「ヨガは運動になるのか」という問いは、素朴に見えて答えが難しい問いです。終わったあとに汗をかき、翌日に筋肉痛が出ることもある。それなのに、運動生理学の測定器をつけて計測すると、思ったほどの数字が出ない。
ここでは米国で行われた実測研究をもとに、ヨガが体力のどの要素をどれだけ動かすのかを、要素ごとに分けて整理します。結論を先に述べると、ヨガは柔軟性とバランスには明確に効き、筋力にもある程度効くが、有酸素能力(心肺持久力)を高める運動としては強度が足りません。
体力は一つの数字ではない
まず前提を確認します。運動生理学では「健康関連体力(health-related physical fitness)」を、少なくとも5つの要素に分けて考えます。
- 心肺持久力(有酸素能力・VO2max)
- 筋力(発揮できる最大の力)
- 筋持久力(力を発揮し続ける能力)
- 柔軟性(関節可動域)
- 身体組成(除脂肪量と脂肪量の比)
これに加えて、加齢とともに重要度が増すバランス能力があります。「運動になるか」を一つの答えで済ませられないのは、これらが別々の生理学的機序で改善するからです。ある運動が柔軟性を大きく改善しても、心肺持久力にはまったく効かないことは普通に起こります。
強度の実測——2.5 METs という数字
ヨガの運動強度を直接測った代表的な研究が、2007年にニューヨークで行われたものです。
Hagins M, Moore W, Rundle A. Does practicing hatha yoga satisfy recommendations for intensity of physical activity which improves and maintains health and cardiovascular fitness? BMC Complementary and Alternative Medicine. 2007;7:40.
この研究は、実際のハタヨガのセッション中に呼気ガス分析(酸素摂取量の直接測定)と心拍測定を行いました。得られた平均値は次の通りです。
| 指標 | セッション全体の平均 |
|---|---|
| 酸素摂取量(VO2) | 0.6 L/kg/min |
| 心拍数 | 93.2 拍/分 |
| 予測最大心拍の割合 | 49.4% |
| METs | 2.5 |
| エネルギー消費 | 3.2 kcal/分 |
METs(メッツ)は安静時の代謝を1としたときの倍数です。2.5 METs は、時速3.2キロメートルのトレッドミル歩行とほぼ同じ——ゆっくりした散歩の強度です。
米国の身体活動ガイドライン(Physical Activity Guidelines for Americans)は、成人に週150分以上の中強度(3.0〜5.9 METs)または週75分以上の高強度(6.0 METs以上)の有酸素活動を推奨しています。2.5 METs はこの「中強度」の下限にも届きません。Hagins らの結論は明快です。ハタヨガの代謝コストはセッション全体の平均としては低水準の身体活動であり、健康の維持・改善や心肺体力の向上に必要な身体活動の推奨を満たさない。
ただし平均値は実態を隠す
この結論には重要な但し書きがあります。同じ論文が指摘しているのは、太陽礼拝(スーリヤ・ナマスカーラ)のような連続した動的シークエンスを10分以上含む練習であれば、その部分は十分な強度に達しうるということです。
ヨガのセッションは、強度が大きく変動します。シャヴァーサナ(仰向けの弛緩姿勢)は安静時とほぼ同じ1 MET前後、静的な立位ポーズの保持は2〜3 METs、連続したヴィンヤサは4〜6 METsに達することがあります。90分を通した平均が2.5 METsであっても、その内訳は「ほとんど安静の時間」と「それなりに強度のある時間」の混合です。
したがって「ヨガは運動強度が低い」という言い方は、スタイルを区別しない限り不正確です。リストラティブヨガとアシュタンガヨガを同じ数字で語ることはできません。正確に言えば、一般的なハタヨガのクラスは、有酸素運動としての推奨強度を平均としては満たさないということになります。
筋力と柔軟性——変化する要素
心肺持久力とは対照的に、筋力と柔軟性については変化が報告されています。よく引用されるのがカリフォルニア大学デービス校で行われた研究です。
Tran MD, Holly RG, Lashbrook J, Amsterdam EA. Effects of Hatha Yoga Practice on the Health-Related Aspects of Physical Fitness. Preventive Cardiology. 2001;4(4):165–170.
週2回、8週間のハタヨガ(呼吸法10分・動的ウォームアップ15分・アーサナ50分・シャヴァーサナ10分)の前後で、体力の各要素を測定しています。
| 測定項目 | 変化率 |
|---|---|
| 等速性筋力:肘伸展 | +31% |
| 等速性筋力:肘屈曲 | +19% |
| 等速性筋力:膝伸展 | +28% |
| 等尺性筋持久力:膝屈曲 | +57% |
| 柔軟性:肩挙上 | +155% |
| 柔軟性:体幹伸展 | +188% |
| 柔軟性:足関節 | +13% |
| 柔軟性:体幹屈曲 | +14% |
| VO2max(相対値) | +6% |
この数字をそのまま信じてはいけない理由
数字だけを見れば劇的です。しかしこの研究には、結果の解釈を大きく制約する条件があります。
- 参加者は10名(女性9名・男性1名)のみ。
- 対照群がない。 前後比較のみで、比較対象が存在しません。
- 参加者は18〜27歳の運動習慣のない若年者。
対照群がない前後比較では、改善が介入によるものなのか、測定への慣れ(学習効果)によるものなのか、参加者が同時期に始めた他の活動によるものなのかを区別できません。とくに柔軟性の測定は学習効果が大きい指標です。「+188%」という数字は、8週間で体幹伸展の可動域が約3倍近くになったことを意味しますが、初回測定時に本人が可動域の限界まで動くことに慣れていなかった可能性を排除できません。
また運動習慣のない若年者は、どんな運動を始めても初期に大きな改善を示します。これを初心者効果(novice effect)と呼びます。同じプロトコルを運動習慣のある人に適用しても、同じ変化率は得られません。
したがってTran らの研究から言えるのは「ヨガの練習で筋力と柔軟性が変わりうる」という方向性までで、効果量の推定には使えません。 にもかかわらず、この研究の数字は「ヨガで筋力31%アップ」といった形でしばしば単独引用されます。引用のされ方に注意が必要な典型例です。
より確実性の高い柔軟性の知見
柔軟性については、より大規模な統合でも改善が確認されています。2025年に公表された加熱環境下のヨガ(ホットヨガ)に関するシステマティックレビューは、43研究・942名を対象とし、座位体前屈での柔軟性が+33%改善したと報告しています。
Willmott AGB, James CA, Jewiss M, Gibson OR, Brocherie F, Mee JA. Hot Yoga: A Systematic Review of the Physiological, Functional and Psychological Responses and Adaptations. Sports Medicine – Open. 2025;11:110.
ただし同レビューは、この柔軟性の改善が加熱していないヨガより優れているとは言えないことも同時に記しています。改善しているのはヨガの動作であって、環境温度ではないという整理です。
なぜ「きつい」のに強度が低いのか
2.5 METs という数字に違和感を覚える人は多いはずです。ウォーリアーIIを1分保持したあとの疲労感は、ゆっくりした散歩とは明らかに違います。この食い違いには、生理学的な理由があります。
等尺性収縮は全身の酸素需要を増やさない
METs や心拍数が測っているのは、全身が必要とする酸素の量です。一方、ヨガのポーズ保持で生じている疲労の多くは局所的な筋の疲労です。
関節角度を変えずに力を出し続ける収縮を等尺性収縮(アイソメトリック)と呼びます。この収縮様式では筋内圧が高まり、その筋への血流がむしろ制限されます。すると局所では酸素が足りず、乳酸が蓄積し、強い「きつさ」が生じる。ところが動員されている筋量は限られているため、全身の酸素消費量としては大きく増えません。局所の辛さと全身の代謝負荷は、必ずしも比例しないのです。
これは逆方向にも言えます。ランニングは大きな筋群を連続的に使うため全身の酸素需要が高く、METs も高くなりますが、特定の筋が限界に達する感覚は必ずしも伴いません。「きつさ」という主観と「強度」という測定値は、別の現象を見ています。
心拍数も同じ罠にかかる
等尺性収縮や、腕を心臓より高く上げる姿勢では、血圧が上がり心拍も上がります。これは有酸素的な代謝需要に応じた上昇ではなく、循環系への機械的・神経的な負荷に対する反応です。したがって心拍数だけを見てヨガの運動強度を推定すると、過大評価になります。Hagins らが呼気ガス分析で酸素摂取量を直接測ったのは、この問題を避けるためです。
発汗量は強度の指標ではない
加熱された室内で行うヨガでは大量に発汗します。これを運動強度の証拠と受け取るのは誤りです。発汗は深部体温を下げるための熱放散反応であり、その量は環境温度と湿度に強く依存します。運動でほとんど熱を産生していなくても、室温が高ければ汗は出ます。
米国の運動評議会(ACE)が委託した研究では、約41℃・湿度40%の環境で90分のクラスを行った際、平均最高深部体温は男性39.6℃・女性38.9℃に達し、20名中7名が39.4℃を超え、1名は40.1℃に達しました。これは高い熱ストレスがかかっていることを示しますが、熱ストレスは有酸素能力を高める刺激ではありません。同じ研究で最高心拍は予測最大の男性92%・女性85%に達していますが、この心拍上昇の相当部分は皮膚血流を増やして熱を逃がすための循環応答です。
実際、加熱の有無を無作為化して比較した研究では、血管内皮機能(上腕動脈の血流依存性血管拡張反応)の改善に加熱による上乗せはありませんでした。
Hunter SD, Laosiripisan J, Elmenshawy A, Tanaka H. Effects of yoga interventions practised in heated and thermoneutral conditions on endothelium-dependent vasodilatation: The Bikram yoga heart study. Experimental Physiology. 2018;103(1):83–88.
40.5℃で行った群と23℃で同じシークエンスを行った群のあいだに、血管機能の改善の差はなかった。汗の量は、その日どれだけ身体が変わったかを教えてくれる指標ではないということです。
バランス——最も確実な領域
高齢者のバランスと移動能力については、無作為化比較試験を統合したメタアナリシスがあります。
Youkhana S, Dean CM, Wolff M, Sherrington C, Tiedemann A. Yoga-based exercise improves balance and mobility in people aged 60 and over: a systematic review and meta-analysis. Age and Ageing. 2016;45(1):21–29.
6試験・307名の統合で、以下の効果量が報告されました。
- バランス能力:Hedges’ g = 0.40(95%信頼区間 0.15〜0.65)——小さい効果
- 移動能力:Hedges’ g = 0.50(95%信頼区間 0.06〜0.95)——中程度の効果
効果量(Hedges’ g)は、0.2で小、0.5で中、0.8で大と解釈するのが慣例です。バランスは小さい効果、移動能力は中程度の効果ということになります。信頼区間の下限がいずれも0を超えているため、方向性としては確かです。
ただし、ここにも重要な留保があります。このレビューに含まれた試験は、転倒の実際の発生率を主要評価項目としていません。 バランス検査の点数が上がることと、実際に転ぶ回数が減ることは同じではありません。転倒予防の効果を証明するには、数百人規模を1年以上追跡して転倒回数を数える設計が必要で、ヨガについてはそのレベルの試験がまだ蓄積していません。
加齢と傷害——バランスを鍛える側が転ぶ
高齢者にとってヨガが有用でありうる一方で、傷害のリスクも加齢とともに上がります。米国の全国傷害サーベイランス(NEISS)に基づく推計では、2001年から2014年の14年間に救急受診に至ったヨガ関連の傷害は29,590件と推定され、65歳以上は若年層より重い傷害を負いやすいことが示されています。
Swain TA, McGwin G. Yoga-Related Injuries in the United States From 2001 to 2014. Orthopaedic Journal of Sports Medicine. 2016;4(11).
バランス能力を高めうる運動が、同時に転倒や過伸展による傷害の機会でもあるという事実は、素直に受け止める必要があります。
まとめ——要素ごとの結論
| 体力の要素 | 証拠の状況 |
|---|---|
| 心肺持久力 | 推奨強度を満たさない(平均2.5 METs)。ただし動的シークエンス中心のスタイルは例外がありうる |
| 柔軟性 | 改善する。統合レベルでも確認(座位体前屈 +33%) |
| 筋力・筋持久力 | 改善が報告されているが、元になる研究は小標本・非対照で効果量は不明 |
| バランス・移動能力 | 改善する(g = 0.40/0.50)。ただし転倒発生率への効果は未確認 |
| 身体組成 | 結果が一貫しない。加熱環境でも明確な優位はない |
この表が示しているのは、ヨガを「万能の運動」としても「運動として不十分」としても、どちらも不正確だということです。柔軟性とバランスに効き、心肺持久力には効かない。それが測定結果です。心肺機能を高めたいのであれば、ヨガに加えて早歩き・ジョギング・自転車・水泳といった持続的な有酸素運動が別途必要になります。運動処方の原則である「特異性の原則」——鍛えたい能力に対応した刺激を与えなければその能力は変わらない——が、ここでもそのまま当てはまります。
出典
- Hagins M, Moore W, Rundle A. Does practicing hatha yoga satisfy recommendations for intensity of physical activity which improves and maintains health and cardiovascular fitness? BMC Complementary and Alternative Medicine. 2007;7:40.
- Tran MD, Holly RG, Lashbrook J, Amsterdam EA. Effects of Hatha Yoga Practice on the Health-Related Aspects of Physical Fitness. Preventive Cardiology. 2001;4(4):165–170.
- Youkhana S, Dean CM, Wolff M, Sherrington C, Tiedemann A. Yoga-based exercise improves balance and mobility in people aged 60 and over: a systematic review and meta-analysis. Age and Ageing. 2016;45(1):21–29.
- Willmott AGB, James CA, Jewiss M, Gibson OR, Brocherie F, Mee JA. Hot Yoga: A Systematic Review of the Physiological, Functional and Psychological Responses and Adaptations. Sports Medicine – Open. 2025;11:110.
- Hunter SD, Laosiripisan J, Elmenshawy A, Tanaka H. Effects of yoga interventions practised in heated and thermoneutral conditions on endothelium-dependent vasodilatation: The Bikram yoga heart study. Experimental Physiology. 2018;103(1):83–88.
- Swain TA, McGwin G. Yoga-Related Injuries in the United States From 2001 to 2014. Orthopaedic Journal of Sports Medicine. 2016;4(11).
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。持病のある方や運動制限を指示されている方は、開始前に医療機関にご相談ください。

