連載「ヨガはなぜ効くのか」全10回の第8回です。
ここまでの7回は、血液や脳のように、自分では変化を感じ取れない指標を扱ってきました。この回の題材は違います。ヨガを続けると前屈で手が床に近づく——これは誰でも自分で確かめられる変化で、測定も簡単です。だからこそ、「なぜそうなるのか」という問いに、はっきりした答えが出ていそうに思えます。
ところが、そうではありません。結論を先に置きます。関節の可動域が広がる主な理由は、筋肉や腱が構造として長く柔らかくなったからではなく、「伸ばされる感覚に耐えられる限界が上がった」からだ、という説明が、30年近く前から繰り返し支持されてきました。近年のメタアナリシスは、組織の硬さの低下も同時に起きていることを示しましたが、その効果は小さく、筋線維の束の長さは変わりませんでした。柔軟性の向上は、少なくともその一部が、感覚の側の変化です。
ヨガと可動域の関係を、測定と転帰の角度から整理した記事は別にあります。この回は機序に絞ります。

2つの説明——組織が変わるのか、感覚が変わるのか
まず、何を測っているのかを整理します。柔軟性の研究では、関節を機械でゆっくり動かしながら、角度と抵抗トルク(動かすのに必要な力)を同時に記録します。ここから3種類の情報が取れます。
- 可動域——どこまで動いたか。多くの研究では「これ以上は無理」と本人が申告した角度、または痛みが出た角度で止めます。
- 受動的な硬さ——角度とトルクの関係の傾き。同じ角度で必要な力が減れば、組織が柔らかくなったと解釈されます。
- 最大耐容トルク——止めた時点でかかっていた力。これが増えていれば、同じ強さで引っぱられても平気になった、つまり伸張耐性が上がったと解釈されます。
粘弾性変化説は、ストレッチによって筋肉や腱そのものが物理的に変わると考えます。伸張耐性説は、組織はほとんど変わらず、感覚と痛みの受け取り方が変わることで、より遠くまで動かせるようになると考えます。可動域だけを測っている研究は、この2つを区別できません。抵抗トルクを同時に記録して初めて、どちらが起きているかを問えます。
古典的な実験——3週間で何が変わったか
この問いに最初に明快な答えを出したのが、次の研究です。
Magnusson SP, Simonsen EB, Aagaard P, Sørensen H, Kjaer M. A mechanism for altered flexibility in human skeletal muscle. The Journal of Physiology. 1996;497(Pt 1):291-298.
健康な7名を対象に、3週間の訓練の前後で2種類の手順を行いました。ひとつは、訓練前と同じ決まった角度まで膝をゆっくり伸ばして90秒保持する手順。もうひとつは、痛みが出る点まで伸ばす手順です。筋電図で筋の活動も連続して記録しています。
結果、決まった角度まで動かす手順では、硬さも、エネルギーも、ピークのトルクも、訓練によって有意には変わりませんでした。一方、痛みが出る点まで伸ばす手順では、膝を伸ばせる角度が有意に増え、それに見合ってピークトルクとエネルギーも増えました。筋電図の活動は小さく、訓練の影響を受けていません。
著者らの結論は明快です——訓練で得られた可動域の増加は、筋の機械的・粘弾性的な性質の変化ではなく、本人の伸張耐性が上がった結果である。この論文は、その後の議論の出発点になりました。
より新しく、より大きな研究でも同じ形の結果が出ています。
Konrad A, Tilp M. Increased range of motion after static stretching is not due to changes in muscle and tendon structures. Clinical Biomechanics. 2014;29(6):636-642.
49名を静的ストレッチ群と対照群に無作為に割り付け、6週間の訓練の前後で、超音波を使って筋線維束の長さ、羽状角、筋腱移行部の移動量まで測りました。結果、足首の背屈の可動域は平均30.9度(標準偏差5.3)から36.3度(6.1)へ有意に増加した一方、受動的抵抗トルク、最大随意収縮力、筋線維束の長さ、羽状角、筋の硬さ、腱の硬さは、いずれも変化しませんでした。著者らは、可動域の増加は筋腱複合体の構造変化では説明できず、痛覚を担う神経終末の適応による伸張耐性の増加によるものだろうと述べています。

統合するとどうなるか
個々の研究では、硬さが下がったという報告もあります。全体としてはどうなるのか。65件・1,542名を統合した最近のメタアナリシスが、この論点を正面から扱っています。
Ingram LA, Tomkinson GR, d’Unienville NMA, et al. Mechanisms Underlying Range of Motion Improvements Following Acute and Chronic Static Stretching: A Systematic Review, Meta-analysis and Multivariate Meta-regression. Sports Medicine. 2025;55(6):1449-1466.
結果を整理します。単回のストレッチでも継続的なストレッチでも、全体の硬さは小さく低下しました(それぞれHedgesのg = 0.42、95%信頼区間 0.21〜0.63/g = 0.37、0.18〜0.56)。最大耐容トルクは継続的なストレッチでのみ中程度に増加しました(g = 0.74、0.38〜1.10)。そして、単回でも継続でも、筋線維束の長さには有意な効果がありませんでした。
さらに、可動域の改善と何が結びついているかをメタ回帰で調べています。継続的なストレッチの後の可動域の改善は、硬さの低下(g = 0.59、0.08〜1.10、p = 0.03)と最大耐容トルクの増加(g = 0.74、0.41〜1.09、p < 0.001)の両方と有意に関連していました。数値を見比べると、耐容トルク側の関連のほうが大きく、信頼区間も狭いことが分かります。
つまり、二者択一ではありません。組織の硬さも確かに少し下がる。ただし筋線維の束は長くならず、可動域の改善への寄与は伸張耐性のほうが安定している——これが現時点での統合像です。
筋腱の構造そのものに絞ったレビューも、同じ方向を指しています。
Freitas SR, Mendes B, Le Sant G, Andrade RJ, Nordez A, Milanovic Z. Can chronic stretching change the muscle-tendon mechanical properties? A review. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2018;28(3):794-806.
3〜8週間の介入を行った26件(週あたりのストレッチ時間は平均1,165秒)を統合した結果、最大耐容トルクには小さい効果、関節の抵抗・筋の構造・筋の硬さ・腱の硬さにはごくわずかな効果しか見られませんでした。著者らの結論は率直です——8週間より短いストレッチへの適応は、主に感覚のレベルで起きているようだ。
筋膜・結合組織はどこまで示されているか
近年、筋膜(筋肉を包む結合組織の膜)に注目が集まっています。せん断波エラストグラフィという、超音波で組織の硬さを測る技術が使えるようになり、筋膜を個別に評価できるようになったためです。
Warneke K, Rabitsch T, Dobert P, Wilke J. The effects of static and dynamic stretching on deep fascia stiffness: a randomized, controlled cross-over study. European Journal of Applied Physiology. 2024;124(9):2809-2818.
40名を対象に、静的ストレッチ、動的ストレッチ、対照条件を順序を変えて実施し、前後で筋と筋膜の硬さと厚さを測定しました。静的ストレッチは筋の硬さと筋膜の硬さの両方を下げました(それぞれd = 0.78、0.42)。動的ストレッチでは有意な低下はありません。そして興味深いのは相関の結果です——筋膜の硬さの低下と可動域の増加のあいだには小さな相関があり(r = -0.25、p = 0.006)、筋の硬さの低下と可動域の増加のあいだには関連が見られませんでした。
著者らはこれを「ストレッチによる筋膜の変化を示した最初の研究」と位置づけています。ただし、相関係数 -0.25 は非常に小さく、ここから「筋膜が柔軟性の鍵だ」と結論するのは行き過ぎです。また、この研究が見ているのは単回のストレッチ直後の変化であり、継続的な実践による適応ではありません。
継続的な介入では、筋膜の構造は動きにくいようです。ムアンジャイ(Muanjai)らは、ハムストリングスが硬い若年男性68名を、長時間ストレッチ、標準的なストレッチ、エキセントリック運動、対照の4群に分け、6週間の介入を行いました。下肢挙上角度は全群で改善しましたが(それぞれ9.8度、5.7度、5.5度、3.5度、効果量は1.53、0.96、1.10、0.60)、筋膜の厚さと超音波の輝度には、介入による有意な変化が検出されませんでした。対照群でも3.5度の改善が出ている点にも注意が要ります。
そもそも、筋膜の硬さが可動域を決めているのかという問題もあります。平田(Hirata)らが若年者20名と高齢者20名で、下腿後面の筋・坐骨神経・深筋膜の硬さと足首の可動域の関係を調べたところ、深筋膜の硬さと可動域のあいだに関連は認められませんでした。可動域を制限していたのは若年者では筋、高齢者では神経で、両群ともに伸張耐性が可動域に影響していました。

ヨガの研究で分かっていること
ここまでは、ストレッチ全般の研究です。ヨガに限った機序研究は、はるかに手薄です。
ヨガの介入で柔軟性が増すこと自体は、繰り返し示されています。たとえばラサラ(LaSala)らが大学生31名に、110分のクラスを週2回、7週間にわたって行った研究では、ハムストリングスの柔軟性がデジタル角度計で有意に改善し、可動域の増加は左右とも平均で約4度、効果量は右脚0.77、左脚0.52でした。ただし、この種の研究はほぼ例外なく可動域だけを測っており、抵抗トルクを同時に記録した研究は見当たりません。つまり、ヨガで柔らかくなった理由が組織の変化なのか伸張耐性なのかを、ヨガの研究自体は答えていません。
参考になるのは、ストレッチ訓練で神経系まで踏み込んで調べた研究です。
Blazevich AJ, Cannavan D, Waugh CM, et al. Range of motion, neuromechanical, and architectural adaptations to plantar flexor stretch training in humans. Journal of Applied Physiology. 2014;117(5):452-462.
3週間の訓練で、足首の背屈可動域は19.9%増加し、可動域の端での受動的な関節モーメントは28%増加しました。筋の硬さは18%低下し、筋の長さは13%伸びた一方、筋線維束の長さ、筋線維の回転、腱の伸び、腱の硬さは変わりませんでした。筋電図の振幅にも変化はなく、脊髄運動ニューロンの興奮性の指標は一部の条件でのみ低下しました。著者らは、可動域の増加を支えていたのは最大耐容モーメントの増加、すなわち伸張耐性の増加と、筋と筋線維の伸びであり、随意的な筋活動や運動ニューロンプールの興奮性の変化ではなかったと結論しています。
「柔らかくなった」が意味すること
伸張耐性が主な機序だとすると、いくつかの実務的な含意が出てきます。
第一に、可動域の増加は、必ずしも組織が丈夫になったことを意味しません。同じ強さで引っぱられても平気になった、というのは、言い換えれば警告信号が鳴りにくくなったということです。関節の安定性や靱帯の状態が同じまま、動かせる範囲だけが広がる状況は、理屈のうえでは怪我のリスクと結びつきえます。ヨガに伴う有害事象の統計は第10回で扱いますが、報告されている事象の多くが筋骨格系のものであることは、この機序と無関係ではないでしょう。
第二に、効果が戻りやすいことです。硬さの変化は数分から数十分で元に戻る一方、可動域の変化はより長く残ることが繰り返し観察されています。これは感覚側の変化が主因であることと整合します。継続しなければ戻る、というのは経験的にもよく知られたことで、機序の側からも説明がつきます。
第三に、柔軟性そのものを目的にすべきかという問いが残ります。可動域が増えることと、痛みが減ること、動きやすくなること、怪我をしにくくなることは、それぞれ別の転帰です。第1回で述べたとおり、機序が動いたことは転帰が改善したことを意味しません。
| 主張 | 統合した結果 | 注意 |
|---|---|---|
| 可動域が増える | 一貫して示されている | 測定法により差が出る |
| 伸張耐性が上がる | 継続的なストレッチで中程度の増加 | 可動域の改善との関連が最も強い |
| 組織の硬さが下がる | 小さいが有意な低下 | 短時間で元に戻ることが多い |
| 筋線維の束が長くなる | 有意な効果なし | 単回でも継続でも変化せず |
| 筋膜が変わる | 単回で硬さ低下の報告あり | 相関は小さく、厚さは変わらない |
この回のまとめ
柔軟性は、この連載で扱うなかで最も測りやすく、最も再現性の高い変化です。それでも機序は一枚岩ではありません。組織の硬さはわずかに下がり、筋線維の束は長くならず、可動域の改善に最も安定して結びついているのは伸張耐性の増加でした。筋膜については、単回のストレッチで硬さが下がるという報告が出始めた段階で、相関は小さく、厚さは変わらず、可動域との関連も確立していません。
言えるのはここまでです。ヨガを続けて前屈が深くなるとき、体のどこかが物理的に長く伸びたと考えるより、同じ強さの伸びを受け入れられるようになったと考えるほうが、現在の証拠には合っている。そしてヨガそのものについては、抵抗トルクを測った研究がないため、この説明が当てはまるかどうかすら確かめられていません。
次回予告
第9回は「どの成分が効いているのか——成分分解試験という方法」を扱います。ヨガは姿勢・呼吸・瞑想・人との関わりが束になった実践です。効果があるとして、どの部分が効いているのか。それを調べるには、束をほどいて比べるしかありません。その試みがどこまで進み、何が分かっていないのかを見ていきます。
この連載の全10回
- 第1回|「効く」とは何か——機序を問う理由と研究の読み方
- 第2回|自律神経と迷走神経——心拍変動が語ること
- 第3回|ゆっくり呼吸の生理学——圧受容器反射と化学受容器
- 第4回|内受容感覚と島皮質——「身体に気づく」の神経基盤
- 第5回|HPA軸とコルチゾール——ストレス反応系は変わるのか
- 第6回|炎症マーカー——IL-6・CRP・TNF-αは動くのか
- 第7回|脳の構造と機能——灰白質とデフォルトモードネットワーク
- 第8回|柔軟性はなぜ増すのか——伸張耐性説と結合組織(この記事)
- 第9回|どの成分が効いているのか——成分分解試験という方法
- 第10回|総括——特異的効果と非特異的効果、機序研究の限界
出典
- Magnusson SP, Simonsen EB, Aagaard P, Sørensen H, Kjaer M. A mechanism for altered flexibility in human skeletal muscle. The Journal of Physiology. 1996;497(Pt 1):291-298.
- Konrad A, Tilp M. Increased range of motion after static stretching is not due to changes in muscle and tendon structures. Clinical Biomechanics. 2014;29(6):636-642.
- Ingram LA, Tomkinson GR, d’Unienville NMA, et al. Mechanisms Underlying Range of Motion Improvements Following Acute and Chronic Static Stretching: A Systematic Review, Meta-analysis and Multivariate Meta-regression. Sports Medicine. 2025;55(6):1449-1466.
- Freitas SR, Mendes B, Le Sant G, Andrade RJ, Nordez A, Milanovic Z. Can chronic stretching change the muscle-tendon mechanical properties? A review. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2018;28(3):794-806.
- Warneke K, Rabitsch T, Dobert P, Wilke J. The effects of static and dynamic stretching on deep fascia stiffness: a randomized, controlled cross-over study. European Journal of Applied Physiology. 2024;124(9):2809-2818.
- Muanjai P, Srijunto W, Chaovalit S, Mickevicius M, Luangpon N. Fascial and muscle ultrasound parameters unchanged after stretching or eccentric training in young men with hamstring tightness. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2025;45:286-294.
- Hirata K, Yamadera R, Akagi R. Associations between Range of Motion and Tissue Stiffness in Young and Older People. Medicine and Science in Sports and Exercise. 2020;52(10):2179-2188.
- LaSala TT, Run-Kowzun T, Figueroa M. The effect of a Hatha Yoga practice on hamstring flexibility. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2021;28:439-449.
- Blazevich AJ, Cannavan D, Waugh CM, et al. Range of motion, neuromechanical, and architectural adaptations to plantar flexor stretch training in humans. Journal of Applied Physiology. 2014;117(5):452-462.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。ストレッチ中や後に鋭い痛み、しびれ、脱力が出る場合、関節が抜けるような感覚がある場合は中止し、医療機関にご相談ください。関節の過可動性、椎間板の障害、骨粗鬆症、人工関節の置換後、妊娠中の方は、可動域を広げる動きについて事前に主治医や理学療法士に確認してください。






