筋トレの胸は斜めの肘で押す?手幅をそろえて肩の開きと負担を確かめる読み方

胸の筋トレで肘を斜めにするべきか迷った時、手幅と肩の開きを分けて考える。経験者の肩への力を推定した研究を軸に、胸・肩・三頭筋の筋活動、下ろす動作、休憩による違いを確認する。角度だけで安全や効き目を決めず、前回と比べられる記録を作るための科学の読み物である。

胸の前へバーを下ろすと、鏡の中の肘が思ったより横へ張り出している。「もう少し脇を締めよう」と言われたが、手を置く場所は同じでよいのか。バーをラックに戻しても、胸より肩を使った感じだけが残る。

斜めの肘は、全員に共通する正解とは決められない。ベンチプレスの肩への力を調べた実験では、肩の開きだけでなく、手幅、肩甲骨の置き方、バーへ左右方向に加える力も扱われている。肘の見た目だけでは負担を読み切れないのである。[1]

既存記事「女性の胸筋トレは手幅で何が変わる?押す動きの胸と腕の負担を読み解く」には、握る幅を変えた時の比較を譲る。また「二の腕の腕立ては肘を横へ開くべき?手幅とは別に読む肩と腕の負担の違い」には、床で体を支える腕立ての問いを譲る。ここではバーベルを押す動作を扱う。ここでの問いは、手幅をそろえて肘の通り道を確かめる時、何を同じ条件として残すかだ。胸・肩・三頭筋の働きを角度だけに帰さず、動作の局面やその日の練習順序まで含めて考えたい。[1][2][3]

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肘の曲がりと肩の開きは、別の目印である

研究で扱われた肩の外転角度とは、上腕が体幹からどれだけ横へ開くかを表す角度である。経験のある筋力トレーニング実施者10人の実験では、45度、70度、90度の肩の開きを含む条件が設定された。これは肘関節をどれだけ曲げたかという数字ではない。「肘を斜めに」という短い助言の中には、別々の関節の話が入り込みやすい。対象は経験のある筋力競技者であり、18〜39歳の女性の初心者に同じ負荷の傾向が当てはまるかは、この実験だけでは判断できない。[1]

バーを握る手の場所を決めることと、上腕をどちらへ向けるかを決めることも、同じ操作ではない。この実験は、左右の肩の骨の目印の間隔を基準に、手幅をその1倍、1.5倍、2倍と変え、肩の開きや肩甲骨の位置を含めて21通りの技術条件を調べている。手幅と肩の開きを別の条件として扱った点が、今回の問いに直結する。[1]

ただし、同じ手幅なら肘だけを自由に動かしてよい、という処方に置き換えるのは早い。研究を日常の比較へ移すなら、まず「手幅を変えたのか」「上腕の向きを変えたのか」を区別して説明するところから始めたい。両方を変更した後の押しやすさを、片方だけの効果として記録しないためである。[1]

たとえば前回は広く握り、今回は狭く握ったうえで脇も締めたとする。「肘を斜めにしたら違った」という感想は残せるが、角度の違いだけを比較したことにはならない。研究の条件表に戻ると、どこを変えたかが複数あると分かる。日々のノートにも、感想に加えて変更した場所を書けば、次の相談で問いを絞りやすい。[1]

角度を知る目的は、人体を図形の枠へ押し込むことではない。横へ開いて見えるという印象を、何の位置についての話かに言い直すことだ。上から見た上腕の方向と、横から見た肘の曲がりを混ぜずに伝える。研究が分けて測ったものを、会話でも分けておくという使い方である。[1]

肩幅を基準に手幅を表す方法にも、比較の意図がある。研究では肩の目印の間隔に対する倍率を用いており、全員に同じ距離を指定したという説明ではない。自分と隣の人の手がバーの同じ印にあっても、研究上の同じ条件とは限らない。体格を含む基準と、器具に付いた目印を混同しないようにしたい。[1]

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肩への負担は、見た目より力の向きで考える

この実験では、光学式の計測装置で動きを捉え、計測用のバーベルで力を測定した。その情報を筋骨格モデルへ入れ、肩甲上腕関節と肩鎖関節に生じる力を推定している。肩甲上腕関節は腕と肩甲骨の間、肩鎖関節は肩甲骨と鎖骨の間の関節を指す。読者が肩前面に感じるきつさを採点しただけの実験ではない。[1]

研究者は、手幅、肩甲骨の位置、バーへ加える左右方向の力が肩の筋骨格への負荷に影響すると結論している。特に左右方向の力の成分には参加者間で大きな違いがあり、肩の反力に大きく関わった。肩の反力とは、動きを支える際に関節で受ける力のことである。正面から同じように見える押し方でも、バーへ加える力まで同じとは限らない。[1]

ここで「肘が横なら危険、斜めなら安全」という早見表は作れない。実験の焦点は、複数の技術条件によって推定される肩への力がどう違うかにある。実際にけがをした人の割合を長く追い、角度別に比べた研究とは区別する必要がある。負荷の推定は技術を考える材料になるが、将来のけがの保証書にはならない。[1]

肩甲骨の条件にも、中立、寄せた状態、解放した状態が含まれていた。肘の方向だけ変えたつもりでも、背中の置き方が変わっていれば、別の条件も動いている可能性を考えたい。「前回より斜めだった」だけで説明を終えず、手幅と肩甲骨についても担当者と同じ言葉で確認する。この順番は、研究が複数の要素を扱ったことから導く比較の工夫である。[1]

また、バーへ左右方向の力が生じるという結果を、「外へ引き裂くつもりで押せばよい」といった合図の推奨に読み替えない。参加者間で違いが大きかったという事実は、同じ合図を言えば全員が同じ力を出すという意味ではない。合図の語感より、実際の動きと変更した条件を確認するほうが、研究の問いに近い。[1]

胸・肩・三頭筋の活動を、肘だけの成果にしない

胸に効かなかった、肩ばかり疲れた、三頭筋が先にきつくなった。こうした感覚を話す際には、その日のどの段階だったかも添えたい。筋トレ経験のある若い男性を対象とした実験では、ベンチプレスなど上半身の種目を行う順序を逆転させ、筋電図で筋肉の電気的な活動を測っている。同じ種目でも、順序によって筋活動が変わった。若い男性経験者の結果を18〜39歳の女性にそのまま当てはめず、ここでは順序も比較条件になる点を読む。[3]

比較されたのは、ベンチプレス、胸のフライ、ショルダープレス、肩を横へ上げる種目、狭い手幅のベンチプレス、横になって行う三頭筋の種目という並びと、その逆の並びである。各種目は8回が限界となる負荷で3セット行われた。上腕の向きだけを変更した実験ではなく、前にどんな運動を済ませたかを変えた研究だ。[3]

胸のフライでは、大胸筋の胸肋部の活動が、ベンチプレスから始める並びで100.13±13.56%、逆の並びで81.47±13.09%だった。値は最大随意等尺性収縮、つまり自分の意思で最大限に力を出す基準の測定に対して表されている。胸の形がその割合だけ変わった、という数字ではない。[3]

同じフライで、肩前面の三角筋前部の活動は逆の並びで86.81±40.43%、ベンチプレスから始める並びで66.15±22.02%だった。胸の活動はベンチプレスから始める並びで高く、肩の活動は逆の並びで高かった。さらに三頭筋長頭で順序による差があったのはショルダープレスであり、結果をすべての押す種目へ一括して当てはめられない。[3]

この研究を使って「脇を締めれば三頭筋へ逃げる」と断定することもできない。測定した違いは種目の順序だからだ。肘の方向を相談する日に、前回は胸から始め、今回は腕を先に使っていたなら、その違いも記録の対象になる。胸、肩、腕という検索語を並べるだけでは、何を比較したデータなのかが消えてしまう。[3]

筋電図の結果と、肩の関節に生じる力の推定は、答える問いも違う。前者はどの筋がどの程度活動したか、後者は動きと外力から関節にどのような力が生じるかを調べている。大胸筋の活動が高かったという結果を、そのまま肩への負担が小さい証拠として使わない。数値を読む前に、測定した対象を言葉にすることが大切だ。[1][3]

筋活動の数字では、平均値とそのばらつきを一緒に見る意味もある。フライの三角筋前部で報告された86.81±40.43%は、参加者全員が86.81%だったという表ではない。また、基準に対する活動が100%付近にあることを、胸が能力の上限まで成長したという意味にはできない。基準に使った収縮の測定と、種目中の電気的な活動を比較した値だからだ。[3]

そのため、胸の筋電図の割合、肩のモデルで推定した力、本人が感じたきつさを、同じ点数のように足し合わせない。たとえば「胸の活動が高いので肩にも優しい」と結ぶには、違う測定結果を飛び越えてしまう。相談では、胸の働きを知りたいのか、肩への力を知りたいのかを先に伝える。それにより、見てもらう動作と参照する研究の役割がはっきりする。[1][3]

数字で読む肘の位置を比べる条件

10人:肩への力を推定した実験の対象は、経験のある筋力トレーニング実施者だった。[1]

45度・70度・90度:比較条件に含まれた肩の開き。個人への推奨角度の一覧ではない。[1]

21通り:手幅や肩甲骨の位置も含めて調べられた技術条件の数である。[1]

30人:下ろす動作と押し上げる動作を別々に調べた実験は、健康な男性を対象に行われた。[2]

22人:休憩の長さを比べた実験には、レクリエーションとして筋トレをする男女が参加した。[13]

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宮川涼 Founder

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