代謝を上げるために筋肉を増やせば、休んでいる間の消費量も必ず増えるのか。臓器を含む除脂肪量の中身と、筋肉が増えても安静時消費量が変わらなかった試験を読む。閉経後の女性の運動研究との違い、体組成計の数字の受け止め方、ホットヨガを選ぶときに分けて考えたい目標も整理する。
体組成計の画面で、筋肉量の次に基礎代謝を見る。筋肉の欄が増えたのに、基礎代謝の欄は動かない。筋肉が増えれば、休んでいる間の消費量も必ず増えるのだろうか。
筋肉は安静時の消費に関わる。ただし、筋肉量の増加だけで消費量の増加は保証されない。胃のバイパス手術後の人を対象とした比較試験では、筋トレとたんぱく質補給を組み合わせて筋肉量が増えても、安静時消費量には有意な変化がなかった。手術後の患者の結果を、18〜39歳の女性一般へそのまま当てはめることはできない。[6]
理由を考える鍵は、脂肪以外の体を筋肉だけと見なさないことにある。脳や肝臓などの臓器も含め、その中身の違いが安静時消費量の個人差に関わる。代謝を上げたいときは、筋肉の量、体全体の構成、実際に測った消費量を分けて読む必要がある。[10][18]

代謝の話では、まず休んでいる体の中を見る
ここで中心にするのは、安静時エネルギー消費量、つまり休んでいる状態で体が使うエネルギーである。研究ではこれを安静時消費量として測る一方、運動試験では基礎代謝の指標を扱うものもある。何をどの方法で評価した研究なのかを確かめず、同じ欄に並べないことが出発点となる。[6][10][15]
安静時消費量を扱ったレビューは、体重と、体の中で代謝に関わる構成要素を主要な決定要因としている。体重が近ければ消費量も近そうだと考えたくなるが、体重だけで中身まではそろわない。レビューが重視したのは、体がどれほど重いかに加え、何からできているかという視点である。[10]
体の構成を大きく分けたとき、脂肪を除いた部分を除脂肪量と呼ぶ。ここには筋肉だけでなく臓器なども含まれる。減量と体重の再増加を論じたレビューは、この部分が代謝の面で均一ではなく、代謝率の異なる臓器や組織からなる点を強調している。除脂肪量という同じラベルの内側にも、違いがある。[18]
これは、筋肉を増やす意味を否定する話ではない。筋肉を含む構成要素を見ずに代謝を説明することも、反対に筋肉だけで説明を終えることも難しいという話だ。筋肉を主役にした説明には分かりやすさがあるが、分かりやすさと、体を十分に表していることは別である。[10][18]
既存記事「基礎代謝の計算式はどれだけ当たるのか 平均の正しさと自分の誤差を論文で読む」では計算と個人のずれを扱っている。こちらで追うのは計算式の優劣ではなく、その計算の土台にある体の中身、そして筋肉量と消費量が別々に動く理由だ。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
臓器と筋肉は、同じ重さとして扱えるか
体重を減らしたり戻したりする過程を扱うレビューでは、除脂肪量の単位重量当たりの代謝率が、体重の増加に伴って上がり、減少に伴って下がる可能性を説明している。その主な背景として挙げられたのが、代謝の活発な臓器の割合や活動の変化である。除脂肪量が動いたとき、筋肉だけが増減したと仮定すると見誤り得る。[18]
たとえば、体組成の記録で脂肪以外の量が変わったとしても、それをすべて筋肉の変化と読み替えない。さらに、同じだけ除脂肪量がある人同士でも、その内訳には違いがある。臓器と筋肉で代謝率が異なるという視点は、体の数字を比較するときにも必要になる。[18]
年齢の違いもある。生涯を通じた安静時消費量のレビューでは、小児・思春期では成人と比べ、脳や内臓の寄与が大きく、成人では小児・思春期より骨格筋の寄与が大きいとされる。骨格筋とは、体を動かす筋肉のことだ。成人の説明をそのまま成長期へ広げることもできない。[10]
同レビューによれば、安静時消費量の個人差の80%超は除脂肪量とその構成で説明される。ただし、これは筋肉が消費量の80%超を使うという意味ではない。人と人のばらつきをどこまで説明できたかという統計の話と、全消費量のうち何が占めるかという内訳の話は異なる。[10]
また、この割合は「自分の代謝の80%超を自由に変えられる」という約束でもない。レビューは臓器や組織同士の関連が解析を難しくする点にも触れている。臓器だけ、筋肉だけを独立したつまみのように扱って、望む消費量へ調整する読み方は避けたい。[10]
臓器が関わると知っても、臓器を大きくする方法を探す方向には進まない。この知識が役立つのは、休んでいる体にもさまざまな仕事があると理解し、筋肉量の欄だけで自分の体を採点しなくてよくなる点だ。体の内訳を説明する研究と、何かを増やす介入の有効性を示す研究は区別する。[10][18]
健康な成人の比較から、何が分かるか
健康な成人459人を調べた研究では、体脂肪と除脂肪量を調べる測定に加え、磁気共鳴画像で骨格筋と脳、心臓、肝臓、腎臓などの量を評価した。参加者は18〜40歳で、54%が女性であった。安静時消費量は間接熱量測定で調べている。体の構造と働きを結び付けるため、内訳まで踏み込んだ研究である。18〜39歳の女性に近い対象を含むが、男女を合わせた結果を女性個人の変化へそのまま当てはめることはできない。[13]
研究者は、除脂肪量と安静時消費量の関係だけでなく、脂肪量とレプチン、内臓脂肪とインスリンの関係も検討した。結果として、ある指標の組み合わせで定めた標準的な範囲と、別の組み合わせで定めた範囲は一致せず、互いに独立していた。[13]
ここでいう標準的な範囲は、研究上の分類である。著者らは、それぞれの回帰直線の±5%以内を標準的な構造と機能の関係と仮定して分類した。したがって、この範囲を家庭の体組成計に持ち込み、そこから外れたら不健康だと判断するのは筋違いである。分類の目的と診断の目的を混ぜない。[13]
この研究から読み取れるのは、体の状態を代表する万能な数字を探す難しさだ。著者らも、あらゆる面に共通する単一の正常な状態はないと論じている。消費量の値が高ければ、他の指標まで一律によいという結論にはならない。代謝を上げるという目標も、何をよくしたいのかまで言葉にする必要がある。[13]
対象には若い成人女性も含まれるが、これは筋トレを始めさせて変化を確かめた試験ではない。人々の体の構造と測定値の関係を調べた結果から、特定の筋肉を増やせば自分の消費量がどれだけ増すかを導くことはできない。自分と年齢が近い研究でも、研究の問いが同じかを確かめる。[13]
この研究で注目したいのは、同じ人でも、どの関係を基準にするかで分類が異なった点である。除脂肪量に対する消費量の関係が標準的だからといって、脂肪量に対するレプチンの関係まで同じ分類になるわけではなかった。「代謝が高い体」とひと言でまとめる前に、体の量と働きのどの組み合わせを見ているかを明らかにする必要がある。[13]
研究者が筋肉に加えて脳や肝臓などを測ったことにも意味がある。体の大きさの違いを考慮して人同士を比較するとき、除脂肪量の総量だけでは、その内訳の違いを十分に表せないという問題があるからだ。生涯を通じたレビューも、年齢や性別、体格の異なる人を比較できる形に消費量を調整する課題を扱っている。体重で単純に割れば比較が完成する、という話ではない。[10][13]
駅まで一緒に歩く友人と体重が近くても、それを理由に安静時消費量まで同じはずだと期待しない。比較研究が扱うのは、体格に加えて体組成にも違いがある人々である。自分より消費量の表示が高い人を見つけても、その差がすべて筋トレの努力を映しているとは読めない。除脂肪量と構成による説明は、他人の数字をそのまま自分の目標値にしないためにも役立つ。[10]
さらに、構成と消費量の関連を説明できることと、介入の結果を予測できることは同じではない。ある集団で筋肉や臓器の量が消費量の個人差と関わっていても、運動で筋肉が増えた人の消費量が、その関係どおりに変わるかは改めて測る必要がある。体の内訳を見る研究から、次に運動の比較試験を読むのは、その問いをつなぐためである。[6][10][13]
数字で読む筋肉量と安静時消費量
80%超:安静時消費量の個人差を、除脂肪量とその構成で説明した割合。筋肉だけの寄与率ではない。[10]
459人:臓器や骨格筋の量と体の働きの関係を調べた健康な成人の人数である。[13]
18〜40歳:その成人研究の対象年齢。女性の割合は54%であった。[13]
0.91±0.64kg:胃のバイパス手術後の比較試験で、筋トレとたんぱく質を組み合わせた群の骨格筋量増加である。[6]
169人:閉経後女性の運動試験の参加者数。運動群と対照群で基礎代謝指標の変化に差があった。[15]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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