ダイエット停滞期が何回来るのか気になり、毎朝の記録から始まりと終わりを探していないだろうか。何度も比べて目立つ結果を拾うときの注意を、多重比較を扱った減量・体重維持研究から読む。測ることと判定することを分け、比較する期間や項目を後から選び直さない記録の考え方を示す。
体重記録の余白に「停滞の始まり」と書いたのに、夕方には消したくなる。朝の体重で判断し、帰宅後にグラフを開いて、まだ終わっていないと思う。翌朝少し下がれば、今度は抜けた日を探す。記録は同じでも、問い直すたびに始まりと終わりが増えていく。
毎日測ることと、毎日新しい結論を出すことは別である。研究では、たくさんの比較から目立つ結果を拾う問題に対し、多重比較の補正という、比較全体を考慮した統計上の調整を行う。減量や体重維持の研究にも、調整前に目立った関連が調整後には統計学的に有意でなくなった例がある。[9][12][14]
だから「停滞期は必ず来る」「自分には何回来た」と数える前に、どの日と比べ、どの時点で判定したかを確認したい。ここで考えるのは判定の回数と選び方である。既存記事「ダイエットの停滞期は何日で見分ける?日々の体重と平均の傾きが違う理由を読む」には期間と傾きの話を譲り、こちらは比較を増やしたあとの結論の扱いを追う。

毎朝の測定と毎朝の判決を分ける
たとえば、今朝の値を前日と比べる。納得できなければ記録をさかのぼり、最も低かった日とも比べる。さらに、運動を始めた日の値を基準にする。これは記録の眺め方の例だが、同じ「体重が止まった」という言葉の後ろに、異なる比較が隠れている。基準を動かすと、答えている問いも動く。
研究の多重比較は、複数の項目や関連を検討するときに現れる問題である。肥満のある成人を対象にした食事介入研究では、遺伝子の違いと減量との関連を複数調べ、個々には有意に見えた結果が、多重比較を厳しく考慮すると有意ではなくなった。[14] 目立つ結果の存在だけで、確かな発見だと判断しないための実例である。対象は肥満のある成人であり、18〜39歳の女性一般の停滞判定へ直接適用する根拠にはならない。
ただし、遺伝子を比較する研究と、自宅で日々の体重を見直すことは同じ実験ではない。研究の補正をそのまま家庭のグラフに当てはめて、停滞の誤判定率を計算することはしない。共通の注意点として持ち帰れるのは、目に留まった比較のほかに、どれだけ比較を試したかも考える姿勢である。[12][14]
測定の記録には、後から見直すための役割がある。一方で「だから食事を変える」「運動を増やす」という判断には、何を根拠に動くかという別の約束が要る。朝の記録を残したあと、その場で生活の方針まで決める必要はない。体重計に乗るたびに裁判を開くと、台所が法廷になってしまう。
日常への応用として、記録する欄と、振り返って判断した内容を書く欄を分けてみるとよい。これは停滞を治す方法ではなく、どの値を見て何を考えたかを残すための整理案である。後日読み返したとき、体重の変化だけでなく、基準を変えていたことにも気づける形を目指す。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
目立った差は補正のあとも残ったか
多重比較の前後で結論を読み直す例として、過体重の成人118人を対象にした無作為化比較試験がある。成分の異なる深煎りと中煎りのコーヒーを割り付け、3か月の摂取期間に体重と、そのほか15項目を調べた研究である。[9] 過体重の参加者についての結果なので、18〜39歳の女性全般に同じ結果を当てはめることはできない。コーヒーの飲み方を勧めるためではなく、調べた項目の多さと結論の関係を見るために読む。
この試験では、どちらの群でも体重、体格指数、腹囲の平均は摂取期間中に変化しなかった。一方、一部の血圧や脂質の値には変化がみられたものの、差は多重比較を補正すると統計学的に有意ではなくなった。[9] 体重以外の目立つ結果だけを抜き出すと、研究全体の読み方を変えてしまう。
ここでいう統計学的に有意とは、研究の統計上の判断基準を満たしたという意味であり、日常で大きな利益があるという言葉とは区別したい。研究者もこの試験をもって決着とはせず、コーヒーの成分と健康上の結果について、さらなる研究を求めている。[9] 「効果が確定した」と「すべて無意味だった」の間に、まだ調べるべき関連という位置がある。
家庭の記録でも、体重が思うように動かない日に別の指標を見たくなることはある。それ自体を責める話ではない。ただ、体重、服の着心地、鏡の印象を次々に見て、いちばん都合のよいものだけで取り組み全体を採点すると、採点表が結果に合わせて書き換わる。これは日常場面の例であり、服の変化をこの試験が検証したという意味ではない。
使い分けたいのは、当初の問いへの答えと、新しく気づいたことだ。「体重の変化を確認するつもりだったが、別の点にも関心が生じた」と書けば、後者を消さずに前者も保てる。研究で体重の結果と他の指標の結果を分けて読む姿勢を、記録の見出しに移すのである。[9]
減量研究でも小さな値だけを採用しない
肥満のある欧州の成人760人を対象にした研究では、脂肪の割合が異なる低エネルギー食を10週間続ける試験の中で、MC3Rという遺伝子にある10か所の違いを調べた。[14] 肥満のある成人患者を対象とするため、18〜39歳の女性一般の減量経過を予測する結果としては使えない。食事は割り付けられているが、遺伝子そのものを割り付けた研究ではない。食事介入のデータを使って、遺伝子の違いと変化の関連を分析している。
ある遺伝子の違いと減量との関連では、解析方法によりp値が0.04、0.03となった。しかし、多重比較を厳しく考慮したあとは有意ではなくなった。[14] ここではp値を、個々の解析で示された統計上の指標として読む。結果をつまんで小さい値だけ紹介すれば、補正後に残ったかという大切な部分が落ちる。
研究は、今回調べたMC3Rの遺伝的な違いに、食事介入後の減量を大きく左右する効果があるという見方を支持しなかった。[14] ここから「遺伝子は体重と一切関係ない」と広げることはできない。対象の遺伝子、参加者、食事、観察した期間をそろえて結論を読む必要がある。
この例が停滞の記録に投げかける問いは、最も説得力がありそうな比較だけ残していないか、というものだ。下がった朝だけ運動の効果と考え、下がらなかった朝は比較から外すなら、結果を見てから採用する記録を選んでいる。逆に、増えた朝だけを覚えて停滞の証拠とするのも、同じ点検の対象になる。
最初に決めた比較で期待した結果が出なかったときも、その記録には役割がある。気になる日を削って見栄えを整える前に、当初の比較ではどう見えたかを文章で残す。その後に別の見方を試したなら、別の問いとして並べる。研究での補正を家庭で再現するのではなく、結論を選ぶ手順を見えるようにする提案である。[14]
比較を読む際は、介入そのものの効果を調べた部分と、その中で人による違いを探した部分も分けたい。この研究で割り付けたのは高脂肪食と低脂肪食であり、遺伝的な違いによって減量の程度が変わるかを追加して分析している。[14] 「無作為化試験」という研究の型だけを見て、そこで調べたすべての関連が原因を示すと考えないことが大切である。
同じ注意は日常の比較にも使える。運動を始めてから体重を記録し、その途中で昼食の内容も変わったとする。後から運動した日だけを集めた比較と、取り組みを始める前に決めていた振り返りは、別の経緯を持つ。どちらも手元の記録から作れるが、記録を並べ替えた理由が見えなければ、自分にも説明しづらくなる。予定を立てた日付と、見方を変えた理由も残したい。
研究の数字を自分の結果に読み替えないために、対象の違いも確認する。コーヒーの試験は過体重の成人、遺伝子の試験は肥満のある欧州の成人を対象としている。[9][14] 減量を望んでいるか、すでに減量を経験したか、健康上の背景はどうかという条件を省いて、体重が横ばいになった人すべてへの答えにするのは避けたい。体重を減らすことが全員の課題なのでもない。
また、結果の大きさと確かさは同じ欄に書けない。体重維持の遺伝子研究では、ある遺伝子の型を示す単位あたり腹囲の戻りが3.1cm少ないという推定に対し、95%信頼区間は−4.6〜−1.6cmだったが、多重比較の補正後には有意ではなかった。[12] 推定された差や区間が目に留まっても、多くの候補を調べたという分析の背景を合わせて読む。この腹囲の数字を、停滞を抜けるための目標値や個人の予測として使うものではない。
数字で読む比較を増やした研究
118人:コーヒーの無作為化比較試験。体重とほか15項目を調べ、補正後には差の有意性が残らなかった。[9] 760人:食事介入中の遺伝子と減量の関連を調べた人数。10週間の試験で、補正前の関連をそのまま採用していない。[14] 742人:減量後の体重再増加と遺伝子の関連を分析した試験の参加者数。補正後には有意な関連がなかった。[12] 967人:睡眠とその後の体重維持を分析した観察研究の対象。副次的な探索結果には多重比較への注意が添えられた。[8]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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