運動のメッツは会話で足してよいか?息苦しさと酸素消費のずれから読む記録

運動中に話すと息が上がる。その感覚を理由にメッツを高く記録してよいのか。発話を伴う運動、自転車での呼吸操作、歩きながら話す実験を比べ、酸素消費と息苦しさを分けて読む。会話テストの結果が一致しない背景も確かめ、自分の運動記録でそろえたい発話の条件を考える。

散歩の途中、友人に週末の出来事を話し始めた途端に息が切れる。足はさっきと同じつもりなのに、黙っていた時より運動した気がする。帰宅後の記録に「会話した分」を足したくなる場面である。

ただ、話す時の息苦しさは、消費エネルギーの増え方をそのまま知らせるものではない。健康な参加者の実験では、運動しながら話すと息苦しさが強くなった一方、話さない条件との酸素消費の差は有意ではなかった。感覚が変わったことと、代謝が増えたことを分けるのが出発点だ。[11]

関連する既存記事「運動する時の呼吸法は大声で変わる?声の負担と運動強度を分けて考える記録」には声の出し方の論点を譲る。ここで考えるのは、会話中のきつさを理由に運動のメッツを補正してよいか、という記録の判断である。発声を加えた実験と、話しやすさで強度を判定する実験は、似ていても答える問いが違う。[4][8][11]

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会話を足した実験では何が増えたのか

まず、同じ運動に発話を組み合わせた研究を見る。Bakerらの実験では健康な参加者12人が、運動だけをする条件と、話しながら運動する条件に取り組んだ。設定は最大酸素消費量の50%と75%である。最大酸素消費量とは、運動テストで測る酸素消費の最大値を指す。[14]研究は、その最大値に対する割合で運動の条件を設定している。健康な参加者の結果を18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、対象と運動条件の違いに注意が必要だ。[11]

測ったのは酸素消費だけではない。換気量、心拍、息苦しさの自覚、ひとまとまりの発話に含まれる音節数、話す速さ、言語的に不適切な位置での間も調べた。換気量とは、出入りする空気の量を表す。体に出入りする空気の量と、実際に消費される酸素量を別々に追った点が、この疑問に合っている。[11]

発話を伴う条件では、話さない条件より換気量が有意に少なく、息苦しさの自覚は有意に強かった。ところが酸素消費には有意差がなかった。発話に関する指標も、両方の運動強度で時間とともに変わっていた。呼吸の感覚、空気の出入り、言葉の区切りは動いたが、酸素消費には有意な増加がみられなかった。[11]

これは「話すのは楽だ」という結果ではない。息苦しさは実際に強まっている。むしろ、つらさを認めたうえで、それを代謝量の増加と同じ意味にしない結果である。友人への返事が短くなった日は、その変化を記録してよい。ただし「返事が短くなったから消費も大きく増えた」と続けると、測定結果を越えてしまう。[11]

有意差がないという言葉にも幅がある。有意差がない結果は、追加の消費が完全にゼロである証明にはならない。対象は健康な参加者で、検討した運動の条件も決まっている。その範囲では、発話を足すと酸素消費が確実に増えるという説明を支持しなかった、と読むのが適切だ。[11]

記録の実例に置き換えるなら、「同じ運動、会話あり、息苦しさは強め」という書き方になる。運動した事実と、感じた負担をそれぞれ残せる。反対に、会話した時間を別の運動として追加すると、感覚だけを根拠に消費量を上乗せすることになる。この研究を記録に生かすなら、上乗せより条件の注記が先だ。[11]

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息の出し方が変わっても代謝は連動しない

会話と同じではないが、声を出して吐く実験も参考になる。Potočnikらは健康な若い成人26人に、中等度の一定した自転車運動を行わせ、自然な呼吸と、「h」「ss」を発音しながら吐く呼吸を比べた。自転車の回転の設定を保ちながら、呼吸側の操作を変える実験である。健康な若い成人の結果であり、18〜39歳の女性全体に同じ変化を見込めるかは別に確かめる必要がある。[4]

この研究は、息を勢いよく吐いた時の最大流量も比べた。発音を伴う条件では、その値が自然呼吸より低下した。自然呼吸で455±42 L/分だった値は、「h」で388±54 L/分、「ss」で234±54 L/分であった。これは息が通過する速さの側面を示す数字であり、そのままエネルギーの消費量を表すものではない。[4]

「h」の条件では、呼吸の回数は自然呼吸の22.6±5.5回/分から18.8±5.0回/分になり、ひと息に出入りする空気の量は1.86±0.46 Lから2.33±0.53 Lになった。つまり、回数が少なくなっても、ひと息は大きくなっていた。回数だけを見て、呼吸の仕事全体が小さくなったと決めることはできない。[4]

研究では呼吸の型や運動と呼吸のリズムの関係、自覚的なきつさに変化がみられた一方、ほかの呼吸・代謝・循環の測定値には変化がみられなかった。酸素消費も同時に測定されている。声を出す操作によって呼吸の姿は変わっても、代謝の一律な上乗せを裏付ける結果は得られなかった。[4]

この実験を、友人との散歩や教室での返事と同一視することも避けたい。決まった音を吐きながら出す課題と、話の内容を考えて言葉をつなぐ会話は、同じ課題ではない。ここから使えるのは「呼吸の変化を見れば消費の変化まで分かる」という近道が危うい、という点である。[4][11]

たとえば、呼吸がゆっくりに見える参加者と、短い返事で何度も息を継ぐ参加者を、見た目だけで消費量の順に並べることはできない。呼吸回数、ひと息の量、酸素消費を分けて測った実験の意味はそこにある。息の回数を数える記録には、話していたかどうかも添えたい。[4]

呼吸を操作する研究である以上、運動能力を高める方法として読みたくなるかもしれない。しかしこの研究の対象と条件は、健康な若年者の中等度の自転車運動である。特定の発音を加えればどの運動でも消費が増す、あるいは誰でも楽になる、という勧めにはつながらない。まず観察された変化を、その測定項目の中で読む必要がある。[4]

歩きながら話す研究の数字は何を表すか

もう少し日常に近いのが、仕事をしながら動く環境を調べたCoxらの研究だ。女性22人と男性9人が、座位、立位、時速1.61 kmの歩行で、黙読、音読、自発的な発話を行った。研究者は酸素消費、血圧、自覚的なきつさを測り、発話の試料は研究の目的や手順を知らない聞き手が評価した。男女を合わせた結果なので、18〜39歳の女性に同じ数値をそのまま当てはめることはできない。[10]

座位と立位の酸素消費は、それぞれ3.3±0.7と3.6±0.9 mL/kg/分で、立位で代謝率が有意に高かった。歩きながら各課題を行った時の酸素消費は7.0〜8.1 mL/kg/分であった。単位は体重当たり、時間当たりの酸素量を表す。同じ「話す場面」でも、座っているか歩いているかが大きな条件になる。[10]

ここで7.0〜8.1という幅を見て、両端の差を「会話だけの消費」と呼んではいけない。研究は姿勢と課題を組み合わせて検討している。示された範囲を、黙って歩く場合に足すべき固定の数値へ変える読み方はできない。数字の幅を見つけることと、その差を何が作ったかを特定することは別の作業だ。[10]

発話の試料に含まれる音節数の平均には、条件間で有意差がなかった。不自然な文法的位置での間も少なく、条件間で違わなかった。代謝率の上昇と同時に、発話の質や自覚的なきつさの悪化はみられなかったという結果である。この軽い歩行の条件では、消費の増加に発話の質の悪化は伴わなかった。[10]

先ほどの発話を伴う運動では、息苦しさが増えても酸素消費は有意に増えなかった。こちらでは姿勢や軽い歩行によって代謝が変わっても、発話の質の悪化はみられなかった。条件の異なる実験なので数値を直接比べるものではないが、言葉の出方だけでは代謝量の変化を捉えきれない点は共通する。[10][11]

メッツの記録で気になるのは、会話で変わった感覚をどこに置くかである。これらの研究から考えると、歩行したこと、話したこと、息苦しさを感じたことを分けて残すほうが、あとから状況を読み直しやすい。話せるかどうかは情報になるが、それだけで消費の数値を確定する扱いは避けたい。[10][11]

数字を見る時は、比較の軸を先に決めると混乱が減る。座位と立位の差なら姿勢、運動のみと発話を伴う運動の差なら発話が比較の中心になる。別の実験の酸素消費を持ち寄って差し引くのではなく、同じ実験で何を変えたかを追う読み方である。[10][11]

数字で読む会話と運動の測定

健康な参加者12人:運動のみと、発話を伴う運動を比較した実験の人数である。[11]

最大酸素消費量の50%と75%:発話で息苦しさが増えた一方、酸素消費には有意差がなかった設定だ。[11]

健康な若い成人26人:自然呼吸と発音を伴う呼気を、自転車運動中に比べた対象である。[4]

7.0〜8.1 mL/kg/分:軽い歩行中に黙読・音読・自発的発話を行った時の酸素消費の範囲である。[10]

19人:後述する、過体重・肥満の成人を対象とした会話テストの比較研究の人数である。[8]

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宮川涼 Founder

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