睡眠前のナッツは炒り直すと香りが戻る?焙煎香と油の酸化を別々に読む夜の判断

睡眠前のナッツを温めると香ばしくなる。その変化は、古くなった油が元に戻った証拠になるのか。ヘーゼルナッツのレビューとアーモンド、マカダミアなどの比較研究から、香りの生成、酸化の指標、好まれる焼き加減を読み分ける。研究の焙煎条件を家庭の炒り直しにそのまま移さない考え方も示す。

寝る支度の前、袋の底に残ったナッツを小皿に出す。開けた日の香ばしさが薄い気がして、フライパンでもう一度炒りたくなる。そこで戻したいのは香りなのか、それとも鮮度なのか。この違いで、加熱に期待することが変わる。

焙煎はナッツの香りを変え、新しい香気成分を生む。しかし、香ばしくなったことを、油の酸化が取り消された証拠にはできない。アーモンドから搾った油の比較実験では、焙煎時間によって香りが変わる一方、酸化に関係する指標も上がった。[1][3] 香りのよさと油の状態は、同じ成績表の同じ欄ではない。

ここで扱うのは、眠りをよくする食べ方ではなく、寝る支度の前にナッツを温め直したくなる場面の判断である。保存時の湿気とカビの話は、既存記事「間食のナッツは湿気を避けて保存する?油の酸化と分けて読むカビと水分の関係」に譲る。こちらは、焙煎で生まれる香りと、油の変化を別々に確かめる。

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香りが戻るより、新しい香りが生まれると考える

ヘーゼルナッツの香りを整理したレビューでは、生の実にも、ナッツ様、果実様、花様、カラメル様などの香りに関わる成分がある。乾式焙煎をすると、さらにバター様、ポップコーン様、麦芽様などの特徴を持つ成分が形成される。[1] 焙煎後に香りが豊かになる現象は、消えていた昔の香りがすべて帰ってきた、と表現するより、新しい香りの組み合わせができたと捉える方が研究に沿う。

このレビューが強調するのは、検出される揮発性成分のすべてが、特徴的な香りを同じ強さで決めるわけではない点である。揮発性成分とは、空気中へ移り、香りに関係する成分のことだ。その中でも限られた成分が、その食品らしい香りを左右する。[1] 成分の数に加え、どの成分が香りを左右するかが重要になる。

加熱による香りの形成には、メイラード反応も関わる。これは、焙煎食品の香ばしい香りを生む反応として捉えるとよい。ピスタチオの単回焙煎と二重焙煎を比較した研究では、この反応によって特徴的で好ましい香りが発達した。[18] ただし、香りを作る反応が起こったことと、保存中の油が加熱前の状態に戻ったことは別の命題である。

袋を開けたときの香りを思い出して、「あの状態に戻したい」と思うのは自然だ。だが、焙煎は時間を巻き戻す操作として理解するより、食品に追加の加工を施す操作として考えたい。研究でも、焙煎後は香りだけでなく脂質やフェノール類の組成も変わっている。[18] 台所のフライパンに、食品の履歴を消す機能まで任せる必要はない。

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アーモンドでは、増える香りと減る香りがある

アーモンドの研究では、シチリアの系統などを含む材料について、生と焙煎後の揮発性成分を比較している。シチリアの遺伝資源96点に広く栽培される10品種を加えた研究で、香りに関わる測定では150の質量ピークが検出された。[15] 質量ピークは装置が捉えた信号であり、そのまま人が区別できる香りの数ではない。

焙煎で有意に増えたのは68のピークで、主に硫黄を含む成分、フランを含む成分、ストレッカー分解によるアルデヒドに関連した。一方、主にアルコール類やテルペン類に属する54のピークは減少した。[15] 香りの変化は、全成分が同じ方向へ増える現象ではない。加熱の前後で、前に出る香りと後ろへ退く香りが入れ替わる。

この違いは、夜に食べるナッツの感想にも使える見方だ。「香りが強くなった」という言葉だけでは、何が変わったかを十分に表せない。青い印象が弱まり、焙煎らしい印象が前に出たのかもしれない。そうした変化を考える際、増加した成分だけでなく、減少した成分にも目を向ける必要がある。[15]

また、この研究は品種を選ぶための遺伝的な特徴も扱っている。食品として同じアーモンドと呼ばれていても、研究では材料の違いを考慮して香りを調べている。[15] 手元の袋と別の袋で香りが違ったとき、すべてを自分の炒り方の失敗にする必要はない。材料の履歴を揃えずに、加熱の腕前だけを採点するのは難しいのである。

ここから日常へ持ち帰れるのは、強い香りを取り戻そうと追いかけるより、どんな香りに変わったかを区別する姿勢だ。焙煎前の香りを残したいのか、焙煎らしい香りを足したいのかで、望む変化は違う。研究が示す増減の両方向を知ると、「香ばしいほど元どおり」という一直線の理解から離れられる。[1][15]

香りが変わる一方で、酸化の指標は上がった

アーモンドを130°Cで0、5、10、20分焙煎し、その後に搾った油を調べた実験がある。焙煎時間が長い条件ほど香りの分類が変化し、装置は59の揮発性信号を検出して加工群を分けた。加熱なし、5分、10分、20分の条件は、それぞれ冷香、軽い香り、強い香り、ソース様の香りの群として扱われた。[3] ここで調べた対象は、食べた人の体調ではなく、加工したアーモンドから得た油の品質である。

油の酸価は0.28から0.38 mg KOH/g oil、過酸化物価は1.20から1.46 meq O2/kg oilへ上昇した。酸化に関係する別の指標であるTBARSも、油のマロンジアルデヒド換算で0.38から0.46 mg/kgへ上がった。[3] 論文はこれを限定的な酸化劣化として扱っている。上昇を大げさに危険と読み替える必要も、香りが変わったから無視する必要もない。

酸価、過酸化物価、TBARSは、油の状態を異なる面から数値化した指標である。この研究では、焙煎を強めるとフリーラジカルの水準は適度に減った一方、これらの指標は上昇した。[3] ひとつの測定値が改善したから、油の変化のすべてが改善したと結論することはできない。研究を読むときも、好都合な数値だけを買い物かごに入れないことが大切だ。

脂肪酸の動きにも違いがあった。オレイン酸は油1 g当たり644.37〜647.03 mgで比較的安定していたが、リノール酸は150.42から140.19 mgへ有意に減少した。[3] 「脂質が変わった」とひと言で括ると、このような成分ごとの違いが見えなくなる。香りの変化を脂質全体の一様な改善と結びつけない理由は、測定値の中にもある。

この実験では、焙煎による初期の変化に加え、酸化を促進した油の脂質組成も比較している。冷香群の酸化させた油と酸化させていない油の間では、327の脂質に違いがあり、グリセロリン脂質など複数の脂質群に及んだ。[3] 初期の焙煎による変化と、その後の酸化を促す条件での変化を区別すると、加工と保存をひとつの出来事として扱わずに読める。

同じアーモンド油の実験では、焙煎時間を延ばすと油の回収率が45.81%から50.34%へ増えたが、10分以降は有意な増加がなかった。[3] これは実から搾り取れた油の割合である。食べる前に実を温めると脂質がその割合だけ新しく生まれる、という結果ではない。食品の加工研究には、成分そのものの量だけでなく、取り出せる量を調べるものもある。

香りの候補を見つける工程にも注意が要る。この研究では、すでに香りへの関与が支持された成分と、それが未確認の成分を分けて解析し、未確認のものから候補を選んでいる。候補にはさらに官能的な検証が必要とされた。[3] 装置で変化を見つけた段階と、人の鼻で香りへの寄与を確かめた段階は、同じではないのである。

こうした区別を夜の小皿へ戻すなら、「いい香りがした」という感想は、自分の好みを表す言葉として使えばよい。その感想に、油の回収率や酸化関連指標の測定結果まで背負わせない。研究が別々に測っているものを、家庭で無理にひとつの感覚へ集約する必要はない。[3][16] 食べる直前の印象を大切にすることと、食品の状態をすべて見抜けると考えることには違いがある。

数字で読むナッツの焙煎と香り

130°C:アーモンド油の実験で用いた実の焙煎温度。家庭の炒り直しの推奨温度ではない。[3]

0、5、10、20分:同じ実験が比較した焙煎時間。加工の違いを調べるための条件である。[3]

68増加・54減少:アーモンドの焙煎前後で有意に変化した質量ピーク。香りは増える側だけで決まらない。[15]

21.6%増加:マカダミアの比較実験での実の酸化安定性指数。過酸化物価とは別の指標である。[10]

170°C・10分:特定のアーモンド品種を対流式オーブンで焙煎した試験で、好まれた条件。全ナッツ共通の調理法ではない。[16]

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宮川涼 Founder

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