ホットヨガの汗に含まれる乳酸は、肌の菌が作ったものなのか。汗腺からの分泌と皮膚表面での細菌の代謝を分け、乳酸からにおい成分が生まれる培養実験を読む。においを危険の証拠と決めず、菌の種類、体の部位、衣服の条件を確かめながら、研究で分かる範囲と日常での見方を整理する。
レッスン後、着替えようとして襟元のにおいが気になる。「汗の乳酸が増えたのか」「肌の菌が乳酸を作ったのか」。ホットヨガのリスクを検索していたはずが、汗の中で何が起きているのかまで心配になる。乳酸がある場所から、その生産者までは決まらない。汗として出るまでと、肌へ出た後を分けると、この疑問を整理できる。
皮膚から分離した菌を使う実験では、乳酸を材料としてにおい成分を作る働きや、乳酸を代謝して電気を生む働きが確認されている。ここで乳酸は、菌が使う側の物質として登場する。これを「汗の乳酸は菌が作る」と読み替えることはできない。[1][2]
既存記事「ホットヨガの汗に乳酸が多いと疲れている?血液の値と汗腺の働きを読み分ける」には、血液と汗の数値の比較を譲る。ここでは、汗が肌へ出た後の乳酸の行き先を追う。においの仕組みを知ることと、ホットヨガの危険性を判定することも分けて考えたい。

乳酸がある場所と、乳酸を作る場所は違う
まずは汗腺から外へ出る過程と、皮膚表面で菌が物質を使う過程を分ける。乳酸と汗の関係を調べた研究には、運動中の人から汗を採ったものがある。一方、菌と乳酸の関係には、皮膚の菌を取り出して培養し、物質の変化を調べたものがある。同じ乳酸でも観察している場面は異なる。[1][2][3]
運動中の研究は、段階的に負荷を上げる自転車運動を行った10人を対象とした。耳たぶから採った血液と、背中に取り付けた袋で集めた汗について、乳酸とアンモニアを測っている。血液中の濃度が不釣り合いに増す一方、汗の濃度は不釣り合いに減少し、汗の乳酸濃度は血液より高かった。対象は自転車運動を行う人であり、18〜39歳の女性がホットヨガをした際の汗へ直接当てはめるには、運動と採取条件の違いを考える必要がある。[3]
著者らは、汗の乳酸がエクリン汗腺という汗を分泌する腺の細胞内で、グリコーゲンから作られるという仮説を提示した。これは汗腺側の説明であって、乳酸を菌の産物とした説明ではない。人の運動中の測定結果と、その成因についての仮説を同じ強さの事実として扱わないことが大切だ。[3]
なお、この研究で皮膚の菌が登場するのは、汗のアンモニアの一部が尿素の分解から生じる可能性を述べる場面である。乳酸とアンモニアは同じ実験で測られたが、同じ由来だとはされていない。「汗の成分に菌が関わる」という説明を、そのまますべての成分に広げると話が変わってしまう。[3]
日常の例に置き換えるなら、台所に食材があることと、台所でその食材を生産したことの違いに近い。肌で乳酸が見つかり、そこに菌もいる。それだけでは乳酸の生産者は決まらない。必要なのは、何を材料に、何ができたかという反応の向きである。乳酸を加えて菌の働きを調べる実験は、その向きを読む助けになる。[1][2]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
肌の菌は乳酸からにおい成分を作りうる
乳酸が菌の材料になることを具体的に示したのが、皮膚にすむ菌とジアセチルを調べた実験である。ジアセチルは、わき、足、頭部などの不快なにおいに寄与する成分として扱われている。研究者らは、人の汗に含まれる主な有機酸を菌に与え、ジアセチルを作る能力を調べた。[2]
試した条件の中では、黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌が乳酸を代謝したとき、ジアセチルの生成量が最も多かった。生成物は、液体中の成分を分けて測る高速液体クロマトグラフィーで測定された。菌が乳酸を利用し、別の物質を生むという筋道がここにある。ただし、これは培養条件での比較であり、レッスン参加者のにおいの強さを比べた試験ではない。対象が培養した菌なので、18〜39歳の女性の肌で生じる量や感じるにおいへ、そのまま当てはめることはできない。[2]
この違いは小さく見えて大きい。「乳酸を利用する経路がある」は、仕組みの説明として意味がある。しかし「汗の乳酸が多い人ほど必ずにおう」「ホットヨガをするとこの経路が強くなる」までは進めない。測ったのが菌の培養液なのか、人の肌なのか、人が感じるにおいなのかを分けて読む必要がある。[2]
実験では、菌を殺す作用なしにジアセチルの生成を抑えた条件も調べられている。代謝の流れを追う解析では、細胞の外で乳酸がピルビン酸へ変わる段階を抑える経路と、細胞の内側の代謝の流れを変える経路が示された。におい成分を減らすことは、菌の数を減らすことと同義ではない。[2]
この研究から家庭で成分を混ぜたり、特定の製品を選んだりする方法を導く必要はない。読み取るべきなのは、同じ菌がいても、その菌が何を材料に、どの経路を使っているかが問題になるということだ。「菌がいるからにおう」という説明より、材料と反応まで見たほうが、実験が確かめた内容に近づく。[2]

乳酸を使う菌の仕事は、においだけではない
前腕の皮膚を調べた別の研究では、腕の上の部分と比べて、前腕に乳酸とアルファケトグルタル酸が豊富にあり、皮膚の電気的な活動も高かった。どちらの物質も汗に含まれる成分として扱われている。研究者らは前腕から菌を培養し、スタフィロコッカス・ワーネリという菌株を同定した。対象は腕の皮膚とそこから分離した菌であり、18〜39歳の女性がホットヨガをした後の皮膚全体へ、そのまま当てはめることはできない。[1]
この菌について、ブドウ糖がある条件で生じる電圧の変化を、電極材料の異なる電圧計で検出した。さらに、乳酸を代謝して電気を生む能力も確認した。皮膚の菌は単にそこに付いている粒ではなく、周囲の物質を利用して活動する存在として捉えられる。[1]
ただし、前腕での乳酸の多さ、菌を分離できたこと、培養した菌の電気的な性質は、それぞれ別の観察である。これらをつなげて仕組みを考えることはできても、すべての肌で同じ大きさの現象が起きるという意味にはならない。まして、汗をかけば体が充電されるという話ではない。スマートフォンの充電器は、引き続き必要だ。[1]
この実験とジアセチルの実験を並べる利点は、乳酸の行き先を一つに固定しなくて済む点にある。前者では電気的な性質、後者ではにおい成分の生成が問いになっている。菌の種類と測定する現象が違えば、乳酸を使うという共通点があっても、出てくる答えは変わる。[1][2]
汗を見て「菌が働いた証拠だ」と考えるより、どの部位で、どの菌が、何を変えたのかを確かめるほうがよい。前腕から分離された菌の結果を、わきや足のにおい全体へそのまま移すことはできない。体の場所によって異なる環境ができることは、皮膚の微生物を扱うレビューでも整理されている。[1][8]
菌の名前だけでは、肌への影響は決まらない
皮膚の微生物の集まりを、皮膚マイクロバイオームと呼ぶ。研究方法を整理したレビューでは、微生物は肌の表面だけでなく、より深い層や毛包、汗腺などの小さな環境にも暮らすとされる。肌を平らな一枚の板として考えると、こうした居場所の違いを見落とす。[8]
同じレビューは、ブドウ球菌などのよく見られる菌でも、種や菌株によって宿主に利益をもたらす場合と病気に関わる場合があると説明する。菌株とは、同じ種の中でも性質の異なる系統を見分ける単位である。名前の大きなくくりだけで「良い菌」「悪い菌」と分けると、代謝や肌との関係を読み違えやすい。[8]
また、微生物の種類を調べることと、その微生物の働きを確かめることも別である。レビューは、従来よく使われる遺伝子の解析法だけでは、菌の種や菌株を正確に捉えられない場合があると指摘する。より詳しい解析に加え、機能を確認する実験や臨床試験が必要だと位置づけている。[8]
乳酸を使う能力についても、菌の名前が一覧にあるだけでは、肌の上でどれだけ使われたかは決まらない。培養実験で反応を測ることには、その働きを直接確かめる役割がある。一方、人の肌では菌と周囲の環境が重なる。そのため、菌を見つける研究と物質の変化を測る研究を組み合わせて読む必要がある。[1][2][8]
研究を読む順番としては、まず人を調べたのか菌を調べたのかを確かめ、次に材料と生成物を区別し、その後に数字を見ると整理しやすい。人の汗で測定した濃度と、培養した菌が生んだ物質の量は、そのまま足し合わせる対象ではない。乳酸という共通の名前があっても、実験の条件を保って比べる必要がある。[1][2][3]
数字で読む汗と皮膚の代謝
10人:自転車の負荷を段階的に上げ、血液と背中の汗の乳酸などを比較した研究の対象人数である。[3]
2種の菌:乳酸からのジアセチル生成が、試した条件で最も多かったのは黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌である。[2]
2種類の電極材料:皮膚から分離した菌の電圧変化を検出する際に使われた電圧計の違いであり、肌への効果量ではない。[1]
8種の菌:わきのにおいに関するレビューで、脂肪酸代謝の遺伝的な能力を解析したコリネバクテリウム属の種数である。[16]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
1
2






