高たんぱく乳飲料では、レモン風味と甘味、クリーミーな食感が同時に評価された。オレンジの香気成分やブラックカラントの発酵飲料も手掛かりに、加工で変わる香りと口当たり、購入意向の数字を整理する。さっぱりという印象を酸の含有量に読み替えず、自分の好みを具体的に残すための視点を示す。
シェーカーを開けた瞬間にはレモンらしい。ところが飲むと、思ったより甘く、とろりとしている。「柑橘系ならさっぱり飲めるはず」と選んだのに、頭の中のレモン水とは少し違う。そんなときは、香りの印象と、口に入れた飲料の性質を分けて考えたい。
レモンらしく香っても、それだけで酸の多さや飲みやすさの順位は決まらない。レモン風味の高たんぱく乳飲料の製造実験では、加工条件によって香りに関わる成分だけでなく粘度も変わり、「レモン風味」「甘味」「クリーミーで粘りのある食感」が同じ飲料の特徴として評価された。レモンらしさと濃厚さは両立する。[9]
既存記事「女性のミルクティープロテインは香りだけで甘くなる?糖の量と飲みやすさを読む」には甘さの問いを譲る。ここで扱うのは、レモンという名前から予想する酸っぱさと、実際に飲むときの香りや口当たりのずれである。香りを変えれば酸を減らせる、と先回りせず、食品の研究で何を変え、何が評価されたのかをたどっていく。

レモン風味でも、さらさらとは限らない
最も題材に近いのは、ショウガの抽出物を加えたレモン風味の高たんぱく乳飲料の研究である。人がプロテインを飲み続けた健康効果の試験ではなく、抽出方法と飲料の品質を比較した食品加工の実験だ。研究者は、電気を通して加熱する方法と、従来の加熱方法などで得た抽出物を使い、成分、粘度、時間とともに変わる感覚、消費者の受け入れ方を調べた。[9]
電気を使った抽出物を加えた飲料では、見かけの粘度が最大45 mPa·sとなり、従来法や対照の抽出物を含む飲料の29〜31 mPa·sより高かった。粘度は流れにくさを表す性質であり、この比較では、原料名だけでなく加工の違いも口当たりに関わっていた。レモン風味という共通の名前を付けても、中身の流れ方まで同じになるわけではない。[9]
感覚評価では、電気を使った抽出物を加えた飲料が「レモン風味」「甘味」「クリーミーで粘りのある食感」と結び付けられる頻度が高かった。一方、消費者の受容性は、その方法で作った各処方で高く保たれた。ここでは、粘度が上がったから嫌われた、という単純な展開にはなっていない。濃厚な口当たりを含めて受け入れられた飲料なのである。[9]
この結果を読むときには、レモンの香りだけを増減した比較ではない点が大切だ。抽出物の作り方を変えると、揮発成分の組成にも飲料の流れ方にも違いが生じている。したがって、好まれた理由を香りだけに割り当てたり、レモン風味を強めれば必ず飲みやすくなると置き換えたりはできない。研究が示すのは、飲料全体としての性質と評価の組み合わせである。食品の加工と消費者の受容性を調べた結果であり、18〜39歳の女性の好みにそのまま当てはめることはできない。[9]
立川駅北口で電車を待ちながら飲む場面を想像してみる。「さっぱりが好き」という言葉の中身が、さらさらした液体を望むのか、酸味を望むのか、乳らしい香りが弱いことを望むのかで、比べたい項目は変わる。研究の評価でもレモン風味と食感は別の特徴として扱われた。買う前の希望も、同じように別々の言葉にしておくと整理しやすい。[9]
たとえば、飲み終わったあとの感想を「レモンでよかった」だけで終えず、「香りは好みだが、とろみは想像より強かった」と書く。これは成分を測る行為ではなく、次の選択で自分が知りたい点を残すためのメモである。研究者が機器で調べた粘度と、人が感じたクリーミーさを照らし合わせたように、感想にも対象を付ける。評価する場所を分ければ、商品名への期待だけで話を終えずに済む。[9]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
柑橘らしい香りは、酸の量を示す目盛りではない
柑橘の香りを調べた別の食品研究では、オレンジの果実を成熟段階ごとに採取し、揮発成分と酵素の働きを測っている。揮発成分とは、香りに関わる、空気中に移りやすい成分である。この品種では47種類が確認され、香り成分の大部分を占める群の中でも、D-リモネンが総揮発成分の86%を超えていた。[6]
ここでの86%は「果汁の86%がリモネン」という意味ではない。分母は総揮発成分であり、飲料全体でも、酸の総量でもない。香り成分の内訳を表す数字を、酸っぱさや果汁の濃さに読み替えると、違うものを測った数値がつながってしまう。レモン味の粉を比べるときも、香りの説明が何の量を表しているのかを確かめたい。[6]
このオレンジ研究では、成熟に伴い総揮発成分量が増えた一方、リナロールなど一部の成分は完熟時に減っていた。香りが変わるとは、すべての成分がそろって増えることではない。果実の成熟に伴う組成の変化を示した研究であり、市販プロテインの酸味の強弱を判定する試験ではないが、「柑橘の香り」という短い言葉の内側にも成分の違いがあることは分かる。[6]
さらに、柑橘を原料としない発酵飲料でも、柑橘らしい香りは報告されている。ブラックカラントの搾りかすを食用の菌で発酵させた研究では、リナロールが柑橘を思わせる香りの成分として挙げられた。ほかに花、蜂蜜、バラなどを思わせる成分も生じ、訓練した評価者は飲料を、甘味と酸味の釣り合った、心地よいものと表現した。[20]
つまり、「柑橘らしく香る」という感覚の説明と、「柑橘の果汁をどれだけ含むか」という原料の説明は、同じ質問への答えではない。発酵によって柑橘を思わせる成分ができた例は、その区別を分かりやすくする。レモンの絵が頭に浮かんでも、そのまま果汁量や酸の量を推定する道具にはしない、という読み方である。[20]
この区別は、香りを軽視する話ではない。オレンジ研究は香気成分の変化を丁寧に測り、発酵飲料の研究は生じた成分と評価者の言葉を結び付けている。香りは飲む体験を構成する大切な評価対象だ。ただし、それを酸の量の代用にすると、せっかく別々に得られた情報を混ぜてしまう。香りは香りとして受け取り、酸味を知りたいなら酸味への感想を別に置くのが筋である。[6][20]
香りが生まれる過程にも目を向けると、原料の名前だけでは説明しきれない部分が見える。オレンジの研究では、香りの前段階の化合物から香気成分を放出することに関わる酵素も測定した。その比活性は、成熟に伴って20.15から8.25 U mg-1 proteinへ低下した。比活性とは、この研究ではたんぱく質量当たりで表した酵素の働きである。果実の研究に出てくるたんぱく質という語を、補給用のプロテインの量と取り違えないようにしたい。[6]
研究者は、早い成熟段階の香りの放出には結合した前駆体がより関わり、後の段階の香りの蓄積には代謝による変換が関わる可能性を示している。ここでも、成熟すれば酵素の働きも香りの総量も一緒に増える、という説明にはならない。どの段階のどの仕組みを測るかによって、観察される変化の方向が違っていたのである。[6]
乳飲料の研究で使われた加工条件も、結果を読むための手掛かりになる。電気を使った加熱では、140 Vの条件で抽出物が80℃に達するまでの加熱時間が、従来法に比べ87.7%短縮された。これは抽出工程の効率を表す結果であり、飲料を家庭で温める時間の目安ではない。研究の数字には、製造する側の操作を表すものと、飲む側の評価を表すものが混在している。[9]
同じ研究で電気を使った抽出は、従来法とは異なる揮発成分の組成を生んだ。さらに、乳飲料に組み込んだときの粘度にも差が出ている。原料をどう取り出すかという上流の操作が、完成した飲料の複数の特徴につながった比較だ。「ショウガを加えた」「レモン風味にした」という原料や風味の名前だけに縮めると、この加工条件の違いが消えてしまう。[9]
こうした製造実験と、毎日の飲み物選びをつなぐ際には、同じ材料を買って再現しようとするより、比較の視点を受け取るほうがよい。香り、流れ方、口にしたときの評価をそれぞれ調べた実験なら、感想もそれぞれに分けて持つ。レモンらしさを気に入った日にも、粘りや甘味をどう感じたかを言葉にする余地はある。研究で併存した特徴を、自分の中でも消さずに残すという使い方である。[9]
数字で読むレモンらしさと口当たり
45 mPa·s:レモン風味の高たんぱく乳飲料で、電気を使って得た抽出物を加えた条件の見かけの粘度の最大値。[9]
29〜31 mPa·s:同じ研究の、従来法や対照の抽出物を含む飲料の見かけの粘度。[9]
47種類:成熟段階を比べたオレンジの研究で確認された揮発成分数。[6]
86%超:そのオレンジの総揮発成分に占めるD-リモネンの割合。酸の含有率ではない。[6]
8.0±1.4点:発酵した搾りかす飲料で、購入したいかという問いへの10点満点の評価。プロテインの得点ではない。[20]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2






