連載「痛みをほどく」全10回の第7回です。

第5回で見たとおり、急性の腰痛の多くは数週で軽快します。しかし一部は長引き、6か月の時点でおよそ3人に1人が慢性へ移行していました。この分岐点に何があるのか——それがこの回の問いです。

慢性化の説明として最もよく使われるのが「中枢性感作」という言葉です。末梢からの入力が同じでも、中枢神経系の側で痛みの信号が増幅される状態を指します。もう一つよく使われるのが心理社会的因子——破局的思考、抑うつ、回復の見通し、仕事の要求度です。

結論を先に書きます。中枢性感作という現象そのものは支持されていますが、それを個人で測る道具の再現性は高くありません。心理社会的因子は予後をある程度予測しますが、相関の大きさは中程度以下で、証拠の質は低いものが多い。そして、予測することと原因であることは別です。この回では、その両方を「気のせい」に回収しないために必要な区別を扱います。

痛みをほどく 第7回 なぜ慢性化するのか中枢性感作と心理社会的因子|オンザショア立川店 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

中枢性感作とは何を指す言葉か

中枢性感作は、中枢神経系のニューロンの感作によって侵害受容の反応性が高まった状態、と定義されます。通常は、長く続いた侵害受容の入力か、有害な入力を伴う病態の結果として生じます。第1回で見た痛覚変調性疼痛の主要な仕組みと考えられていますが、両者は同義ではありません。

問題は、この定義が神経生理学の水準のものだという点です。人の臨床では、ニューロンの反応性を直接測ることはできません。そこで代理の指標が使われます。圧痛閾値(PPT)、同じ刺激を繰り返したときに痛みが増していく時間的加重(temporal summation)、そして別の部位に痛み刺激を加えたときに元の痛みが抑えられる条件づけ疼痛調節(CPM: conditioned pain modulation)。前者は促進の指標、後者は抑制の指標です。これらをまとめて定量的感覚検査(QST: quantitative sensory testing)と呼びます。

同じ人を二度測ると、同じ値が出るか

代理の指標が使えるかどうかは、まず再現性で決まります。同じ人を別の日に測って値が揃わないなら、その人の状態を表しているとは言えません。

Vincenot M, Beaulieu LD, Gendron L, Marchand S, Léonard G. Reliability and minimal detectable change of dynamic temporal summation and conditioned pain modulation using a single experimental paradigm. PLOS ONE. 2024;19(7):e0307556.

痛みのない46名が、同一の手順で2回のセッションを受けた研究です。静的なQST(圧痛閾値など)の相対的な信頼性は良好から優秀(級内相関係数 ICC ≥ 0.73)でした。ところが、時間的加重は算出方法によって低いから中程度(ICC 0.25から0.59)、条件づけ疼痛調節は低い(ICC 0.16から0.37)にとどまりました。実際の変化と見なすために必要な最小検出可能変化は、静的QSTで1.58から21.46点、時間的加重で31から52点、CPMで4から31点と推定されています。著者らは、内因性の疼痛調節機構の信頼性は、その動的な性質のために脆弱だろうと述べています。

患者集団でも同じ傾向が出ます。関節リウマチ18名、腰痛25名、健常対照45名を1週から3週の間隔で再検査した研究では(Brady SM ら, Pain Reports, 2023)、圧痛閾値と時間的加重の信頼性は高いから非常に高い(ICC ≥ 0.77 と ICC ≥ 0.76)一方、条件づけ疼痛調節は無いから中程度(ICC 0.01から0.64)でした。この傾向は部位(下腿か前腕か)でも診断でも変わりませんでした。

時間的加重については、複数の研究を統合した推定もあります。

Chen KK, Rolan P, Hutchinson MR, de Zoete RMJ. Reliability of Temporal Summation of Pain in Healthy and Clinical Populations: A Systematic Review and Meta-Analysis. European Journal of Pain. 2025;29(8):e70097.

22本が条件を満たしました。報告された級内相関係数は -0.31 から 0.97 まで散らばっています。健常者ではセッション間の信頼性が低く(ICC 0.49、95%信頼区間 0.40-0.58、I2 = 81.4%、35推定値・1208名)、セッション内は中程度(0.69、0.61-0.77、I2 = 91.7%、28推定値・728名)でした。最も高かったのは、セッション内で絶対変化量を用いた場合(0.81、0.74-0.88、I2 = 0%)です。臨床集団ではセッション間0.57(0.44-0.69、13推定値・470名)、セッション内0.61(0.46-0.76、10推定値・381名)でした。刺激の条件と算出法を揃えないと、値は比較できません。

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質問票は何を測っているのか

検査には装置と時間が要るため、臨床では質問票が使われます。代表が中枢性感作インベントリー(CSI)です。これが本当に侵害受容の感作を反映しているのかを調べた研究があります。

Adams GR, Gandhi W, Harrison R, et al. Do “central sensitization” questionnaires reflect measures of nociceptive sensitization or psychological constructs? A systematic review and meta-analyses. Pain. 2023;164(6):1222-1239.

66本、合計13,284名を扱ったレビューです。結果は明快でした。CSIは心理的な構成概念——抑うつ、不安、ストレス、痛みの破局的思考、睡眠、運動恐怖——と強く相関した一方、侵害受容の感受性の実験的な指標(痛み閾値、時間的加重、条件づけ疼痛調節)とは弱いか無相関でした。著者らは、これらの自己報告の尺度が中枢性感作の本来の理解を反映しているという十分な証拠は得られなかった、と書いています。CSIは、侵害受容ニューロンの反応性の高まりよりも、心理的な過警戒をより近く反映している、というのが結論です。

これは「CSIが無意味だ」という意味ではありません。測っているものの名前が違う、という指摘です。この区別を落とすと、質問票の点数を「神経が過敏になっている証拠」として扱うことになり、別の結論へ滑っていきます。

それでも予測力はある

再現性が低いからといって、役に立たないとは限りません。将来の痛みをどれだけ予測するかを調べた統合があります。

Georgopoulos V, Akin-Akinyosoye K, Zhang W, McWilliams DF, Hendrick P, Walsh DA. Quantitative sensory testing and predicting outcomes for musculoskeletal pain, disability, and negative affect: a systematic review and meta-analysis. Pain. 2019;160(9):1920-1932.

37本(3860名)のうち32本が前向きコホート、5本が無作為化比較試験です。ベースラインのQSTは、その後の筋骨格系の痛み(平均 r = 0.31、95%信頼区間 0.23-0.38、1057名)と障害度(平均 r = 0.30、0.19-0.40、290名)を予測しました。中枢の機構を捉える指標では、時間的加重が追跡時の痛みと平均 r = 0.37(0.17-0.54)、条件づけ疼痛調節が平均 r = 0.36(0.20-0.50)で関連しています。機械的閾値の指標は、追跡時の障害度と平均 r = 0.25(0.03-0.45)でした。

r が 0.3 前後というのは、分散のおよそ1割を説明する大きさです。予測に寄与はするが、個人の見通しを決めるほどではない。この距離感が、この回を通じて何度も出てきます。

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心理社会的因子は何を予測するか

心理社会的因子については、系統的レビューをさらに統合した研究があります。

Otero-Ketterer E, Peñacoba-Puente C, Ferreira Pinheiro-Araujo C, Valera-Calero JA, Ortega-Santiago R. Biopsychosocial Factors for Chronicity in Individuals with Non-Specific Low Back Pain: An Umbrella Review. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2022;19(16):10145.

15本の系統的レビューが条件を満たしました。急性・亜急性の腰痛の長期転帰が悪いことと、一貫した証拠で関連していた因子は5つです。強い痛みと障害度、強い情緒的苦痛、否定的な回復の見通し、仕事の高い身体的要求。逆に、一貫して関連が無いとされたのが低い教育水準でした。発症期間が混在した腰痛では、高い痛みの破局的思考が長期の悪い転帰と一貫して関連していました。社会的因子については、統合できるだけの証拠が不足していたと明記されています。

抑うつについては個別の統合があります。

Wong JJ, Tricco AC, Côté P, Liang CY, Lewis JA, Bouck Z, Rosella LC. Association Between Depressive Symptoms or Depression and Health Outcomes for Low Back Pain: a Systematic Review and Meta-analysis. Journal of General Internal Medicine. 2022;37(5):1233-1246.

62本、63,326名が対象です。慢性腰痛では、抑うつ症状が強い痛み(3本・2902名、β = 0.11、95%信頼区間 0.05-0.17)、障害度(5本・3549名、β = 0.16、0.04-0.29)、悪い回復(2本・13,263名、相対危険度 0.91、0.88-0.95)と関連しました。急性腰痛では、自己報告の障害度・悪い回復と関連した一方、痛みや仕事関連の転帰とは関連しませんでした。ここでも係数は小さい値です。著者らは、62本のうち61本が探索的研究で、確証的な研究は1本しかないことを限界として挙げています。

破局的思考についても同じ構図です。慢性筋骨格系疼痛を扱った85本の観察研究(うち92%が横断研究)、13,628名を統合した研究では(Martinez-Calderon J ら, The Clinical Journal of Pain, 2019)、破局的思考が強いほど痛みの強さと障害度に関連し、それらを前向きに予測する傾向が見られました。ただし著者らは、GRADE によるこの証拠の質はごく低く、複数のメタアナリシスで異質性が大きかったと明記しています。

因子を並べると、重なりが見えてくる

心理的因子は数多く提案されてきました。それらを同時に投入したらどうなるかを調べた研究があります。

Foster NE, Thomas E, Bishop A, Dunn KM, Main CJ. Distinctiveness of psychological obstacles to recovery in low back pain patients in primary care. Pain. 2010;148(3):398-406.

8つの一般診療所を受診した患者のうち、1591名がベースラインの、810名が6か月後のデータを提供しました。20の心理的因子はそれぞれ、ベースラインの障害度の分散の0.04%から33.3%を説明しました。単変量で転帰と関連した11の尺度を含む多変量モデルは、6か月時点の障害度の分散の47.7%を説明し、調整後には55.8%まで上がりました。

ところが、すべての独立因子を投入すると、残ったのは4つだけです——自分でどうにかできるという感覚、この痛みが急性か慢性かという時間的な見通し、病いの自己認識、そして痛みへの自己効力感。これらで分散の56.6%が説明されました。この段階で、抑うつ・破局的思考・恐怖回避はいずれも有意ではなくなっています。著者らの結論は、心理的因子の測定には明らかな重複があり、少数の因子が強く予測する、というものです。

「気のせい」ではない、と言い切れる理由

ここまでの内容は、注意深く読まないと「結局は心の問題」という結論に見えます。そうならない理由を3つ挙げます。

第一に、予測することと原因であることは違います。回復の見通しが暗い人は経過が悪い。しかし、悪い経過を予感させる何かが先にあった可能性は排除できません。第5回で見た地域住民のコホートでは、ストレス・不安・抑うつは経過の型と有意に関連しませんでした。研究によって結果が割れるのは、因果が確立していないことの表れです。

第二に、心理社会的因子の中身は「想像」ではありません。並んでいるのは、仕事の身体的要求、自分でどうにかできるという感覚、回復の見通しといった、状況と経験に根ざしたものです。これらが痛みの処理に影響することは、第1回で見た予期の実験と同じ方向を向いています。

第三に、末梢側の所見も同時に見つかっています。第3回で見たとおり、慢性の首・肩の痛みがある人の筋の中では、痛みに関わる物質の濃度が高くなっていました。中枢の話は末梢の話を打ち消しません。

よく言われること研究の言葉で言い直すと
中枢性感作が起きている現象は支持されるが、個人で測る道具の再現性は高くない
質問票で感作が分かるCSIは心理的過警戒をより近く反映していた
心の問題だから痛い予測因子であることは原因であることを意味しない
考え方を変えれば治る因子どうしの重複が大きく、どれを変えるべきかは未確定

痛みと脳の関係を調べた画像研究については、神経画像の研究をまとめた記事が別にあります。

次回予告

第8回は「職場での介入——何が効いたか」を扱います。机と椅子を替えれば痛みは減るのか。運動プログラム、人間工学的な機器、教育、そしてそれらを組み合わせた介入を比べた研究を見ていきます。復職を転帰にした研究と痛みを転帰にした研究で結論が違うこと、そして仕事の裁量度と要求度という組織側の要因も扱います。

この連載の全10回

  1. 第1回|痛みとは何か——組織の損傷と痛みの乖離
  2. 第2回|画像所見と症状——MRIで見つかるものの意味
  3. 第3回|肩こりの正体——僧帽筋の持続的低強度活動
  4. 第4回|「悪い姿勢」は原因か——姿勢と痛みの関連
  5. 第5回|腰痛の自然経過——多くはどうなるのか
  6. 第6回|運動療法——様式による差はあるか
  7. 第7回|なぜ慢性化するのか——中枢性感作と心理社会的因子(この記事)
  8. 第8回|職場での介入——何が効いたか
  9. 第9回|安静と恐怖回避——やらない方がよいこと
  10. 第10回|総括——研究の限界と、受診すべき兆候

出典

  1. Vincenot M, Beaulieu LD, Gendron L, Marchand S, Léonard G. Reliability and minimal detectable change of dynamic temporal summation and conditioned pain modulation using a single experimental paradigm. PLOS ONE. 2024;19(7):e0307556.
  2. Brady SM, Georgopoulos V, Veldhuijzen van Zanten JJCS, Duda JL, Metsios GS, Kitas GD, et al. The interrater and test-retest reliability of 3 modalities of quantitative sensory testing in healthy adults and people with chronic low back pain or rheumatoid arthritis. Pain Reports. 2023;8(6):e1102.
  3. Chen KK, Rolan P, Hutchinson MR, de Zoete RMJ. Reliability of Temporal Summation of Pain in Healthy and Clinical Populations: A Systematic Review and Meta-Analysis. European Journal of Pain. 2025;29(8):e70097.
  4. Adams GR, Gandhi W, Harrison R, van Reekum CM, Wood-Anderson D, Gilron I, Salomons TV. Do “central sensitization” questionnaires reflect measures of nociceptive sensitization or psychological constructs? A systematic review and meta-analyses. Pain. 2023;164(6):1222-1239.
  5. Georgopoulos V, Akin-Akinyosoye K, Zhang W, McWilliams DF, Hendrick P, Walsh DA. Quantitative sensory testing and predicting outcomes for musculoskeletal pain, disability, and negative affect: a systematic review and meta-analysis. Pain. 2019;160(9):1920-1932.
  6. Otero-Ketterer E, Peñacoba-Puente C, Ferreira Pinheiro-Araujo C, Valera-Calero JA, Ortega-Santiago R. Biopsychosocial Factors for Chronicity in Individuals with Non-Specific Low Back Pain: An Umbrella Review. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2022;19(16):10145.
  7. Wong JJ, Tricco AC, Côté P, Liang CY, Lewis JA, Bouck Z, Rosella LC. Association Between Depressive Symptoms or Depression and Health Outcomes for Low Back Pain: a Systematic Review and Meta-analysis. Journal of General Internal Medicine. 2022;37(5):1233-1246.
  8. Martinez-Calderon J, Jensen MP, Morales-Asencio JM, Luque-Suarez A. Pain Catastrophizing and Function In Individuals With Chronic Musculoskeletal Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. The Clinical Journal of Pain. 2019;35(3):279-293.
  9. Foster NE, Thomas E, Bishop A, Dunn KM, Main CJ. Distinctiveness of psychological obstacles to recovery in low back pain patients in primary care. Pain. 2010;148(3):398-406.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。個々の症状の原因を判断するものでも、心理的な評価を行うものでもありません。脚や腕のしびれ、力が入らない感じ、排尿や排便の異常、原因の分からない体重減少、発熱、夜間や安静時に強くなる痛み、外傷のあとの痛み、がんの既往がある場合の新たな痛みは、速やかに医療機関にご相談ください。痛みが長く続いている場合、気分の落ち込みや不安が強い場合も、一人で抱えず医療機関にご相談ください。

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