インナーマッスルは軽い自重運動でしか鍛えられないのか。マシンの抵抗を増やす試験、重りの引く向きを変える比較、女性重量挙げ選手の筋厚から考える。運動中の筋活動と長期の筋肥大、腰痛に伴う機能の変化を区別し、重さだけに頼らず種目や負荷を選ぶための読み方を示す。
マシンの重さを増やしたら、お腹の奥の筋肉は休んでしまうのだろうか。マットでは「深部を意識して」と言われ、重りの前では大きな筋肉の名前が並ぶ。同じ体を動かしているのに、道具を替えるだけで筋肉の担当まで入れ替わるように感じる。
答えの芯は、重りを使っても深い筋肉は運動に参加する、である。健康な成人のマシン運動では抵抗を増すと体幹の筋活動が増え、腰の多裂筋は伸ばす運動でも曲げる運動でも高い活動を示した。ただし、その場の活動が高いことと、続けた結果として筋肉が大きくなることは別の結果である。[16][13]
したがって選びたいのは「自重か重りか」という札だけではない。どこを支え、どちらから力を受け、どんな動きを行うかである。同じ股関節を曲げ伸ばしする種目でも、重力に逆らう場合とケーブルに引かれる場合とでは、多裂筋の活動に違いがあった。[3] 重りの数字だけでは、お腹や腰の仕事は読めない。

深い筋肉を使うことと、大きくすることを分ける
ここで扱う深部の筋肉は、研究で測られた腹横筋や腰部多裂筋を中心とする。腹横筋は腹壁の筋肉として、多裂筋は腰部の筋肉として測定されている。[13][16] 肩の深い筋肉の種目選びは既存記事「インナーマッスルの肩トレは肘を離す?外旋する角度で変わる筋肉の働きを読む」に譲り、ここでは体幹に重りを加える場合に問いを絞る。
研究を読むときの入口は、何を結果にしたかを確認することである。筋電図は運動中の電気的な活動を記録する測定であり、マシンの負荷比較では、最大限に力を出したときの活動を基準にして値が示されている。一方、筋肉の断面積や厚さを画像で測る研究は、筋肉の形や大きさを結果にしている。[16][7][13] 電気の記録と画像の寸法は、別々のものさしだ。
この違いを飛ばして「活動が大きい種目だから、筋肉も最も増える」と読むと、短い運動の比較から長期の効果を先取りすることになる。健康な成人の機器実験が直接答えるのは、抵抗を変えたときに筋活動がどう変わるかである。[16] 働かせる条件を知る研究と、続けた後の変化を知る研究は、問いを分けて読む必要がある。
もうひとつ分けたいのは、体幹というまとまりと、測定された個々の筋肉だ。スクワットとそり押しの比較では、背部と腹部の指標は同じ反応を示さなかった。[4] 腰が疲れたという感覚だけで、お腹の奥まで同じ負荷だったと採点するのは難しい。自分が知りたいのは腰部の活動なのか、腹壁の厚さなのか。その問いを先に置くと、研究の数字に振り回されにくい。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
マシンの抵抗を上げると多裂筋も働くのか
健康な成人30人を対象にした実験では、腰を伸ばす運動と曲げる運動をトレーニング機器で行い、腹部と背部の筋活動を比較した。抵抗は、最大平均トルクを基準に30%、50%、70%に設定した。この結果だけで18〜39歳の女性に適した負荷を決めることはできない。トルクは回転させる力の大きさを表す指標であり、ここでの割合はマシンに表示される重さの割合とは同じではない。[16]
全体として、抵抗が30%から50%、70%へ増えると、伸ばす運動では背部の筋肉、曲げる運動では腹部の筋肉の活動が有意に増えた。腰部多裂筋は、ほかの背部筋と異なり、伸ばす運動と曲げる運動の両方で高い活動を示した。[16] 深い筋肉を使うには重さを必ず取り除く必要がある、という見方とは合わない。
この試験では、背部筋は比較的低い抵抗条件でも最大随意等尺性収縮の60%を超える活動に達し、腹部筋では高い抵抗条件が必要だった。最大随意等尺性収縮とは、関節を動かさず最大限に力を出す測定である。[16] ただし、この基準をそのまま「初心者もこの割合から始める」という処方にはできない。実験で使った運動と測定に対応する結果だからだ。
注目したいのは、同じ機器であっても筋肉ごとの反応がそろわなかった点である。背中の筋肉に十分な活動が出る設定と、お腹の筋肉に同程度の活動が出る設定は同じではなかった。[16] マシンの座席に座ったという共通点だけで、体幹全体の負荷をひとまとめにしないほうがよい。
実際の運動選びに置き換えるなら、表示された重さを相談する前に、どの方向へ動き、何を支えている種目かを確かめたい。これは重い設定を勧める話ではない。軽い設定なら深部だけ、重い設定なら表面だけ、と分けないための読み方である。[16] 数字を上げる相談と、狙う動きを確認する相談は、順序を分けられる。

重りの量が同じでも、引かれる向きは違う
股関節から体を折り曲げるヒンジ動作を比べた実験がある。対象種目は、重りを持って行うルーマニアンデッドリフト、ケーブルを使うプルスルー、体を支えて脚を動かすリバースハイパーエクステンションだった。それぞれの推定最大挙上重量の50%で5回行い、腰部と股関節周辺の筋活動を記録した。[3]
ルーマニアンデッドリフトからケーブルプルスルーに変えると、多裂筋の活動は14.1%、背部の最長筋は11.0%低下したと報告された。太もも裏の大腿二頭筋、半腱様筋でも活動が低下した。[3] 同じ「股関節を伸ばす運動」の仲間でも、重力に対抗する動きと、滑車を介して引かれる動きは同じ反応にならなかった。
ここで14.1%という差を、筋肉が育つ量の差に読み替えてはいけない。測ったのは各運動中の筋電図であり、継続後の筋肥大量を競った試験ではない。[3] また、最大挙上重量に対する割合をそろえることと、手にかかる重さや動作中の負担をすべて一致させることも、同じ意味ではない。
同じ実験で、ルーマニアンデッドリフトから脚を動かす種目へ変えると、大殿筋や太もも裏の活動は増えた。[3] ある筋肉の活動が下がる変化が、全身の運動として悪い変化とは限らない。腰部の筋肉を使うことを優先するのか、股関節周辺の仕事を考えるのかで、注目する結果も変わる。
ケーブルの数字とダンベルの数字を見比べて「こちらのほうが重いから深部にも強い」と考えたくなる場面はある。しかし、この比較から得られる手掛かりは、道具の種類より、抵抗の向きと体の支え方を見ようという点だ。[3] 重りは黙っていても、どちらへ引いているかは隠していない。
スクワットの背中が強く働いても、お腹まで同じとは限らない
筋力トレーニング経験のある健康な男性10人を対象に、バックスクワットと、重りを載せたそりを押す運動を比較したランダム化クロスオーバー試験がある。同じ参加者が異なる条件を行う研究で、スクワットは10回が限度の条件、そり押しは20歩が限度の条件だった。対象が男性の経験者であるため、18〜39歳の女性の初心者に同じ負荷設定を当てはめることはできない。[4]
スクワットでは、下部脊柱起立筋の活動がそり押しより74.5%大きかった。一方で、腹横筋と内腹斜筋を合わせた測定では、両種目の間に有意な差がなかった。[4] 背中の活動に大きな差があるから、お腹の深部も同じ方向へ大きく変わるだろう、という推測はこの結果と一致しない。
腹横筋だけの結果として扱わないことも大切だ。この比較の腹部の指標は、腹横筋と内腹斜筋を合わせたものだった。[4] 「腹横筋だけを最も強く刺激する種目が決まった」と言い切るための結果ではない。筋肉の名前がひとつ見えたときほど、何をまとめて測ったかを確かめたい。
また、有意差がないという結果は、どんな条件でも完全に同じという証明ではない。この試験で比べた参加者、運動、負荷条件のもとで差が確認されなかった、という読み方になる。[4] 男性のトレーニング経験者の結果を、初めてマシンに触れる女性の負荷設定へ直接移すことも避けたい。
そり押しで背部筋の活動が低かったとしても、種目全体の負担が小さいという意味にはならない。この比較では、ふくらはぎの腓腹筋の活動はそり押しのほうが61.2%大きかった。[4] 腰の筋肉を中心に読む日と、脚の仕事を中心に読む日では、同じ表の見える場所が変わる。種目に総合点を付けるより、目的と測定部位を対応させるほうが実用的だ。深部筋を使いたいという希望も、腹壁なのか腰部なのかまで言葉にすると、選ぶための問いが具体的になる。
数字で読む体幹と重りの研究
30人:機器で抵抗を変え、腹部・背部の筋活動を測った健康な成人の人数。[16]
30・50・70%:機器の比較で用いた最大平均トルクに対する抵抗の設定。[16]
14.1%:重力に対抗するヒンジからケーブル種目へ変えたときに報告された多裂筋活動の低下。[3]
59人:多裂筋の断面積を異なる運動プログラムで比較した慢性腰痛患者の人数。[7]
16人ずつ:腹壁の筋厚を比べた女性重量挙げ選手と、対応する対照群の人数。[13]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2





