筋トレで「まだできる」と思ったのに止まった時、それはやる気の不足なのか。残り回数の予測、運動中のきつさ、実際に出せる力を分け、男女のベンチプレス実験や休息方法の比較から読む。予想が当たる条件と外れる条件、次のセットへ持ち込む記録の考え方を整理する。
ベンチに横になる前は、今日は少し頑張れそうだと思っていた。ところが重りを押し始めると、「まだ残せる」はずの腕が止まる。記録に残る回数より、その見込み違いのほうが気になる夜がある。
残り回数を読み違えたことと、次のセットで力が出ないことは分けて考えたい。筋トレ経験者の研究では、きつさや動く速さが変わっても、残り回数の推定精度には同じ変化が見られなかった。予測の外れを、そのまま意欲の不足と読むのは早い。[1][12]
既存記事「大胸筋の筋トレは目標回数を先に決める?残せる回数の予想と実際のずれを読む」には目標の置き方を譲る。ここで考えるのは、予測を外した後に何を疲労の証拠として扱うかである。別記事で扱う、忙しい週の意欲を支える目標の言い方とも問いを分ける。

「あと何回」と「いまきつい」は別の問いである
残り回数の予測は、その時点から動作を続けたら、あとどれだけ反復できるかという見積もりだ。研究では残せる反復回数を指すRIRや、限界までの推定反復回数を指すERFとして扱われる。一方、主観的運動強度であるRPEは、運動をどれほどきつく感じるかを評価する。きつさの質問と、残っている動作の数を尋ねる質問は同じではない。[8][12]
たとえば、重りを押す途中で腕が重くなり、動作が遅くなったとする。この時に「きつい」と答えることはできる。しかし、そこから何回動かせるかの答えが正確かどうかは、別に確かめる必要がある。筋トレ経験のある男性を対象とした実験では、動作速度ときつさや残り回数の推定値には関係があっても、速度と推定誤差には有意な関係が見つからなかった。男性経験者の結果を18〜39歳の女性にそのまま当てはめられるかは、女性を対象にした検証が必要だ。[12]
ここでいう限界も、暮らし全体の限界ではない。ベンチプレスの研究では、その運動で反復を続けられなくなる時点を確かめて、予測と照合している。「オールアウトした感じ」という言葉だけでは、どの運動をどの条件で終えたのかが抜け落ちる。実験で評価した反復の終点と、仕事帰りの全身の疲れをひとまとめにしないほうが、記録を読み返しやすい。[8]
予測が外れた時にも、外れた向きを残す意味がある。余力を多く見積もったのか、実際より少なく見積もったのかで、起きたことの説明が変わるからだ。男女のベンチプレス実験は、誤差の方向を残す数値と、方向を消して大きさだけを見る数値を分けて集計している。[8]
平均で予測が合うことと、個々の予測が外れないことも違う。多く見積もる人と少なく見積もる人の値を足せば、方向を残した平均は相殺されうる。絶対誤差はその相殺を避けるための見方である。自分の記録でも「だいたい当たる」という印象を先に置かず、どちらにどれほど外れたかという問いを持ちたい。[8]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
男女のベンチプレスでは、予測がよく当たる条件もあった
Refaloらの実験には筋トレ経験者24人が参加し、男性と女性が12人ずつ含まれた。用いたのは、最大で持ち上げられる重さである1回最大挙上重量の75%でのベンチプレスだ。参加者は反復の途中で、残りが1回、または3回だと感じた時点を口頭で伝え、その後も実際の限界まで続けた。[8]
すべてのセットと実験日を合わせた方向つきの平均誤差は−0.17±1.00回、絶対誤差は0.65±0.78回だった。研究者は、この条件では残り回数を高い精度で予測でき、わずかに少なく見積もる傾向があったと報告している。「自分の感覚は何も当てにならない」という全面否定を支える結果ではない。[8]
ただし、平均の絶対誤差が1回より小さいことは、全員が毎回その幅に収まったという意味ではない。値にはばらつきが伴っている。また、これは経験者が特定の重さで行ったベンチプレスの結果である。初めて使う器具、別の動作、違う重さでも同じ精度が得られると広げることはできない。[8]
この実験では、残り1回と3回の予測、最初と次のセット、実験日どうしの精度は、±1回という範囲を使って統計的に同等と判断された。単に差が見つからなかったと述べるだけでなく、どこまでを同じ程度とするかを決めて評価している点が大切だ。[8]
性別、筋トレ経験年数、体重に対するベンチプレスの強さと予測精度の関係を支持する証拠も見つからなかった。性別や経験年数だけで、個人の予測精度を判定する根拠にはならない。参加者の人数と運動条件を添えて受け取るのが妥当である。[8]
予測を伝えた後にも反復を続けたからこそ、実際に残っていた回数と比べられた。日常の練習で予測した時点で終了する場合は、その回の予測が正解だったかまでは確定しない。これは記録の失敗ではない。「予測して止めた記録」と「予測を照合した記録」を区別すればよい。研究の測定手順を、そのまま毎回の追い込みの指示に置き換える必要はない。[8]
軽く感じるセットでも、見積もりの精度は別に確かめる
Daviesらは健康な男性の筋トレ経験者19人を、ベンチプレスの異なるセット構成へ無作為に割り付け、6週間比較した。一方は反復の間にも休息を入れるクラスター方式、もう一方は通常の連続した反復を行う方式だった。どちらも最大挙上重量の85%を用いたが、総セット数や休息の取り方が異なる。男性経験者を対象とするため、18〜39歳の女性にも同じ変化が起きるかは別に確かめる必要がある。[1]
クラスター群は5回を6セット行い、反復間に30秒、セット間に3分休んだ。通常群は5回を3セット、セット間に5分休んだ。したがって、ここでの比較は「同じ運動量で休息だけを変えた比較」ではない。休み方を含む練習の組み立て全体が異なる試験として読む必要がある。[1]
最初の4週間では、最初から3セット目までの主観的運動強度はクラスター群のほうが低かった。差の効果量は0.8〜2.4であり、残せると見積もった回数もクラスター群で多かった。一部のセットでは、重りを押し上げる速度の維持も良好だった。休息を挟む構成で、練習中の感じ方や動き方が違ったのである。[1]
ところが、介入前後で調べた残り回数の推定誤差は変わらず、群間差も見つからなかった。楽に感じること、速度を保つこと、残り回数を正しく当てることは、この試験では一緒に改善しなかった。疲れにくい練習を続ければ、自動的に自分の限界を読み切れるようになる、という説明は成り立たない。[1]
この結果は、休息を挟む意味がないという話ではない。試験が分けて測った項目に沿って、「何が変わったか」を言い分ける話だ。きつさが下がったなら、まずはきつさの変化として受け取る。そこに予測能力の向上まで付け加えると、測定していない成果を記録へ書き込むことになる。[1]
この試験で比べたいのは、練習をしている最中の応答と、介入前後に行った評価の違いでもある。前者では各セットのきつさや余力を尋ね、後者では実際の限界までの反復を使って誤差を調べている。練習中に余力の申告値が大きかったことと、評価時に誤差が小さくなったことを同じ結果として扱うと、結論を取り違える。[1]
たとえば、余力を多く申告した人について考える。その値が実際の余力に近ければ正確な見積もりであり、実際より多ければ過大な見積もりになる。申告された回数だけでは、そのどちらかを選べない。だからこそ、この研究は余力の申告値に加えて、介入前後の推定誤差を別に測定した。余力の多さは、推定能力の高さを表す単位ではない。[1]
さらに、無作為に分けた試験であっても、参加者の範囲は残る。ここで比較したのは高負荷のベンチプレスを行う男性経験者であり、男女を含んだ別の実験とは重さもセット構成も違う。精度が高かった報告と、精度が改善しなかった報告は必ずしも矛盾しない。前者はある条件でどれほど正確だったか、後者は練習期間を経てどれほど変わったかを尋ねているからだ。[1][8]
自分の記録を読む時も、同じ違いを意識できる。「今日の見積もりは近かった」と「以前より見積もりが上達した」は別の判断だ。後者を考えるには比較する記録が必要になる。よく当たった日を思い出すだけで、練習方法のおかげで感覚が磨かれたと結びつけず、同じ種目や条件の記録を並べて眺めるところから始めたい。[1][8]
数字で読む残り回数と疲労感
24人:男女が同数参加したベンチプレスの予測精度実験である。[8]
0.65±0.78回:同実験の平均絶対誤差であり、全員に共通する誤差の上限ではない。[8]
6週間:異なるセット構成を比較しても、推定誤差の改善が見つからなかった期間である。[1]
20人:動作速度と予測誤差を調べた、筋トレ経験のある男性の人数である。[12]
2.6回:指導者による動画上の速度低下判定で、条件全体を合わせた平均絶対誤差である。[6]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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