「ヨガをすると眠りが良くなる」は、ヨガの効能のなかでも最もよく語られる話のひとつです。睡眠を主要評価項目にした無作為化比較試験は数十本あり、印象論ではなく効果の大きさを数字で議論できる領域です。
ただし読み方に落とし穴があります。睡眠の研究には「本人がどう感じたか」を測る質問票と、「実際にどれだけ眠ったか」を測る機器の2種類の物差しがあり、ヨガの効果はどちらで測るかで見え方が大きく変わります。さらに不眠には認知行動療法(CBT-I)という確立された基準治療があり、ヨガの位置づけはそこからの距離で決まります。
結論を先に述べると、ヨガは自己報告の睡眠の質を中程度に改善するが、機器で測った睡眠にはほとんど差が出ず、不眠症の重症度を下げる証拠は弱い。基準治療 CBT-I の代わりにはならないが、CBT-I もまた機器で測った睡眠には弱く、両者の距離は一般に思われているより近い——これが現時点での最も正確な要約です。

「眠れない」をどう測るか——主観と客観の2つの物差し
主観的な指標の代表は、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI:過去1か月の睡眠の質を0〜21点で採点)と不眠重症度指数(ISI:不眠の重さを0〜28点で採点)です。毎朝つける睡眠日誌も、精度は上がりますが自己報告である点は同じです。客観的な指標は、腕時計型の加速度計で体動から睡眠と覚醒を推定するアクチグラフと、脳波などを同時記録して睡眠段階(浅い N1・N2、深い N3、レム)まで分かる睡眠ポリグラフ(PSG)です。
不眠症の少なからぬ部分は「実際の睡眠時間」より「眠れていないという感覚」の問題なので、主観が改善して客観が変わらない結果が無意味だとは限りません。ただし「よく眠れるようになった」がどちらの意味かは区別して読む必要があります。
女性1,832名の統合解析——PSQI は改善、ISI は改善せず
最も引用されるのは、睡眠に問題を抱える女性を対象にした無作為化比較試験19本を統合した2020年のメタ分析です。
Wang WL, Chen KH, Pan YC, Yang SN, Chan YY. The effect of yoga on sleep quality and insomnia in women with sleep problems: a systematic review and meta-analysis. BMC Psychiatry. 2020;20(1):195.
19試験・1,832名を統合した全体の効果量は、標準化平均差(SMD:異なる尺度の結果を標準偏差の単位に揃えた値)で −0.327(95%CI −0.506〜−0.148)でした。負の値は睡眠の問題が減る方向です。効果量の目安として使われる Cohen の基準では 0.2 が小、0.5 が中、0.8 が大なので、全体としては「小さな効果」です。尺度別に分けると様相が変わります。
| 評価項目 | 試験数 | 効果量(SMD) | 95%CI | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 睡眠の質(PSQI) | 16 | −0.54 | −0.89〜−0.19 | 有意に改善 |
| 不眠重症度(ISI) | 3 | −0.13 | −0.74〜0.48 | 有意差なし |
| 睡眠効率(アクチグラフ) | 2 | 0.85 | −0.56〜2.26 | 有意差なし |
| 総睡眠時間(アクチグラフ) | 2 | −0.06 | −0.26〜0.13 | 有意差なし |
PSQI は中程度の効果量で改善した一方、ISI とアクチグラフの指標には差がありませんでした。試験数は3本と2本にすぎず、「効果がない」とも「効果がある」とも断定できません。
サブグループ解析では、乳がん患者の7試験(SMD −0.15、95%CI −0.31〜0.01)と周閉経期・閉経後女性の4試験(SMD −0.31、95%CI −0.95〜0.33)で有意な改善が見られず、全体の効果は比較的健康な成人女性が押し上げていることになります。一方、総クラス時間が長いほど改善が大きいという直接の相関が示され、用量が結果を左右する可能性があります。
注意書きも付きます。試験間の異質性は I² = 58.287% と大きく、漏斗プロットは非対称で、Egger 検定は P = 0.05 の境界値でした。良い結果が出た試験のほうが公表されやすい傾向がうかがえ、統合値は実際より大きく見積もられている可能性があります。

不眠症患者に限った比較——日誌では大きく、確実性は中程度以下
Wang らの対象は診断基準を満たす不眠症とは限りません。不眠症患者に絞り、さまざまな運動を相互に比較したのが2025年に公表されたネットワークメタ分析です。
Bu ZJ, Liu FS, Shahjalal M, et al. Effects of various exercise interventions in insomnia patients: a systematic review and network meta-analysis. BMJ Evidence-Based Medicine. 2026;31(2):102-113.
22試験・1,348名を統合し、ヨガ・太極拳・ウォーキングなど7種類の運動を含む13の介入を比較しました。通常ケアや生活指導などの活性対照と比べたヨガの結果は次の通りです。
| 評価項目(睡眠日誌) | 平均差 | 95%CI | エビデンスの確実性 |
|---|---|---|---|
| 総睡眠時間 | +110.88 分 | 58.66〜163.09 | 中 |
| 睡眠効率 | +15.59% | 5.76〜25.42 | 低 |
| 入眠後の覚醒時間 | −55.91 分 | −98.14〜−13.68 | 低 |
| 入眠潜時 | −29.27 分 | −50.09〜−8.45 | 低 |
110分という数字は一見大きな効果ですが、すべて睡眠日誌つまり自己報告の値であり、信頼区間は約59分から163分と幅広く、確実性の評価(GRADE に準じた CINeMA)は総睡眠時間で「中」、それ以外は「低」です。ヨガについては客観指標での結果が示されていません。22試験のうちバイアスリスク「低」は4本(18%)だけで、15本(68%)に懸念があり、3本(14%)は高リスクでした。
活性対照との比較試験——何と比べるかで結果が変わる
メタ分析に含まれる試験の多くは「何もしない」対照との比較です。待機リストと比べれば、何かをしてもらえた群の自己報告は良くなりやすい。ヨガ固有の効果を見るには活性対照との比較が必要です。
睡眠衛生指導との比較
Khalsa SBS, Goldstein MR. Treatment of chronic primary sleep onset insomnia with Kundalini yoga: a randomized controlled trial with active sleep hygiene comparison. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2021;17(9):1841-1852.
25〜59歳で6か月以上続く入眠困難を持つ40名を、8週間のクンダリーニヨガ群と睡眠衛生指導群(各20名)に割り付けた試験です。初回60分の指導と週1回の確認のみの自習型の設計でした。睡眠衛生群も改善しましたが、ヨガ群の改善はそれを上回り、群間の効果量は総睡眠時間で d = 0.95、睡眠効率で d = 1.36、入眠潜時で d = −1.16 と中〜大でした。改善は6か月後も維持されていました。
ただし結果はすべて日誌と質問票にもとづき、著者ら自身がアクチグラフと PSG での追試が必要だと書いています。また比較相手の睡眠衛生指導は、ガイドラインが単独治療としては推奨しない介入であり、「弱い対照に勝った」側面は割り引いて読む必要があります。
PSG で測ると何が起きるか
Turmel D, Carlier S, Bruyneel AV, Bruyneel M. Tailored individual Yoga practice improves sleep quality, fatigue, anxiety, and depression in chronic insomnia disorder. BMC Psychiatry. 2022;22(1):267.
慢性不眠症の成人に個別調整したヴィニヨガを14週間、毎日自宅で行ってもらったベルギーの研究です。対照群のない前後比較ですが、自宅 PSG と7日間のアクチグラフを介入前後で取っています。完了した21名では、PSQI をはじめ主観的な指標はすべて改善したのに対し、PSG の指標には変化がなく、アクチグラフでは覚醒回数の減少だけが見られました。主観と客観の乖離がここでも再現されています。

基準治療 CBT-I との距離
不眠症には国際的に合意された第一選択があります。不眠に対する認知行動療法(CBT-I)——ベッドにいる時間を実際の睡眠時間に近づける睡眠制限、眠くなってから寝床に入る刺激制御などを組み合わせた治療です。
Riemann D, Baglioni C, Bassetti C, et al. European guideline for the diagnosis and treatment of insomnia. Journal of Sleep Research. 2017;26(6):675-700.
欧州睡眠学会のガイドラインは、CBT-I を年齢を問わず成人の慢性不眠の第一選択とし、「強い推奨・高い質のエビデンス」と評価しています。運動は「有用性を判断するにはさらなる評価が必要」(弱い推奨・低い質のエビデンス)にとどまり、ヨガが個別に推奨されているわけではありません。
効果量の面でも差は明らかです。87試験を統合した van Straten らの2018年のメタ分析では、CBT-I とその構成要素は無治療と比べて ISI で g = 0.98、PSQI で g = 0.65 の効果を示しました。ヨガの ISI に対する効果が Wang らの解析で有意でなかった(SMD −0.13)ことと並べると、不眠症の重症度そのものを下げる力において、ヨガが CBT-I と同等だと言える証拠は現時点でありません。
直接比較は少数です。がんサバイバーを対象にした大規模試験では不眠重症度の改善で CBT-I がヨガを上回りました(本連載の別稿で扱っています)。インドの Datta らは、慢性不眠症41名を CBT-I(20名)とヨガニドラ(21名:横になったまま誘導に従う深いリラクセーション法)に割り付け、日誌と PSG で比較しました。主観指標も PSG の総睡眠時間も両群で改善し、ヨガニドラ群では深い睡眠(N3)の割合が増えました。ただし PSG の再検査は希望者だけで、同等性を主張できる規模ではありません。
CBT-I もまた、機器で測ると弱い
Mitchell LJ, Bisdounis L, Ballesio A, Omlin X, Kyle SD. The impact of cognitive behavioural therapy for insomnia on objective sleep parameters: A meta-analysis and systematic review. Sleep Medicine Reviews. 2019;47:90-102.
基準治療の CBT-I 自身も客観指標では効果がはっきりしません。15研究を統合したこのメタ分析は、CBT-I が PSG で測った睡眠を確実に改善する証拠は得られなかったと結論しています。アクチグラフでは入眠潜時がわずかに短縮した(g = −0.28、95%CI −0.51〜−0.05)一方、総睡眠時間はむしろ減少しました(g = −0.51、95%CI −0.75〜−0.26)。日誌では入眠・維持の指標が g = 0.50〜0.79 と改善しているのと対照的です。
つまり「主観は改善するが客観は変わらない」構図は、ヨガ固有の弱点ではなく不眠の行動療法全般に共通する性質です。CBT-I が基準治療とされる根拠は、不眠の苦痛と重症度の自己報告を大きく減らすことにあります。ヨガと CBT-I の差は「効くか効かないか」ではなく、「自己報告の改善の大きさと、その再現性・確実性」の差です。
高齢者ではどうか
高齢者に絞ったヨガの試験は少なく、あっても待機リスト対照の自己報告にとどまります。客観指標を主要評価項目にした高齢者の試験としては、ヨガではなく太極拳の研究が参考になります。
Siu PM, Yu AP, Tam BT, et al. Effects of Tai Chi or Exercise on Sleep in Older Adults With Insomnia: A Randomized Clinical Trial. JAMA Network Open. 2021;4(2):e2037199.
香港で60歳以上の慢性不眠症320名を、12週間の太極拳・通常の運動・無介入に割り付け、アクチグラフを主要評価項目にした試験です。太極拳群は対照群に比べ睡眠効率が +3.4%(95%CI 1.6〜5.1)、入眠後の覚醒時間が −13.3 分(95%CI −21.3〜−5.2)改善し、効果は24か月後も維持されました。しかし通常の運動群も同程度に改善しており両者に差はなく、著者らは「絶対的な改善は控えめ」と評価しています。
有害事象——報告されていないことと、起きていないことは違う
Wang らのメタ分析は「ヨガは重篤な有害事象と関連しなかった」と結論しています。しかし19試験のうち安全性を明示的に報告したのは2本だけでした。そのうち1本では、筋肉痛・筋違いがヨガ群 6.7% 対 対照群 10.3%、腰痛が 4.2% 対 3.1%、四肢の筋力や感覚の変化が 5.5% 対 8.9% で群間差はなく(P = 0.41)、もう1本では慢性の腰や肩の問題の再発が2名で報告されています。安全性を評価した試験自体が少ない以上、「報告されていない」を「起きていない」と読み替えるのは早計です。
研究の限界——読むときに差し引くべきこと
- 盲検化ができない。 参加者は自分がヨガをしているか否かを知っており、主要評価項目のほとんどが自己報告です。
- 対照群が弱い。 多くは待機リストや通常ケアとの比較で、期待や注意の量を揃えた対照を置いた試験は少数です。
- 客観指標が乏しい。 Wang らの19試験で PSG を使ったのは1本、アクチグラフは2本です。
- バイアスリスクが高い。 Bu らの解析で低リスクと判定された試験は18%にとどまり、Wang らの解析では出版バイアスの兆候が見られました。
- 「ヨガ」の中身がばらばら。 姿勢中心のハタヨガから横になったままの誘導瞑想まで同じ名前で括られ、用量も週1回から毎日まで幅があります。
- 追跡が短い。 6か月以上の追跡を持つ試験は少数で、Khalsa らと Siu らが例外的です。
この証拠から何が言えるか
- ヨガは自己報告の睡眠の質(PSQI)を中程度に改善する。女性1,832名の統合で SMD −0.54、不眠症患者の日誌では総睡眠時間が伸びる(確実性 中)。
- 不眠重症度(ISI)を下げる証拠は弱く、アクチグラフや PSG で測った睡眠にはほとんど差が出ない。
- 乳がん患者や閉経期の女性では効果が示されておらず、集団によって結果が変わる。
- 基準治療は CBT-I であり、ヨガがその代わりになる証拠はない。ただし CBT-I も客観指標では弱く、両者の差は主に自己報告の改善の大きさと確実性にある。
- 重篤な有害事象は報告されていないが、安全性を評価した試験自体が少ない。
実務的に言えば、ヨガは「不眠症の治療」というより「眠りの質の主観的な改善に役立つ可能性のある生活習慣のひとつ」として読むのが証拠に忠実です。数か月続く不眠や日中の機能に支障が出る不眠には、まず CBT-I を含む標準的な治療を検討し、ヨガはそれを妨げない範囲で並行して試す——研究が支持しているのはその程度の位置づけです。
出典
- Wang WL, Chen KH, Pan YC, Yang SN, Chan YY. The effect of yoga on sleep quality and insomnia in women with sleep problems: a systematic review and meta-analysis. BMC Psychiatry. 2020;20(1):195.
- Bu ZJ, Liu FS, Shahjalal M, et al. Effects of various exercise interventions in insomnia patients: a systematic review and network meta-analysis. BMJ Evidence-Based Medicine. 2026;31(2):102-113.
- Khalsa SBS, Goldstein MR. Treatment of chronic primary sleep onset insomnia with Kundalini yoga: a randomized controlled trial with active sleep hygiene comparison. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2021;17(9):1841-1852.
- Turmel D, Carlier S, Bruyneel AV, Bruyneel M. Tailored individual Yoga practice improves sleep quality, fatigue, anxiety, and depression in chronic insomnia disorder. BMC Psychiatry. 2022;22(1):267.
- Riemann D, Baglioni C, Bassetti C, et al. European guideline for the diagnosis and treatment of insomnia. Journal of Sleep Research. 2017;26(6):675-700.
- van Straten A, van der Zweerde T, Kleiboer A, Cuijpers P, Morin CM, Lancee J. Cognitive and behavioral therapies in the treatment of insomnia: A meta-analysis. Sleep Medicine Reviews. 2018;38:3-16.
- Datta K, Tripathi M, Verma M, Masiwal D, Mallick HN. Yoga nidra practice shows improvement in sleep in patients with chronic insomnia: A randomized controlled trial. The National Medical Journal of India. 2021;34(3):143-150.
- Mitchell LJ, Bisdounis L, Ballesio A, Omlin X, Kyle SD. The impact of cognitive behavioural therapy for insomnia on objective sleep parameters: A meta-analysis and systematic review. Sleep Medicine Reviews. 2019;47:90-102.
- Siu PM, Yu AP, Tam BT, et al. Effects of Tai Chi or Exercise on Sleep in Older Adults With Insomnia: A Randomized Clinical Trial. JAMA Network Open. 2021;4(2):e2037199.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。寝つけない・途中で目が覚める状態が週3日以上、3か月以上続き日中の活動に支障がある場合、大きないびきや呼吸の停止を指摘された場合、気分の落ち込みを伴う場合は、睡眠外来や医療機関にご相談ください。







