運動連鎖で骨盤が前傾すると何が変わる?前屈の途中と戻る時の腰の分担を読む

床の荷物に手を伸ばす時、骨盤と腰の動く割合は途中で変わる。運動連鎖と骨盤前傾を、前屈の深さ、戻る局面、膝の条件から読み解く。股関節の病気を対象にした研究と健康な人の実験を分け、角度の数字を姿勢の正解にしない見方や、練習を記録する時の具体的な確かめ方を考える。

洗濯かごの底に残った靴下へ手を伸ばし、拾って上体を戻す。上体を倒したつもりでも、動いているのは腰だけなのか、骨盤もなのか。鏡の前で止まっている姿勢より、拾って戻るまでのほうが気になることがある。

答えの芯は、骨盤と腰が協調して動いても、その分担は動作の途中で変わる、ということだ。健康な男性を調べた前屈の実験では、倒し始めは腰の寄与が大きく、深く倒す局面では骨盤の寄与が増えた。戻る動作でも局面によって分担が違った。男性の実験であり、18〜39歳の女性でも同じ配分になるかは、この結果だけでは判断できない。[7] 前傾の角度だけで、動き全体に良い悪いの判を押すのは早い。

既存記事「姿勢の科学 第4回 反り腰と骨盤の前傾は運動で変わるか、骨盤と腰の反りは別々に測る」には、静止姿勢と運動による変化の問いを譲る。ここで追うのは、手を伸ばす途中、深く曲げた時、そこから戻る時の分担である。骨盤をどこに固定するかより、何をしている瞬間なのかを先に確かめたい。

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骨盤と腰の連動は、同じ角度になることではない

この話でいう運動連鎖は、ある部位の動きや制約が別の部位の動きと関わる、という見方だ。膝の曲げられる範囲を変えて物を持ち上げる実験では、骨盤の回転と一部の筋活動が変わった。[1] 骨盤だけを見ていたら、膝側に設けた条件を見落としてしまう。骨盤は、周囲と切り離して動作を説明できる部位ではない。

ただし、つながっていることと、全部が同じように変わることは別である。同じ実験で腰の前後方向の曲げ伸ばしには有意な変化がなかった。[1] 膝に条件を加えれば骨盤が変わり、骨盤が変われば腰も必ず同じ方向に変わる、という一本線の説明にはならない。研究の結果を追う時は、変化した場所と、変化が確かめられなかった場所を隣に置く必要がある。

前後に上体を動かす研究では、腰椎骨盤リズムという指標が使われている。腰椎、つまり腰の背骨の回転量を、骨盤の回転量で割った比である。[7] 同じだけ手が下がったように見えても、腰と骨盤のどちらがどれほど動いたかを分けて考える道具になる。音楽のように一定の拍子を刻む、という意味のリズムではない。

たとえば「前屈が深くなった」という記録にも、上体の到達位置と、動作を作った部位の分担という別の問いがある。研究では胸部、骨盤、腰椎それぞれの角度を測っている。[7] 家で手の届いた場所だけを記録することと、研究で分担を測ることは同じではない。手が床に近づいた事実は残せるが、それだけで股関節の動きが増えたと決めるのは避けたい。

「骨盤を前に傾ける」という言葉を受けた時も、動作の目的を添えると理解しやすい。立ったまま小さく傾ける練習なのか、上体を前へ運ぶ途中なのか。研究で分担が変わるのは、まさにこうした動作の局面である。[7] 合図だけを抜き出して、椅子でも前屈でもずっと同じ姿勢を守る規則にする必要はない。

研究で腰と骨盤を分けるのは、片方だけが正しく動けばよいと決めるためではない。腰椎骨盤リズムの研究は、両者が同時に動く協調を捉えている。[7] 動画を見て「骨盤だけで動けていない」と感じても、腰と骨盤の協調も、研究が捉えた動作の特徴である。何を動かす課題なのか、どの部分の動きを確かめる課題なのかを先にそろえる必要がある。

座位姿勢の運動連鎖を知りたくて調べた人も、立位の前屈で得られた比を椅子の座り方の目標にしないでおきたい。この実験の対象動作は立った姿勢での前後方向の上体の運動である。[7] デスクで手を伸ばす時の困りごとなら、まず「座って手を伸ばす時」と場面を伝える。骨盤という共通の言葉が出てきても、測った動作の違いは残る。

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前屈の入口と奥では、腰と骨盤の配分が変わる

腰椎骨盤リズムを測った研究は、症状のない男性8人を対象とした実験である。立った姿勢から上体を前に倒し、後ろへ戻す動きを、慣性式の追跡装置で測定した。自分で最大まで前屈した時の平均は、胸部の回転が121度、骨盤が53.0度、腰椎が60.2度だった。[7] これは参加者の測定結果である。18〜39歳の女性に同じ平均角度や比をそのまま当てはめる根拠にはならない。[7]

注目したいのは、最大値より途中の変化だ。前に倒す時、上体の前屈が0〜30度の範囲では腰椎骨盤比が2.51だったのに対し、90〜120度の範囲では1.34に低下した。[7] 比が下がることは、腰椎に対する骨盤の回転の比重が増えることを表す。浅い位置と深い位置を同じ分担で説明できないのである。

戻る動作では、90〜120度の範囲で比が1.23、0〜30度の範囲で2.86になった。深い前屈から戻り始める局面では骨盤の寄与が相対的に大きく、立位へ近づく終わりの局面では腰椎の寄与が大きかった。[7] 往路の写真と復路の写真に似た形が写っていても、動作のどの局面かを添えて読む必要がある。

ここから日常の記録に持ち帰れるのは、前屈を到達地点だけで採点しないという発想だ。靴を履く時を思い浮かべるなら、手を下ろし始めるところ、靴に手が届いたところ、上体を戻すところを言葉に分けてみる。これは研究の比を自分で算出する方法ではなく、局面で分担が異なるという結果を見失わないための整理である。[7]

また、参加者は健康な男性の小さな集団である。平均角度を、女性や腰に症状がある人の合格点へ移すことはできない。[7] 目標にしたいのは121度という数字そのものではなく、自分が困っているのが動作の入口なのか、深い位置なのか、戻り際なのかを伝えられることだ。数字は観察の入口にはなるが、隣の人の前屈を採点する定規にはならない。

平均値には個人差も含まれる。最大前屈時の骨盤の回転の標準偏差は5.2度、腰椎では8.6度と報告されている。[7] 標準偏差は測定値の散らばりを表す数字だ。平均の骨盤53.0度だけを切り取るより、同じ実験に参加した人の値にも幅があったことを併せて読むほうがよい。平均に近いから正しく、離れているから間違いという判定ではない。

さらに、比だけでは動いた量の全体は分からない。腰椎の回転量と骨盤の回転量を使って作る指標だからこそ、もとの角度も併せて読む必要がある。[7] 前屈の見方を細かくする目的は、数字を増やして自分を監視することではなく、「深さ」と「配分」を混同しないことだ。研究の表を見た後でも、暮らしの中で知りたいのは、どの動作で何に困っているかでよい。

膝の条件を変えても、腰まで一律には変わらない

物を拾う場面に近い別の実験では、健康な成人15人が、しゃがむ形と上体を倒す形で持ち上げ動作を行った。膝の曲げられる範囲に条件を設け、光学式の動作計測と筋電図を組み合わせて、腰の角度と体の後面の筋活動を調べている。[1] 筋電図とは筋肉の電気的な活動を記録する方法だ。健康な成人の実験で得た反応を、18〜39歳の女性の日常動作にそのまま当てはめられるかは、別に確かめる必要がある。[1]

膝の条件によって骨盤の回転には有意な違いがあったが、腰椎の曲げ伸ばしと横曲げには有意な影響がなかった。筋活動は、ふくらはぎ外側の筋と太もも裏の大腿二頭筋では増えた一方、大殿筋と広背筋には変化がなかった。[1] 「後面の筋肉がまとめて働いた」という一文では、結果の違いが消えてしまう。

この研究は、膝の制約に対して体がどこで調整したかを考える手がかりになる。ただし、健康な人に条件を設けた実験であり、膝の病気や腰痛のある人が生活の中で示す動きをそのまま再現したものではない。[1] しゃがむ形が誰にも優れる、上体を倒す形は避けるべきだ、といった順位を付ける研究として読むのも違う。

床の洗濯かごと、机の上のバッグを取る場面を思い浮かべると、日常では作業自体が違う。自分の動きを比べたい時は、まず何を取ろうとしていたかを記録したい。膝の条件だけでも骨盤や筋活動の反応が選択的に違った以上、「昨日より骨盤が動いた」という感想にも、動作条件を添える意味がある。[1] 前傾という名前は同じでも、何に応じて生じた動きかまでは名前に含まれていない。

有意な変化がなかった結果も、読む価値がある。ただし、それはどんな条件でも腰が変わらないという証明ではない。今回の人数、動作、膝の制約という組み合わせで、腰の曲げ伸ばしや横曲げへの有意な影響が確かめられなかった、という範囲にとどめる。[1] 運動連鎖を何でも説明できる言葉にしないためには、動いた部位ばかりを拾わない読み方が欠かせない。

数字で読む骨盤と腰の分担

8人:前屈と戻る動作の腰椎骨盤リズムを測った、症状のない男性の人数。[7]

2.51から1.34:前屈の浅い範囲から深い範囲へ移った時の腰椎骨盤比。角度の目標値ではない。[7]

15人:膝の動く範囲を制約して持ち上げ動作を調べた健康な成人の人数。[1]

14研究・474人:股関節の病態ごとに骨盤の傾きと動きを検討した系統的レビューの規模。[12]

26人:骨盤の後傾を加えたストレッチと従来の方法を比較した健康で活動的な成人の人数。[16]

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宮川涼 Founder

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