連載「ヨガはなぜ効くのか」全10回の第4回です。
ヨガの練習では、繰り返し「身体の感覚に気づく」ことが求められます。伸びている場所、呼吸が入っている場所、心臓の鼓動、胸郭の動き。こうした身体の内側からの信号を感じ取る働きを、内受容感覚(interoception)と呼びます。近年、これがヨガや瞑想の中心的な機序ではないかという議論が盛んになりました。
神経科学の側から名指しされてきたのが島皮質(insula)です。側頭葉と前頭葉のあいだに折り畳まれたこの領域は、内臓からの信号を受け取り、それを感情や意思決定と結びつける中継点と考えられています。
結論を先に置きます。身体への気づきを訓練すると、自己申告による内受容感覚の尺度は小〜中程度の大きさで改善します。しかし、心拍を数えるといった客観的な課題の成績はほとんど動かず、そもそもその課題が内受容感覚を測れていないという批判が強くあります。島皮質の関与も、活動が増える方向と減る方向の両方が報告されており、単純な図式では説明できません。

内受容感覚は一枚岩ではない
まず用語を整理します。研究では内受容感覚を少なくとも三層に分けます。第一に、心拍などの信号をどれだけ正確に検出できるかという客観的な精度(accuracy)。第二に、自分は身体の感覚に気づきやすいと感じているかという主観的な傾向(sensibility)。第三に、その主観的な確信と客観的な成績がどれだけ対応しているかというメタ認知(awareness)。
この三つは相関が低く、しばしば独立に動きます。ある介入で「内受容感覚が向上した」と書かれていても、どの層の話なのかで意味がまったく変わります。ヨガや瞑想の研究で最もよく改善するのは第二の層、つまり質問紙で測る主観的な傾向です。
自己申告の尺度は動く
この点を定量的に示した事前登録のメタアナリシスがあります。
Treves IN, Chen YY, Wilson CL, et al. A meta-analysis of the effects of mindfulness meditation training on self-reported interoception. Scientific Reports. 2025;15(1):38889.
29件の無作為化比較試験・2,191名(女性77.8%、平均年齢32.8歳)を統合した結果、自己申告による内受容感覚の尺度に対する効果量は g = 0.31(95%信頼区間 0.21〜0.42)、異質性は低〜中程度(τ = 0.16)でした。用いられた尺度は5種類で、最も多かったのは内受容感覚の多次元評価尺度(MAIA)の22件です。介入の内訳はマインドフルネス系15件、マッサージ等を含む身体志向の手法8件、その他6件で、マインドフルネス系の効果が最大(g = 0.41)でした。出版バイアスの証拠は認められず、練習量などの調整変数も有意ではありませんでした。
重要なのは、著者らが同時に述べている点です。自己申告の内受容感覚の改善は、自己申告のマインドフルネス尺度の改善と同程度の大きさであり、心理的苦痛の改善と関連していました。裏を返せば、「身体に気づけるようになった」という報告が、「マインドフルネスが高まった」という報告と区別できるほど独立しているかは分からない、ということでもあります。

心拍を数える課題という難所
では客観的な精度はどうか。この30年、最もよく使われてきたのが心拍カウント課題(heartbeat counting task)です。合図のあいだ、脈に触れず、自分の心拍を数えてもらい、実際の拍数との差から精度を算出します。単純で装置も要らないため広く普及しました。
しかし2018年以降、この課題の妥当性が集中的に疑われています。
Zamariola G, Maurage P, Luminet O, Corneille O. Interoceptive accuracy scores from the heartbeat counting task are problematic: Evidence from simple bivariate correlations. Biological Psychology. 2018;137:12-17.
572名という大きな標本で調べたところ、精度スコアは理論上は過大評価と過小評価のどちらにも中立なはずなのに、実際には95%以上が過小報告でした。報告された拍数と実際の拍数の相関は全体で r = 0.16 と低く、スコアの上位60%のあいだでは能力の差が識別できないことも示されました。さらに、概念上は心拍数と独立なはずの精度スコアが、構造的に心拍数と結びついていること、そして課題に用いる時間の長さによってスコアが変わることも報告されています。
参加者が何をしているのかを直接調べた研究もあります。
Desmedt O, Luminet O, Corneille O. The heartbeat counting task largely involves non-interoceptive processes: Evidence from both the original and an adapted counting task. Biological Psychology. 2018;138:185-188.
健康な123名に、通常の教示と「実際に感じ取れた心拍だけを報告してください」という改変教示の両方で課題を行わせました。通常の教示では、参加者は三通りの方略——特定の部位で拍動を検出する、漠然と検出する、心拍数を推定する——を使っていたと報告しています。そして改変教示では、精度スコアが約50%も下がりました。つまり通常の課題で得られる高いスコアの相当部分は、心拍を感じ取る能力ではなく、心拍数についての知識や時間の見積もりに由来していたことになります。
フィードバックを使った実験も同じ方向を指しています。リング(Ring)らは、心拍と同時に鳴る即時フィードバックと、正しい心拍数だけを伝える遅延フィードバックを比較しました。もし課題が感覚の検出訓練で改善するなら、即時フィードバックのほうが効くはずです。ところが両者は同じ程度に成績を上げました。著者らは、改善が感覚過程ではなく非感覚的な過程——心拍数についての信念の更新——によることを示すものであり、心拍カウント課題は心臓の知覚を測る妥当な方法ではないと結論しています。
ただし、この批判に反論もあります。エインリー(Ainley)らのコメンタリーは、精度スコアが比率変数であることに起因する見せかけの相関が含まれていると指摘し、四つの批判のうち実証されているのは「人は心拍を数えすぎない(少なく数える)」という一点だけだと主張しました。方法論の論争は決着していません。読み手として押さえるべきは、この課題に基づく結果は、肯定的なものも否定的なものも、割り引いて読む必要があるということです。
| 層 | 測り方 | ヨガ・瞑想研究での動き |
|---|---|---|
| 主観的傾向 | MAIA などの質問紙 | 小〜中程度の改善が一貫して報告される |
| 客観的精度 | 心拍カウント課題など | 改善しないことが多く、課題の妥当性に疑義 |
| メタ認知 | 確信度と成績の対応 | 研究が少なく、結果は一定しない |
島皮質は活動が上がるのか下がるのか
脳画像の側に移ります。初期の代表的な研究が、呼吸への注意を視覚課題と対比させた実験です。
Farb NA, Segal ZV, Anderson AK. Mindfulness meditation training alters cortical representations of interoceptive attention. Social Cognitive and Affective Neuroscience. 2013;8(1):15-26.
マインドフルネスストレス低減法の課程を修了した群と待機群を比べたところ、修了群では呼吸への注意に伴う前部・無顆粒島皮質の活動が大きく、内側前頭前野背側部の動員は小さくなっていました。さらに、練習の遵守度が高い人ほど後部島皮質の活動が大きく、視覚経路の動員が小さいという関係も見られました。著者らはこれを、外部感覚の訓練で見られる可塑性と同じ種類の変化だと解釈しています。
ところが、同じ研究者グループがのちに行った研究は、より複雑な像を示しました。ファーブらの2023年の報告では、22名が2回の走査(合計44スキャン)を受け、呼吸周期の追跡(内受容的注意)と視覚刺激の追跡(外受容的注意)が比較されました。結果、内受容的注意は体性運動野と前頭前野の広範な活動低下を伴いました。右島皮質が特異的に関与したのは、外から与えられたペースに呼吸を合わせる条件のときだけです。自己申告の内受容感覚が高い人ほど、前帯状皮質と左半球の言語関連領域で活動低下が免れていました。
これは前の研究と矛盾するというより、「内受容感覚」と一括りにされてきたものが、注意の向け方によって別の神経過程になることを示しています。心拍のような閾値に近い微弱な信号を検出する課題では前部島皮質の活動が上がる。呼吸のような明瞭な信号に注意を向ける課題では、むしろ皮質活動が広く下がり、注意ネットワークの結合が変わる。ヨガの練習で扱われるのは、大半が後者です。

ヨガそのものの研究は驚くほど少ない
ここまで引いてきた研究の多くは、ヨガではなくマインドフルネス瞑想を対象にしています。ヨガに限った証拠はどれほどあるのか。
Voss S, Boachie DA, Nieves N, Gothe NP. Mind-body practices, interoception and pain: a scoping review of behavioral and neural correlates. Annals of Medicine. 2023;55(2):2275661.
690件の論文を選別し、24件が分析対象となりました。うち16件は慢性疼痛に対する心身実践の内受容感覚への影響、8件は熟練実践者での誘発痛課題です。そして著者らはこう書いています——ヨガと内受容感覚と痛みの三つを結びつけた研究は、わずか3件しかない。本稿の分析は、より広い心身実践の文献に依拠せざるをえなかった、と明記されています。
ヨガを能動的対照と比べた介入研究も数は限られます。
van Aalst J, Jennen L, Demyttenaere K, et al. Twelve-Week Yoga vs. Aerobic Cycling Initiation in Sedentary Healthy Subjects: A Behavioral and Multiparametric Interventional PET/MR Study. Frontiers in Psychiatry. 2021;12:739356.
座位中心の生活を送る健康な女性30名(28.4 ± 8.4歳)を、12週間のヨガまたは屋内サイクリングに無作為に割り付け、前後でPET/MRI撮像と心理尺度を実施しました。ヨガ群では内受容感覚の自己申告尺度が有意に上昇し(P < 0.001)、認知機能の自己評価もサイクリング群より改善しました(P = 0.009、P = 0.01)。一方、ブドウ糖代謝、シナプス密度、灰白質容積には有意差が認められませんでした。サイクリング群では心理尺度に変化がなく、海馬傍回・紡錘状回と小脳で相対的なブドウ糖代謝が上昇しています。
著者らは、脳の代謝や形態のレベルで効果を検出するには、より長い介入やより高い頻度が必要かもしれないと述べています。逆に言えば、12週間では主観の側だけが動き、生物学的な指標は動かなかったということです。脳画像を用いたヨガ研究の全体像は別の記事で扱っています。
なぜヨガでの直接研究が少ないのか
理由は少なくとも4つ考えられます。第一に、測定と介入の相性が悪いことです。内受容感覚の客観課題も脳画像も、静止と安静を前提にします。ところがヨガは動き続ける実践であり、磁気共鳴装置のなかでアーサナを取ることはできません。結果として測定は練習の前後にしか行えず、練習中に何が起きているかは捉えにくいままです。
第二に、主要評価項目に据えられる客観指標が事実上ないことです。心拍カウント課題の妥当性が疑われた以上、それを中心に据えた新規の介入研究は組みにくい。残るのは自己申告の尺度ですが、盲検が不可能な介入で自己申告を主要評価項目にする設計は、期待効果に対して最も脆い組み合わせです。「身体の感覚に注意を向けましょう」と言われ続けた群が身体への気づきを問う質問紙で高く答えるのは、訓練の成果かもしれないし、教示の反映かもしれません。
第三に、標準化の難しさがあります。マインドフルネスストレス低減法は、期間・構成・教材の定まったプロトコルとして流通しています。ヨガにはそれに相当する共通形式がなく、スタイルによって姿勢の比重も呼吸の扱いも異なります。第2回の心拍変動のレビューが「実践内容を詳細に報告せよ」と求めていたのと、同じ構造の問題です。
第四に、研究の系譜です。内受容感覚の研究は臨床心理学と認知神経科学の側から立ち上がり、瞑想が最初の題材になりました。ヨガは運動科学の文脈で研究されることが多く、両者の交差点に立つ研究者がまだ少ないのです。
何を測れば空白は埋まるか
埋め方は具体的に描けます。まず課題の選び直しです。心拍という微弱な信号ではなく、呼吸周期の追跡のように明瞭な信号への注意を測る課題——ファーブらが用いた内受容・外受容注意課題がその一例です——のほうが、ヨガの練習内容と対応が取りやすい。次に、客観課題と主観尺度を同時に取り、両者の対応であるメタ認知まで算出すること。第三に、ファン・アールストらのサイクリング対照のように、同じ時間だけ身体を動かす能動的対照を置くこと。そして第四に、媒介変数を転帰より先に測る設計にすることです。内受容感覚の変化を4週目に、症状を12週目に測れば、時間的な順序という因果の最低条件だけは満たせます。
この回のまとめ
内受容感覚は、ヨガの機序としてもっともらしい候補です。練習の中身が「身体に注意を向けること」そのものであり、島皮質という受け皿になる解剖学的構造もある。しかし現時点の証拠は、次の三つの制約を抱えています。
- 動いているのは主に自己申告の尺度である。客観的な課題の成績はほとんど変わらず、その課題自体の妥当性も疑われている。
- 島皮質の関与は方向が一定しない。注意を向ける信号の種類によって、活動が増える場合と減る場合がある。
- ヨガに限った研究がきわめて少ない。結論の多くは瞑想やマッサージを含む心身実践全般からの外挿である。
- 標本が偏っている。統合された参加者は女性が77.8%、平均年齢32.8歳で、高齢者や男性についての証拠は薄い。
そして第1回の問いに戻れば、最後の一段——内受容感覚の変化が症状の改善を媒介したか——を検証したヨガ研究は、ほぼ存在しません。候補としての魅力と、検証の進み具合のあいだには、まだ大きな距離があります。
実際に練習する人にとっての含意も書いておきます。「身体に気づけているかどうか」を数値で確かめる手段は、いまのところありません。心拍を正確に数えられることと、練習中に自分の状態を適切に扱えることは、別の能力である可能性が高い。質問紙の得点が上がったことも、感覚の精度そのものの向上を意味するとは限りません。
次回予告
第5回は「HPA軸とコルチゾール——ストレス反応系は本当に変わるのか」を扱います。ストレスホルモンとして知られるコルチゾールは、ヨガ研究で最も頻繁に測られてきた生物学的指標です。統合結果は何を示しているのか、そしてこの指標そのものが持つ再現性の問題を見ていきます。
この連載の全10回
- 第1回|「効く」とは何か——機序を問う理由と研究の読み方
- 第2回|自律神経と迷走神経——心拍変動が語ること
- 第3回|ゆっくり呼吸の生理学——圧受容器反射と化学受容器
- 第4回|内受容感覚と島皮質——「身体に気づく」の神経基盤(この記事)
- 第5回|HPA軸とコルチゾール——ストレス反応系は変わるのか
- 第6回|炎症マーカー——IL-6・CRP・TNF-αは動くのか
- 第7回|脳の構造と機能——灰白質とデフォルトモードネットワーク
- 第8回|柔軟性はなぜ増すのか——伸張耐性説と結合組織
- 第9回|どの成分が効いているのか——成分分解試験という方法
- 第10回|総括——特異的効果と非特異的効果、機序研究の限界
出典
- Treves IN, Chen YY, Wilson CL, et al. A meta-analysis of the effects of mindfulness meditation training on self-reported interoception. Scientific Reports. 2025;15(1):38889.
- Zamariola G, Maurage P, Luminet O, Corneille O. Interoceptive accuracy scores from the heartbeat counting task are problematic: Evidence from simple bivariate correlations. Biological Psychology. 2018;137:12-17.
- Desmedt O, Luminet O, Corneille O. The heartbeat counting task largely involves non-interoceptive processes: Evidence from both the original and an adapted counting task. Biological Psychology. 2018;138:185-188.
- Ring C, Brener J, Knapp K, Mailloux J. Effects of heartbeat feedback on beliefs about heart rate and heartbeat counting: a cautionary tale about interoceptive awareness. Biological Psychology. 2015;104:193-198.
- Ainley V, Tsakiris M, Pollatos O, Schulz A, Herbert BM. Comment on “Zamariola et al. (2018), Interoceptive Accuracy Scores are Problematic”. Biological Psychology. 2020;152:107870.
- Farb NA, Segal ZV, Anderson AK. Mindfulness meditation training alters cortical representations of interoceptive attention. Social Cognitive and Affective Neuroscience. 2013;8(1):15-26.
- Farb NAS, Zuo Z, Price CJ. Interoceptive Awareness of the Breath Preserves Attention and Language Networks amidst Widespread Cortical Deactivation: A Within-Participant Neuroimaging Study. eNeuro. 2023;10(6).
- Voss S, Boachie DA, Nieves N, Gothe NP. Mind-body practices, interoception and pain: a scoping review of behavioral and neural correlates. Annals of Medicine. 2023;55(2):2275661.
- van Aalst J, Jennen L, Demyttenaere K, Sunaert S, Koole M, Ceccarini J, Van Laere K. Twelve-Week Yoga vs. Aerobic Cycling Initiation in Sedentary Healthy Subjects: A Behavioral and Multiparametric Interventional PET/MR Study. Frontiers in Psychiatry. 2021;12:739356.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。身体感覚への注意を強める練習は、不安症・パニック症・摂食障害・心的外傷後ストレス障害のある方では、かえって症状を強めることがあります。練習中に強い動悸・過呼吸・解離のような感覚が生じた場合は中止し、治療を受けている方は担当の医療者に相談してください。






