運動すると乳酸は血球と血漿で違う?数値を比べる前に確かめたい測定対象

運動後の乳酸値を比べるなら、血液という呼び名だけでなく、血漿などの測定対象と運動条件を確かめたい。血球との換算を決めつけず、乳酸の出入り、脂肪の分解と利用、暑さへの適応の研究から、数字が示す範囲を読む。立川で運動を続ける人へ、測定結果と体力の成果を分ける視点を届ける。

運動後の測定結果に「血中乳酸」、読んでいた研究の表には「血漿乳酸」。同じ乳酸なら、そのまま数字を比べてよいのだろうか。息が落ち着いて結果を見直したところで、測っているものの名前の違いに気づく。

答えの芯は、測定対象の名前をそろえず、数値だけで運動の強さや成果を比べないことだ。血球と血漿の値に、そのまま使える換算率を置くことはしない。また乳酸は、運動中に筋肉や心臓、脳で使われるエネルギー源でもある。高い数字を見ただけで、不要な物質がたまったと判断する読み方は適切でない。[14]

既存記事「有酸素運動と無酸素運動の境目は採血場所で違う?数値と強度設定のずれを読む」には採血場所と強度設定の問いを譲る。ここで扱うのは、同じ血液の話に見えても、何を測った値かという問いである。指先か腕かより先に、結果の見出しに書かれた測定対象を読むところから始めたい。

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血液という言葉だけで数字を並べない

乳酸の論文には、血中乳酸を指標として扱うものと、血漿乳酸として結果を示すものがある。たとえば代謝の健康を論じたレビューは、運動強度の指標としての血中乳酸と、空腹時の血漿乳酸の意味を区別している。後者については将来の代謝疾患リスクを示す可能性が論じられており、運動直後の測定と同じ問いではない。[15]

読者がまずできるのは、研究の数字を手帳に写す際に「乳酸」だけで終わらせないことだ。「血漿乳酸」「運動中」「対象は運動習慣のある人」といった説明を一緒に残す。これは数値の加工ではなく、研究が何を比較していたかを保つ読み方である。数字の住所を消してから、隣の研究へ引っ越しさせない。

赤血球も乳酸の出入りに関わる。乳酸の生理を量的に検討したレビューでは、血液中の乳酸の出入りに関わる放出元として、筋肉、腸、脂肪組織とともに赤血球が挙げられている。取り込み側には肝臓や腎臓などが関わる。血液の数字を、動いている筋肉だけの帳簿とみなすと、こうした出入りを落としてしまう。[10]

ただし「赤血球が乳酸を放出する」という知見と、「運動後の血球内濃度は血漿の何倍である」という答えは別である。前者から後者の比率を作ることはできない。同じように、血漿と書かれた研究結果を、自分の測定結果の説明がないまま換算するのも避けたい。血液を分けた数字を読むときほど、成分名を省略しない姿勢が役に立つ。

研究の比較では、測定対象に続いて、安静時か運動中か、どんな介入を加えたかまで確認する。実際、乳酸を点滴で増やした試験では、同程度の血漿乳酸濃度でも、運動強度によって脂肪の利用に異なる結果が出ている。測るものをそろえることは必要な準備であり、結果を解釈するには運動条件の確認も必要になる。[1]

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乳酸は筋肉から出て終わりではない

乳酸を「疲れのごみ」と呼ぶと、血液に見つかること自体が失敗のように聞こえる。しかし、運動時の乳酸代謝を扱うレビューは、筋肉、心臓、脳が乳酸をエネルギー源として利用することを示している。また、肝臓や腎臓で糖を作るための材料としても重要である。乳酸には、作られた場所だけで完結しない行き先がある。[14]

このため血中濃度は、筋肉がどれだけ作ったかだけの表示ではない。乳酸の量的な生理を検討したレビューは、運動する筋肉からの大きな放出と同時に、血中から乳酸を取り除く働きも増えると論じている。回復中の運動していない筋肉や肝臓なども、その過程に関わりうる。血液を読むときは、放出と取り込みが並行している場面を見ることになる。[10]

たとえば運動前と運動後の数値を見て、増えた分をすべて「筋肉に残った疲労」と呼ぶのは飛躍である。血液での測定と、筋肉そのものの状態の説明を、途中の推論なしにつなげてしまうからだ。血漿という測定対象を確認する意義は、まさにここにある。どこで測った何の濃度なのかを明確にすると、その数字から語れる話の範囲も見えてくる。[10][14]

もうひとつ区別したいのが、濃度と流れの速さである。血液中にどれだけ乳酸があるかを測ることと、体内をどれだけの乳酸が行き来したかを調べることは同じでない。量的なレビューは、標識を付けた乳酸を追う方法でも、乳酸とピルビン酸の交換が流れの推定を大きく見せる問題を論じている。測定値には、何を追跡する方法かという条件も付いている。[10]

日常の記録でこの実験技術を使う必要はない。ただ、数値に細かい桁があるほど体の仕組みを直接見ている、と考えないことだ。血球か血漿かという測定対象の問いと、濃度か流れかという測定内容の問いは重なっていても別である。研究の結果を読み直す際には、数字の単位だけでなく、著者が何を測ろうとしていたかまで戻ると話を整理しやすい。

乳酸をどう解釈するかには研究者間の議論もある。量的なレビューは組織の酸素不足という従来の考えで多くの所見を説明できると論じ、他の臓器へ渡す目的で作られるという説明には慎重である。一方、運動代謝を起点にした別のレビューは、乳酸のエネルギー源としての役割を強調し、敗血症や重症の新型コロナウイルス感染症の患者での上昇を酸素不足だけに結び付ける見方を問い直している。両レビューは健康時と重い病気の代謝を扱うため、患者での説明を18〜39歳の健康な女性の運動後にそのまま当てはめることはできない。[10][14]

この違いを、どちらかのレビューを消す理由にはしない。両者に共通するのは、血液中の乳酸を単なる不要物のたまり具合として扱っていない点である。日常の運動の結果を読む際には、値の高低から体内の原因を即断するより、研究が何を測り、どの過程を検討したかを分けるほうが誤解が少ない。[10][14]

血漿乳酸をそろえた試験でも成果はそろわない

健康で活動的な成人を対象にした無作為化比較試験では、女性3人を含む8人が、乳酸を点滴する中強度運動、生理食塩水を点滴する中強度運動、強度を上げる運動などを経験した。中強度の運動は60分である。同じ人が異なる条件を経験する設計で、乳酸を増やすことと運動を強くすることを分けて調べた研究だ。男女混合の少人数試験であり、18〜39歳の女性に同じ反応の大きさをそのまま当てはめることはできない。[1]

血漿乳酸は、乳酸を加えた中強度条件で4.31±1.68、通常の中強度条件で1.42±0.93、強度を上げた条件で4.39±1.25だった。単位はいずれもmMである。前者と高強度条件の乳酸濃度を近づけることで、乳酸が高いという共通点の奥に、別の代謝反応があるかを検討している。[1]

乳酸を加えた中強度条件では、通常の中強度条件に比べ、運動による全身の脂肪分解の増加が抑えられた。脂肪分解とは、蓄えた脂肪を分解する過程である。一方、脂肪酸化、すなわち脂肪をエネルギーとして利用する過程の速度には、有意な差がなかった。分解の結果と利用の結果を別に読む必要がある。[1]

さらに高強度条件では、乳酸を加えた中強度条件より脂肪酸化が低かった。乳酸の濃度を近づけても、脂肪の利用が同じにはならなかったわけだ。ここから「乳酸がこの値なら脂肪は必ずこれだけ燃える」という対応表は作れない。血漿という同じ測定対象に限定しても、運動条件を消して数値を持ち出すことには限界がある。[1]

この試験は、乳酸の上昇を見ただけで「脂肪の利用が止まる」と断定する説明を支持しない。点滴で乳酸を増やした健康な人の中強度運動では、脂肪分解への作用が、そのまま脂肪酸化の低下にはならなかったからである。ただし、少人数の代謝試験であり、長期間の体型の変化を測った試験としては扱わない。[1]

数値を読むときの順番も、この試験が教えてくれる。まず血漿乳酸という測定対象、次に点滴と運動強度という条件、そのうえで脂肪分解と脂肪酸化という結果を確認する。「乳酸が高かった」という一言に畳むと、研究でわざわざ分けた違いが消える。夕方のレッスンの手応えを、この試験の濃度に当てはめて採点する必要はない。

数字で読む乳酸と比較条件

8人:乳酸の点滴と運動強度を比較した試験の参加者。うち女性は3人である。[1]

4.31±1.68 mM:乳酸を点滴した中強度運動中の血漿乳酸。個人に勧める目標値ではない。[1]

11試験・215人:暑さへの適応を検討した無作為化比較試験のメタ分析の規模。[7]

91%:そのメタ分析に含まれた参加者の男性の割合。対象の偏りも一緒に読む。[7]

68.10分と68.11分:暑い環境での自転車試験における条件別の平均所要時間。終了時の乳酸値には差があった。[19]

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宮川涼 Founder

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