないことである。

ただし、これは筋トレの方式を比べた試験であり、有酸素運動との直接比較ではない。男性の筋トレ初心者に起きた変化を、女性の経験者にも同じように起きると決めることもできない。[4] レビューの「継続的な筋トレは補償を促すようには見えない」という見方と合わせると、少なくとも筋トレを始めると食べる量が必ず増える、という筋書きは成り立たない。[10]

日常の記録でも、空腹と食事を別の欄に置くと問いが明確になる。夕方にお腹が空いた日は、気持ちの変化として記す。夕食や間食が普段とどう違ったかは、行動の記録として確かめる。この分け方は、空腹感と摂取エネルギーが一致しなかった試験を生活で読み違えないための工夫であり、食事を削る課題ではない。[4]

数字で読む筋トレと食欲

17研究:単回の筋トレやほかの運動形式との比較を扱ったレビュー内の研究数である。[10]

9研究:同じレビューで継続的な運動を扱った研究数で、単回の結果とは分けて整理された。[10]

16人:ホルモンの一時的な変化と、食欲・食事量に差がない結果が並んだ女性の試験である。[14]

8週間:筋トレ未経験の男性で空腹感が増した一方、総摂取エネルギーが変わらなかった期間である。[4]

60人:後述する、過体重または肥満の男性でサーキット筋トレと補給の条件を分けた試験の人数である。[9]

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