腕のインナーマッスルとモーメントアーム、腱の移動量で測る回転への有利さ

腕のインナーマッスルは、筋肉の名前だけで回す役割が決まるのだろうか。肩の回旋筋を調べた系統的レビューと力学研究から、腕を上げる方向、回す角度、モーメントアームの関係を読む。てこの有利さと実際の筋力を分け、同じ動きを比べるときに記録したい姿勢の条件も整理する。

肘を体の横に置いて腕を外へ回す。次に腕を横へ上げ、同じつもりで回す。回す向きは同じでも、肘の居場所が変わっている。腕のインナーマッスルを調べるときは、この姿勢の違いが入口になる。肩の筋肉の回転への働きは、腕を上げる面によって変わるからだ。[2]

答えの芯は、角度によって回転のてこが変わるということだ。ただし、外へ回す筋肉が角度次第で必ず内へ回す筋肉になる、という一律の逆転則ではない。系統的レビューでは、腱板と呼ばれる筋肉群は肩の軸まわりの回転で大きなモーメントアームを持つ一方、腕を上げ下げする働きは筋肉や動きによって異なっていた。[8]

筋肉を短くした位置と力の関係は、既存記事「インナーマッスルは縮んだ位置だけで鍛える?肩の筋肉の長さと出せる力を読む」に譲る。ここでは筋肉の長さそのものより、引く方向と回転軸の位置関係を追う。同じ筋肉の名札を付けたままでも、仕事をする場所は変わる。その読み方を、肩の回転に絞って考える。[2][8]

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腕の奥の筋肉は、回すことにも参加する

ここでいう腕のインナーマッスルは、主に肩の腱板を指す。棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋からなる筋肉群であり、肩の安定、運動、力の発揮に関わる。深いところで関節を支えているからといって、動きを作らない筋肉ではない。腱板の部位ごとの働きを整理したレビューも、支える役割と動かす役割を併せて扱っている。[5]

上腕の骨をその長い軸のまわりに回す動きが、肩の軸回旋だ。外旋と内旋はその回す向きを表す。肩の軸回旋を調べた力学研究では、棘下筋と小円筋は外旋で、肩甲下筋は内旋で大きなモーメントアームを持っていた。後部の三角筋も外旋への働きを持ち、大胸筋も内旋に有効な筋肉である可能性が示されている。[2]

つまり、「奥の筋肉だけが回し、表面の筋肉は腕を上げるだけ」という分業表では足りない。肩をまたぐ筋肉をまとめた系統的レビューでは、三角筋の部位は腕を上げる動きに強いてこを持ち、腱板は軸回旋に強いてこを持っていた。これは得意な方向を示す整理であり、ほかの仕事への参加を禁止する分類ではない。[8]

日常の言葉では「腕を回す」に、腕全体で大きな円を描くことまで含まれる。しかし、研究で肩の回旋と書かれているときは、上腕の軸を中心とした回転を指すことがある。腕を横へ上げる外転や、前へ上げる屈曲とは区別が必要だ。系統的レビューも外転、屈曲、軸回旋を別の動きとして検討している。[8]

たとえば上着へ腕を通す場面を思い浮かべると、前へ持っていく動きと向きを変える動きが入り交じる。その見た目全体を「外旋筋の運動」と呼ぶ前に、どの回転を問題にしているのかを切り出したい。筋肉の役割を読むための最初の作業は、筋肉名を増やすことより、動きの名前をそろえることである。[2][8]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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モーメントアームは筋肉の長さとは違う

モーメントアームとは、筋肉が関節を回す際のてこの有利さを表す量である。筋肉がどれほど長いか、どれほど太いかをそのまま示す数字ではない。肩のモーメントアームをまとめた系統的レビューでは、この量を筋肉の回転を生む能力や、関節運動における役割を示すものとして扱っている。[8]

扉の取っ手を押す場面を考えると、力を入れることと、その力が回転に役立つことを分けやすい。肩でも、筋肉が力を出しているという情報だけでは、狙った方向にどれだけ回転を作るかは決まらない。肩の運動を整理したレビューでは、棘下筋と肩甲下筋が棘上筋より大きな力を出していても、棘上筋のほうが有効なてこによって外転に有利になるという関係が説明されている。[11]

肩のリハビリテーションで使う運動を扱った同レビューの肩甲面での外転では、棘下筋と肩甲下筋の力は棘上筋の2〜3倍とされた。それでも棘上筋はモーメントアームの有利さによって、肩を外へ上げる働きに有効だった。ここでの数字はレビュー内で扱われた力学的な推定であり、18〜39歳の女性が日常で発揮する筋力へ、その倍率をそのまま当てはめることはできない。[11]

この関係から、筋肉が強く働いているほど、必ず腕を大きく回せるという読み方は避けたい。レビューは、発揮された力の一部が肩を動かすだけでなく、関節の安定や、望ましくない方向への作用を打ち消すことにも使われると説明している。動きが小さいから働いていない、とも判断できないのである。[11]

また、てこの長さを測った研究と、実際に出した回転の力を測った研究は、同じ成績表ではない。前者は力の伝わり方を読み、後者はその姿勢での出力を読む。肩の回転筋力をまとめた系統的レビューでは、回転角度と出力の関係は関節の位置や測定方法に大きく依存していた。筋力を比べるには、てこに加えて出力の測定が必要だ。[1][8]

腕を上げる面を変えると、回転への働きも変わる

肩の筋肉のてこを直接調べた研究では、三角筋の各部位や腱板など10の筋肉について、腱の移動量と関節の回転角度の関係からモーメントアームを求めた。測定対象は肩の筋肉のてこであり、位置と回転の関係を測定した力学研究である。18〜39歳の女性の練習効果へ直接置き換えることはできない。[2]

測定条件は、腕を体の横へ置いた位置と、腕を90度上げた位置だった。上げる方向も、体の真横に当たる前額面、肩甲骨の向きに沿う肩甲面、前後方向に当たる矢状面で分けられていた。同じ高さという説明だけでは、これらの条件をまとめきれない。[2]

結果として、腕を下ろした位置でも上げた位置でも、棘下筋は有力な外旋筋となる可能性が示され、小円筋と後部三角筋が続いた。肩甲下筋は内旋で有効であった。同時に、軸回旋に対する筋肉の機能は、腕を上げる面によって変わると結論されている。代表的な役割は残りつつ、位置によって働き方が変わるという読み方が適切だ。[2]

この結果を「肘を上げると別の筋肉に完全交代する」と言い換える必要はない。研究が示すのは、筋肉ごとの回転への有利さが、肩の置かれた条件に依存することだ。名前が同じなら常に同じ効率で働くという見方も、位置が変わるたびに役割が全面的に逆転するという見方も、細かな違いを取りこぼす。[2][8]

もうひとつ区別したいのが、腕を上げる面と、上げた腕を回した角度である。机の横に肘を置くのか、胸の前に持ってくるのかは前者に関係する。その位置から腕を内向き、外向きに回すことは後者に関係する。肩の角度を記録するなら、「どこまで回したか」に加え、「どこに腕を置いたか」が必要になる。[1][2]

測り方にも意味がある。腱の移動量を使う方法では、関節の回転角度が変わるときに腱がどれだけ移動するかを調べ、その関係の傾きからモーメントアームを求める。筋肉の表面がどれだけ盛り上がったか、本人がどれほど疲れたと感じたかを、そのままてこの値に置き換えているわけではない。測定対象は回転と腱の移動の関係である。これは筋肉を鍛えた前後の変化を示す値ではなく、その位置での回転への働きを調べる値だ。[2]

系統的レビューには、この腱の移動量を使う方法に加え、幾何学的な方法で測られたデータも含まれていた。形や位置の関係から調べる方法と、移動量から調べる方法を通して、筋肉の運動方向への働きを整理している。日常で感じる「肩の奥の頑張り」と、論文のモーメントアームの値は、同じものを別の単位で表した情報ではない。[8]

この違いを知ると、動画で見た肘の位置をまねる際の問いも変わる。「この筋肉に効く形か」に加えて、「何を回すための形か」を確かめることになる。腕を横へ上げるためのてこの有利さと、その場で外へ回すための有利さは別に評価される。筋肉の写真では似た姿勢に見えても、研究が調べた運動方向までそろえて読む必要がある。[2][8]

数字で読む肩の回転とてこ

10の筋肉:腱板や三角筋の部位などを対象に、軸回旋のモーメントアームを測定した研究である。[2]

90度:腕を上げた測定位置。上げる面を分け、体の横へ下ろした位置とも比べた。[2]

12研究:けがのない参加者の肩の回転角度と等尺性出力を整理した系統的レビューの採用数だ。[1]

3研究:同じ参加者について複数の肩の位置を評価した研究数。姿勢をまたぐ比較には限りがある。[1]

2〜3倍:運動のレビューで示された、肩甲面の外転における棘下筋・肩甲下筋の力と棘上筋の力の関係。回転への寄与の倍率とは異なる。[11]

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宮川涼 Founder

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