連載「ヨガはなぜ効くのか」全10回の第9回です。
ここまでの8回で、ヨガの効果を説明しうる機序を順に見てきました。自律神経、呼吸の生理、内受容感覚、HPA軸、炎症、脳、柔軟性。どれも「動く」という報告があり、どれも留保がついていました。しかし、この連載でまだ触れていない、もっと手前の問題があります。そもそも「ヨガ」とは何を指すのか。
ヨガのクラスには、姿勢をとることも、呼吸を整えることも、目を閉じて静かにしていることも、指導者や他の参加者と同じ場にいることも含まれます。仮に効果があるとして、そのうちどれが効いているのか。結論を先に置きます。ヨガを成分に分けて比べる研究は、この10年で数えるほどしか行われていません。行われたものの多くは標本が小さく、単一の成分より複数を組み合わせたほうが良いという傾向は繰り返し観察されるものの、どの成分がどの効果を担っているかは、ほとんど分かっていません。

「ヨガ」は単一の介入ではない
まず、この問題がどれくらい大きいかを押さえます。実際のクラスで何が行われているかを調べた国際調査があります。
Mandlik GV, Nguyen B, Ding D, Edwards KM. Not All Yoga Styles Are the Same: An International Survey on Characteristics of Yoga Classes. Journal of Integrative and Complementary Medicine. 2023;29(5):321-326.
64か国の指導者968名(女性76.8%、平均年齢43.8歳、標準偏差11.1)が回答しました。主に教えている流派で分けると、ハタやアシュタンガなどの伝統的な流派が70.6%、ヴィンヤサやパワーなどの運動志向の流派が18.4%、リストラティブやジェントルなどの療法的な流派が11.0%です。
クラスの時間配分を見ると、姿勢が占める割合は伝統的な流派で50.0%、運動志向で60.9%、療法的な流派で53.9%でした。呼吸法・瞑想・リラクゼーション・詠唱に充てる時間は、伝統的・療法的な流派で運動志向より有意に長くなっています。つまり「ヨガの効果」を論じるとき、実際に比べられているのは互いにかなり違う活動です。
研究側の記述はどうでしょうか。フレイジャー(Frazier)らは、メンタルヘルスと幸福感を扱ったヨガの無作為化試験が、どう報告されているかを調べました。5,206件から絞り込まれた129件を質的に分析し、1,291の意味単位を抽出した結果、ヨガは「実践」「補完代替医療」「体系」のいずれかとして定義され、心身または心身霊の要素を持つものとして扱われていました。著者らの結論は、ヨガが一貫性のない形で記述され、十分に操作的に定義されていない——それが普及、厳密な評価、追試を妨げている、というものです。
成分分解試験という方法
複合的な介入から効いている部分を取り出す方法が、成分分解試験(dismantling study)です。設計は大きく2通りあります。
- 加算設計——基礎となる成分だけの群を置き、そこに別の成分を足した群と比べる。足したことで上乗せの効果が出るかを見る。
- 除去設計——すべてを含む標準の介入から、ある成分だけを抜いた群と比べる。抜いたことで効果が落ちるかを見る。
どちらにも共通する難しさがあります。第一に、群の数が増えるほど必要な人数が増えます。2群の比較で必要な人数が仮に100名だとすると、4群で同等の検出力を得るにはその何倍もの人数が要ります。第二に、成分を抜いた群も「もっともらしい介入」として成立していなければなりません。ただ座っているだけの群と、丁寧に組まれた姿勢の群では、参加者の期待が違ってしまいます。第三に、成分どうしが相互に影響している可能性があります。呼吸を意識しながら姿勢をとることと、姿勢と呼吸を別々にやることは、同じではないかもしれません。

成分を足していくと何が起きるか
加算設計の例を見ます。
Matko K, Sedlmeier P, Bringmann HC. Differential Effects of Ethical Education, Physical Hatha Yoga, and Mantra Meditation on Well-Being and Stress in Healthy Participants—An Experimental Single-Case Study. Frontiers in Psychology. 2021;12:672301.
ヨガや瞑想の定期的な実践経験がない健康な参加者57名を、3種類の基準期間と4つの条件に無作為に割り付けました。4つの条件は、マントラ瞑想のみ、瞑想+身体的なハタヨガ、瞑想+倫理の学習、瞑想+ヨガ+倫理の学習です。介入は8週間で、基準期間と介入期間を通じて毎日、幸福感と知覚ストレスを測る質問票に回答してもらいました。42名が完了しています。
結果は、単純な右肩上がりではありませんでした。幸福感の増加が最も大きかったのは倫理の学習を含む条件(効果量の指標Tau-Uが0.30と0.23)、次いで瞑想+ヨガ(0.12)で、瞑想のみの条件はほとんど変化を示しませんでした(0.07)。ストレスについては、瞑想+ヨガで最も大きく低下した一方(-0.40)、瞑想のみの条件では逆に上昇しました(0.17)。
この結果は、2つのことを示唆します。ひとつは、成分を組み合わせたほうが良い傾向があること。もうひとつは、単一の成分を取り出すと、効果が消えるだけでなく逆方向に振れることもあるということです。ただし、これは単一事例多重基準線デザインという特殊な設計で、参加者42名を4条件に分けた小規模な研究です。確認には、より大きな無作為化試験が要ります。
ハント(Hunt)らは、大学生を対象に、マインドフルネスストレス低減法を分解する4週間の研究を行いました。マインドフルネスの訓練と瞑想のみ(動きなし)、ヨガのみ(明示的なマインドフルネス訓練なし)、両方の組み合わせ、能動的なプラセボ対照(パーティーゲーム・セラピー犬・健康的な軽食を伴う休憩)、無治療対照の5条件です。すべての能動的条件で不安と気分の落ち込みが減少しましたが、4週目の時点で無治療対照と両方の指標で有意に異なっていたのは、組み合わせ条件とヨガのみの条件だけでした。心拍変動については、安静時に最も高かったのは組み合わせ条件とヨガのみの条件です。
成分を抜くとどうなるか
除去設計の例として、比較的大きな研究があります。
Gust CJ, Bryan AD. Cluster Randomized Controlled Trial of a Standard Versus Postures-Only Yoga Session: Potential Self-Regulatory and Neurophysiological Mechanisms of an Ancient Practice. Annals of Behavioral Medicine. 2024;58(11):707-716.
参加者260名を37のクラスタに分け、標準的なヨガのクラスと姿勢だけのクラスのどちらかに無作為に割り付けました。理論的に想定される媒介として、倫理には感情調整、呼吸の調節には自己制御、姿勢には不快と苦痛への耐性、瞑想にはマインドフルネスが対応づけられ、さらに自律神経系の指標として唾液中のアセチルコリンエステラーゼが測られています。
結果は微妙なものでした。単回のクラスでも心理的・神経生理学的な利益が得られる可能性は示されたものの、2種類のクラスのあいだの差はほとんどありませんでした。8つの理論的媒介のうち5つと、唾液中のアセチルコリンエステラーゼについて、前後で期待された方向の時間の主効果が現れています。条件との交互作用が見られたのは、認知的再評価、不快への耐性、表出の抑制の3つだけでした。
この結果の読み方は2通りあります。姿勢以外の成分には固有の効果がないのかもしれないし、単回のクラスでは差が出るほどの時間がなかったのかもしれません。著者ら自身、追試と、他の媒介・主要転帰の検証が必要だと述べています。

呼吸と動きを分ける
もう少し細かく、動きと呼吸を分けた研究もあります。
Schmalzl L, Powers C, Zanesco AP, Yetz N, Groessl EJ, Saron CD. The effect of movement-focused and breath-focused yoga practice on stress parameters and sustained attention: A randomized controlled pilot study. Consciousness and Cognition. 2018;65:109-125.
ヨガ未経験の大学生を、動きを中心とする実践と呼吸を中心とする実践に割り付けました。どちらの群でも知覚ストレスと唾液中のコルチゾールが低下しましたが、持続的注意(反応の抑制)が改善したのは呼吸を中心とする群だけでした。さらに、持続的注意の改善は知覚ストレスの低下と相関した一方、唾液中コルチゾールの低下とは相関しませんでした。心理的な指標と生物学的な指標が、別々のことを語っている例です。
同様の対比は別の研究でも報告されています。チー(Qi)らは、大学のヨガの授業4クラスを瞑想を中心とする実践と呼吸を中心とする実践に無作為に割り付け、12週間の前後で仕事への意欲・マインドフルネス・知覚ストレスを測りました。年齢と性別を調整した多変量解析では群間に有意な差があり(Wilksのラムダ = 0.90、F(3, 80) = 3.10、p = 0.031、η2 = 0.104)、呼吸を中心とする群のほうが仕事への意欲(p = 0.025)とマインドフルネス(p = 0.014)が高く、ストレスがやや低い(p = 0.044)という結果でした。効果量はいずれも小さく、偏イータ2乗で0.049から0.072の範囲です。呼吸法そのものについては別の記事もあります。
ただし、この種の研究の規模を見ておく必要があります。ゆっくりした呼吸、マインドフルネス、その組み合わせであるヨガ的呼吸を3群で比べる試験を計画した研究者たちは、まず実施可能性の検証から始めました。
Ma Y, Yang H, Vazquez M, et al. Dismantling the Component-Specific Effects of Yogic Breathing: Feasibility of a Fully Remote Three-Arm RCT with Virtual Laboratory Visits and Wearable Physiology. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2023;20(4):3180.
参加者は18名(ゆっくりした呼吸が5名、マインドフルネスが6名、ヨガ的呼吸が7名)。8週間の介入で、研究の完了率は100%、毎日の実践の遵守率は73%、仮想の来室で完全に解析可能なデータが得られた割合は92%でした。これは効果を調べた試験ではなく、そういう試験が可能かどうかを確かめた研究です。著者ら自身が、より大きな試験を行うための実施可能性を示すものだと明記しています。成分分解という問いが、いまだこの段階にあることの証左です。
なぜ分からないままなのか
理由はいくつも重なっています。
- 必要な人数が確保できない。成分を分けるほど群が増え、群間の差は小さくなります。小さな差を検出するには大きな標本が要りますが、この分野の研究はほとんどが数十人規模です。
- 成分の定義が研究ごとに違う。「呼吸の実践」が何分の何をどう行うことなのか、標準化されていません。
- 倫理や生活規範の成分がほとんど研究されていない。先ほどの加算設計で最も大きな効果を示したのが倫理の学習だった、という所見は、この空白の大きさを示しています。
- 長期実践の研究はほぼすべて観察研究である。カンペロ(Campelo)らが1年以上の実践者を対象とした研究を集めた範囲確認レビューは、2,270件の抄録から65件を選び、そのうち瞑想を扱うもの36件、姿勢を主とするもの25件、呼吸法を扱うもの8件という内訳を報告しています。長期の実践について語れることは、横断的な比較にとどまります。
- 相互作用が想定される。成分を分けた瞬間に、その実践は元のヨガではなくなっている可能性があります。分解できないものを分解しようとしている、という批判は成り立ちます。
| 設計 | 比べたもの | 分かったこと |
|---|---|---|
| 加算(57名) | 瞑想/+ヨガ/+倫理/全部 | 組み合わせが有利。瞑想のみはストレスが上昇 |
| 除去(260名) | 標準/姿勢のみ | 両者の差はほとんどなし |
| 対比(大学生) | 動き中心/呼吸中心 | 注意の改善は呼吸中心のみ |
| 実施可能性(18名) | 呼吸/瞑想/ヨガ的呼吸 | 試験の実施可能性を確認した段階 |
この回のまとめ
ヨガの成分分解は、機序を問ううえで避けて通れない作業です。どの成分が効いているか分からなければ、機序の議論は「ヨガという袋の中の何か」について語ることにしかなりません。それでも、この問いに正面から取り組んだ研究は、この10年で数えるほどしかありません。
現時点で言えることを整理します。複数の成分を組み合わせた介入が、単一の成分よりも良い結果を示す傾向は繰り返し観察されている。呼吸を含む実践が注意の指標に効きやすいという所見もある。しかし、姿勢だけを残したクラスと標準のクラスで差が出なかった研究もあり、どの成分がどの効果を担っているかについて、確立した結論はない。ストレスへの効果そのものの整理は別の記事にあります。
次回予告
最終回となる第10回は「総括——特異的効果と非特異的効果、機序研究の限界」を扱います。ヨガに固有の働きと、期待・注意・人との関わり・儀式性という、あらゆる介入に共通する働きをどう分けるのか。そして、この連載が9回かけて追いかけてきた「機序」という考え方そのものが、どこで限界にぶつかるのかを見ていきます。
この連載の全10回
- 第1回|「効く」とは何か——機序を問う理由と研究の読み方
- 第2回|自律神経と迷走神経——心拍変動が語ること
- 第3回|ゆっくり呼吸の生理学——圧受容器反射と化学受容器
- 第4回|内受容感覚と島皮質——「身体に気づく」の神経基盤
- 第5回|HPA軸とコルチゾール——ストレス反応系は変わるのか
- 第6回|炎症マーカー——IL-6・CRP・TNF-αは動くのか
- 第7回|脳の構造と機能——灰白質とデフォルトモードネットワーク
- 第8回|柔軟性はなぜ増すのか——伸張耐性説と結合組織
- 第9回|どの成分が効いているのか——成分分解試験という方法(この記事)
- 第10回|総括——特異的効果と非特異的効果、機序研究の限界
出典
- Mandlik GV, Nguyen B, Ding D, Edwards KM. Not All Yoga Styles Are the Same: An International Survey on Characteristics of Yoga Classes. Journal of Integrative and Complementary Medicine. 2023;29(5):321-326.
- Frazier MC, Remskar M, Harden SM, et al. How yoga interventions are operationalized and reported in the context of mental health and wellbeing RCTs: a systematic review and qualitative synthesis. BMC Complementary Medicine and Therapies. 2025;26(1):55.
- Matko K, Sedlmeier P, Bringmann HC. Differential Effects of Ethical Education, Physical Hatha Yoga, and Mantra Meditation on Well-Being and Stress in Healthy Participants—An Experimental Single-Case Study. Frontiers in Psychology. 2021;12:672301.
- Hunt M, Al-Braiki F, Dailey S, Russell R, Simon K. Mindfulness Training, Yoga, or Both? Dismantling the Active Components of a Mindfulness-Based Stress Reduction Intervention. Mindfulness. 2018;9(2):512-520.
- Gust CJ, Bryan AD. Cluster Randomized Controlled Trial of a Standard Versus Postures-Only Yoga Session: Potential Self-Regulatory and Neurophysiological Mechanisms of an Ancient Practice. Annals of Behavioral Medicine. 2024;58(11):707-716.
- Schmalzl L, Powers C, Zanesco AP, Yetz N, Groessl EJ, Saron CD. The effect of movement-focused and breath-focused yoga practice on stress parameters and sustained attention: A randomized controlled pilot study. Consciousness and Cognition. 2018;65:109-125.
- Qi X, Tong J, Chen S, He Z, Zhu X. Comparing the Psychological Effects of Meditation- and Breathing-Focused Yoga Practice in Undergraduate Students. Frontiers in Psychology. 2020;11:560152.
- Ma Y, Yang H, Vazquez M, et al. Dismantling the Component-Specific Effects of Yogic Breathing: Feasibility of a Fully Remote Three-Arm RCT with Virtual Laboratory Visits and Wearable Physiology. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2023;20(4):3180.
- Campelo G, de Araújo JR, Aristizabal JP, de Souza W, de Castilho GM. Long-term effects of yoga-based practices on neural, cognitive, psychological, and physiological outcomes in adults: a scoping review and evidence map. BMC Complementary Medicine and Therapies. 2025;25(1):92.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。ここで紹介した研究の多くは健康な成人を対象とした小規模なもので、特定の症状や疾患への効果を示すものではありません。抑うつ・強い不安・不眠が続く場合は、実践の内容や量で自己判断せず医療機関にご相談ください。呼吸法の実践中に強いめまいやしびれが出た場合は中止してください。






