食欲をそそる匂いは何でも食べたくする?甘い香りと選びたい味の関係を読む

食欲をそそる匂いは、何でも同じように食べたくさせるのか。甘い香りと塩気のある料理の香りを比べた女性の試験と系統的レビューから、食べたい味の方向を読む。バナナへの食欲が高まっても飲む量は変わらなかった結果を手がかりに、食欲の評価、食べ物の選択、実際の摂取量を分けて考える。

休日の午後、デパ地下の洋菓子売り場を通りかかる。買い物は済んだはずなのに、焼き菓子の甘い香りで足が止まる。隣には惣菜も並んでいるが、今気になるのは菓子の方だ。「お腹が空いた」の一言では、この味への偏りまでは表せない。

食欲をそそる匂いには、食べたい食品の系統に向きを与える働きがある。[1][4]甘い香りは甘い物へ、塩気のある料理を思わせる香りはその系統の食べ物へ、食欲の向きを変える結果がある。女性を対象にした試験では、バナナの香りでバナナやほかの甘い食品への食欲が高まり、塩気のある食品への食欲は下がった。[1][4]

ただし、食べたくなることと、実際に多く食べることは別である。実験研究を集めた系統的レビューでも、特定の食品への食欲が高まる結果に比べ、選択や摂取量の結果はそろっていない。[8] 香りを食事の命令と受け取る必要はない。ここでは「どれだけ空腹か」から少し離れ、「どの味に気持ちが向くか」を見ていく。

匂いに慣れる時間を主題にした「食欲を抑える匂いは長く嗅げば働く?香りへの慣れと食べる量を分けて研究で読む」には、その論点を譲る。こちらが確かめたいのは、匂いの種類を替えると、食べたい味の向きも替わるのかという点である。

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食欲には「何でも」と「これが」がある

一般的な食欲は、食事全体に対する食べたい感覚である。それに対して、特定の食品や味の系統に向く食欲を、感覚特異的食欲と呼ぶ。匂いを嗅ぐ研究では、全体として食べたいかと、バナナや甘い物を食べたいかを分けて評価している。[1][6] 普段の言葉なら「夕食は食べられそう」と「今は甘い物が気になる」の違いに近い。

この区別がないと、研究の見出しを読み違える。甘い食品への食欲が上がった結果を、「何でも食べたくなる」と言い換えることはできない。同じ試験で、塩気のある食品への食欲は下がる場合もあるからだ。食欲のすべての項目が一斉に上向くのではなく、食品の系統によって動く方向が分かれる。[1][6]

嗅覚と味覚の役割を整理したレビューでは、鼻から入る食べ物の匂いには、食べる前の準備を促す役割があると説明されている。一方、口に入ってからの味や食感は、食べる速さや口の中で食品に触れる時間を通じ、食事中の満足に関わる。香りが引き起こす期待と、食べながら進む過程は同じものではない。[11]

ここでいう「甘い香り」は、香りそのものの糖分を測った表現ではない。甘い食品を思わせる匂いという意味で読むとよい。匂いと食品の味の系統が合っているかを比べる実験では、香りが連想させる味と、その後に食べたいと評価する味との対応を調べている。[4] 鼻の前には何も食べていないのに、頭の中では献立の相談が始まる。

食べ物への期待が動いたことを、栄養補給が済んだことと混ぜないのも大切だ。匂いを嗅ぐ条件と、実際に食品を摂取する条件は違う。香りを食事の代わりに使うという読み方では、食前の期待と食事中の感覚を区別した研究の意味が抜け落ちてしまう。[11]

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バナナの香りで増えたのは、どの食欲か

体重が標準範囲の女性を対象としたクロスオーバー試験では、参加者が条件を替えながら自分自身と比較された。女性61人が、自然のバナナ、人工のバナナの香り、匂いのない水の入ったカップを、それぞれ10分間積極的に嗅いだ。食欲は100mmの視覚的な尺度で評価し、その後にバナナのミルクシェイクを自由に飲んだ。[1]

匂いのない条件に比べ、バナナへの食欲は11mm、ほかの甘い食品への食欲は4mm高くなり、塩気のある食品への食欲は7mm低くなった。自然のバナナでも人工のバナナの香りでも、甘い食品へ向くパターンが認められた。[1] バナナだけに閉じた反応ではなく、ほかの甘い物にも広がった点が、この問いへの手がかりとなる。

この数字は、食べた重さや増えたエネルギーではない。食欲を示す線上の位置の差である。11mm上がったから食べる量が同じ割合で増える、という換算はできない。実際、この試験ではミルクシェイクの摂取量に有意な影響はなく、一般的な食欲の得点にも有意な影響は認められなかった。[1]

だから、「バナナの香りで食欲が増えた」という短い紹介だけでは足りない。増えたのは何への食欲か、比較相手は何か、食べる行動も変わったか。この試験で甘い系統への気持ちは動いたが、その後の飲む量に有意な増加はなかった。[1] 香りの反応があることと、行動が決まることを切り離して読める。

自然と人工の香りで同じ方向の結果が出たことも、素材の優劣の話に変えない方がよい。この実験が比べたのは、バナナを思わせる匂いを積極的に嗅いだときの食欲と、その後の飲料摂取である。[1] 食品の栄養価、安全性、日常の食事としての評価まで、その結果だけで並べ替えることはできない。

また、塩気のある食品への食欲が下がったからといって、夕食を抜く提案にはならない。評価されたのは香りを嗅いだ場面の食品への欲求である。[1] 帰宅して食卓につく人が考えるのは、その時に惹かれる味と、用意していた食事をどう組み合わせるかだ。研究の数値は、食べる許可や禁止を出す採点表ではない。

甘さだけでなく、食品の系統にも対応する

別の比較実験では、標準範囲の体重の女性29人が、味の系統とエネルギー密度の印象が異なる食品の匂いを嗅いだ。食品以外の匂いと無臭の条件も含め、順番は無作為にし、各条件で3分間嗅いだ後、15種類の食品への食欲を評価した。[4] 同じ食品の匂いだけを何度も嗅ぐ試験とは、問いの立て方が違う。

結果は、甘い匂いでは甘い食品、塩気のある匂いではその系統の食品というように、香りが示す味と合う食品への食欲が、合わない食品より高くなるというものだった。さらに、食品のエネルギー密度が高いか低いかという分類でも、匂いが示す系統に沿うパターンがみられた。[4]

エネルギー密度とは、同じ重さの食品に含まれるエネルギーの多さを指す。この試験では、その高低を思わせる食品の匂いによって、どの系統への食欲が動くかを調べている。[4] ここから「鼻で食品のエネルギー量を正確に計算できる」と話を進めてはいけない。食品群への反応と、数値を当てる能力は違う問いである。

空腹の状態による感覚特異的食欲への有意な影響は、この試験では認められなかった。[4] したがって、香りと味の系統の対応を、強い空腹のときだけの現象と決める必要はない。ただし、これを誰でも食後に必ず同じように反応するという保証に広げるのも早い。対象は女性の小規模な比較実験であり、中心となる結果は食品への食欲評価である。[4]

例えば、温かい料理の匂いから甘い売り場の香りへと移ったとき、自分が惹かれる品物が変わったとする。その場面を振り返るなら、「空腹が急に強くなった」とだけ考えるより、「食べたい系統が変わったのか」と問い直す方が、この実験に沿っている。[4] これは日常を読むための見方であって、その人の反応を実験どおりだと断定するものではない。

比較の読み方でもう少し立ち止まりたい。甘い食品への食欲が、塩気のある食品への食欲より高いという結果と、無臭の条件より高いという結果は、比較の軸が異なる。前者は食品群の間の差、後者は匂いの条件による差である。味の系統を調べた実験と、バナナを無臭条件と比べた実験は、それぞれの比較に沿って読む必要がある。[1][4]

例えば、甘い香りの前で「おかずより甘い物がよい」と感じたとしても、それだけで、入店前より全体の食欲が増えたと判断することはできない。研究でも、食品別の得点と一般的な食欲の得点を分けている。[1] 自分の感想を書くなら「食欲が増した」の一言で済ませず、気になった食品の名前を残す方が、変化を取り違えにくい。

同様に、味とエネルギー密度が対応する結果は、食品の分類についての結果である。[4] 売り場で食品を選ぶ際の成分表示や、食事全体の内容を置き換える情報ではない。香りから浮かぶイメージを楽しむことと、食品の中身を確かめることは、別々に行える。香りに惹かれたという感想を、そのまま栄養の判断に使わないための区別だ。

数字で読む、香りと食べたい味

61人:バナナの香りと無臭の条件を比較した女性の試験の参加者数。[1]

11mm:100mm尺度でみた、バナナへの食欲の無臭条件との差。[1]

4mm:同じ試験で、ほかの甘い食品への食欲が高くなった差。[1]

7mm:塩気のある食品への食欲が低くなった差。甘い食品への変化とは逆向きだった。[1]

29人:味とエネルギー密度の系統を比べた実験の対象者数。[4]

43件:系統的レビューに採用された研究数。食欲、選択、摂取量で結果のそろい方が異なった。[8]

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