糖質制限は健康によいのか。その答えを、減らした主食の代わりに何を食べるかから考える。植物性・動物性の食事と死亡率、糖尿病発症を調べた長期追跡研究を読み、短期の体重や血糖の改善との違い、有意差がない結果の意味、毎日の食卓で確認したい食品の組み合わせを整理する。
夕食の皿に、ご飯をよそわなかった分の空白ができた。ご飯を少なくしたところまでは決まったが、空いた場所に肉を足すか、豆の料理を添えるかで迷う。「糖質を控えた」という記録には、どちらも同じように収まってしまう。
健康のために糖質制限をするなら、主食を減らした事実だけでは判断できない。長期の研究では、脂質やたんぱく質の供給源、食卓全体の食品の組み合わせによって、健康との関連が異なる。食品の供給源まで見ることが、食事全体を考える出発点になる。[1][2][6]
ここで確かめたいのは、糖質制限の勝敗ではなく、置き換えの中身と結果を測る物差しである。体重が変わること、血糖の指標がよくなること、将来の死亡率が低いことは、それぞれ別の問いだ。短期の代謝改善を調べた試験と、長期の死亡を追った研究は、分けて読む必要がある。[6][15]

主食の引き算だけでは食事の姿が見えない
成人と高齢者の食事パターンと総死亡との関係を調べた系統的レビューは、153報を集めた。系統的レビューとは、決めた基準で研究を探し、結果を整理する方法である。含まれた研究は無作為化比較試験が1報、将来に向かって人を追う前向きコホート研究が152報だった。全体としては、日々の食品の組み合わせを観察した証拠が中心である。成人・高齢者を含む結果で、18〜39歳の女性にそのまま当てはめられるかは別に検討する必要がある。[1]
死亡リスクの低さと関連した食事には、野菜、果物、豆類、ナッツ、全粒穀物、不飽和の植物油などを含むという共通点があった。動物性食品を含む場合には、魚、脂身の少ない肉や鶏肉などを取り入れ、赤肉や加工肉を比較的少なくするパターンが見られた。精製された炭水化物や菓子が比較的少ないことも特徴だった。[1]
対して、炭水化物・脂質・たんぱく質の配分を軸にした食事と総死亡の関係は、証拠が不十分と評価された。食品から見た食事の質には一定の方向性があっても、栄養素の比率だけで寿命との関係を決めるのは難しい、という違いがある。[1]
この結果を夕食の選び方に戻すと、「ご飯を減らせたか」の隣に「何を残し、何を増やしたか」という欄が要る。例えば豆類や野菜の料理を含めたのか、加工肉ばかり増えたのかでは、同じ低炭水化物という名前でも食事の構成が違う。これは特定の献立に延命効果を付ける話ではなく、研究が捉えた食事パターンに照らして、買い物の見方を増やす提案である。[1]
植物性という言葉も、食品名を省略するための合言葉にはしない。レビューで関連が見られたのは、豆類や全粒穀物などを含む組み合わせであり、植物からできた食品をすべて同じ扱いにした結論ではない。甘い菓子を増やすことと、豆の料理を取り入れることまで同列には並べられない。[1]
油の種類と血中脂質の詳しい比較は、既存記事「糖質制限の油は種類を気にする?同じ糖質量でも違う脂肪の質と血中脂質を読む」に譲る。ここでは、脂質の検査値だけでなく、食事全体を続けた人に将来どのような結果が見られたかへ視線を移す。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
長期の死亡率では、対象によって答えが変わる
低炭水化物食の得点と総死亡との関係を調べたメタ分析は、18の前向きコホート研究、779,158人、219,457件の死亡をまとめた。メタ分析は、複数の研究の結果を統計的に統合する方法だ。この研究では、低炭水化物食全体の得点と、健康的・不健康的と分類された得点を区別し、一般集団と慢性疾患のある集団も分けて調べている。対象は成人で、18〜39歳の女性だけに同じ関連があるかは、この統合結果からは判断できない。[6]
慢性疾患のある集団では、健康的な低炭水化物食の得点が最も高い群は、最も低い群に比べて総死亡のハザード比が0.72、95%信頼区間は0.69〜0.76だった。ハザード比は追跡中の出来事の起こり方を比べる指標で、信頼区間は推定の不確かさを表す。死亡との関連の方向が、区間を含めて低い側にあった。[6]
しかし一般集団では、同じ健康的な低炭水化物食の最高得点群でもハザード比は0.93、95%信頼区間は0.85〜1.01だった。差がないことに相当する1をまたぐため、死亡率が有意に低いとはいえない。さらに、低炭水化物食全体の最高得点群も、一般集団では0.96、95%信頼区間0.90〜1.03と、有意な関連を示さなかった。[6]
不健康的と分類された低炭水化物食の得点は、どちらの集団でも死亡との有意な関連がなかった。この分析は観察研究の統合であり、食事以外の生活条件も結果に関わりうる。有意な関連がないことは予防効果や安全性の証明を意味せず、関連があることも因果の確定にはならない。これが、以下の長期追跡の数字を読む際に共通する限界である。[6]
買い物で役立つのは、得点の名前を献立へ戻す作業だ。植物性の食品を増やすなら、まず豆類やナッツ、野菜、全粒穀物が普段の食事に登場しているかを見る。レビューでは、こうした食品を含む食事パターンが死亡リスクの低さと関連していた。主食を減らした皿へ加工肉だけを足す前に、豆の料理や野菜の副菜を選べるか確認する、という順序が考えられる。[1]
食品の役割も分けておく。豆類やナッツを見ることと、植物油を見ることは、食事の同じ欄を確認する作業ではない。植物性のたんぱく質源を考える場面では豆類やナッツを、油脂を選ぶ場面では不飽和の植物油を、主食を選ぶ場面では全粒穀物を、という具合に献立の中で位置づける。どれかだけで食事の質を代表させず、食品の組み合わせとして見るのがレビューの読み方に沿う。[1]
動物性と植物性は、糖尿病の追跡でも分かれる
死亡率とは別の結果として、糖尿病の発症を調べた研究がある。妊娠糖尿病の既往がある女性4,502人を追った研究では、1991〜2011年の追跡中に722件の2型糖尿病発症が確認された。食事は質問票で繰り返し評価され、低炭水化物食全体、動物性、植物性という異なる得点が作られた。妊娠糖尿病の既往がある女性の結果なので、18〜39歳の女性一般への適用には既往の違いを考慮する必要がある。[2]
最も高い得点群を最も低い群と比べると、動物性の低炭水化物食では発症のハザード比が1.40、95%信頼区間は1.06〜1.84だった。植物性では1.19、95%信頼区間0.91〜1.55で、有意な関連はなかった。動物性の脂質やたんぱく質を多く含む食事に関連が見られた一方、植物性の結果は発症予防を証明したものではない。[2]
別の地域でも比較は行われている。テヘランの健康な成人4,356人を平均3年追ったコホート研究では、動物性の低炭水化物食の得点が最も高い群は、最も低い群に対して発症のオッズ比が1.81、95%信頼区間1.06〜3.11だった。植物性では1.47、95%信頼区間0.85〜2.52で、有意ではなかった。対象は平均40.5歳で男性も含み、18〜39歳の女性にそのまま当てはめることはできない。[5]
オッズ比とハザード比は異なる統計指標であり、ここで並んだ数値の大きさだけを比べて、地域ごとの危険度に順位を付けることはできない。共通して読むべきなのは、動物性の得点では発症の多さとの関連があり、植物性の得点では有意な関連が見られなかった、という方向である。[2][5]
食品選びでは、動物性をまとめて扱わず、中身を確認する。夕食の候補が魚なのか、鶏肉なのか、加工肉なのかを料理名で書き出すと、糖質量の比較だけでは隠れていた違いが見える。食事パターンのレビューでは魚や脂身の少ない肉・鶏肉を含み、赤肉や加工肉が比較的少ない組み合わせが、死亡リスクの低さと関連していた。[1]
植物性の候補も、豆類、ナッツ、全粒穀物と具体的に並べてみる。豆の料理を主菜の候補にする、野菜の料理が付いているか見る、主食では全粒穀物を含むものを探す。これは個別食品の効果の順位ではなく、レビューに登場する食品群を買い物で見落とさないための確認である。植物性という大きな名前を、売り場で選べる食品名に変えることに意味がある。[1]
質問票から作った食事得点には、普段の食べ方が反映される。妊娠糖尿病の既往がある女性の研究では、食事情報を4年ごとに評価していた。テヘランの研究では開始時の質問票を使い、年齢、喫煙、身体活動、総エネルギー摂取などを統計的に考慮した。食事の構成を比べた研究として読むと、糖質を減らす量だけを競うより、継続して選んでいる食品へ目が向く。[2][5]
数字で読む糖質制限と長期の健康
153報:食事パターンと総死亡を扱った系統的レビュー。大部分は前向きコホート研究である。[1]
779,158人:低炭水化物食の得点と総死亡を統合したメタ分析の参加者数である。[6]
0.72:慢性疾患集団の健康的な低炭水化物食、最高対最低得点群の死亡ハザード比。95%信頼区間0.69〜0.76。[6]
0.93:一般集団での同じ比較。95%信頼区間0.85〜1.01で、有意な関連はなかった。[6]
1.40:妊娠糖尿病の既往がある女性で、動物性の低炭水化物食と発症を比べたハザード比。95%信頼区間1.06〜1.84。[2]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2






