寝言に返事をしてはいけないのは本当?眠る人に質問して答えを受け取った実験を読む

寝言に思わず返事をしたあと、眠りを邪魔したのではと気になる。眠る人と質問を交わした実験では、何が確かめられたのか。明晰夢での目の動きや顔の筋肉による応答、参加者数と正答回数の違いをたどり、日常の寝言への返事を一律に危険とも安全とも決めないための読み方を示す。

隣で眠る人が、誰かを呼んだように聞こえる。「何?」と返したあとで、寝言に返事をしてはいけないという話を思い出す。口から出た短い返事が、急に大きな失敗のように感じられる夜がある。

寝言に返事をすると危険か、安全かは、ここで扱う通信実験からは判定できない。日常で耳にする自発的な発声に対し、この実験で調べたのは、夢だと自覚する「明晰夢」の最中に質問を受け取り、目の動きや顔の筋肉で意図して答える行為だ。睡眠の計測と応答の手続きを備えた条件であり、寝室の声のやり取りとは、意識の状態も回答の確かめ方も異なる。[5]

寝言が文法や会話の間合いを備えるかという問いは、既存記事「寝言はなぜ言う、脳は文法も守るのか?眠りの会話の間合いと言葉の組み立てを読む」に譲る。ここで確かめたいのは、外から質問を届け、眠る人から答えを受け取るとは、実験では何を意味するのかだ。返事をした側の心配を、そのまま実験の結論にしないところから始めたい。

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実験が捉えたのは、明晰夢の中での意図した応答だ

明晰夢とは、夢を見ている本人が、その最中に自分は夢を見ていると気づく状態である。夢の内容が鮮明だったという翌朝の感想とは異なる。さらに、夢だと分かることと、夢の展開を思い通りに動かすことも同じではない。夢の制御を扱ったナラティブレビューは、この自覚と制御を分け、多くの明晰夢を見る人でも意図的な操作には苦労すると整理している。[1][7]

この区別は、寝室での出来事を考えるときにも役立つ。「返事があった」という観察に、本人がこちらの言葉を理解した、夢だと気づいた、会話を望んでいたという解釈まで重ねないためだ。これらを同じ意味として扱うと、眠る人が出した声の印象から、実際には確かめていない心の働きまで決めてしまう。

実験の対話は、声で流暢に話し合う場面に限らない。中心となる研究では、参加者は特徴のある目の動きや、選択的な顔の筋肉の収縮で答えを示した。研究者は、質問を送る側と回答を受け取る側の両方を用意している。寝言を聞いた人が「会話らしかった」と感じることとは、確かめ方が異なるのである。[5]

たとえば、翌朝に「夢の中で誰かと話した」と聞く場合、話が外から届いた言葉を含んでいたのか、夢の中だけで成立していたのかという問いが残る。それに対し、実時間の対話を調べる実験では、眠っている最中に新しい質問を送り、その場で反応を記録する。時間を対応させることで、夢の後の物語だけに頼らず、やり取りを検討できる。[5]

ここでの面白さは、眠りを「何も受け取れない時間」と一括りにできない点にある。ただし、ある条件で情報を受け取れることは、どんな呼びかけも本人に届くという意味ではない。実験が示した能力の存在と、寝室でそれが起きるかという予想は、分けて持つ必要がある。[5]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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最初の鍵は、眠る前に決めた合図だった

夢の最中に本人が気づいていることを、外の人はどうやって知るのか。この難問に対して、早い時期の実験は、眠る前に合図を決める方法を採った。選ばれた参加者が、夢を見続けたまま、夢だと分かったことを外から観測できる形で知らせたのである。[1]

この研究で検証されたのは、選ばれた5人での明晰夢である。明晰夢で合図を出せる参加者の結果を、18〜39歳の女性一般にそのまま当てはめることはできない。合図は、睡眠前の取り決めに従い、外から観測可能な変化を伴う特定の夢の中の行動によって出された。明確なレム睡眠中に合図が行われたことが、夢を見ながら自覚を持つ状態の確認につながった。レム睡眠とは、ここでは実験で睡眠状態を確認する対象となった睡眠段階を指す。[1]

この合図の価値は、単に「珍しい人がいた」で終わらない。夢の中で何かが起きた時点を、外から取った生理的な記録と結び付ける入口になる。本人の報告だけでは時間の対応が難しい出来事にも、実験の目印を置ける。その方法が、夢の出来事と心身の状態の対応を調べる新たな研究の道を開いた。[1]

ただし、眠る前に決めた合図を出せることと、眠ってから初めて聞いた質問に答えることは、違う課題だ。前者では取り決めを思い出して実行する。後者では外から来た情報を受け取り、それに合う答えを作って返す必要がある。この違いを意識すると、後の双方向の対話実験で何が加わったかが見えてくる。[1][5]

普段の寝言は、研究者と参加者が回答方法を取り決めた場面とは異なる。「うん」と聞こえた声を、こちらの質問への肯定だと受け取りたくなることもあるだろう。しかし実験で回答として扱うには、質問と合図の関係を確かめる仕組みが要る。耳に自然な会話と、検証できる対話は、同じ形をしているとは限らない。[5]

寝室の隣人は、実験の回答用紙を持っていない。この当たり前の違いを忘れると、言葉の響きだけに判定を任せてしまう。夜の出来事を翌朝話すなら、「名前を呼ぶような声がした」「こちらが聞き返した」と観察を記し、「質問を理解して答えた」は別の解釈として扱う方が、出来事を大きくしすぎずに済む。

質問に正しく答えた実験は、何を数えたのか

双方向のやり取りを示した研究は、36人に手続きを実施した。参加者には明晰夢の経験があまりない人も、頻繁に経験する人もおり、頻繁な明晰夢のあるナルコレプシーの患者も1人含まれていた。この集団で示された応答能力が18〜39歳の女性にそのまま当てはまるかは、この実験の結果だけでは判断できない。[5]

睡眠は、複数の生理的な記録を組み合わせる睡眠ポリグラフ検査で確認された。研究者はレム睡眠中の参加者に質問を送り、目の動きや顔の筋肉による応答を調べた。その中で、外から来た新しい情報を正しく捉え、情報を一時的に保ちながら単純な答えを計算し、意図して返信する能力が示された。[5]

正しい回答は、検査した人のうち6人で、合計29回確認された。この結果を「29人が返事をした」と読むと、人数と回数が入れ替わる。また、36人を対象にしたからといって、全員が質問に答えたとも言えない。誰に手続きを行い、誰から応答が得られ、何回正答したかは、それぞれ違う数字なのだ。[5]

しかも、正答回数を参加者数で割るだけでは、質問ごとの成功率は出ない。人数と回数は単位が違うからである。ここで受け取るべきなのは、調べた全員に普遍的な能力が実証されたという話ではなく、睡眠中にも外からの問いに正しく応答できた場面が複数あったという結果だ。[5]

この観察は、独立した4つの研究室のグループによって記録された。別々の場で対話が確認された点は、眠る人との通信という現象を考えるうえで重みがある。一方、研究室の数は安全性の得点ではない。いくつもの場所で可能だったという結果から、家庭での呼びかけを何度続けても問題ないという結論には進めない。[5]

翌朝の夢の報告には、忘却や内容の変形が伴うという課題がある。この研究が重視したのは、その課題に対して、夢を見ている最中に問いかける道を開くことだった。質問への正答は、夢研究の方法を変える意味を持つ。眠る人と雑談する便利な方法が完成したという読み方では、研究の狙いを取り違える。[5]

翌朝、枕元で実験の話を読めば、眠りながら計算に答えるという部分が強く印象に残るかもしれない。しかし研究の細部は、派手な見出しより慎重だ。睡眠を確認し、回答の手段を用意し、正しく答えた場面を数える。その手順があってこそ、「会話した気がする」から「質問への応答を確認した」へ進めるのである。[5]

研究の応答手段に目を向けると、言葉を耳で聞くことと、口で話すことを分けて考える意味も分かる。外からの質問を受け取った結果が、発声とは別の形で戻る場合もある。目の動きや顔の筋肉の記録は、夢の体験と実験者の観察をつなぐ通路になった。寝言という検索語から入った読者には意外でも、科学が調べる「対話」は、声の応酬より広いのである。[5]

逆に、聞こえた言葉が長く整っているほど、実験上の証拠が強くなるわけでもない。何に対して、どのような回答を求め、実際にどう応じたかという対応が大切になる。研究が示す新しさは話し上手な夢を見る人の紹介ではなく、眠りの中で外の情報を扱えたことにある。会話の自然さより、入力と出力を対応させた点を読むと、この実験の輪郭がつかみやすい。[5]

数字で読む眠る人との対話

5人:睡眠前の取り決めによる合図で明晰夢を確認した初期実験の、選ばれた参加者である。[1]

36人:双方向の対話の手続きを実施した対象者数であり、正答した人数ではない。[5]

6人:質問への正しい回答が確認された参加者である。[5]

29回:正しい回答が得られた場面の合計であり、人数でも成功率でもない。[5]

4グループ:対話の観察を記録した独立した研究室のグループ数である。[5]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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