連載「痛みをほどく」全10回の第8回です。

肩こりと腰痛は、働く人の訴えとして最も多いものの一つです。そのため職場は、介入が最もよく試されてきた場所でもあります。机の高さ、椅子の形、モニターの位置、休憩の取り方、体操の時間、研修。どれも一度は試され、そして測られています。

結論を先に書きます。机や椅子を替えるだけの介入では、痛みが減ったという証拠は一貫しません。運動を含む介入のほうが結果は揃っていますが、効果は小さく、介入を終えると差は消えていきます。そして、痛みを転帰にした研究と、休業日数や復職を転帰にした研究では、結論が食い違います。

この回では、人間工学的な介入、運動プログラム、それらの組み合わせ、そして仕事の裁量度や要求度といった組織側の要因を順に見ていきます。

痛みをほどく 第8回 職場での介入何が効いたか|オンザショア立川店 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

機器と配置だけを変えたとき

まず、人間工学的な介入だけを取り出した統合から見ます。

Driessen MT, Proper KI, van Tulder MW, Anema JR, Bongers PM, van der Beek AJ. The effectiveness of physical and organisational ergonomic interventions on low back pain and neck pain: a systematic review. Occupational and Environmental Medicine. 2010;67(4):277-285.

条件を満たした無作為化比較試験は10本でした。結果は次のとおりです。身体的・組織的な人間工学的介入が、腰痛と首の痛みの短期・長期の発症率や有病率、および腰痛の強さについて、人間工学的介入なしより有効だとは言えない——これが低いから中程度の質の証拠として示されました。

例外もあります。低い質の証拠として、ある身体的な人間工学的介入が首の痛みの強さを短期(湾曲した座面または平らな座面の椅子)と長期(アームボード)で有意に減らしたと報告されています。ただし著者らは、組み入れた無作為化比較試験の数が限られており、結果は慎重に解釈すべきだと明記しています。

運動を含む介入のほうが一貫している

事務職の首の痛みに絞った統合があります。

Chen X, Coombes BK, Sjøgaard G, Jun D, O’Leary S, Johnston V. Workplace-Based Interventions for Neck Pain in Office Workers: Systematic Review and Meta-Analysis. Physical Therapy. 2018;98(1):40-62.

27本の無作為化比較試験が組み入れられました。症状のある事務職では、首・肩の筋力強化と一般的な体力トレーニングが首の痛みを減らすことに、中程度の質の証拠がありました。効果量は筋力強化のほうが大きく、運動への参加が多いほど効果も大きくなっています。一方、人間工学的介入を支持する証拠は低い質にとどまりました。著者らは、症状のある事務職を対象とした人間工学的介入の無作為化比較試験が今後必要だと述べています。

身体的要求の大きい仕事でも、同じ傾向が出ます。

Sundstrup E, Seeberg KGV, Bengtsen E, Andersen LL. A Systematic Review of Workplace Interventions to Rehabilitate Musculoskeletal Disorders Among Employees with Physical Demanding Work. Journal of Occupational Rehabilitation. 2020;30(4):588-612.

質が高いまたは中程度の54本からの証拠の統合です。身体運動には中程度の証拠で positive な効果があり、その中でも職場での筋力トレーニングには強い証拠がありました。人間工学については証拠が限られています。そして注目すべきなのが次の点です——参加型人間工学、多面的な職場介入、ストレス管理については、効果が無いことに強い証拠があった。どの介入領域も「悪い効果」とは関連していませんでした。著者らは、これらの介入領域が非常に不均一であるため、有効性についての一般的な結論は慎重に扱うべきだとも書いています。

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同じ職場で直接比べる

レビューではなく、実際に同じ職場で二つの介入を比べた試験があります。

Johnston V, Chen X, Welch A, et al. A cluster-randomized trial of workplace ergonomics and neck-specific exercise versus ergonomics and health promotion for office workers to manage neck pain – a secondary outcome analysis. BMC Musculoskeletal Disorders. 2021;22(1):68.

公的・民間14組織の事務職740名が対象です。全員がまず個別の作業環境の人間工学的介入を受け、そのうえで首に特化した運動訓練の群か、健康増進の情報提供の群へ1対1で割り付けられました。介入期間は12週にわたります。3時点すべてのデータが揃った367名が解析対象です。

12週の時点では、運動群のほうが痛みの強さ(0から9の尺度)の低下が有意に大きくなりました。全労働者では運動群 β = -0.53(95%信頼区間 -0.84から-0.22、36%の低下)に対し健康増進群 β = -0.17(-0.47から0.13、10.5%)、p = 0.02。首の痛みのある96名では運動群 β = -2.32(-3.09から-1.56、53%)に対し健康増進群 β = -1.75(-2.35から-1.16、36%)、p = 0.04でした。

ところが12か月後には、この差が消えています。全労働者では運動群 β = -0.18(-0.53から0.16)、健康増進群 β = -0.14(-0.49から0.21)、p = 0.53。首の痛みのある人でも運動群 -1.61(-2.36から-0.89)、健康増進群 -1.9(-2.59から-1.20)、p = 0.26で、両群とも改善はしているものの、群間差はありませんでした。著者らは、長期の効果を保つには運動の継続が必要だと結論しています。第6回で見た「続けられるか」という論点が、ここでも出てきます。

痛みのない人に効くか

同じ試験の枠組みで、ベースラインで首の痛みが無かった484名を追跡した解析もあります(Johnston V ら, Occupational and Environmental Medicine, 2022)。全員が作業環境の確認を受けたうえで、首・肩の漸進的な運動プログラムか、健康教育のいずれかに割り付けられました。

12か月時点での首の痛みの時点有病率は、介入群10%に対し対照群20%で、調整オッズ比は0.46(95%信頼区間 0.21から1.01、p = 0.05)でした。12か月の累積発症率は介入群17%、対照群30%です。ただし p 値は0.05ちょうどで、信頼区間の上端は1.01。差はあるとも無いとも言い切れない位置にあります。著者ら自身、群間差は控えめであり、一次予防の方策を考える際には慎重に解釈すべきだと書いています。

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予防を統合すると何が残るか

事務職の腰痛予防を、複数の介入をまたいで比較した統合があります。

Eisele-Metzger A, Schoser DS, Klein MD, et al. Interventions for preventing back pain among office workers – a systematic review and network meta-analysis. Scandinavian Journal of Work, Environment & Health. 2023;49(1):5-22.

9809件から絞り込み、24本の研究・合計7080名が組み入れられました。多要素介入、人間工学、身体活動、教育、行動的介入、無介入または最小限の介入が比較されています。バイアスのリスクは、すべての研究と転帰で「いくらかの懸念」か「高い」と評価されました。

効果のほとんどは統計的に有意にならず、証拠の確実性は低いかごく低いものでした。そのなかで、身体活動はおそらく休業日数をわずかに減らし(平均差 -1.10日、95%信頼区間 -2.07から-0.13)、身体活動と人間工学の組み合わせは腰痛の強さを減らすかもしれない(標準化平均差 -0.41、-0.80から-0.02)という結果でした。参加者の満足度は高い一方、有害事象はほとんど評価されていません。著者らの結論の一文がすべてを言っています——これらの効果の実際上の重要性には疑問がある。

転帰を変えると結論が変わる

職場の研究を読むとき、いちばん誤解しやすいのが転帰の選び方です。痛みの強さ、痛みの発症、障害度、休業日数、復職、生産性——どれも「効果」と呼ばれますが、別のものを測っています。

職場の身体活動プログラムを統合した研究では(Moreira-Silva I ら, Workplace Health & Safety, 2016)、介入群で全般的な痛みが少なく(Hedges’ g = -0.40、95%信頼区間 -0.78から-0.02)、首・肩の痛みも少ない(g = -0.37、-0.63から-0.12)という有意な証拠が示されました。一方、腰痛と腕・肘・手首・手・指の痛みについては、研究が少なく統計的に十分な証拠が示されていません。同じ介入でも、どの部位のどの転帰を測るかで結論が変わります。

この非対称は、対策を選ぶ側にとって無視できません。休業日数が減っても痛みが変わらない介入は、雇う側には効果的に見え、働く本人には効果が感じられません。逆に、痛みの点数が少し下がっても働き方が変わらなければ、職場の指標には現れません。「何が効いたか」を問うときは、誰にとっての効果かを一緒に問う必要があります。

先に見た予防のネットワーク統合では、有意に動いたのが休業日数のほうで、痛みの強さは組み合わせ介入でようやく境界に届く程度でした。「働き続けられるか」と「痛みが軽くなるか」は、同じ方向に動くとは限りません。

机ではなく、仕事のかたち

介入の対象は機器と運動だけではありません。仕事の要求度、自分で決められる範囲(裁量度)、周囲の支援も測られています。

Buruck G, Tomaschek A, Wendsche J, Ochsmann E, Dörfel D. Psychosocial areas of worklife and chronic low back pain: a systematic review and meta-analysis. BMC Musculoskeletal Disorders. 2019;20(1):480.

18本の研究、19,572名を統合した結果です。慢性腰痛は、仕事量の多さと有意に正の関連(オッズ比 1.32)、全体としての裁量度(0.81)、決定権限(0.72)、二つの社会的支援の指標(0.75から0.78)と有意に負の関連を示しました。前向き研究でも同じ方向でした。一方、技能の裁量と報酬は有意な関連を示していません。

ところが、同じ問いに別の答えを出した統合もあります。

Jahn A, Andersen JH, Seidler A, Christiansen DH, Dalbøge A. Occupational psychosocial exposures and chronic low-back pain: a systematic review and meta-analysis. Scandinavian Journal of Work, Environment & Health. 2024;50(5):329-340.

20本の論文が、6つの職業性心理社会的曝露(裁量度、要求度、ストレイン、支援、ストレス、満足度)を扱っていました。すべての曝露でオッズ比は0.8から1.1の範囲に収まり、著者らは慢性腰痛との関連を見いだしませんでした。ただし、低いバイアスリスクと判定されたのは20本のうち1本だけで、GRADE による証拠の水準はすべての曝露でごく低いものでした。

この二つは矛盾しているように見えますが、対象とした研究・曝露の定義・バイアス評価の厳しさが違います。どちらを採るかで結論が変わるということ自体が、この領域の現状です。第7回で見たとおり、仕事の身体的要求の高さは慢性化の予測因子として一貫して挙がっています。心理社会的な側面については、まだそこまでの一致がありません。

介入の種類現時点の証拠の見え方
機器・配置の変更のみ痛みの発症・強さを減らすとは言えない(低〜中程度の質)
職場での筋力トレーニング身体的要求の大きい仕事で強い証拠
運動+人間工学短期では差が出るが12か月では消える
参加型人間工学・多面的介入効果が無いことに強い証拠(身体的要求の大きい仕事)
組織要因(裁量度・要求度)統合によって結論が割れる

職場での運動と筋骨格系の痛みについては、職場運動の研究をまとめた記事と職場でのヨガと職業性ストレスの記事が別にあります。

次回予告

第9回は「安静と恐怖回避——やらない方がよいこと」を扱います。急性の腰痛で横になって休むことは回復を早めるのか。床上安静と活動継続を比べた試験を見たうえで、恐怖回避モデルと、それに基づく段階的曝露・段階的活動の結果に進みます。「痛みが出ない範囲に限る」という助言の是非も扱います。

この連載の全10回

  1. 第1回|痛みとは何か——組織の損傷と痛みの乖離
  2. 第2回|画像所見と症状——MRIで見つかるものの意味
  3. 第3回|肩こりの正体——僧帽筋の持続的低強度活動
  4. 第4回|「悪い姿勢」は原因か——姿勢と痛みの関連
  5. 第5回|腰痛の自然経過——多くはどうなるのか
  6. 第6回|運動療法——様式による差はあるか
  7. 第7回|なぜ慢性化するのか——中枢性感作と心理社会的因子
  8. 第8回|職場での介入——何が効いたか(この記事)
  9. 第9回|安静と恐怖回避——やらない方がよいこと
  10. 第10回|総括——研究の限界と、受診すべき兆候

出典

  1. Driessen MT, Proper KI, van Tulder MW, Anema JR, Bongers PM, van der Beek AJ. The effectiveness of physical and organisational ergonomic interventions on low back pain and neck pain: a systematic review. Occupational and Environmental Medicine. 2010;67(4):277-285.
  2. Chen X, Coombes BK, Sjøgaard G, Jun D, O’Leary S, Johnston V. Workplace-Based Interventions for Neck Pain in Office Workers: Systematic Review and Meta-Analysis. Physical Therapy. 2018;98(1):40-62.
  3. Sundstrup E, Seeberg KGV, Bengtsen E, Andersen LL. A Systematic Review of Workplace Interventions to Rehabilitate Musculoskeletal Disorders Among Employees with Physical Demanding Work. Journal of Occupational Rehabilitation. 2020;30(4):588-612.
  4. Johnston V, Chen X, Welch A, Sjøgaard G, Comans TA, McStea M, et al. A cluster-randomized trial of workplace ergonomics and neck-specific exercise versus ergonomics and health promotion for office workers to manage neck pain – a secondary outcome analysis. BMC Musculoskeletal Disorders. 2021;22(1):68.
  5. Johnston V, Jackson K, Welch A, Sjøgaard G, Comans TA, Straker L, et al. Evaluation of an exercise and ergonomics intervention for the prevention of neck pain in office workers: exploratory analysis of a cluster randomised trial. Occupational and Environmental Medicine. 2022;79(11):767-774.
  6. Eisele-Metzger A, Schoser DS, Klein MD, Grummich K, Schwarzer G, Schwingshackl L, et al. Interventions for preventing back pain among office workers – a systematic review and network meta-analysis. Scandinavian Journal of Work, Environment & Health. 2023;49(1):5-22.
  7. Moreira-Silva I, Teixeira PM, Santos R, Abreu S, Moreira C, Mota J. The Effects of Workplace Physical Activity Programs on Musculoskeletal Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Workplace Health & Safety. 2016;64(5):210-222.
  8. Buruck G, Tomaschek A, Wendsche J, Ochsmann E, Dörfel D. Psychosocial areas of worklife and chronic low back pain: a systematic review and meta-analysis. BMC Musculoskeletal Disorders. 2019;20(1):480.
  9. Jahn A, Andersen JH, Seidler A, Christiansen DH, Dalbøge A. Occupational psychosocial exposures and chronic low-back pain: a systematic review and meta-analysis. Scandinavian Journal of Work, Environment & Health. 2024;50(5):329-340.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。特定の機器・運動・サービスを勧めるものでも、個々の職場環境を評価するものでもありません。脚や腕のしびれ、力が入らない感じ、排尿や排便の異常、原因の分からない体重減少、発熱、夜間や安静時に強くなる痛み、外傷のあとの痛み、がんの既往がある場合の新たな痛みは、速やかに医療機関にご相談ください。仕事中の痛みが続いて業務や日常生活に支障が出ている場合は、産業医や医療機関にご相談ください。

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