有酸素運動と無酸素運動の効果の違いを、時計の消費カロリーだけで判断してよいのか。筋トレの測定が難しい理由、心拍数の精度と消費量の精度の違い、平均の誤差と個人のずれを研究から読み分ける。運動後を含める測定の意味と、日々の記録を比較するときの確認点も考える。
スクワットの最後のセットを終え、重りを置いて時計を見る。脚には運動した実感があるのに、消費カロリーの表示は昨日の自転車より小さい。この数字だけで、今日の運動は効果が少なかったと決めてよいのだろうか。
答えは、時計の表示だけでは決められない、である。持久運動と筋力トレーニングを比較した測定研究では、心拍数の一致が良好でも消費量の一致は乏しく、筋トレでは推定の精度がさらに下がった。運動の違いと、測る側の得意不得意が同じ画面に混ざっている。[6]
運動の基本的な区分は既存記事「有酸素運動と無酸素運動」に譲る。既存記事「ウォーキングの消費量は時計で分かる?心拍数とカロリー推定の誤差を比べて読む」に歩行中の読み方を譲り、ここでは有酸素運動と、無酸素性の代謝の寄与が大きい筋トレとで、消費量の比較がなぜ難しくなるのかを考える。[2] 中央線で帰る前に、時計の数字へ運動の採点を任せないための話である。

有酸素と無酸素の違いは、表示だけでは比べられない
有酸素運動と無酸素運動の効果の違いを調べ始めると、消費カロリーの比較に行き着きやすい。ただし、今回見る研究の中心は運動の優劣ではなく、推定された消費量が基準となる測定とどれほど合うかである。この区別を置くと、表示が小さい運動を低く評価する理由はなくなる。消費量の不正確さを調べた結果を、効果が小さい証拠にはできない。[2][6]
健康な成人男性62人を対象とした比較研究では、持久運動と筋トレを行いながら複数の市販時計を装着し、心拍数を心電図と、消費量を間接熱量測定と比べた。間接熱量測定とは、呼吸のガス交換をもとにエネルギー消費を推定する方法である。研究では持久運動の消費量が過小評価され、一致する範囲にも大きな幅があった。筋トレでは消費量の精度がさらに悪かった。男性の結果であり、18〜39歳の女性に同じ誤差の大きさを当てはめるには、女性での検証が必要だ。[2][6]
ここから「持久運動なら正確、筋トレなら不正確」という境界線を引くのも早い。双方に誤差があり、その程度が運動によって違ったという結果だ。画面の単位が同じでも、推定精度は運動の種類によって変わる。自転車の記録と筋トレの記録を横に置く場面では、まさにその違いが問題になる。[6]
研究の限界は、対象者、運動内容、機器と計算方法の組み合わせにある。ここで扱う結果を読者共通の補正値にはできない。読み取れるのは、運動の種類をまたぐ比較では測定精度を確認し、集団平均と個人のずれを分けて扱う必要があるという点である。[4][5][6]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
筋トレは比較の基準を作ること自体が難しい
時計の精度を考えるには、正解として何と比べたかも確認したい。筋トレの消費量測定を扱った系統的スコーピングレビューは、研究を広く集めて測定方法を整理したもので、166件を対象にしている。そのうち間接熱量測定を使った研究は136件、血中乳酸を調べた研究は25件、装着型モニターを使った研究は31件だった。これらは方法別の件数であり、別々の集団として足し合わせる数字ではない。[2]
このレビューが挙げる難しさは、筋トレでは無酸素性の代謝の寄与が大きいことだ。糖を分解してエネルギーを得る解糖系の寄与は、呼吸を通じた間接熱量測定だけでは十分に数量化しにくい。血中乳酸の反応を使うのは、この寄与を別に推定するためである。著者らは、運動中と直後の間接熱量測定に血中乳酸の測定を組み合わせる必要がありそうだとしている。時計の数字の向こうには、実験室でも工夫を要する測定対象がある。[2]
ここでは、呼吸から推定する部分と、乳酸の反応から推定する部分を区別すると読みやすい。呼吸の測定を精密にしても、解糖系の寄与をどう加えるかという計算上の課題は残る。レビューの提案は、運動中と直後の呼吸測定を続けながら、乳酸による推定も組み合わせることだ。基準測定の構成そのものが、比較結果の意味を左右する。[2]
実際、研究間で報告された消費量には大きな幅があった。レビューは精密な測定に必要な機器や専門技能、動作への制約も指摘している。生活の場では、運動強度を表すメッツを用いた推定の方が実用的な場合があるとしているが、それも個人の消費量を誤差なく決める約束とは違う。実用性と精密さは分けて受け取る必要がある。[2]
研究を読むとき、基準測定との一致が低かったという結果は、その比較条件の中で受け止めたい。呼吸からの推定と時計の表示が離れていたことだけで、無酸素性の寄与を含む総量の差まで確定することはできない。筋トレの測定方法を整理したレビューと照らすと、まず比較の対象をそろえる必要が見えてくる。[2][4]
たとえば筋トレの記録を読み返すとき、運動中の測定に限った検証なのか、血中乳酸から推定した寄与も含む検証なのかで、結果が指す対象は変わる。女性の測定研究は後者を採用していた。数字が出たという事実だけでなく、その数字に何を含めたかまで追うと、研究間の結果を急いで同じ列へ並べずに済む。[2][5]

心拍数が合っても、消費カロリーが合うとは限らない
脈の表示が体感と合うと、隣のカロリー表示まで信頼したくなる。しかし、男性62人の研究では、心拍数と心電図との相関係数は0.64〜0.97だった一方、筋トレの消費量と間接熱量測定との相関係数は0.10〜0.34にとどまった。相関係数は値が一緒に増減する関係の強さを表す指標で、値そのものの一致とは区別する。同じ機器の各項目で、成績に差が出た。健康な成人男性の研究であり、18〜39歳の女性で同じ相関係数になるかは別途確かめる必要がある。[6]
別の妥当性研究では、健康な20〜39歳の男性70人が、ベンチプレス、ローイング、スクワット、デッドリフトを行った。負荷は個人ごとの10回反復できる最大の重さに合わせ、各種目を2セット実施した。時計の消費量と間接熱量測定との級内相関係数は0.021〜0.033と低く、どの機器でも一致が乏しかった。級内相関係数は測定値の一致や信頼性を評価する指標である。年齢が近くても対象は男性なので、18〜39歳の女性へ誤差の値をそのまま移すことはできない。[4]
この研究では、セット直後に心拍数の一致が目立って悪くなる機器もあった。運動全体の平均を見た評価と、重りを置いた直後の評価は同じではない。筋トレ後に時計をのぞく瞬間は、研究全体を代表する平均値から外れる可能性がある。心拍数さえ、どの時点を見るかで受け止め方が変わるのである。[4]
持久運動でも筋トレでも、心拍数は消費量より良好な成績を示すことがある。ただし、それは心拍数の表示が常に正確という保証ではない。運動の種類、強度、測定時点を含めて評価する、という順番が必要だ。表示項目ごとの精度を確かめず、時計全体へ一括の信頼点を付けるのは難しい。[4][6]
女性の研究でも、個人調整だけでは筋トレを解決しなかった
女性を対象とした研究も見ておきたい。トレーニング経験のある女性31人の測定研究では、安静時代謝、体格、トレッドミルでの段階的な運動テストを使い、装着型機器の推定式を個人に合わせて調整した。その後、間欠的な高強度運動と筋トレの消費量を評価している。個人調整は、日常のプロフィール入力とは異なる実験条件で行われた。運動経験のある女性の結果であり、18〜39歳の女性全般への適用には運動経験や実験条件の違いを考える必要がある。[5]
間欠的な高強度運動では、調整した複数入力型の機器で集団としての推定が改善し、事前に定めた範囲で基準測定との同等性が認められた。一方、筋トレでは、評価したどちらの機器も許容できる妥当性や同等性を示さなかった。筋トレの比較基準には、間接熱量測定に加えて血中乳酸の反応から推定した無酸素性の寄与が含まれている。[5]
この研究は、高強度という呼び方だけで測定条件をまとめる問題を示している。間欠的な運動では呼吸からの推定を基準にし、筋トレでは乳酸による寄与も加えていた。改善の有無を読む際には、運動と比較基準の両方を見る必要がある。男性を対象にした市販時計の研究と条件は異なるが、筋トレの推定に注意が要るという点では結果が重なる。ただし、異なる研究の数字を直接並べて、機器の順位を付けることはできない。[4][5][6]
数字で読む運動別の推定誤差
166件:筋トレの消費量評価法を整理したレビューの対象研究数。研究間の報告値には大きな幅があった。[2]
62人:持久運動と筋トレの両方で、市販時計と基準測定を比べた健康な成人男性の人数である。[6]
0.021〜0.033:男性70人の筋トレ研究での、消費量の級内相関係数。一致の乏しさを示す値だった。[4]
31人:個人調整した装着型機器を評価した、トレーニング経験のある女性の人数である。[5]
−113.9〜122.8 kcal:女性の間欠的な高強度運動で報告された、調整後の推定と基準測定との差の95%一致限界。平均の改善後も個人の誤差は大きかった。[5]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2







